表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真実 ノ ウタ  作者: ぷじ
17/25

白の章・闇に咲く紅い華(1)

 その街は、とても暑かった。火の国ファレグの首都、カト。魔を祓う聖なる炎が街中を照らす。

「ぁ…あつ…い…なんで…みんな普通な顔して歩けるの…?」

 村を出てから二ヶ月弱。もう汗ばむほどの暑い季節になっていた。カトは、土地的にも暑い土地なのだろう。村よりも大分気温が高い。しかも、城内にあるという『聖なる炎』から持ってきた炎が、昼間にもかかわらず街の至る所でごうごうと燃え盛っているのだ。

 カトの人間はそれが普通なので、リマから見れば涼しい顔をして歩いていた。

「フォンも…そんなにもじゃもじゃなのに…とっても元気ね。」

「変なママ!こんなに気持ちいい気分の所でそんなに疲れてるなんて変!」

 桃色の獣がはじけてしまいそうな元気で、垂れた耳をひらひらとリマの周りをくるくると飛ぶ。あれから二日。『フォン』と名づけたこの桃色の獣は、見る見るうちに人の言葉を覚えた。ヴァルシータいわく、聖なる火の守護獣はとても高い知性を持っており、人など到底敵わない高い位置にいる存在なのだとか。

『元々は 聖なる火から産まれた種族だからな 母なる火が近くにあると 力が溢れてくるのだろう』

 リマは、「へぇ…」としか返す元気が無い。慣れない旅で疲れている身体を、容赦なくぎらぎらと照りつける太陽。至る所でごうごうと燃え盛る炎。熱気でゆらゆらと歪む陽炎。くるくると回る視界―――リマは、倒れた。


 同じ時、首都カトに足を踏み入れた少年がいた。

「あっ…ちぃぃぃ!!なんだここ!?」

 赤茶色の髪の毛を無造作に揺らし、暑さに唸っている少年。二ヶ月ほど前にリマに置いて行かれたエイルの姿があった。

 あれから、うな垂れながらリマの置手紙を両親に見せると、自分の息子とは思えないほどの言葉で罵倒され、半泣きでリマを追う為に村を出た。道中、綺麗な女の子が魔物を倒して回ってるとか、ミネルスの王子に連れて行かれたといった噂を聞き、首都に行けば『天使』の絵が街中に溢れていた。何の事だか分からないエイルは、『天使』となっているリマに会う為に城に赴くも、門前払い。それでも、何日も粘っている時に現れたのは、国王の弟だった。

 彼いわく、天使の婚約者だと名乗る若者が来ていると城内で噂になっており、まだできたばかりの腹の傷の血で服を滲ませながら、エイルのいる宿に来たのだ。彼は事の顛末を語った。そして言ったのだ。

「本当に、君がリマの婚約者ならば、火の国に向かった彼女を支えてあげて欲しい…」

 頭に血の上ったエイルは、彼を怪我人にも関わらずに殴り飛ばした。村の全員で、大切に、大切に育てた愛しい少女を、勝手に天使に仕立て上げた挙句、戦争に使おうとしたのだ。しかも、火の国でどんな危険な事があるかも分からないのに、それを承知で送り出したこの国王の弟に激しい憤りを感じた。

「お前に言われなくても、リマはオレが支えるよ!お前はとっとと帰って糞して寝てな!」

 うな垂れる彼に、そう捨て台詞を残し、すぐさまファレグに向かったのだった。


 そして、今。見渡す限りの火、火、火―――…

「こんなクソ暑い時に、こんなに…ここの連中は頭おかしいんじゃないのか…?」

 エイルも、このうな垂れるほどの暑さに倒れそうだったが、リマを見つけ出さないとという使命感でなんとかこらえていた。道行く人に尋ねようとした時、凄い勢いで後頭部に何かがぶつかってきた。痛みで蹲りながらも、転がっているぶつかってきた正体と思われる桃色の物体を拾い上げる。見ると、耳が垂れた犬のような小さい獣。桃色の獣の瞳と鼻からは滝のような水が流れているではないか。その様に、エイルが少し引いていると、その獣は人の言葉を喋り出した。

「…ぅえっ…ママ…ぇっぐ…ママが死んじゃうぅぅ!!」

 大きな声で泣く獣。人々は、聖獣がこの場にいて、しかも泣いているのを何事かと注目する。この獣が聖獣だと知らないエイルは、ただ人の言葉を喋っているのが珍しくて注目されてるのだと思う。どちらにしても、一気に居心地の悪くなったエイルは、獣を抱いてその場から勢いよく逃げ出した。


「おい、わんこ!お前の『ママ』はどっちだ!?」

「ぼく、わんこじゃ無いぃぃ…ひっく…ママがフォンって名前をぉ…」

「なんでもいいわ!どっちだっつってんの!」

「たぶん、あっちぃ…えぐっ」

 小さいもじゃもじゃの前足は前方を指す。よく見ると、獣の前足には鞄と、どこかで見た事のある大剣…

「ヴァルシータ!?」

『なんだ』

 再会の驚きも感動も無いヴァルシータの返事に拍子抜けするエイルだが、ふと思った。

「おい、わん…フォン。お前のママの名前は?」

「ぇぐっ…リマ…」

 エイルは、はじけるように走り出した。愛しい少女に会いたい気持ちと、ようやく会える嬉しさに胸を弾ませながら…しかし、着いた先には愛しい少女の姿は無かった…


 甘い、花の香りがした。どこかで声が聞こえる。

 ―――…れが…まお…?

 ―――はい…ちが……りませ…

 ―――では、明日…けいを…

 聞こえる声がはっきりしてきて、リマは目を覚ました。まだぼんやりとする視界に映るものは、薄暗く冷たい石の床。そこに立っている誰かの足。

「おや、目を覚ましたか。『魔王』。」

 魔王…!?近くにルマがいる…!?驚き、飛び起きようとしたが、何かが手足を捕らえて動けなかった。

「ははは、なさけないのぅ。あの恐れられている魔王がなんと無様な姿か。」

 声のする方へ、なんとか顔だけ向ける。そこには、まだ10歳くらいの幼い少女。少しつり上がった紫水晶の瞳を細め、こちらを見下ろしていた。優雅な華の刺繍が施された火の国特有の『着物』を着ている。その布地は、薄暗い中でも分かるほど上質なものだと分かる。長い真紅の髪を垂れさせて、顔を近づけてきた。ふわり、と甘い香りが鼻孔をくすぐる。

「ここの居心地はどうだ?この、いかなる精霊の進入も拒む、『呪詛結界』の中は…いくら魔王でも力をだせないだろう?ははは。」

 この赤い髪の少女は、自分に言っているのだろうか?疑問が口に出た。

「…『魔王』は…どこ…?」

「なんと白々しい!!わしは見たぞ!その禍々しい姿を、聖獣の住まう森を焼くその姿を、しかと、この目で、見たのだ!!」

 老人が興奮した様子で、少女の後ろから声を張り上げる。どうやら、あの森を焼いたのは、フォンの仲間を殺したのはルマのようだ。そして、この老人はそれを見ていて、姿が瓜二つのリマを『魔王』と…そう、言っているのだろう。

「…私は…魔王じゃない…わ…」

「もう、良い。言い逃れしようとは、見苦しいぞ。魔の王として潔く散るが良い。処刑は、明日正午。残り少ない時間をせいぜいこの呪われた部屋で過ごすが良い。ははは。」

 そして、扉は閉ざされ、部屋は暗闇に包まれた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