ルールのない世界 2
「本当に久しぶりだね、委員長ちゃん」
「どうも……円堂ヒオリさん」
「あれ? わたし、なにか委員長ちゃんを怒らせるようなことをしちゃったっけな」
「逆恨みみたいなものなのでお気になさらず」
じろりとシノハに視線を向けられて、タイヨウがびくついている。
「おれ、委員長になにかしたっけ?」
「なにもしてない。むしろ、もらってばっかり」
「本当にタイヨウくんと委員長ちゃんは付き合ってないの? 付き合いたてのカップルみたいな雰囲気なのに」
というヒオリの言葉に対して。
タイヨウは平然としたままで、シノハは頬を赤くしてしまう。
「友達歴がながいからじゃないか」
「ということは、わたしとタイヨウくんも似たような雰囲気になれる可能性もあるんだね」
唇を隠すようにしつつヒオリが笑う。
「ところで……委員長ちゃんにききたいことがあるんだけどいいかな?」
ヒオリがちらりとタイヨウのほうを横目で見る。
セミロングの黒髪の彼女の視線に気づいてか黒髪の彼も。
「じつは、おれも委員長にききたいことがある」
と口にしている。
「わたしにききたいことって」
不思議そうに首をかしげているシノハをタイヨウがにらみつけ、ヒオリはひややかな目つきで。
「あんた、だれ?」
「お前はだれなんだ?」
ほとんど同時にタイヨウとヒオリが質問をしつつシノハの姿をした何者かを、ふたりはいつでも攻撃できるように臨戦態勢をとった。
「とりあえず場所を変えませんか……お互い目立つような行動は避けたいでしょう」
そう言いつつ、降伏のつもりかシノハの姿をした何者かがゆっくりとバンザイをした。
奇妙なことに廊下には彼ら……さんにん以外にはだれもいなくなってしまっている。
「わたしはどっちでもいいんだけど。タイヨウくん的には本物の委員長さんが人質にとられているかもしれないとか、やさしいことを考えちゃう?」
ヒオリの言った呼び名にシノハの姿をした何者かがぴくりと反応する。
「ふだんは委員長さん……と呼んでいたんですね」
「んーん、ちがう。本物のその子はつっこみが得意そうだから……とつぜん委員長ちゃんと呼ばれたらどんなリアクションをするのかと思っただけの話」
「では、どうやってわたしの正体を?」
「肉の大好きな獣がシマウマのふりをしているような感じがしたから」
「感覚派のようですね、円堂ヒオリさんは」
日永タイヨウさんのほうは、どうやってわたしの正体に気づいたんでしょうか。とでも言いたそうな視線をシノハの姿をした何者かが向ける。
「円堂さんと同じような理由です。姿や気配とかは委員長そのものですが……動きがちがいすぎる」
「動きですか、なるほど。完璧にコピーしたつもりだったのですが。わたしもそれなりにこちらの世界で言うところの武術をつかえることが足をひっぱるかたちと」
かろうじてまばたきをできるほどの一瞬でシノハの姿をした何者かとの間合いをつめたヒオリが……みぞおちに拳を叩きこもうとしたが。
「ありゃ? タイヨウくん、なんで邪魔するの」
シノハの姿をした何者かとヒオリの間にわりこむように移動していたタイヨウが、セミロングの黒髪の彼女の拳を両手で受けとめている。
「さっき円堂さんが言っていたように本物の委員長が人質になっているかもしれないからですよ」
「返事がなかったからさ……ごめんね」
「べつにいいですよ。どっちにしても相手にとっては問題なさそうでしたし」
「みたいだね」
バンザイをした状態のままで、シノハの姿をした何者かがとぼけたような表情をしていた。
「寸止めでわたしの実力を確かめようとするとは、意外と円堂ヒオリさんは理知的なようで」
日永タイヨウさんもそのことをわかっていながら受けとめてくださるとはおやさしい。こちらの委員長さんとやらに恋でもしているのでしょうか? とシノハの姿をした何者かが続ける。
黒髪の彼がふりむくようなかたちでヒオリに背中を向け、シノハの姿をした何者かと目を合わせた。
「こちらの世界では、友達は大切にするというのが一般的なんですよ」
そうだったっけ? という顔をするセミロングの黒髪の彼女。
「そちらの世界での共通認識かはともかく、やはりおふたりとも腕試しをするまでもなくわたしたちの世界でも充分にやっていけることはわかりました」
「最近……影水心の」
「そこまでわかってくれているのなら話がはやい。断ったりしませんよね? 人質の件もありますし」
シノハの姿をした何者かが、にやりと笑う。
タイヨウが横目でヒオリを見る。黒髪の彼の視線に気づいてかセミロングの黒髪の彼女が横ピースをしていた。
「なにしているんですか、円堂さん」
「うん? タイヨウくんが見つめてくれているからかわいいポーズをしてあげようと思って」
「シリアスな空気なのはわかってますよね」
「タイヨウくんにとってはね……個人的には委員長さんがどうなろうとあまり関係ないからさ」
もしもタイヨウくんがこの件が終わったあとで、わたしと本気の殺すつもりのデートをしてくれるのなら真剣になってあげてもいいんだけど。
あくびを噛み殺したような顔をしているヒオリがそう続ける。
「本気でおれのことをたすけてくれるんですか」
「タイヨウくんの気持ち次第でね」
「一度だけですよ、その本気のデートとやらは」
「やみつきになること間違いなしだから……すぐにまたやりたくなっちゃうよ。タイヨウくんもわたしと同じようなタイプだろうし」
タイヨウが首をかしげた。
ヒオリがにやつき、目を細める。
空気が変わったことを感じ取ったからか。
「今日はここまでにさせてもらいましょう。返事はまた後日ということで」
シノハの姿をした何者かが姿を消す。
タイヨウとヒオリも一瞬で姿を消してしまう。
廊下にはげしい突風が吹くも……しばらくするとなにもなかったかのように生徒たちは歩いていく。
「今のうちに作戦の確認や情報の共有とかしておきたいんだけど……タイヨウくんは会話できる余裕はある?」
一般人には見えないスピードで逃げるシノハの姿をした何者かを追いかけつつヒオリが並走しているタイヨウに声をかけた。
「余裕はありますけど、作戦ってなんですか?」
「あのニセの委員長を半殺しにして、本物の委員長さんとの人質交換しようとか考えて追いかけているんじゃないの」
「単純に委員長が殺されたりしないようにあのニセモノを追いかけているだけです」
「半殺しにする予定はないってこと?」
「できるんですか……半殺しに、あのニセモノを」
ヒオリがうなり声をあげる。




