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【修正作業中】the magician's reunion  作者: 冴木遥
第一章 魔術師たちのはじまりの焔
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第十五話 試験前の準備運動

題名と内容がいまいちかみ合いませんでした・・・


ひとつ、集中する。

ひとつ、イメージする。

ひとつ、魔力を注ぐ。


魔力を注ぐというのは、意外と簡単にできるものだ。手のひらに掬った水を、少しずつ皿の方へと移しかえる作業に似ている。自分の中にある魔力をどれだけ早く術という皿の中へ移し替えることができるか、どれだけ正確に適量の魔力を掴み取ることが出来るかによって、その人の格が分かってくる。


「今ここに発現せよ、“炎の舞い”。」


ボンという小さな爆発音に続いて、爆発した場所を中心にボッボッボッボッボッと桜の花びらほどの大きさの火の粉が次々と現れては散って行く。風に流されて、離れた所から見ると、キラキラとした花びらが舞っているように見えて美しい。


「けど、風魔法と合わせないと使えない。第一、自然の風の力で流されてる時点で完成度が低いよ。」


その言葉を聞いて集中を切らしてしまい、火の魔法が消えてしまった。


「ああっ!」

「あともうチョイだったのにな。」

「外野は黙ってろ!!」


先ほどからなかなか発現しても続かない魔法に、3バカがおちょくるように野次を入れるので、それを一喝する。


「何が悪いんだか。」

「・・・もうちょっと目の前のことに集中してみたら?」

「は?」

「ゆうは注意力散漫に見えて、実は周りへの警戒をしすぎているんだ。」

「「「「?」」」」


葵の話は御高説過ぎて何を言っているのかさっぱりわからない。

実技はどうしてもだめらしい絢子は、知識の深さで内申を取りに行くらしく、今日の勉強会には不参加だ。

なので、私と三バカは、葵を前にして不思議そうな顔をして首をかしげる。


「・・・」

「いや、悪かったって。だからそんな無表情に見つめてくるなよ。」


葵は怒ると無表情になる。これがまた、めちゃくちゃ怖い。3バカなんかはわざと怒らして追いまわされていたりするが。


「そんな警戒してないけどな。」

「無意識に周りへのゆるやかな警戒を怠らないことが失敗の原因だと思うよ。」

「無意識ねえ」


無意識と言われてしまったらどう対応したものか。

ここ数年に無理やり武術を鍛えたから、気づかないうちに弊害が出ていたのだろうか。武術の素質はあったらしく、成長甚だしかったが、魔法を使いたいという根本に影響が現れるとは。


「努力が水の泡・・・」


確かに武術を会得し、周りの気配に常に気を配ることは、実践としてはとても大事だ。しかし、よく集中しないと使う魔力量が分からない人間がそんなこと会得していても仕方がない。息をするように、言葉を理解するように魔力を扱えるようになければ。


「そんなことないよ。」

「は?」

「そんなにやる気のない声を出さない。そんな芸当、普通はすぐに会得できないけど、素質があったから、エキスパート並みになっちゃったんだね。」

「全部が全部、素質で片付けるの。」


野次しか飛ばさない蛍太の言葉は、とりあえず無視する。


「葵も同い年でここまでできるのはおかしいんじゃないのか?」

「まあ、それでも俺は魔法も並行して学んでたから、そんなアンバランスなことにはならなかったよ。」


庶民の身である自分が恨めしい。


「まあ、気づくことも出来たんだし、なんとなくやり方は分かるんじゃない?今度はちゃんと集中してみたら?」

「おうっ」


景気よく返事をして何もない空間に向けて両手を広げる。

深く息を吸って、長く息を吐いて、それを何度か繰り返し、ゆっくりと目を閉じる。


「良い感じだよ。」


葵のその言葉を聞き流しつつ、目の前に表すイメージを固める。


「今ここに発現せよ、“つむじ風”!」


ごおぉぉっ、がっしゃあぁぁぁん!


