第十四話 同じ境遇
霊夢さん宛に手紙を出した後。私は里の方を夜中までぶらぶらすることにしていた。
「ねぇねぇ!後であんみつ屋にでも寄らない?」
「いいね!行こうよ!」
私と同じくらいの年齢の女の子達が楽しそうに会話していた。
ふと、日本に居た頃の暮らしを思い出してしまう。事故以来はあんなふうに笑うことも無くなって、ずっとぶすっとしていた気がする。
でも、私は幻想郷に来て、心の底から笑う事が出来ただろうか?日本に居た頃と今。どっちが幸せなんだろうか?
……これから、本当に心の底から笑う事があるんだろうか。
やめやめ、こんな自虐的なの。キャラじゃないし。
「すいません」
言ってみて驚いた。私ちゃんと喋れてるじゃん。
「はいはい。なんだい?お嬢ちゃん?」
そこの雑貨屋で着物一式と狐のお面を買った。
来てみると意外と生地がサラサラしていて、気持ちいい。狐のお面を付けるとお祭りに来た女の子に見える。
鏡を見ながら自分の姿を確かめていると、後ろからおばあさんに話しかけられた。
「お嬢ちゃんよくにあってるねぇ...孫によく似とるわい...」
「お孫さんですか?」
お婆さんの寂しそうな目が少し気になって聞いてみたらゆっくりと話してくれた。
少し私と似ていて、私なんかより絶望と悲しみに染まった人生を。
私の名前は卯月鈴。高校3年生です。
突然ですが私は虐められています。
きっかけは本の些細な事だったと思います。
例えば、クラスの女子の手が軽く当たってしまったけど、私が軽く流したり、私が貸した物をたまたま壊してしまっても笑って許したり。
何があっても笑って許してしまう私を見て、周りは良いストレス発散にでも思ったのでしょう。トイレや体育館裏や、屋上などで私をとことん暴力でいじめぬきました。
顔や見える所をわざと避け、お腹など一目につかない場所を狙っていました。
無駄に意地を張ってしまい、先生にも親にも相談出来ずに友達も巻き込みたくなくて結局耐える事しか出来ませんでした。
その頃私には好きな人が居ました。もう名前も忘れてしまいましたが。
その人は、いつもみんなの会話の中心にいて、勉強はあまり出来ないけれどスポーツが凄く上手で、こんなに地味な私にさえ声をかけてくれる本当に優しい男の子でした。
私が一人で居るのを見ていつも一緒に遊ぼう?と声を掛けてくれました。
けど、その男の子の行動は私にとって最悪の行いでした。
いじめっ子達もその男の子のことが好きだったのです。
「てめぇなんか、○○君にちょっと気に入られてるからって調子乗りやがって!」
「わ、私、調子に乗ってなんか…うぐっ!?」
「そういう言い訳することが調子乗ってんだよ!このドブスが!」
その日の暴力はいつもより長くいつもより痛かったです。
そのときの言葉の一つが妙に心に心に残っています。
「こんなやつ、死んじゃえばいいのに……」
今思い返したら本当にバカバカしい事だったと思いますが、その頃の私は神経が憔悴仕切っていたのでしょう。
そのいじめっ子の発言が凄く名案だと思ってしまったのです。
私の特には意味のない薄っぺらな人生に一筋の光明が刺した、と思ったのです。
私は、自殺することを選びました。逃げる選択の中で最悪の選択をしました。
その日わたしはどんな顔をしていたのでしょうか。酷くやつれていたらしいです。
心配をかけまいと平然を装って接していた親や友人に大丈夫?と聞かれた程でしたから、相当酷かったのでしょう。
一番楽な死に方は何だろう。そう霧がかった頭でかんがえ、身投げが確実と思いました。リスカやトラックも生き残る可能性がありますから。
無駄にそういう事だけ頭が回ってました。
街の橋の縁に立ち、私が思ってたのは怖いなんてな感情はなく、死後の世界ってどうなんだろうというどうでもいい感情でした。
川の流れへ身を委ね、体内の空気を吐き、水を大量に飲み込みました。苦しかったけど、薄れゆく意識にやっと終わるんだ…っという満足感と充足感に満たされていて、そうおもうと気持ちよくもありました。それで私、卯月鈴は死にました。
いえ、死んだはずなのです。
気がついたら私は私を見下ろして居ました。いわゆる幽体離脱でしょうか?
しかし周りはよくわからない竹林でした。
川に身投げして竹林で幽体離脱。よくわからないことがたくさんありました。
周りを見渡して体の方を見ると、
体が消えていた。
はいっ?っと思い周りを見ると体が勝手に動いていました。
な、なんなのこれ!?
今まで出会ったことのないありえない現象に出会って確実にパニックに陥っていたと思います。
と、とにかく体を追いかけました。
これは悪い夢。夢だ。そう思ってましたが......今だに覚めないんですよね......。
話を戻しますが、私の体は平和な人生を過ごしていました。人間関係を築き、こうしてお店を開いて、夫も作って、そして寿命を迎え、死んだ......と思ったら私は体に戻っていました。
もはや自分の体に戻ることは諦めていたので、またパニックでしたね。
ずっと自分の体を見ていたのでソレになりかわるのは簡単でした。
そのころですかね......?寿命が無いって気付いたのは。
本来は私もう死んでてもおかしくないんですよ。歳なんて100超えたころからもう数えて無いですけどね。
今はたまに来てくれる孫だけが唯一の楽しみなんですよ。
......本当はこの敬語の方がキャラなんです。あっちの方が体が使ってたから使ってるだけですよ。
「............なんで私にそんなこと......」
「ふふっ......あなた...貴方も外から来たんでしょう?分かりますよ。もう朧にしか覚えて無いですが......日本での日々が......」
そういって薄く笑い空を見上げる鈴さん。もう齢100を超えてるお婆さんがなぜか黒髪のセーラー服を着た綺麗な女の子に見えた。
「さて、貴方のことも聞かせてもらえませんか?」
「......えぇ。鈴さんと比べると随分地味ですが......」
「生き方に派手はあるけど人生には無いんですよ」
そういってクスクス笑う。......強いなぁ。
予定の時間まで話をして、絶対また会おうと約束し、別れた。
......鈴さんには分かってたかもしれないなぁ。この後私が何をするのか、何を考えているのか。
本人にも自覚が無いかも知れないけれど、ありえないほどの勇気貰ったと思う。
だから、今。博麗神社の賽銭箱で待っている今も。自分でも驚くほど落ち着いている。
境内に霊夢さんが出て来て、同時に草陰にだれか突撃し隠れるのがみえた。あの帽子はおそらく魔理沙さんだろう。
「やぁやぁ、こんにちは。霊夢さん。ちょっとだけど待ってたよ?遅いんだからもう」
私だとバレないように飄々とした態度で接する。ここが正念場だ。