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【修正作業中】the magician's reunion  作者: 冴木遥
第一章 魔術師たちのはじまりの焔
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第二話 入学

“・・・であるからして・・・この学園では・・・・・”


式が始まって数刻。私は朝の出来事もあったせいで、既に疲れ切っていた。いや、そもそも、在校生が準備していたにもかかわらず、なんだこの普通さは。だって唯一の国立魔術師育成学園だよ?華やかさに期待するじゃないか!なのに普通だ、普通すぎる。人数が公立の学校より多いことが理由で準備を総出でやってただけなのか!?つまらねぇ!!


(つーか、まじでだるい。寮長の意味ありげな顔も怖かったし・・・もう寝たい。)


おそらく、この場所でこんなダレてしまっているのは私以外いないだろう。周りを見渡せば、ビシッと制服を着こなして、教師の話を真剣に聞いているものや、これから起こることに対してだろうか、不安そうな顔をしている者もいる。しかし、やはり一番多いのは、誰もが憧れるこの学園の生徒になれたことによる誇りと期待に満ちた表情をした者たちだ。

ひとつ一応言っておくと、私も着こなしているかどうかわからないが、きちんと制服を着ているぞ。男子の制服だがな。入口に風紀委員と思われる生徒が立っていて身だしなみを注意していたから、着崩している新入生は一人も見当たらない。


“続きまして、新入生の言葉。新入生代表『佐倉(さくら)(あおい)』”


「はい。」


おそらく、最初から配慮して前の方に座っていたのだろう。私は後ろの方に座っていたので全く見えないが、前の方に座っていた新入生が一人立ち上がり、壇上の方へと歩いていく。


(あおいちゃん?女の子?ははぁ、男尊女卑の姿勢がまだ残るこのご時世に女の子が新入生代表かぁ。よっぽど頭いいのかな。)


今でもまだ男性の方が優位なこの社会の中で、誰しもが注目するこの学園の入学式で、まさか女子生徒が壇上に立つとは思わなかった。どんな子が壇上に上がるのかと、そわそわしつつ眺めていると、下にズボンをはいているのが見えた。


(チッ。男か。面白くないな。)


女子生徒だとばかり思っていたので、実際に壇上に上がったのが男子生徒だということで気が抜けてしまった。思っていたより入学式ということで緊張していたらしく、今ので本当に緊張の糸が緩んだようで、周りの新入生たちが何か小声で話しあっている声が聞こえてきた。


“まぁた佐倉だよ。何年連続だよあいつ。お前知ってるか。かなり前からずっとだろ。まじすげぇよな。やっぱお坊ちゃんは俺たちと格が違うってか。お前あいつと話したことある。いや、俺はないな。俺あるんだけど、あいつムカつくんだよ。何が。何事にも無関心で話しかけても必要ないって思ったら無視すんだよ。マジで。そんで見るといっつも一人で勉強してんだよ。うわ、なんだそれ。もうあれ、勉強中毒だよ。うわぁ気持ちわりぃ。”


近くにいた男子生徒達は、クスクスと嫌な笑い方をした。なんだかだんだんと悪口、というよりもタダの僻みのようなことを話し合っている。また、後ろの方からは女子生徒のヒソヒソと話す声が聞こえてくる。


“すごーい。やっぱり今年も葵君よ。さすがよねぇ。首席は葵君だったのね。勉強できるし、スポーツもなんだってできるし。ルックスもいいよね。家柄だっていいし。ちょっと冷たいところがまたいいよね。”


小さな声でキャイキャイと黄色い声をあげている。その佐倉葵が現在新入生の言葉を語っているにも関わらずずっとしゃべり続けている。

ヒソヒソとしゃべる生徒が多くなってしまったこともあり、教師たちがこちらもまた小さな声で注意していた。一方壇上の上にいる彼の人は涼しい顔で朗々と読み上げている。


(ああ、あれか。少女マンガとかに出てくる王子様タイプのあれか。新入生代表ってわけだし、トップだろうから私にはまったく関係ないか。どうせAクラスだろうし。)


「・・・・。これを新入生代表の言葉とします。1―A佐倉葵」


最後に新入生全員が立ち上がり一礼した。


(はあ。・・・プログラム、後いくつ残ってたっけ?)






