私のじゃない夢の仕事
あなたの行き先をセンスで決める者。
「(ああ、この曲は…)」
頭の中、曲が流れる。
最近。いや、もしかしたら、大昔かもしれない。
日本のアニメで使われていた、主題歌。
海賊しかいない世界に、普通の高校生が異世界転移する、小説家になろう発の。
私の姉が大好きだった、作品。
今日は、その曲で目が覚める。
目が覚めると、頭の中で流れていた曲は止まる。
ここは、私しかいない世界。
世界?
空間、か。
真っ白で、テーブルと。
それの上にある、大量にある紙。
「さて、決めるか」
誰を異世界転生させ、誰を異世界転移させるか。
私のセンスで決める、知らない人たちの行き先。
これは、お姉ちゃんがしたかった仕事。
『見て! またランキングに入った!
作家前進だね!』
よく、お姉ちゃんは言って、私にスマホの画面を見せてくれた。
正直、本が苦手な私には創作をネットに投稿するなんて、遠すぎる世界だったけど。
確か、中1からだっただろうか、姉が作家になるって言い始めたのは。
作家、ライトノベル作家。
『今は異世界系が流行ってるから、そういうのを書かないとっ』
やっぱり、私には遠すぎる世界だった。
そして、
『作家になれなかったら、異世界系の仕事に就きたい! 異世界転移とか、異世界転生とか、そういうのをセンスで選ぶの!』
とも、言ってきた。
まあ、中2のときに首を吊って自殺しちゃったんだけど。
誰に対しても夢を語っていたから、孤立して。
作家を目指すなんて夢、皆が応援するって訳じゃないのに。
「お姉ちゃんがしたかった仕事をしている…」
私は呟く。
記憶はあやふや、いつからこの仕事をしているのかは今の私にはわからない。
そもそも、私は死んだのだろうか?
転移か、転生か。
『似てるけど全く違うよ!』
姉の言葉は、思い出せる。簡単に。
誇らしいこと、なんだろう。
姉のしたかった仕事、皆の行き先を決める仕事。
でも、私がいないような。
昔の記憶があやふや、ただ姉のしたかったことを毎日する。
私という、ヒトの意味が。
「まあ、ぼちぼち考えていけばいいんだけど」
頭をかく。
姿は、いつまでも、17歳のまま。
だから、時間はたくさんある、のだろう。
毎朝、姉が好きだった作品の主題歌で起きる。
曲は色々、作品の内容は、なんとなく知ってる。
そして、センスで行き先を決める。
まあ、ぼちぼちでいいよ、先のことなんて。
1日の終わり、鼻で歌いながら、意識を手放す。
ありがとうございました。




