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真実 ノ ウタ  作者: ぷじ
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白の章・『真実』の名を持つもの(3)

 二人は周りを見渡すが人影は無く、ただ棒状の光るものがあるだけ…


『『真実』を求める記憶の喪失者よ 汝の求める『真実』は 『力』無くして辿り着けぬ 『力』を欲するならば 我を其の手にとれ』


 どうやら声は棒状の光から発せられているようだ。エイルは目を丸くして見つめているだけだが、リマは悟る。

 これは、自分に話しかけているのだと。

 『記憶の喪失者』―――それは間違いなくリマの事だ。だが、何故これはリマが『真実』を求めている事を知っているのだろう。

 両親の死因。妹の生死。妹と同じ名を持つ『魔王』の存在。今リマは、その疑問に対しての『真実』を強く求めている。

 しかし、何故『力』が必要なのかが分からずに、この怪しい光に近づくのを躊躇う。


『我は『真実』に導くもの 正しい道を歩まなければ 汝の求める『真実』に辿り着けぬ その道には汝の道を阻むもの 汝に苦悩をもたらすもの 汝に絶望をもたらすものがあるだろう それから逃げず 戦う『力』を欲するならば 我を其の手に取れ』


 全てを知っているかのように淡々と語る怪しい光。リマは躊躇いながらも一歩近づいた。エイルの声が聞こえた気がした。だが、リマにはもう届かない。この怪しい光の言う事が真実か嘘かなんて分からない。その怪しさ以上に、リマは『真実』を強く求めたのだ。

 ―――もし、自分の失くした記憶の中で何かあったのなら… もし、ルマが生きているのなら…

 光に手を触れた瞬間、光は強く、大きくなり、リマを飲み込んだ。

「リマ!!」

 エイルがリマの身を案じて駆け寄ろうとしたが、光の壁に阻まれて近寄れない。それでも、愛しい少女の名を叫びながら、無我夢中で光の壁を叩き続ける。やがて光が小さくなり始め、光の正体と、リマの無事な姿が見えて胸を撫で下ろす。

 リマの手には大きな剣。暗くてよく見えないが、おそらく白と思われる鞘には見た事の無い不思議な文字が彫られていて、先には青い小さな宝石が埋め込まれている。

「ヴァルシータ!私が知りたい『真実』はこんな事じゃないわ!」

『言っただろう 正しい道を歩まなければ『真実』にはたどり着けぬと』

 ヴァルシータと呼ばれた剣は淡々と答える。

 リマが得た『真実』は、『真実を導くもの』という意味を持つ剣の名前と、戦う為の知識。

 身体のどの筋肉をどう動かせばどう動けるのか。人間のどの部分をどれくらいの強さで攻撃すればどうなるのか。

 それと、魔法と呼ばれるものの使い方。魔法は、使用者の意思の強さと『言葉』で威力が変わる。自然界を理解し、精霊を理解し、呼び出す精霊の『真実』に近い『言葉』を紡ぐ事によって精霊は力を貸してくれるのだ。

「リマ、身体は大丈夫か?何かおかしいところはないか?」

 見た感じは無事だとしても、訳の分からない光に飲み込まれたのだ。エイルは心配そうにリマを見る。その思いやりの心にまたエイルに対する想いを強くして「大丈夫だよ」と微笑むリマ。


 リマの様子もいつも通りになり、夜も遅いという事で家に帰る事になった。

 暗い夜の森をリマが転ばぬよう、手を繋ぎながら歩く。来た時と違っているのは、リマの背には『真実』の名を持つ大剣と、格闘や魔法の達人以上の知識を手に入れた事。

「ねぇ、エイル。私、明日村を出るわ。」

 唐突に発せられた言葉にエイルは焦りの色を浮かべてリマを見る。

「…『魔王ルマ』って知ってる…?」

 エイルは動揺を隠せない。『魔王ルマ』。美しく艶めく黒髪に、鮮血のような赤い瞳。見る者全てを虜にしてしまう程美しい少女だと聞く。その名前と、その姿の特徴。どうしても目の前の愛しい少女と同じ顔の幼馴染を思い出させる為、エイルを含む村人達はその名を出さぬようにしていた。

「…ルマと同じ名前ってだけなんだろうけど…気になるの…それに、ルマは生きているような気がするの。だから…探しに行きたい。」

「…それなら!オレも行く!」

 エイルは振り返ってリマの肩を掴んだ。長年閉じ込めていた想いがやっと通じたというのに、離れるのはあまりにも酷だ。

「ダメよ!私と違ってエイルにはちゃんと家族がいるんだから!おばさんとおじさんを心配させちゃダメよ!」

「何言ってんだ!父さんも母さんもリマの事本当の娘みたいに思ってんだぞ!?その娘を一人で行かせて見ろよ!そっちのほうが怒られるし、心配するに決まってる!絶対だ!」

 離れたくない気持ちと、自分の家族の気持ちが混ざって声が大きくなるエイル。その瞳は真剣だ。絶対に折れないという眼差しにリマは負ける。

「…分かったわ。」

 小さくため息をついて微笑むリマ。離れなくていいという安堵感がエイルを自然と笑顔にさせる。そして二人は、騒がれても困るので、明朝皆が起きる前にこっそりと出て行こうと約束し、家に帰って行った。


 明朝、陽が昇りかけのまだ薄暗い時間、最小限の荷物を抱えたエイルはリマの家の戸を叩く。………反応が無い。まだ眠っているのだろうかと、合鍵を使って中に入った。寝室を見るがリマはいない。居間や、他の部屋、浴室も音がしない…

 人の気配のしない家にエイルは青ざめる。約束したのに!という憤りと、一人で行ってしまったリマを案じる気持ち…よく考えれば、人一倍心配や迷惑をかけたくないという気持ちが強いリマが、そういう行動をとるだろうと簡単に予測できた。それなのに、気づかなかった自分に対しての怒りと情けなさで、居間の椅子に力なく腰を下ろした。

 テーブルに肘をつき、俯くと一枚の紙切れが置かれているのに気づいた。…リマからの手紙だ。


『エイルへ。一人で行ってしまう事、許してください。ヴァルシータが言っていた事。『力無くしては辿り着けぬ』。まだ半信半疑だけど、もしそれが本当の事ならば、凄く危険な事があるかもしれない。もしも、エイルに何かあったら、おばさん達は悲しむし、私だって悲しいし、凄く後悔すると思う。私なら大丈夫。ヴァルシータから貰った知識があるから。信じていて。必ず帰ってくるから。―――リマ』


 何の『力』も持っていなかった少女が『力』を手に入れ、旅に出た。

 それは、『魔王』を倒すという大きな使命ではなく、ただ、妹を探すためだけ。

 少女はその時はまだ知らなかった。自分が『英雄』になる事も。『英雄』になったのは『魔王』と戦い、倒したからだという事も。

 その『魔王』は、自分の半身である妹だという事も―――…


 何も知らず、ただ、妹を探す為だけに旅に出た。

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