*****






やっと終わり、大講堂から出ていくと後ろから声をかけられた。


「すごく疲れてるわね。」


振り返るとそこには絢子がいた。というか、後ろ姿ですら分かるぐらい疲れた雰囲気でてるのか?


「おう、絢子は元気そうだな。ずっと座ったままだったっていうのに。」

「そうね。晴れの舞台だというのにそんな疲れてる人も珍しいと思うけど。」


朝にあれだけ騒げば誰だって疲れると思う。ちなみに絢子は私が部屋に戻ってからやっと食堂に向かった。


「ははは。いやぁ、仕方ないだろう?それにほら、私、なんでも顔に出ちゃうからさ。」

「確かになんでも顔に出るわよね。何というか、嘘のつけなさそうな人。」

「そうか?だからって素直ってわけじゃないぞ。」

「そうね。」


(即答!どちらかといえば否定してほしかった。)


嘘とか絢子の前で吐いたことあったかどうかぶつぶつと呟きながら考えていたら、盛大なため息を疲れてしまった。


「そんなことより、早くクラスを見に行くわよ。」

「うう、すんません。て、絢子待ってよ!」


まるで、バカのとなりは歩きたくないとでもいうかのようにスタスタと先に歩いて行ってしまった。

必死で絢子の早歩きについていくと人がゴッたかえしているところに着いた。今は見えないが、おそらくこの前の方には掲示板があってそこにクラス表が貼り出されているのだろう。歓声やら悲鳴やらが聞こえ、まるで、大人数でおしくらまんじゅうをしているかのような光景だ。


「て、あれ?絢子?」


こんな中に入って行かなきゃいけないの嫌だなぁと思って、光景を眺めていたら、隣にいたはずの絢子がいつの間にかいなくなってしまっていた。先に掲示板を見に行ったのかもしれない。女の子の標準身長よりも小さい絢子を見つけ出すのは難しいかもしれないなぁと感じつつも、ずっとここに居ても時間ばかりが過ぎてしまうので、突入する決意を固めた。


(はあ。頭が良ければ、寮の部屋割りの時点で分かったんだけどな。)


Aクラス~Dクラスまでは、クラスごとに部屋が分かれているため、ほとんどここには来ていない。Eクラス~Jクラスの者が今ここに集まって、皆必死に自分のクラスを確認しようとしている。


(おや?あそこは何してんだ?)


突入しようとした時、後ろの方で何か怒声のような声が聞こえた気がして、振り返ると、ここより少し規模は小さいが人が集まっているのが見えた。興味がわいてしまった私はその集団へと近づいて行った。・・・こっちの方が人数少ないから入るならこっちだとか全然思ってないですよ?


「やんのかコラァ!!」

「弱いくせに吠えてんじゃないよ!!」


(や、ヤクザの戦い・・・?)


目の前に広がっていた光景はまるでヤクザのごとき荒れた生徒たちが対立している風景であった。その周りを一般生徒が取り囲んでいる。おそらく前に一歩出て睨みあっているのがリーダーなのであろう。周りの子分と思わしき奴らがその人達より前に出ようとしない。


「あ”あ”!!女風情が何語ってんだ!?」


巻き舌交えて叫ぶと同時に、男の方のリーダーが女のリーダーに殴りかかった。


ヒュッ、バシンッ!!!


「いって・・!」

「「「「!!」」」」

「だ、誰だテメェ!!」


思わず、本当に思わず女性が殴られると思ったので前に出てしまった。女のリーダーの方は、まさか公衆の面前で殴りかかってくるとは思ってなかったらしく、全くの無防備だった。なので思わずヤバいと感じて庇うように前に出て、相手が繰り出した拳を左手で受け止めた。


(うあ・・・ど、どうしよう。)


「お、落ち着きませんか、先輩方。」


今、この周りには、離れたところでクラスが掲示されている掲示板を見ていた生徒たちも、こちらの騒動に気付いて周りに集まってきていた。集まった生徒たちが、先ほどまでヒソヒソと話し合っていたのが、今では大きな声でこちらの様子を語り合っていた。


“あの子、バカじゃないの。あいつ終わったな。何を思って割り込んだのかしら。佐倉家と朝倉家の仲の悪さは有名だっていうのに。知らないの。死にに行ったようなもんだ。誰か助けてやったら。だったらおまえが行けよ。やだよ。”


などなど・・・このヤクザみたいな人達のことについて聞くことができた。


(し、仕方なかったんだ!思わず飛び出しちゃったんだよ!)


