第一話 問題炸裂!?
壁に掛けてある制服に手を伸ばし、手にとってしばらく眺め、ため息をついた。
入寮して数日が過ぎ、やっと迎えた入学式。部屋には私ともう一人でこの広い6人部屋を占領している。人数の関係でここだけ2人部屋になってしまったとのこと・・・まあいいけどね、余計な心配事が減った分な。
今日を迎えるまで静かに過ごせた・・・訳もなく、数日がまるで1、2週間を過ごしたような気分になった。
まず、もちろん例の2人組がやらかす。毎日ではなかったのでよかったが、仲が悪くないのに初日を含めて3回も喧嘩するってどゆこと!?まあ、一緒に食事をとっているところを見かけたから仲がいいっていうのは嘘ではないのだろう。まあ、いい。そんなことはこれから日常化していくのだろうから。
一番の問題は、やっぱり私の容姿についてだ。
始業式まで残り2日となって寮生がドッと戻ってきた。そのせいで会う人会う人に詰め寄られるは、追い返されそうになるわで大変だった。そこでやっぱり寮長に助けてもらって難を逃れたのだが・・・最後の方、いちいち説明するのが面倒くさくなったのか、ほんとに外に放り出された時はさすがに泣いた。
私の容姿に反応した人の中でも一番リアクションがデカかったのは、この同室の子の反応だ。
部屋の外に出るとどうしても問題が起きるので、ベットに横になって雑誌を読んでいると、急にドアが開いた。すると、ドアを開けた相手は私を見て驚いて固まり、私は油断しているときに急に人が来たことに驚き、お互いにお互いの顔を見つめあってしまった。先に回復したのは私の方で、同室の子だ、と少しテンション高めに近づいていくと、肩がそれはもう盛大にビクッと跳ねたので、心配して声をかけつつ相手の顔を覗き込んだ瞬間、両手で突き飛ばされた。そして真っ赤な顔で声にならない悲鳴を上げると、バタンっと大きな音を立ててドアを閉められた。一瞬唖然としたが、さっきの反応は今までと違ってホントにヤバイ、と思って逃げたであろうその子の後を追いかけた。すぐ捕まえることはできたが、今度はホントに悲鳴を上げられ、寮生が集まってきてしまい、焦って手を放してしまった。そして逃げたその先が、悲鳴を聞きつけて問題を解決しに来たであろう寮長の背後であり、私も思わず泣きついて寮長に助けを求めてしまった。
物凄くめんどくさそうな顔をされたがなんとかきちんと説明していただくことができた。そのおかげで、今ではかなり打ち解けた仲になっている。ほんの数日前だけど、懐かしいと感じる。同室の彼女は実際にはめちゃくちゃクール・・・というか感情を表にほとんど出さないみたいだから。
数日間のことを思い返し、また、私の手元にある制服に目を落としてため息をついた。
嫌々ながらその制服に着替えると、ここ数日で日課となった同室の彼女を起こすことにする。あたしの朝は早い。今まで体力づくりのために毎朝朝練していたためだ。でも朝が強い訳ではないので、どんなことをしていたかはあまり覚えてない。ただ、結果的にきちんと体力はついた。ちなみに今日は気づいたら腹筋をしていたぜ☆
ユサユサユサユサ・・・
「絢子~、朝だよ~。」
「・・・」
「絢子~、起きろぉ。」
ユサユサユサユベシッ!!
