まったりとした平穏な日常? 3
ごめんね、デート中に……とでも言っているかのようにセミロングの黒髪の彼女が手を合わせシノハに頭をさげる。
「水心大会で優勝した日永タイヨウくん」
「そうですけど……なにか」
「自分よりも強い女の子は好き?」
「話が見えないのもあるんですけど、今はこちらの彼女とデート? している感じなので」
「あいまいな言いかたをするってことは……こちらの美人さん。委員長さんはタイヨウくんの彼女じゃないってことでしょう」
タイヨウくん? 初対面なのよね……たぶん。
自分をにらみつけていることに気づきながらも、セミロングの黒髪の彼女はシノハに笑顔を返した。
「あなたの言うとおりですけど。恋人じゃないからといって、ないがしろにしてもいいとは」
セミロングの黒髪の彼女がまた手を合わせた。
「ごめんごめん。今日はタイヨウくんの実力と性格を確認したかっただけなんだ、怒らないでね」
「べつに怒る理由なんて、ないように思いますよ」
ほんの一瞬……なにかを確かめるような目つきでセミロングの黒髪の彼女がタイヨウを見た。
「なにか、わたしに言っておきたいことはない?」
「おれをストーカーするのはかまいませんがこちらの彼女を」
「たぶん、今……タイヨウくんが考えている攻撃。ぜんぶ簡単にわたしは防御できると思うよ」
タイヨウとセミロングの黒髪の彼女の目が合う。
互いにわずかに腕や足が動く……そこからくりだされるであろう鍛えあげられた武術の技。
じっさいにやるまでもなくタイヨウとセミロングの黒髪の彼女、ふたりの頭の中でおそらくその結果が。
「ねっ、言ったとおりでしょう」
セミロングの黒髪の彼女が笑みを浮かべる。
「それとも今の攻防……タイヨウくんにはまだ見えないのかな」
「なんで水心大会に出場しなかったんですか」
タイヨウの返事をきいてか、セミロングの黒髪の彼女が目をきらつかせる。
「そうだな。今度わたしともデートしてくれることを約束してくれたら教えてあげてもいいよ」
「真剣勝負ってことですか? すみません。強いのはわかりましたが、それでも女の子を殴ったり蹴ったりとかは」
「だよね……今のも手加減してくれていたし。本気でもよかったのに、殺すぐらいの気持ちで」
「殺すって」
「邪魔するのはこのへんでおしまい。それじゃあ、また今度……できればたのしいデートにしようね。タイヨウくん」
ふっ、とセミロングの黒髪の彼女の姿が消える。
警戒していたであろうタイヨウはあっさりと抱きつかれてしまいセミロングの黒髪の彼女に頬にキスをされた。
タイヨウの頬にキスをするとセミロングの黒髪の彼女はどこかに消える。足音すらきこえなかった。
そもそも本当にそんな女の子がいたのか?
とでも言いたそうな様子で立ちつくしているタイヨウとシノハ。
「なに……キスとかされちゃってんのよ。かわいい女の子だったからわざと避けなかったの?」
「名前も知らない女の子が、どれだけ美人でもかわいくてもキスされそうになったら逃げるわ」
制服の袖口で、頬を軽く拭いているタイヨウ。
「逃げられなかったんだ。強かったの」
「少なくとも金剛さんと同格。下手したらはるかに格上かもしれないな……殺人拳の系譜だろうし」
「暗殺拳じゃなくて?」
質問をしながらシノハが残りのからあげをすべて口の中に入れて……そしゃくしている。
「本当に人を殺すための武術じゃないからな。水心とはちがう、殺気や怒気とかをあやつる感じだよ」
「怒気? 怒っている感じはしなかったけどなー。にこにこして、たのしそうな感じだったような」
「笑いながら怒れるタイプなんだろう」
「怒っているのは日永くんのような気がするけど。わたしのためだったりする?」
「なんか、うれしそうだな」
タイヨウにつっこまれるも。
「そんなことないよ」
とシノハは否定をする。
「タイヨ……日永くんが怒っている感じのしゃべりかたをするの珍しいから。かわいいとは思っているけどね」
女の子の感覚はよくわからないな、という感じの表情をタイヨウがしていた。
「水心とかが乱されていたからさ、あの女の子にも日永くんの攻撃が丸分かりだったんじゃない?」
「そんな小細工がなくてもあの子の実力なら、おれの攻撃を完璧に防御できると思う」
タイヨウの耳が動く。
いつの間にか制服の上着のポケットに入っていた四つ折りの紙を黒髪の彼がひらく。
セミロングの黒髪の彼女の名前……円堂ヒオリ。
ほかにもヒオリの住所であろう番地や連絡先などが紙には書かれていた。
「好いてくれる女の子が現れちゃったね」
「あまりからかわないでくれ。それに委員長やおれの考えているような好きとは……またちがいそうだけどな、円堂さんの場合は」
どこか迷惑そうな台詞とは裏腹に、武術や純粋な暴力によるヒオリとの比べ合いを求めているような顔つきをタイヨウが見せた。
その顔はずるいよ……抱きしめたくなるじゃん。
けど、その矛先の相手はわたしじゃなくて。
「武術のこと、もっと教えてよ」
まだシノハとデート中だったことを思い出したかのようにタイヨウの表情がやわらかくなる。
「護身術とかを身につけたいなら、そっちの専門家のほうが」
「日永くんからききたいの。今日みたいに」
伏し目がちになっているシノハのほうにタイヨウが視線を向ける。互いになにも言おうとしない。
「そんなに気をつかわなくても委員長とだったら、いつでもどこでも遊びにいくが」
「なんで?」
「なんでって……相手が委員長だからだな」
「わたしも月宮さんみたいにそろそろ名前で呼んでほしかったりする。家族とまでは言えないけど仲はいいでしょう」
そもそもわたし……なにかの委員会にすら入ってないから委員長じゃないし。とさらにシノハは唇をとがらせている。
「土守って美人会の委員長じゃなかったっけ」
「ぜんぜんちがうし。オーダーしたのは名前」
タイヨウが人差し指で自分の右頬をかいている。
「特別で、おさななじみの月宮さん以外の女の子の名前は呼ばないようにしているとか?」
「そんなポリシーみたいなものはないし。クモラの場合は小さい頃からの付き合いとかだけで呼びかたとかに特別な意味はないよ」
むしろクモラ以外の女の子の名前どころか名字でさえ呼んでいいのかわからないから……できるだけ呼ばないようにしたりニックネームをつけていたんだとタイヨウが説明した。
「相手が美人の……シノハだったらなおさらな」
「今までどおり、委員長でもゆるしてあげる」
「たすかるよ、委員長」
「さすがにはやくない!」
シノハの声にいつもの調子がもどったと感じてかタイヨウが肩の力を抜いている様子。
「ちなみにだけど円堂さんにニックネームをつけるとしたらどんな風にするの……同類とか闘女?」
「影水心かな。円堂さんは円堂さんが一番しっくりくるから呼ばないだろうけど」
「影水心。また武術の専門用語のひとつ?」
「そんなところだな」
隣を歩く、タイヨウが影水心のことについて話すのを待っているのであろうシノハだったが。
黒髪の彼はいつまで経っても影水心という言葉についての説明を、火色の髪の彼女にはしなかった。




