ある英雄の物語
昔々、世界は四つの大きな国に分かれていました。
聖なる火に護られし国ファレグ。
清らかな水が流れる国ミネルス。
時を詠む風の国シェリダ。
大地の声が轟く国ガーラス。
創世の時から四つの国は、調和し、世界の均衡を保っていました。
しかし、ある時些細な出来事で各国の間に小さな溝ができてしまいます。
小さな溝は、小さな争いとなり、小さな憎しみを生みました。
小さな憎しみが積み重なって、大きな憎しみとなり、やがて大きな争いにまでなってしまいました。
争う事で世界の均衡は崩れ、壊れいくなか、それでも四つの国は争いをやめようとはしません。
そんな時、破滅の予兆であるかのように『それ』は現れました。
その姿は、見る者全てを恐怖と絶望に陥れるほどに禍々しく。
その声は、闇の底から響いて、聞いた者は発狂し、息絶えるほど。
魔の生物を従え、絶対的な力で人々を蹂躙する『それ』を、人々は『魔王』と呼びました。
『魔王』がもたらす混沌と絶望が世界をのみ込もうとした時。
ある美しい少女が現れました。
その少女が使う力はまさに奇跡。傷ついた人々を癒すその姿は慈悲の天使のよう。瞬きの間に数千の魔物を倒すその姿は闇を浄化する光の女神のようです。
人々は、奇跡の少女に願います。
『魔王』を倒し、世界に平和を―――…
争っていた四つの国は、少女を『魔王』の住む雲の上の国へ導く為に争いをやめ、力を合わせます。
聖なる火は、闇を照らし。
清らかな水は、闇から少女の身を護り。
風は、少女の行く道を導き。
大地は、少女の行く道を創り。
四つの国の加護のおかげで少女は『魔王』の元へたどり着きました。
そして、人々の期待と希望を一身に受けた少女は、ついに『魔王』を倒したのです。
人々は喜び、世界に希望と平和をもたらしてくれた少女に感謝し、人々は少女を『奇跡の少女』『英雄』『神の子』と呼ぶようになりました。
世界中で連日連夜祝宴が続く中、少女は故郷の誰も知らないような小さな村で16歳の誕生日を迎えます。世界中から祝福されたその日。
少女は忽然と姿を消しました。
人々は、世界を救ってくれた『英雄』を世界の端から端まで探しました。しかし、少女の姿はどこにもありません。
少女はどこへ行ってしまったのでしょうか。
少女の行方を知る者も、いきなり消えてしまった理由を知る者も、
その、『真実』を知る者は、
誰もいません―――…