「「「「あ」」」」


実習棟の窓ガラスが、壁も含めて吹き飛んだ。

私は声を出すことも出来なかった。


「うわー。派手にやったねえ。」

「裕也、忘れたのか?魔力は注ぎすぎちゃいけないんだぞ?」


両手を上げたまま固まっていると、それぞれが私の傷口にぐりぐりと塩をねじ込んでくる。


「ど、どうしよう。」


頭が真っ白になって、冷や汗をかいて葵を振り返る。すると、何故か笑って拍手をしてきた。


「すごいすごい。いつもはセーブされてたけど、今日はきちんと集中することができたから、魔法を完成させることが出来たみたいだね。」

「そんなことよりも、これぇ!」


葵の呑気な台詞にやっと動き出した私は、右手を大きく振って、壊れた窓の方向を何度も指差した。


「どうすんだこれぇ!!」

「落ち着いて、ゆう。ここは実習棟だよ?こんなことは日常茶飯事、すぐに修理されるから安心して。」

「・・・」


だったら初めからそう言っておいてほしい。

何故ちょっと溜めてから説明したんだ。


「やっと改善されたんだから、これからはもっと頑張って魔法を制御してね。」

「ああ、後は注ぎ方だよな。」

「うん。でも、ゆうは魔法の気配を辿ることが得意みたいだから、実際に使っているのを見て覚える方がタメになるかもね。」

「じゃあ、僕達の出番だね!!」


私がえ?と思う間もなく、ぴょこん、と近くのテーブルに座っていた蛍太が飛び降りて、こちらへと近寄ってきた。そして周りにいた陽介と匠も、心得たとばかりに寄ってくる。


「一気にかかってこい。お前ら全員相手にしてやるよ。」


葵は挑発するかのように不敵に笑う。

一発触発なその雰囲気に、呆れて距離を取り傍観することとする。

男の子はいくつになっても騒ぐのが好きだね。葵もいくらか楽しそうに見える。いつもは自制して騒ぎすぎないようにしているようだが、今日は私に感覚を覚えてもらうという大義名分があるため、全開だ。


「にらみ合ってないで、ささっと始めろ。」


私はポケットにあった金属の塊(調合や錬金術の時の余り)を投げて、無理やり勝負を開始させた。






*****






「だあー!!また吹っ飛ばされた!」

「はいはい、さっさと向かいたまえ。」

「おう!」


私の方へ葵の風魔法を受けて吹っ飛んできた陽介に声をかけて、ちょっと離れたところで暴れまわっている男どもを眺める。

この部屋は、今まで授業で使ってきたような机やいすが並んでいる教室ではない。天候が悪い日や、そこまで動き回らないようなときに使う教室で、部屋の隅の方に机などが重なって置かれている。埃がたまっていたから、長く動かされていなかったのだろう。


「いっけーー!!」

「巻き上げろ、“辻風”!」


ごおああああぁぁおおおおお!!


「だああああぁぁぁ!!」

「蛍太!」

「匠!逃げろぉぉ!」


葵が風の魔法を使って、蛍太が力押しで使っていた炎を巻き取り、大きな炎を纏った竜巻となり3バカに迫って行った。


がっしゃああん!!ごおぉぉ・・


もちろん、模擬戦なので対象に当てる訳もなく、匠の横すれすれを通って後ろの棚に突っ込んで行った。


「陽介!!」

「ハイよお!」


一番被害の少なかった陽介に、匠は小瓶のようなものを投げ渡し、それを受け取った陽介が葵に駆け寄って行く。

それを見た葵は、手を軽く上げて自分の周囲に氷の刃をいくつか作り上げる。それでも陽介は止まらない。それに一瞬おや?と思ったようだが、口元に小さな笑みを携えて、氷の刃を陽介へと誘導するかのように、挙げていた手を下した。


ひゅっ


勢いよく陽介めがけて飛んでいくが、先ほど匠に渡された小瓶を投げつけると、カッと光が発せられ、こちらから様子を見ることができなくなってしまった。


「っ」

「もらったぁぁぁ!!」


その声のする方に顔を上げると、眼つぶしをくらった葵めがけて、蛍太が炎の塊で殴ろうとしているのが見えた。が、しかし。


「あ」


ばっしゃあああんっっ!


