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他人事

作者: るーとに
掲載日:2026/04/27

※タグにAIとついていますが、この小説はAI生成による物ではありません

何もかもが他人事。人はみな、そうして生きている。

誰かが何かを成し遂げたとしても、周りはこちらを一瞥するだけ。向けられたスポットライトは、また別の獲物を探しに私から外れていく。

「はぁ...」

ため息をついた、ただのしがない作曲家。それが私だ。

「う〜ん..もう少し音数増やす..?」

ソフトと睨めっこをしながら、カチカチとマウスを鳴らす。昔は楽しかったはずのそれが、今は何も感じず、ただの作業と化している。

「いっ..てぇ〜」

空になったエナジードリンク。シケモクだらけの小さい灰皿。画面に打ち込まれたたくさんのキー。その全てが、自分のどうしようもない生き様を晒していて。

もう何もかもに疲れた、そんな時ふと思い出した。音楽に、作曲にのめり込んだきっかけを。

------

小さい頃から、音が好きだった。風の吹く音、舗装された道を打ち付ける靴の音。ましてや自分の呼吸の音まで。この耳に入ってくる音が、私の生き甲斐だった。

「おぉ〜..!!」

私は、とある作曲家の曲を聴いた。無名の作曲家の曲だ。

デパートやテレビなど、全く曲に触れてこなかったわけでもない。それだというのに、驚くほど引き込まれてしまった。一つ一つの音が、世界を彩り、私のココロへと深く絡みついた。

どこで聴いたかも、なんという曲だったのかも、忘れてしまったが。

その一件から私は、作曲をしたいと思うようになったのだ。

------

私の曲を出した、コンテストの結果発表の日だった。

いつもより音に敏感になり、少しでもバイクの音がすれば外に飛び出し、郵便受けを確認するほどだった。

しかし、いくら待てど一向に空のままの郵便受け。そのコンテストは、当時は珍しくもない、郵送での入賞発表だった。私は既に入賞などしていないのだろうと諦めていた。

「はぁ..どーせ今回もダメだろうな」

バイクが過ぎ去る音を聞き、サンダルを足に引っ掛けドアを開ける。

ちらり、と郵便受けの中身を確認する。

確かに見えた。郵便受けの奥の方にある、一つの封筒。私は飛びつくかのようにその封筒を引っ張り出した。

バタバタとそそっかしく家へと戻り、封筒を開ける。

ドクドク、と心臓の鼓動が速くなるのが聞こえる。

手紙を開き、1番最初に目に飛び込んできた言葉。

「ぁ」

         最優秀賞

無意識のうちに口角が上がり、飛び跳ねるほど喜んだ。

(やった..やったやった、やったぁ!!!)

たった4文字。されど4文字。今までにないくらいの喜びと同時に、快感を覚えてしまった。

------

そこからさらに、辞められなくなったのだったか。

一度得てしまった優越感。また、それに浸りたかった。全世界の人間から称賛を浴び、割れんばかりの拍手喝采を浴びたい。

そんな汚く、泥に塗れた承認欲求。またあの4文字を目にしたい。

「過去の栄光に縋り続けるほど、醜いことはないな」

使い古された雑巾のように、今の私はボロボロだ。ありきたりな言葉を並べたて、何回も使われたコードを進行させ続ける。何度も何度も何度も。使い古されたものはいずれ捨てられ、また新しい物が来る。

(そろそろだろうな、私の番は)

長い長い思考を繰り返した挙句、ネットの海に船を漕ぎ出す。

そうして見つけた一つの広告。普段ならば見向きもしないはずだったが、今日はどこかが違っていた。

"誰でも簡単AI作曲!一瞬で万バズ確定!?"

胡散臭さしかないこの文に、私は惹かれてしまった。

(一回試してみるか..そう、試すだけ)

そんな言い訳をしながら。

私は、それに手を伸ばしてしまった。

------

底の見えない通知の渦。増え続けるコメント、いいね。そして、視聴回数。少し前まで眼中にすらなかったはずなのに、今では多くの目が耳が、この曲を聴いている。

「ははっ..」

これだ。きっとこれだ。久方ぶりに味わえた、この快感。まるで、この世界の中心かのような優越感に浸りながら自身の曲を再生する。

--実につまらなかった。いつの日かに聴いたあの曲よりも、ずっと劣っている。

あの曲に寄せるならば、もう少しシンプルに、それでいて美しさを保つような曲がいいはずだ。

(結局は、誰も本当の意味でこの曲を聴いてないってわけね)

憂鬱な気分のまま、カーソルを動かしコメント欄を開く。

◯ 心に響きました、めっちゃいい曲。もっと伸びないかな

◯ そうそう、こういうのがいいんだよ

あぁ、最高だ。誰もが私を褒め称え、持ち上げる。

しばらくスクロールを続けていると、一つの言葉が目に入る。

◯ この曲、なんか違和感。音が不安定な感じがする...

文字を追っていたカーソルの動きが止まる。賞を受け取ったあの時とは真逆の、焦りや罪悪感、後悔などが入り混じった鼓動。ドクドクドクと。

あの言葉を皮切りに、いろいろな言葉が流れ出す。

◯ なんか珍しくない?こういう曲。これは...?

◯ 検証動画上がってたわ。音の波形がAIとかでよく使われてるやつらしい。これは..クロかなw

息が詰まる。

◯ AIかよ、おもんな

◯ AIって何が悪いんや

◯ 検証動画見たけど、やっぱりAI...( ; ; )

瞬く間に批判の言葉で埋め尽くされる。批判でない声も、掻き消されていく。優越感など当に消え去り、焦りや後悔、恐ろしさすら感じていた。

AIということは、どこにも記載していない。そのことからも、さらに批判が相次いだ。

「やばい、やばいやばいやばい。どうしよう」

焦りは段々と怒りに変わり、炎上の皮切りとなったコメントのチャンネルに飛ぶ。

そのチャンネルは、私と同じ作曲家だった。

(作曲家がAI疑うって..もし違ったら失礼すぎるだろ)

そんな他責思考を巡らせながら、目に入ってきた一つの曲を流す。

〜〜♪

心地の良いメロディ。一つ一つの音が、美しく素晴らしい。聞き間違えるはずがない。AIの曲なんかよりも、ずっと美しく、耳に残り続ける。

私の人生の軸となった、初めて聴いた曲。

「やらかしちゃったなぁ、私」

あの日聴き惚れたあの音楽を、裏切るような行為。するべきではなかった。迷うべきではなかった。

------

AIの曲は燃え続け、私のアカウントも削除までに追い込まれた。

私はこの一件で、深く反省をした。それと同時に、深く恨んだ。

今まで他人事のように、何食わぬ顔で見ていた連中も、煙の匂いを嗅ぎつけて、溜まったストレスを爆発させるために、私のところまで来た。

ふざけている、今まで何もしてこなかったくせに。別に私は犯罪を犯したわけでもないのに。人の不幸は蜜の味とでも言うかのように吸い寄せられてきたクズ共。一度罪を犯したものに対して、情はいらないらしい。

偽善を振り翳し、テンプレート化された批判の言葉。曲が、醜く汚く飾り付けられていく。

そして、それすら他人事として扱える奴も狂っている。

そしてそんなことを思ってしまう私は。

きっと、同じなんだろう。

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