今更ながら、飛び出したことを後悔し始めた。前に出た一瞬だけは両者共驚き、唖然としていたのだが、今や先ほどの倍の殺気を放っている。


「どこの誰だか知らないけど、どきなさい!」

「いきなり声かけてきてんじゃねぇ!ぶっとばすぞ!!」


(あああ・・・時間を戻せるなら戻したい・・時間の魔法とかないんでしょうか。)


「何ずっと黙ってんだ。てめぇもしかしてこいつらの仲間か!」


リーダーと思わしき男は急に思いいたったとでも言うように叫んだ。それを聞いた女の方の集団が騒ぎ出す。


「何いってんだ!ふざけたこと言ってんじゃねぇ!!」


(私は一般人です。こんな人達の仲間なんて思われたなんて心外です。)


などと考えつつ、この場がさらに殺伐としたものに変化していく。そして、とあるキーワードによって、このいがみ合い・・・もとい喧嘩のスイッチが入った。


「お前ら朝倉家みたいに私たちは落ちぶれてねぇんだよ!!」

「!貴様!!」


私はずっといがみ合いの真ん中にいて暴言を一身に浴びており、えっと思った瞬間、男の方のリーダーが殴りかかった。


ゴッ!!!


“キャーーー!!ほんとに殴ったぞ!!どうすんだよ!誰か先生呼んで来い!!近くに風紀委員いたんじゃないか!?誰でもいいから制止できる奴連れてこい!!”


ギャラリーが叫び声をあげて叫びだしたが、私の耳にはまったく入ってこなかった。


(な、んで・・・)


ギリッ


思いっきり奥歯をかみしめた。ついさっきまで、ただただ困惑していが、今では腹腸が煮えくりかえっていた。両者の集団は、リーダーが殴り合いを始めたこと、リーダーが殴り倒されたことにより、乱闘体制を取った。が、乱闘は起きなかった。なぜなら、私が女を殴った男をひねり?あげたからだ。一瞬で相手の懐まで入り込み、勢いづいて前の目になった体の襟元をひっつかみ後方へ軽く押して思いっきり前へ引いた。それと同時に自分の頭も同じようにして相手の額へと叩きつけた。


ゴヅンッ!!


「い”!!」


もちろんその場は突然の私の行動でシンと静まった。頭突きをうけた男はかなりの衝撃だったのか、体に力が入らなくなっていた。私は掴んだままの男の襟元を引き上げ、顔を近づけた。


「っ」

「男が、女より先に手ぇ出してんじゃねぇよ、みっともねぇ。」


私はそう一言だけ言い放つと地面へと投げ捨て、ジッと睨みつけた。

先ほどまでかなり腰が低かったのに、急な変わりようだったせいで誰もが声を出さず、動けずにいた。


「チッ。お前、後で後悔する羽目になるからな。」


という言葉を残して男の集団は去って行った。


(・・・後悔する羽目・・・ね・・・・つーか、既に後悔してるから!!)


これからこの学園でやってけるのかなぁとか、そんなことを考えつつぼんやりと去って行った男たちの方を見ていたら後ろから声をかけられた。


「おい、あんた」


そう言えば後ろにも人がいたなぁと思い振り返ると、殴られた頬を腫らして怪訝そうな顔をしてこちらを睨む女性がいた。


「何でしょうか。」

「どこの誰かは知らないけど、助けてもらった身だ、一応礼を言っておくよ。」

「いえ。お礼を言われ」

「けどな、これは私らの問題なんだ。何も知らないような奴に口を出されちゃ困るんだよ。」


言葉を途中で遮られ、強く睨みつけながら迷惑そうに言われた。リーダーの後ろにいた人たちも頷いたりして肯定する雰囲気を醸し出している。


「ええっと、困ると言われましても・・・ただ見逃せなかっただけなんですが・・・」

「見逃せなかった、ですって?私たちはあいつらに負けるように見えたっていうのか!」


リーダーを中心に仲間たちが騒ぎ出す。私は、ちょっとした興味本位でこの騒ぎに近寄ってしまったことを後悔した。野次馬でいるつもりでいたのだ、近寄って行った時は。

どうしたものかと私が黙っていると、相手がいきり立ってきた。


「おい、てめぇ!なん」

「あなたたちが弱くないことはこの学園にいることで証明されています。ただ、本当に見逃せなかった、本当にそれだけだったんです。男が女に先に手を出そうとするなんて、私の中でどうしても許せなかったんです。」