「・・・・おはよう絢子。」
同室の彼女改め『杉沢絢子』は私以上に朝に弱い。今までどうやって起きてたんだ、と思わずにはいられないほど寝起きが悪い・・・というより起きない!!今だってずっと揺らしてた手を払い落してやっと起きたし・・・あんまり盛大に起こしすぎると痛い目に会うのだ・・・初日でもう学んだよ・・・
「おはよう・・・今、何時・・・」
「今7時。今日は入学式だから2度寝するなよ。少し早目に起こしたんだからちゃんと目ぇ覚ましとけよ。」
のろのろとした動作で上半身だけを起こし、私の言葉にコクン、コクンと2度頷いた。分かってるのか、分かってないのか、よくわからなかったが話はちゃんと聞いていたんだろうと理解し、それを確認して私は朝食を採りに食堂へ向かった。
*****
入学式は9時からだ。
新入生を迎えるため、在校生が少し朝早くから入学式の準備をしている。そのためか寮の中はとても静かだった。というか、国立といっても、入学式とかの準備を在校生がやるってシステムはどこも変わらないらしい。
誰もいないガランとした食堂に入ると厨房の方におばちゃんがいる。近づくとこちらを振り返り、私の姿を見て驚愕の表情をされたが、何かと目立つ容姿のおかげで私だと分かってくれたらしい。
(私としては納得いかないけど。)
「おはよう。今日も時間通りだね。注文は何にするんだい?」
それでもいつもの嫌みのない優しい笑顔をたえながら話しかけられたので、あまり気にしないこととする。
「おはようございます。そうだなぁ、今日はパンが食べたいからパンセットでお願いします。」
「あいよ。ちょっとだけ待っててね。」
少しするとパンの焼けるにおいとともに、卵やベーコンの焼ける音やにおいが漂ってきた。
「はい、おまたせ。しっかり食べるんだよ。」
「ありがとうございます。」
そうして出来上がった朝食が乗ったお盆を受け取り近場にある席に座った。
とその時、食堂の出入口のドアがガチャという音を立てて開いたような気がして振り返ると、全開に開かれたドアがあるだけで、そこには誰もいなかった。
「あれ?ヨーコちゃん。私ドア開けたままにしてたっけ?」
さっき確かに閉めたような気がしていたので、全開になっているドアを疑問に思い、ヨーコちゃんに確認した。しかし、聞くとヨーコちゃんも分からないみたいだった。
「さあね。厨房の中からじゃドアは見にくいからわからないね。ほらほら、そんなこと気にしてる暇があったらちゃんとご飯食べなさい!せっかく作ったんだから温かいうちに食べないと。」
「はあい。」
納得がいかない感じだけど、ヨーコちゃんの言うことにも一理ある。ドアが開いてたって閉まってたってそんなの今は関係ないだろう。目の前の食事に集中するとしよう。
「あーー、でもさあヨーコちゃん、」
「なんだい。」
「ドアはやっぱきちんと閉めないとだめだよね。」
私は箸を咥えたまましゃべると、行儀悪いと注意されながら怒鳴られた。
「そんなに気になるんだったら自分で勝手に閉めてきなさい!!」
そんなことでこの私がめげるわけもなく、いそいそとドアを閉めると、いつも通りヨーコちゃんと会話しつつ、食べ進めた。
「それにしても、他の人たち全く来ないなあ。」
食堂にはいつも早く来ているが、それでも既に数人いたりするのだが、今日は食べ終わったのにもかかわらず誰一人としてこない。ちなみに、食堂に早く来るのはよい子は寝る時間が早いからだぞぉ☆・・・・な訳もなく、朝からひと騒動なんて御免だからな。
「なに項垂れてんだい?」
「うん、ちょっとね、自分がどんだけ気持ち悪いのか考えてしまって。」
「ははは!何だねそれは。ホント面白い子だね!」
そんな陽気に笑うヨーコちゃんがまぶしいぜ・・!!
まあ、余談はそれくらいにしておき、7時半を回っているというのに誰一人としてこない。
「入学式っていう晴れ舞台なのに、新入生すら来ないっていうのは・・みんな意外と余裕?」
私は全然余裕じゃないけどな!平静を装ってますがかなりバクバクいってます。ええ、すげぇー緊張しております。今だここに受かったなんて信じられません。
「そうなのかねぇ・・・朝ごはん食べないで行くつもりかね。朝はしっかり食べないと元気でないっていうのに。」
苦笑して洗いものに目を落とされると、こちらもどう反応していいものか分からない。ヨーコちゃんは寮生の栄養管理とか自主的にしているから食べないで行く子とかいるといつもさびしそうな顔をする。
二人とも黙ってしまったので、食堂がシン・・・と静まり返り、ヨーコちゃんが洗い物をする音だけが響く。
と、そこで食堂の外が騒がしいことに気がついた。
“ちょっと!どうするの!?もうこんな時間になっちゃったじゃない!寮長はまだ来ないの!?早く連れてきてよ!遅刻しちゃうじゃない!!”
