チャンピオン 4
「やはり、そうくるよな……日永」
竜巻蹴りの影響により上空へのぼっていくミカゲがつぶやき、にやついた。
屈強な彼がまぶたを開いて、自分のつくりだした暴風に巻きこまれているタイヨウの姿を見る。
「おどろかないんだな」
「さすがにわざとらしかったですし。エコーロケーションのようなことはできるんでしょうが」
「言葉はもう不要だろう」
「そうですね……勝たせてもらいます」
タイヨウの身体が暴風の影響でミカゲよりも上空にとばされていく。
透明なドームの天井を思いきり蹴り、黒髪の彼がまっすぐに屈強な彼のいるほうへと急降下する。
打ちおろしのストレートのようなタイヨウの左の拳と竜巻蹴りの回転による勢いを利用したミカゲの左の拳がぶつかる。
拳同士の衝突音に応援席にいた人間たちがどよめいた。月宮クモラ……彼女だけをのぞいて。
「がんばれ! 勝つんでしょう、タイヨウ!」
応援席からクモラの黄色い声がきこえてきてか、ミカゲが表情をほんの少しだけゆるめた。
「彼女のことか。かっこつけたい相手というのは」
表情をかたくしたままタイヨウは返事をしない。
「言葉は不要だったな……だが」
黒髪の彼がはじかれ、ふきとばされてしまう。
「もしも万全の状態であり、左右どちらの拳でくるのかわからなければ勝てていたかもしれ」
「おれが勝つのはここからですよ……金剛さん」
地面に着地をしたと同時に、タイヨウが一直線にミカゲのほうへと突進するようにジャンプした。
さきほどの拳同士の衝突により竜巻蹴りの回転の力がいちじるしく弱まっている。
「もしも金剛さんが万全の状態で完璧な竜巻蹴りをつかえていたら……もしも金剛さんがさっきの勝負をまともに受けてくれていなかったら」
歯を食いしばり、タイヨウが右腕を動かす。
黒髪の彼のさいごの希望であろう作戦に気づいたからか空中のミカゲが迎撃体勢をなんとかとる。
「もしも……負けたときにクモラがいっしょに泣くとか言ってなかったら。おれは負けていたかもしれません」
不完全ではあったが竜巻蹴りのレーザービームのような風圧がタイヨウの身体をつらぬく。
よろけ、気絶しそうになるもほとんどつかいものにならない右腕の黒髪の彼の渾身の一撃がミカゲの顔面にもろに入る。
体勢をくずし、受け身もとれずタイヨウとミカゲが勢いよく地面に落下した。
互いに即座に立ち上がり、相手のいる位置を確認すると……とても技とは言えない単純で純粋な暴力の応酬がくり返される。
応援席にいる人間たちも次第にエールを送らなくなり、拳や蹴りがぶつかる鈍い音だけが響く。
タイヨウとミカゲ……どちらにも決め手はなく、どちらも勝利する未来はたしかにあった。
たったひとつ、ふたりに決定的な差のようなものがあるとすれば。
武術のために費やしてきたわずかな時間の差。
わずかに勝っていたミカゲに対して……その差による勝利をつかめるであろうチャンスが訪れる。
ほんの一息。
ここまでの疲労……体力が底をついたんだという身体の知らせがタイヨウの口からもれた。
筋肉の弛緩か、すでに限界をこえてしまっていたのに動かしていたツケを払うときがきたのか黒髪の彼の右腕が垂れさがる。
のを見逃すことなく……ミカゲの左のまわしげりがタイヨウの顔面を横薙ぎにした。
「誇れ。日永……お前はおれがこれまで」
ミカゲが口を閉じる。
寒気? おれが? どうして? 確実に日永の顔をまわしげりが完璧に決まって。
「金剛さん。そういうやさしい言葉はおれのさいごの攻撃に耐えてから言ってください」
ミカゲの左のまわしげりによる勢いそのままに、タイヨウが身体全体を回転させていく。
「金剛さん……本当にありがとうございます」
屈強な彼が声をあげる。
「おそらく、この世で一番この技を愛しているからこそ。この世で一番この技の弱点を知っているからこそ……金剛さんの頭の中のさいごの切り札という選択肢から消えてしまっていた」
これからタイヨウがくりだそうとしている自分がもっとも愛した技を受けとめて耐えるため、ミカゲが顔面への防御を。
おれが……またこの技を殺してしまうのか?
「日永。お前はどこまで」
「すみませんね、天才で」
タイヨウの回転脚が、ミカゲのゆるんでしまったガードをつらぬき顔面に決まる。
なんとか着地をした黒髪の彼が……ふらつく屈強な彼をゆっくりと見上げた。
「さいごにきかせてくれ。なぜ……回転脚を選んだんだ?」
ミカゲの質問に対してか、タイヨウが声をだして笑い……右腕の痛みを感じたような動きを見せた。
「そんなの決まっているじゃないですか! かっこいいからですよ」
「ふっ……だよな!」
ゆるやかにまぶたを閉じ、満足そうな表情をしたミカゲが後ろ向きに倒れる。
タイヨウが雄叫びをあげた。
自分が試合の勝者であることをきかされ、ほっとしたのか黒髪の彼が前のめりに倒れてしまう。
「おつかれさま……ばかタイヨウ」
泥のように眠りについているのであろうタイヨウにクモラはそんなねぎらいの言葉をかけていた。