ない頭で痛む頭で必死に相手へと話しかけると、先ほどまでの勢いはなくなった。しかしまだ少し憤っているようである。


「あんたも、女は前に出るなって言いたいの?」


俯きながら静かにリーダーの女性は私へと問いかける。


(あああ!違う!そんなことが言いたいんじゃなくって・・・)


「だあ、もう!すいません、私頭悪くてなんて言っていいか分からないんですけど、女性に、そして無防備な人間に不意打ちでグーで殴られるところなんて私が見たくなかったんですよ!!女より、男の方が力が強いなんて当たり前じゃないですか。」


私が急に叫んだこともあってか、周囲はシンと静まり返っている。リーダーは顔を上げ、ポカンとした顔をしてこちらを見つめていた。私は、近くに寄って、相手の殴られて腫れている頬を手で包み、こちらに向けられている両目を見つめ返した。


「余所者が入り込んで本当にすみませんでした。」


そう言うと、私は軽く首を傾げつつ小さく苦笑した。

そうしたらどういうことか、張り詰めていた空気が一気に柔らかいものへと変化した。その急激な変化に私自身驚いていると、目の前の人がしゃべりだした。


「そ、そそそ、そうね。分かっているのなら、別にいいわ。」


まるで、どこかで同じような風景を見たことあるなと嫌な予感を感じていると、その女性は私の手を払い落し、仲間に声をかけ去って行ってしまった。囲っていたギャラリーたちもちらほらと去っていくが、女の子たちが何故か黄色い声をあげているのが聞こえる。と同時に、急に肩をポンと叩かれた。


「おわ!!て、絢子か。脅かすなよ。」

「あなたのあれはもう、どうしようもないわね。」


振り返るとそこには絢子がいて、何やら不吉なことを言われた。というか、一部始終を見ていたらしい。


「まあ、そんなことどうでもいいわ。あなたのおかげか知らないけど、クラス表も見やすくなったし。」


(あ、あんなにいろいろあったのにどうでもいいんですか!)


と頬ひきつらせ、その言葉を華麗に流しつつ、話しかけた。


「どこに行ったのかと思ったら、やっぱあの人ごみの中にいたんだな。」

「当たり前よ。特別にあなたのも確認してきてあげたわ。」


二つに分けられた腰まである長いおさげを揺らしながら私を見上げた。


「ありがと。助かるよ。どこだったんだ?」

「あなたはEクラスね。」

「ふぅん。絢子は?」

「Gクラス。」

「・・・そう。」


私は忘ていた。寮の部屋が一緒だからってクラスまで一緒とは限らないのだということを。


「そんな情けない顔しないでくれない?気持ち悪いから。」


(き、きも・・・!ひ、ひどい!!)


絢子は毒舌の激しい人柄でした。忘れていた私が悪うございました!!それでも少し期待したんだ、“一緒じゃなくて残念ね。”という言葉を!!


(いや、しかし学園内では絢子の毒舌を学園では聞かないから別でよかったのか?)


しかし、一番初めに同い年で知り合って友達になれたのは目の前にいる絢子その人だ。別に小心者というわけではないが、初めてのところで一人というのはちょっとつらい、というか寂しい。知り合いがいる方がやはり安心する。

うつうつと黒オーラをまとっていると絢子が話しかけてきた。


「そんなに沈まないでよ。まるで私が苛めてるみたいじゃない。寮に帰ったら会えるんだから別でも関係ないでしょ。」


訳:うざいから変なオーラ放ってんじゃねぇよ。


何か変な副音声が聞こえたような気がするが、気のせいだろ?え?聞こえないぁ・・気のせいと言ってくれ!!


あ、あと、もちろん周りから聞こえてくる黄色い声が激しさを増してるとか・・幻聴ですよね?



遅くなりまして申し訳ありません。

とっても難産でした・・・

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