ボソボソと音量を下げて怒鳴りあっているような声がする。なんか嫌な予感を感じながらも、気づいてしまったのだからほっとくことも出来ず、何をしているか聞きに行こうとして立ちあがったその時、一際大きな声が食堂の中に響きわたった。
「だから、さっきから言ってるじゃないですか!!なんでそんなに面倒くさそうにするんですか!?そんなに信じられないならちゃんと見てくださいよ!!」
キーーンと耳に残るアルト声の悲鳴じみた怒鳴り声と同時に食堂のドアが勢いよく開かれた。
「お、本当に男子生徒がいる。」
開かれたドアの前に居たのは寮長と、その後ろでササメキ合っている2,30人のココ寮生たちだった。
その人数に驚いて固まっていると、寮長がコツコツ・・と音を立てて私の方に歩いてきた。
(と、いうか)
「寮長・・・」
恨めしそうな声が出た。
「ああ、くつくつ・・・もちろん冗談だから安心しろ。」
「・・・冗談に聞こえない冗談はやめてください。」
今はめちゃくちゃ笑われているからかなりイラついているが、先ほどのは、いつもの無表情で言われたので一瞬寮長でもわからないのか!?と思ってしまった、そんなわけがないのに。髪切った後に全く動じなかった人がこんなカッコしてるから気づかないなんて、あり得ない。
「?・・・なんだい、入り口でみんなたむろして・・・何か問題でもあったのかい?」
おそらく一番この状況が理解できないであろうヨーコちゃんは、我慢できなくなったのか声をかけてきた。
「何かって、目の前に問題があるじゃないですか!?」
さっきからずっと叫んでいる子が、私と寮長にやり取りを見て呆気にとられていたようだが、ヨーコちゃんの言葉とともに復活した。
「?・・・目の前・・」
(あああ・・・そこで私に目を向けないでください・・指を差されたからって、そんな純粋な目で私を見つめないでくださいごめんなさい。)
「そうだ。聞いた話では女子寮の食堂で“男子生徒”が一人で朝食を食べている・・・という話を聞かされてなあ・・・準備で忙しいって言ってるにもかかわらず急に連れ戻されたんだ。」
「・・・ぶ・・」
(・・・)
「あははははははははははははは!!」
(くそう!そんな腹を抱えて笑わなくたっていいじゃないか!)
「・・・ぷ・・」
「寮長!あなたは笑いすぎですよ!さっきから!!」
笑い続けている二人を睨めつけながら絶対後で痛い目見せてやる・・・などと出来もしないことを想像しつつ憂さを晴らしているとまた怒声が響きわたった。
「何がおかしいんですか!?朝早くから女子寮に男子がいるなんて問題ですよ!!」
「いや、こいつがここに居ても特に問題ないぞ。」
「何でですか!?」
寮長は笑いから一旦引き戻されると、叫んでいる子へ否定を示した。
というか、すぐにフォローすればいいのに引っ張るからだんだんとヒートアップしてきた。
「いや、だから大丈夫なんだって。」
「何が大丈夫なんですか!?そこに居るその人は何なんですか!?どこからどう見ても男子生徒じゃないですか!!」
「いや、違うよ」
「でも、」
そこでビシッと私の胸辺りを指差し、
「あれは男子の制服じゃないですか!!」
(ぐ・・・やっぱりそこに来ますよね。言われると思ってましたよ。ええもう、ほんとどうしようかね。)
今宣言されたとうり、私は男子の制服を着ている。何故かって?それは1か月前にさかのぼる。
の前に、そこで吹き出しそうになってる二人、マジでしめる!
*****
3月のうららかな日差しが降り注ぐ某日。学校用品を揃えるため、第5陣の買い物に出かけた。
(あ~~、だるい・・・しかも日差し強いし。やっぱ昨日出かければよかった。)
3月にしては日差しの強い、でも春の近づきを思わせる暖かさの感じられる中、グタグタとだるそうに愚痴をこぼす。いや、でも、起きて窓見たときは天気だからよかったと思って出かけたんだ。昨日はくもり空だったから気が乗らなかったんだし。でもやはり、昨日に引き続いて絶好の昼寝日和なのに・・・
だらだらと眠気を誘う陽気の中、目的地まで歩く。
今日はいろいろな所に行ったり来たり、下を向いたり上を向いたりで忙しいだろうと思い、腰まである長い髪を頭の上で一本に縛っている。そして中途半端な長さの前髪は、簡単に左右に分け、ヘアピンでとめた。
そこで、お気づきの方もいると思いますが、もちろん、現在顔が露見しているわけでして・・・ハイ!そうです。パーカーにジーンズといった簡単格好でもあるので、男に間違えられて逆ナンされるはされるわ・・・それをかわすのがかなり大変です。そのせいで余計疲れ倍増です。まだ、目的地にすらついてないのに・・・
(なんでそんなに声かけてくるかね・・・見ようによっちゃ女に見えると思うんだけど。)
もっとそれらしい姿をすれば分からなくもないが、今着ている服は兄たちのおさがりだ。こんなダボついた服着てるやつになんで声をかけてくるかわからん。あ、あれか、今流行りのダメージジーンズみたいなやつなのか!!古着とか今も昔も関係なく流行るからな!!
