第七話 切っ掛けの欠片
遅くなって申し訳ないです。
怒涛の一か月が過ぎた。
入学早々、いろんなことがありすぎて、飽和状態であったが、この一カ月で何とか慣れてきた気がする。
「ゆーーう!!会いに来たよ!!」
「佐倉ぁ~!会いたかったぁ!!」
「てめ、こっち来るんじゃねぇよ!!」
「佐倉!蛍太の思いをちょっとは分かってくれ!」
「そうだ、俺たちもまたお前とこうやって雑談まで出来るようになって嬉しいぞ。」
・・・そう、慣れてきた気が・・・
「つーか、放せ!ゆう以外の人間に触られたくない!」
「そんなつれないこと言わずに~。」
「来るな、触るな、抱きつくな!!」
「佐倉~!!」
・・うん、うん、慣れて・・・
「ちっ離れろ!“突風”および“爆破”ぁぁ!!」
ザザ・・キィ・・・・・ドオンンン・・・・
「・・・て、慣れるかあ!!」
いきなりの教室爆破。これが初めてなわけがない。私に会いに葵はEクラスに来るわけだが、何故か葵に執着している蛍太が居るせいで、必ず何かしらのアクションが起こる。
「なんで爆破?なんで爆破したの?今!」
「ん~・・そんなのどうでもいいじゃない。あ~ゆう、会いたかったよぉ。」
「いやいや、ついさっきも会いましたよね?昼なんて誘いもしないのに勝手についてきてましたよね?!」
目の前に焦げて倒れている3人組の屍を踏みつけて、私の方へやってきてぎゅ、と抱きつく。
「いやいやいやいや、抱きついてなごんでる場合じゃないから、あれどうすんの?てか、必要以上に知識が豊富だからって、むやみやたらとぶっ放さないでください!!心臓がいくつあっても足りません!!」
「え~・・・あいつらしつこいから、手加減とか出来ないんだよなぁ・・・。」
(え、なんか小声で怖いこと言ってる!)
すすけた教室に、目の前の焦げて目を回している3人組を見やり、これからどうすればいいのだろうかと、廊下から聞こえる、教師のものと思わしき足音を聞きつつ、ぼんやりとどう言い逃れようかと考えていた。
*****
入学して教室を破壊した回数計15回。教師に呼び出された回数12回。絶対に歴代最多の最大だと思ってしまうのは私だけだろうか。
そんなことを手を動かしつつ考える。
「陽介、こっちにはホルマリン漬けがあるよ!!」
「ほんとうか!」
「こっちには作りかけのマジックアイテムがあるな。」
「そこ!!さっきから全く反省の色なし!!いいから手ぇ動かせ!!」
「「えぇ~」」
あんなことが毎回起こっているからには、もちろん罰則だってある。現在進行形で、実習棟の掃除を手作業で行っている。
「不満げな声を出すな!!陽介にいたっては返事もしない・・・誰のせいでこんなことになっていると思ってるんだか・・・」
「え、佐倉でしょ。」
「お前ら全員だ!!」
思わず手に力が入ってしまい、箒にひびが入ってしまったが、致し方ない。まあ、おそらくまだ使えるだろう。
元凶の3人組は掃除をせず、未開の地であった実習棟に入れたことで興奮し興味津々で見学している。また、葵にいたっては、優秀さからか、教師の贔屓が入り、罰則なしとなっていてこの場にはいない。
「・・・遅いから何してるのか様子を見に来たら、また掃除をしてるのね。」
「絢子!!どうしてここに?」
「あなたのクラスに行ったら、そう聞いたのよ。」
絢子が自分から動いて人に声をかけるのはとっても珍しい。何か用事などがない限りはいつも静かに本を読んでいたり、何かを描いていたりする。
「特別何か用事があったわけじゃないけど、実習棟の掃除をしてるって聞いたから寄ってみただけ。」
「絢子も見学ですか。どうぞどうぞ~、1人で掃除しますから。」
「いじけるのも分かるけど、私だったらそんな無意味なこと、適当に終わらせるわ。」
3バカが知っていて見学しているとは全く思えないが、確かにこの実習棟を掃除するのは無意味と表現するのが正しい。なぜなら、昼夜問わず生徒達が訪れ、ここで作業し、汚していくからだ。掃除するのは専ら魔法による“浄化”である。どんな薬品がこぼれているか分からないところに生身で向かうのはただのバカだ。
そんなわけで実際には掃き掃除しかしていない。教師もいろんな薬品があるこの場所に生徒だけで訪れれば少しは大人しくなるとでも思ったのか。
(逆効果でしかない。)
興味津々にあちこちの薬品を触って回るバカ3人組。もう何も言うまい。
「無意味でも、とりあえずやっておかないと、また何言われるか分からないからな。」
「・・・あなたがそれでいいならいいけど。」
呆れたように視線を外される。
「それだけ言うために来たのか?」
「そんなわけないじゃない。」
きっぱりと言い切られた。私が本当に何も知らなくて、泣きながらあの3人をまとめ上げてたとしても気にしないんだろうなぁと、考えて、思わず苦笑してしまう。
「で、どうした?」
「・・・五不思議の一つがこの実習棟にあるって覚えてる?」
「ん~、そういやそう聞いたかもなぁ。それが?」
「・・・先に戻ってるわ。」
「え、絢子?」
スタスタスタと速足に帰って行ってしまった。
今のニュアンスからすると、もしかして、ちょっと心配してくれてたのかな?と思いつつ、帰って行く絢子の後姿を見送った。
・・・かしゃーーーん!!
