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真実 ノ ウタ  作者: ぷじ
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白の章・ある午後の一時

 ミネルス国王ヒューグ・ヴァ・ネルルシータは、魔物に襲われ死亡。次のミネルス国王には、シフィアス・ヴァ・ネルルシータが即位する事になる。彼らの父は、魔王の手にかけられた、という事でファレグに侵攻していたミネルス軍は撤退。再び両国の間で和平条約の話が進み、二ヵ月後に無事結ばれた。

 両国の和平により、最も焦りの色を出したのは風の国シェリダである。彼の国は、長きに渡る戦争、そして激しい内乱により疲弊しきっていたのだ。そこへ、ミネルスとファレグの和解の話。シェリダからしてみれば、両国が結託して残りの国を制しようとしているように思えたのだ。

 両国は、そのような思惑はなく、むしろ風の国に和平の話を持ちかけようとしていた。しかし、焦った風の国は水の国へ攻撃を始める。急な攻撃に対応しきれず、水の国は領土の三分の一を奪われた。

 勢いを増した風の国が更に進軍しようとした時、戦場に『天使』が舞い降りた。

 『天使』は、奇跡の力で水の国の兵を守り、また、風の国の兵にすらも慈悲の心で攻撃をしなかった。それを目の当たりにした風の国の兵は戦意を喪失し、撤退を始める。だが、風の国の王はそれに激怒する。水の国の領土を返す事も無く、和平の話にも頑なに応じようとはしなかった。だが、攻めて来る事も無く、現状は冷戦状態である。


「『慈悲の心』だってさ、リマ。」

 新聞の記事を見ていたエイルが、にやにやしながらリマを横目で見た。

「もう、茶化さないでよエイル。」

 ヒューグの件から半年。リマ達はミネルス城に滞在していた。リマは、内臓まで到達していたシフィアスの傷の治療に時間がかかり離れる事はできず、エイルはリマに付いて城に滞在している間、ヴァルシータから得た武術の知識によって、騎士達の武術指南をしていた。

「ママが優しいのはと~ぜんだよエイル~だってぼくのママだもん!」

 桃色の聖獣フォンは、本来火の国に在るべきなのだが、泣きじゃくりながらリマから離れようとはせず、「大人になるまで」という約束でリマといる事になった。

 状況が少し落ちついてきた今、城の温室でお茶をしながらこれからどうするかを決めようとしていた。

「ねぇ、ヴァリー。これからどうしたらいいと思う?」

『好きにしたらいい』

 最近、ヴァルシータに助言を求めてもこればかりで、リマは困っていた。ここ数ヶ月、魔王がリマの前に現れる事はなく、またリマ自身もシフィアスの他に戦争で傷ついた人々の治療や風の国の進軍を抑える事に忙しく、魔王となった妹の行方を追うことができずにもどかしい思いをしていた。

「リマはどうしたい?」

「…ルマに会いたい。」

 だが、どこにいるのかが分からない。ヴァルシータに聞いても何も答えてくれない。このまま戦争を止める為に尽力していれば良いのか、それとも妹を探す為に旅に出れば良いのか、どちらが妹に辿り着く為に必要な事なのか迷っていた。

「おお、こんな所にいたのかリマ。」

 駆け寄ってきてリマに抱きつく火の国の女王の妹。和平条約の取り決めを行う為にミネルスに来ていたのは主に彼女であり、姉以外の人間に初めて心を開いた彼女は、それ以降もミネルスに来る口実を作っては頻繁にリマに会い来ていた。

 慕われるのは単純に嬉しい事で、リマも嫌がる事はなくむしろもう一人妹ができたようで嬉しかった。

「今日はどんな用事で来たの?レンカ。」

「うん、姉様の手紙を届けに来たのだ。」

「ぶはっシフィアスのやつ、まだ文通してんの?」

 エイルが笑いを堪えきれずに噴き出すと、シフィアスがどこからともなく現れてエイルの頭を叩いた。

「レンカ、余計な事は言わなくていいんだよ。」

 睨まれて、レンカは紫水晶の瞳を細めてころころと笑う。現在、シフィアスとエンカは文通をしており、どことなく良い雰囲気なのをよくレンカとエイルにからかわれる。

「…その、彼女とは国同士の親交を深める為にだな…ああ、リマ。心配しなくても、僕の心は君だけのものだよ。」

「ふむ、その旨しかと姉様に伝えておこう。」

「い、いや、その…」

 しどろもどろになるシフィアスに、フォンが少し大きくなった桃色の前足を彼の肩に乗せて、首を横に振りながらため息を吐く。

「二兎追うものは一兎をも得ず。まぁ、ママは元からシフィーなんか眼中に無いけどね。」

「そうだそうだ!リマはオレのだからな!」

 シフィアスから守るように、リマを抱き寄せるエイル。それに頬を赤く染めてまんざらでもない様子のリマを見て、シフィアスは涙目になりながら震えている。

「エイル!フォン!覚えておけよ!しばらく君達の食事はピーマンづくしにしてやるからな!」

 そう言い捨てて、走り去っていくシフィアス。ピーマンが大嫌いなエイルとフォンは激怒する。

「フォン行ってこい!そしてピーマンを却下させるまで噛み付いて離すな!」

「いぇすさー!」

 ふかふかの桃色の尻尾を振りながらフォンは飛んでいった。…遠い所からシフィアスの叫び声が聞こえた気がした。


 嵐のようにシフィアスが去って行った後、レンカも混ざって再びこれからの事を話し合う。

「…ふむ、リマはどうしても魔王に会いたいというのだな…」

「うん…シフィアスの傷はもう治ったし、水の国も火の国も安定してきたし…落ち着いてきたら、どうしてもルマの事が気になってしょうがないの…」

 レンカは手を顎にあてて考える素振りをする。しばらくして、自信無さげな様子でリマの方を向いた。

「…風の国は、別名何と呼ばれているか知っているか?」

「…時を詠む風の国?」

「うん、そうだ。彼の国の王族のみに伝わる力があってな。時を詠む…これから起こる出来事を詠む事ができる…つまり、未来を視る事ができるらしいのだ。」

 リマの心に希望の光が射した気がした。その力があれば、ルマがどこにいるか分かるかもしれないのだ。

「しかし、今の風の国の王はとんだ愚王らしくてな。頭も悪く、欲深く、嫉妬深く、猜疑心も強く…時を詠む力さえ無いらしい…」

「そんな…じゃあ、今は誰もその力は無いって事?」

「いや…その嫉妬深さが災いしてな、八年ほど前に、王が時を詠めぬのに詠める存在がいる事は許さん…と、王族を処刑しだしたのだ。その際、難を逃れどこぞに亡命した者がいると聞いたが…」

「その人がどこにいるのかまでは分からない…と…」

 神妙な顔で頷くレンカに、リマはうな垂れる。結局は手詰まりだ。どうすればいいのか…と、また考え込んでいると、エイルがリマの手を握り、笑った。

「考えてもどうしようも無い事ならさ、手当たり次第やればいいじゃん!とりあえずさ、その風の王をとっ捕まえて、その王族を追い詰めた当時の事を色々聞き出せばさ、なんか分かるかもよ!?」

 どこまでも前向きな台詞にレンカは愉快そうに笑う。

「ははは、単純な奴だな!しかし、そうだな。それが手っ取り早いかもしれん。」

 つまりは、結局戦争をどうにかして終わらせる必要があるという事だろうか。リマは、妹に続く道を見つけるのには、まだまだ時間がかかりそうだな…と、温室に咲く真っ赤な薔薇を見つめながらため息を吐いた。

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