(まあいい。こんな疲れることからも解放される!!今日で全部揃うんだ!!)
“第5陣”と言っていた通り、今日で買い物に出かけたのは5回目だ。いやね、初めは一日で終わる予定だったんだ。けど女の人が寄ってくるせいで、疲れきってすぐ帰っちゃったんだよね。それでちびちびと集めてやっと今日で終わる!
(最後は、一番人でごった返しているであろう制服!)
目的地は“uniform special store”と看板が出ているはずの店だ。その名の通り“制服専門店”である。意外と学園の制服を扱っているところは少ない。なぜなら、魔術を教えるところなので、布とか扱う素材に特殊なものを使っているらしく、こういった大手専門店とかじゃないと扱ってない。
カランカランッ
お店は大通りに面していたのですぐ見つけることができた。意外と可愛らしい建物で、入るのに少し躊躇してしまった。
ドアを開けると内側についていたのであろうベルが鳴ったのだが、その音をかき消すほどの忙しさらしく、意外に広い室内は店員と思わしき人たちが右へ左へ行ったり来たりしていた。
声をかけるべきか否か、考えて入口で突っ立ていると、一番近くに居た店員がこちらの存在にやっと気がついてくれた。
「いらっしゃいませ。お待たせして申し訳ありません。こちらではお示しいただければ、どんな制服でもお作りいたします。どちらの物を御所望でしょうか。」
「ああ、えっと、国立魔術師育成学園高等部に今度入学するんですけど・・・」
「まあ、魔学の新入生の方だったんですね。おめでとうございます。では、ご案内いたします。」
一般的に、国立に入ることができるのはほんとにおめでたいことなので、とても驚かれた。接客業の人が知りあいでもないのにここまで打ち解けるって、おかしいだろう?
店員についていくと、寸法台に着いた。
「ただいま込み合っておりましたので、こちらで少々お待ちください。もうしばらくで終わりますので。」
そういうと、軽く頭を下げてきた道を戻って行ってしまった。とりあえず、並べてある椅子に腰掛け、慌ただしい店内を見渡した。さっき一瞬見ただけでは分からなかったが、本当にいろいろな服が取り揃えてある。学生服はもちろん、警察官、消防士、看護師、どっかのコンビニ、ファミレス・・・あ、魔法少女!?
(いや、確かに魔術を学ぶわけだから魔法少女ではあるけど、あれは、どう見てもコスプレの域だろう。)
ここは、デザインさえあれば何でも作ってくれるっていうのは嘘じゃなかったんだな。
(あ、魔学の制服もある。)
おそらく見本に使うのであろう女子の制服が見えた。
その奥の方では親子が嬉しそうに制服の試着をしている。
(いいなぁ、お母さんと一緒に買い物来たんだ。)
羨ましいなと思っていると後ろの方から威勢のいい声が聞こえた。
「大変お待たせいたしました!」
振り返ると笑顔万点のいかにも新人そうな店員が立っていた。
「学生服のお求めですよね?前の方が終わりましたので、どうぞこちらへお進みください!」
「ええっと、さっきの人は・・?」
「ああ、お客様。ご心配なさらないでください。先の者は受付でございますので、実際には私がが担当させていただきます!」
「そうですか・・・」
私の困惑を察してくれたらしく、フォローを入れられた。でも、心配してたのはそんなことじゃなく、ただ単に、もう少し静かに対応していただけたらと思っただけだ。この店に来るだけで、かなりの体力を消耗したので。
「あれ?本日はお一人でいらしたんですか?」
「ええまあ。親と都合が合わなくて。」
「そうなんですか。私の時は無理やりついてきたんですよ~。」
いいなあ。都合が合わないっていたけど、実はそんな理由じゃない。
1回目に買い物に出かけた時はもちろん母さんと一緒に出たのだが、ちょっと離れたすきに次々と女の人に声をかけられたせいだ。1回目だけだったらよかったんだが、2回目も同じことがあり、“2度あることは3度ある”とか言い出し、3度目からは1人で出るようになった。まあ、実際には5度あったわけですが。
「こんな方向音痴を広い土地になんて1人で放せいない、とか言いましてね。」
(予想してなかった答えですよ!)