「うわ!!」
「!」
何かが割れた音がして振り向くと、陽介の足もとから煙が上がっていた。
「何やってんだ!!」
「わ、悪い。手元を狂わせた。」
「そんなこと言ってる場合か!悪いと思ってるなら陽介を医務室に即刻連れて行け!」
「ああ!」
3人で何やら怪しい液体の入った小瓶を取り合っていたらしく、匠がそれを陽介の足もとに落としてしまったらしい。
何が起こるのか分からないので、バタバタと足音を立てて、匠と陽介は医務室へと向かった。
「お前は何放心してんだ。」
ぱこん、と放心状態の啓太の頭を叩く。
「うえ!!」
「いつもバカみたいに擦り傷とか作ってるくせに、こういうときは耐性ないのかよ。」
目いっぱい見開いて微動だにしない姿はさすがに怖い。
「そういうわけじゃないんだけど・・・」
なんだか言いずらそうに、自分自身何が起こったのか理解してないかのような返答に思わず眉をひそめた。
「どうでもいいけど、切り上げるぞ。」
「え?」
「これ以上やってもしょうがないからな。私たちも医務室行くぞ。」
得体のしれない薬品のにおいをかいでいるのだからとりあえず見てもらうのも悪くはないだろう。
「そうだよね!陽介も心配だし、急ごう!!」
「あ、待て!危ないから走るな!!」
パタパタパタと軽快な足音を立てて走って行く。
私もその後を追おうとしてふと眼の端に何か映った気がして立ち止まる。
振り返って目線だけで探すが、特にこれといったものは見当たらない。
(虫かほこりか・・・?)
さっきまで暴れまわっていたのだから、ほこりが舞っても不思議ではない。気にはなったが、前の方から聞こえてきた転ぶような音に溜息をついて、現場へと向かった。
*****
「あんな立派なこと言っといて、すぐに帰ってきたのね。」
疲れた体を引きずって寮に戻ると、開口一番にそんな嫌みが飛んできた。
「これには色々事情があったんです。」
「事情、ねぇ。」
淡々とした声音が、いつも通りのはずなのに、圧迫感を感じる。
「やっぱりあの後、3バカが余計なことを起こしまして・・・医務室に行ったら薬渡されてすぐ帰るように言われたんだ。」
そう。医務室に行った後、なんだかよくわからない解毒薬だかを渡されて、明日まで自宅待機を言い渡された。
しかも、医務室に行くと、陽介が(・)匠の付き添いをしていた。
気がつかなかったが、小瓶を落とした時、腕に薬品が引っかかっていたらしい。匠は医務室のベットに寝かされ、気を失っていた。陽介は特に異常はなかったらしいが、私たちと同じく薬を渡され、自宅で安静にするよう通達されたらしい。
「全く・・・裕也の周りはいつも騒がしいのね。」
「面目ない。」
私が何かしているわけではないのだが、周りにいる人間が濃すぎた。そのせいで、何か起こると、私が中心になっているように見えるらしい。おかげで毎日飽きずに過ごしている。
「そんなので、文武合同茜祭をこなせるのかしらね。」
「・・・?」
「まさか知らないって言わないわよね。」
「さすがに知ってるから!」
文武合同茜祭とは、所謂学校公開だ。
一年に一回だけ、学校の敷居を外部の人間もまたぐことができる、学園唯一のイベントだ。
武術や魔法の競技大会、出店や研究発表など様々なことが3日間行われる。それらすべてを生徒ののみで実施しなければならない。そう、クラス委員が中心となって。
「はあ、本当に、どうしようもないわね。」
呆れかえってまた本へと目を落としてしまった。
「・・でも、ありがとう絢子、心配してくれて。」
「・・・心配なんかしてない。」
この意地っ張りな友人は、さらに素直じゃない。けれど、ここから見える絢子の耳が赤いのは私の気のせいではないのでしょう。
文化祭&体育祭ですね。
ファンタジーの学校にそういうのを見たことがなかったので受け入れてもらえるのか・・・そして書くことができるのか・・・