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真実 ノ ウタ  作者: ぷじ
8/25

白の章・夜よりも暗い闇(1)


◇◇◇◇◇


 二人が散歩から戻り、昼前。広場にはもう村人達がお祭り騒ぎをしていた。

 『英雄リマ』の登場で場がより盛り上がる。単純にリマが戻ってきた嬉しさもあるが、『魔王』を倒した『英雄』になって戻って来た事も相まって村人達は今まで以上に盛り上がっている。

「おめでとう!『英雄リマ』!」

「今日はあの恐ろしい『魔王』を倒した『英雄』様の誕生日だ!呑むぞー!」

 皆が皆、リマを『英雄』と呼ぶ。気を抜くと涙が零れてしまいそうになるのを堪えて、皆の期待に応えるように「ありがとう」と笑顔を作った。

「大丈夫か…?」

「…うん。ありがとう。」

 本当はあまり大丈夫ではないのだが、エイルの優しさにまた笑顔を作り答える。

 少し離れた所から、馬の鳴き声が聞こえた。村人の視線がそちらの方に集まっている。村人達は自然と道をあけ、そこから現れたのは高貴そうな白い礼服に身を包んだ銀髪の青年。リマに気がつくと同時に、軽やかな身のこなしで駆け寄ってきた。

「ああ!僕の愛しい天使!会いたかったよー!」

 両手を広げリマに抱きつこうとした瞬間。エイルが青年を蹴り飛ばした。

「てめぇ!性懲りもなく抱きつこうとした上に、何が『僕の愛しい天使』だ!?死ね!」

 青年の高そうな白い服が土で汚れて台無しになっている。青年は、立ち上がって土を軽く払い、エイルを睨む。

「…エイル…仮にも自国の王に向かってこの仕打ち…今すぐ処刑してやろうか!!」

 物騒な言葉が飛び交っているが、その様子を微笑んで見ているリマ。よく喧嘩をするが、実は仲が良いことを知っている。

 青年の名は、シフィアス・ヴァ・ネルルシータ。リマが住む国、水の国ミネルスの現国王であり、リマが四大国の王族に初めて接触したのがこの若き王だった。


◇◇◇◇◇


 リマが一人で村を出てから一週間。普通なら五日ほどで着く港街にようやく着いていた。

 近隣の村くらいにしか行った事のなかったリマにとっては、目に映るもの全てが新鮮で、立ち止まってはヴァルシータに叱られ、見知らぬ男に声をかけられついて行っては叱られ…を繰り返し、必要以上に時間がかかったのだ。村人達に過保護に育てられたリマは、ありえないほどの世間知らずだった。


 港街に着き、今までに見た事の無い街の広さ、人の多さにリマの目は輝く。港街ネダアーチ。白い砂浜に、透き通る碧い海。そこで捕れる新鮮な魚介類が売りの有名な観光地だ。その街並みも美しい。白を基調にした四角い箱のような建物が緩やかな坂に建ち並び、遠くから見れば、まるで街全体で一つの城のように見える。

 小高い丘からは、街並みと太陽の光を受けキラキラと光る海を一望できる。丘に設置されている長椅子に座り、ヴァルシータに急かされつつもしばらく風景を楽しむ事にした。

 潮の香りがリマの鼻をくすぐる。生まれて初めて見た海に見とれていると、横から声が聞こえてきた。

「太陽の輝きのような美しい髪の人…お一人ですか?」

 横を見ると、いつの間に座ったのだろうか…青みがかった銀髪の青年が座っていた。少し垂れた瞳は海と同じ碧。肩までめくり上げているシャツからは、程よい筋肉のついた健康的に焼けた肌があらわになっている。

 普通の女性ならば見とれてしまうほどの美形だが、エイル以外の男性には興味の無いリマにとっては、ただ急に話しかけられて驚いているだけだ。そうとは知らずに、いつもと同じように見とれられているのだと勘違いして話し出す青年。

「ああ、美しい人…そんなに見つめられると、その瞳の中の空に吸い込まれてしまいそうになるよ…」

 …何かの呪文だろうか?理解しがたい言葉を紡ぐ青年を首を傾げて眺める。その首を傾げる姿が、青年の目にはたまらなく可愛らしく映り、一人悶えている。ついには衝動を抑えきれなくなり、リマの手を掴んで言った。

「結婚しよう!」

 リマは逃げた。


 追ってくる青年を3時間くらいかけてようやく撒き、今は宿の前で逃げ切れた事に心底安心していた。出会って数分の青年にいきなり求婚され、逃げても逃げても追って来るのだ。世間知らずの少女にとってはどれほどの恐怖だった事だろう。

 ようやく落ち着き、宿に入り宿泊の手続きをする。

「おや、お嬢ちゃん一人かい?」

「はい、宿泊費はちゃんとありますから、泊めていただけますか?」

「ああ、勿論大歓迎だよ!ただ、最近この辺りでえらい強い女の子が魔物を退治してるって噂があってね…一瞬嬢ちゃんかと思ったが、こんな可愛らしい子が魔物をビシバシやっつける姿なんて想像できねぇや!はは!」

 リマは苦笑いで部屋の鍵を受け取り、逃げるように部屋へ向かった。

 店主が言っていたうわさの少女とは、まさにリマの事だった。ふらふらしていた2週間の間に、何度か魔物と遭遇した事がある。立ち寄った村や町が襲われていたり、道中で商人らしき者が襲われていたのを助けたりしていた。そんな事ができたのは、ヴァルシータから貰った知識のおかげだった。


 ヴァルシータから貰った知識は、この世界の『真実』のひとつでもある。

 森羅万象、全てに精霊が宿り、精霊が存在するからこそ、この世界は保たれている。その精霊を呼び出すために紡ぐ言葉。ヴァルシータがリマに与えた知識は精霊の『真実』に近い言葉などではなく、『真実』そのもの。

 自然界の仕組み、精霊の誕生の瞬間、精霊の消滅の瞬間…その全てに世界を創造した存在が紡いだ言葉が存在する。今は失われた『神語』の存在だ。

 神の紡ぐ言葉。それを紡ぐ事によって、精霊達は在りのままの姿を現し、力を貸してくれる。その力は、数百という魔物を一瞬で消滅させてしまうほどの圧倒的な力だった。

魔物から救ってくれた少女に人々は感謝し、ほんの気持ちだという事で謝礼金を戴いた事でこうして苦労も無く宿に泊まれたりしている訳だが…

 『奇跡のような力で魔物を倒す少女』。その噂はあっという間に広まっていた。リマにとっては、与えられた知識で戦っただけで、自分の力で倒したのだという意識は無い。なので感謝されたり、注目されても萎縮してしまうのだ。


「ねぇ、ヴァリー。知ってるなら教えてよ…ルマの事。これじゃ魔物を倒す為にふらふらしてるみたいじゃない。」

『今はこのままでいい』

「どうして?このままだったら、私無意味に有名になってしまうじゃない。」

『それでいい お前の存在を 知らしめるのだ』

「…?有名になってルマの方から見つけてもらうようにするって事?」

『………』

 村を出た時からそうだった。ヴァルシータは言葉が少なく、リマが欲しいようなはっきりとした答えは返してくれない。その態度にそろそろしびれをきらし、文句を口に出そうとした時だった。

 遠くの方で、人々の悲鳴が聞こえてきた。

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