やはり世の中にはいろいろな親がいたものだ。
「では、測らせていただきます。」
店員はゴソゴソとメジャーを取り出し、肩や腕など、寸法を測りはじめた。
「身長はおいくつありますか?」
「158cmだったと思います。」
「158cmですね。」
測りつつ、身長や体重、座高などを聞き取り、用紙へ書き込んでいく。
「初めにお聞きするのを忘れてしまっていたんですが、お名前をお聞きしてもいいですか?」
「はい。藤城裕哉です。」
「新入生ということでしたので、今年で16歳ですね。」
「はい。」
私の個人情報について答えつつぼんやりしながら書き留めていく用紙を眺める。
(て、ああああああ!!)
おそらく忙しかったことと、年齢についても、自分の予想が当たったので、私に確認を取らなかったのだろう。間違えられたか所をガン見して、直してもらおうと口を開いた。
「あ「では、続いて、住所と連絡先をお願いします。なお、制服は完成次第、こちらの住所の方へと送らせていただきますので、送付先をお願いします。」
「え、あ、じゅ、住所は・・・」
しどろもどろになりながら何とか受け答えるが、間違えられている性別の欄が気になって仕方がない。忙しさからなのか、私からの反論を一切受け付けず、聞き取りを終えるとそのまま流で退出させられてしまった。
店の外に立ちつくし、でも、もう一度中に入る気にもなれず、そのまま肩を落として家路に着いたのであった。
*****
(やっぱり、問題になるよね。いやでも、まあいいかなって思っちゃったんだよなあ。)
一か月前のことを思い返しながら深々とため息を吐いた。
「まあ、藤城は女だってちゃんと報告は来てるんだ。それでよくないか?それに、規則には、制服は着用しろ、としか書いてない。男子用を着てても別に校則違反じゃないぞ。」
「そんなのへ理屈ですよ!!」
なんだか、私が少し沈んでいる間になんだか進展があったみたいだ。
「へ理屈でも何でもいい。私が今いいと言ったんだ。だからかまうな。」
(じょ、女王様がおいでなすったーーー!!!)
寮長は思い出したころに横暴な一面を見せる気がする。いつもは真面目な寮長なんだけど、めんどくさそうなこととかあると、急に変なことを言うような?
突っかかっていた彼女もさすがにその台詞には驚いたようで固まってしまった。やっぱりさすがに非常識すぎる。
「それにな、こいつがスカートなんて履いてたら、変態じゃないか。」
「ちょ、寮長、なんてことうおお!!」
さすがの暴言に言い返そうとしたら、首根っこを掴まれ急に方向転換させられた。目の前には寮長のせいで固まってしまった彼女がかなり真近に居る。お互いに驚いて目を見開くが、私はまた叫ばれたら耳がやられると思い、すぐ愛想笑いに切り替えた。
「悪い。まさか私も本当に男子の制服が届くとは思わなかったんだ。買いなおしてる暇もないし、寮長の言ったことは納得いかないけど本当だし、このままじゃ、ダメ、かな」
と、困ったような顔をしたまま相手の目を見据え、軽く首をかしげると、超音速気味に顔お逸らされた。
(え)
「いいんじゃないの、そのままで。」
そう言って。私の体を押しのけ、ヨーコちゃんに朝ごはんを注文しに行ってしまった。それがきっかけとなって、ドアの前で入りかねていた寮生たちも食堂の中へと入ってきて、いつもの食堂の風景が作り上げられた。
(ん?あれ、何があった?)
「お前・・・・」
寮長は、最後の言葉は発せず、無言のまま、掴んだ襟首引っ張り、廊下へと2人で移動した。食堂の扉を閉めると、その奥から、話声とかが聞こえてくる。
「まったく、世話が焼けるなぁ。」
「うう・・・その点におきましては大変申し訳なく思ってます。」
苦々しく思いつつ、沈みながら答える。
「そう思ってるなら、自分で解決しろ。」
そう注意を受けながらでこピンされる。これがまた結構痛かったりする。
「すみません。」
「でもまあ、学園の方ではもう大丈夫だろ。」
「なんでそう思うんですか?」
「だって、これからその恰好なんだろう?だったらもう起こりえないなよな?」
ビクッ!!
「・・・」
「では、私は戻るぞ。まだやることを少し残してきたからな。」
過ぎ去る寮長の後姿を眺めながら、反論できない自分がみじめに思った・・・が、そんな黒い顔で脅されたら誰だって何も言えなくなるっての!