突然の大量の水が葵と蛍太の上へと降り注がれた。

この場は静かな沈黙に包まれた。






*****






「ずるいよなあ、佐倉。いつの間に準備してたの。」

「ずるくないだろ。ちゃんと開始されてから用意して発動させた。ルールは破っていない。それでもずるいと思うなら、お前ももっとちゃんと勉強するんだな。」

「むぅ。」


蛍太はぶぅたれた顔をして葵を睨んでいる。

なんの会話をしているかと言うと、さっきの模擬戦の決着についてだ。結果はもちろん葵の圧勝だった。初めから最後まで3人はただ遊ばれていただけであった。なんたって葵はほとんど初めに立っていた場所から動いていなかったのだから。


「にしても、いつの間に水陣なんて描いてたの?」


そう、勝敗を付けた最後の大量の水の発生は、葵がいつの間にか完成させていた水を呼ぶ魔法だったのだ。しかも、呼んだ時の条件として、水を被ったら乾くまで火の魔法を封じるという制約を付けたしていた。蛍太は火の魔法の以外は、ほとんど使えないため、それを封じられた時点で終了となる。


「あれだけ一定の場所から動いてなかったら、普通は何かあるって警戒するはずなんだけどね。あたりまえに接近戦をしてくるから前後左右動きやすかったよ。」


にっこり笑って答えられたが、まだまだ子供のくせしてやることがえげつない。目の前に集中しているふりをして、実際には足もとに陣を描くことに集中していたとは。


「・・・」

「それで?魔力の取り出し方、注ぎ方、見てて分かった?」

「・・・ええ、分かりましたよ。」


その私の解答を聞いて満足そうに頷いた。

しかし私は、あまり納得がいかなかった、なぜなら。


「つうか、あれだけ意識させられて、あんな分かりやすい使われたら、誰だって気配なんか追えるわ!」


床に座っていた葵のちょうどいい位置にあった濡れた頭を良い音させて殴った。


「そうだね。今のは小さな子供でもちょっとは感じることが出来るだろうし、気配に過敏になってるゆうなら、なおさら、だったかな。」


私に叩かれた頭をタオルでごしごしと乾かしながらそう答える。

前にも話したかもしれないが、蛍太の魔力量は底なしだ。そのおかげで朝倉家の次期当主確定の訳で。

そのことから、蛍太の魔力の使い方は豪快、悪く言えば大雑把だ。たとえば、飴の掴み取りとかを想像してほしい。大量にある飴を、特に深く考えず掴めるだけ掴んで取り出す。そしてこぼれるのも構わず持ち帰り用の袋へと移しかえる。蛍太が行っているのはそれだった。しかも、掴めるだけ掴むくせして、袋に入れるとき、自分では落とした飴を拾わないので、周りがこぼしたものを拾って袋へ入れている。匠と蛍太は、ほとんどそう言ったフォロー訳に回っていた。本当は一人で行わなければならないものを、3人で・・・


「葵が蛍太の事を雑だって言うのが分かった気がする。」

「え!なんで!?」


当の本人は全く気が付いていないみたいだけど。小さいころから多すぎるその魔力を周囲の人間で制御してもらうことが当たり前になってしまっているらしい。


「とりあえず、お前ら3人には魔力の注ぎすぎ、注がなすぎをとやかく言われたくない。」

「え~~。」


葵だけが心底納得できるといった面持ちで深く頷いている。


「とりあえず、ゆうは魔力の掴み取り方さえ感覚を覚えれば、何とかなると思うから、いろんな人を観察してみてよ。」

「まるで人間観察みたいだな。」

「まあ、要はそうしろってこと。」


観察している人に、もしばれたら私の人間性を疑われそうだが、しかたがない。


「頑張ってみますかね。」

「試験まであと少し時間あるから、きっとうまくいくよ。」

「ありがとよ。じゃあ、お前らも私に付き合えよ!」

「「「え!?」」」


私の急な発言に3バカは驚いて飛び上がった。


「僕たちは出来てるよ!」

「出来てないから言ってんだ。初回の呪術の授業を忘れたとは言わせねえ。」


私のその雰囲気に気圧されたのか、縮こまってこちらをおびえたように見上げてくる。


「お前は他人任せをとりあえずやめること。そうすれば匠も陽介も自分のことに集中することが出来るようになるし、少しは成績も上がるだろ。」

「「「ええ~~。」」」


根本からバカが根付いているので成績が上がるといっても、勉強しなければならないということに不服そうな声を上げる。


「反論しない!」

「「「は~い。」」」

「返事は延ばさない!!」

「「「はいっ」」」


ちょっといやそうだったけど、朝倉家の次期当主とその側近たちの成績が上がるのは、お国の将来を考えれば、いいこと、ですよね?




本当は裕也が模戦する予定だったんですけど、話の流れで何故か傍観側へ。

つ、次こそは魔法をドカンと!!

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