ルールのない世界 3
「できなくはないと思うけど、ニセの委員長が逃げに徹するのならむずかしいかな」
そもそも人質交換自体、意味がなさそうな感じもするしな……とヒオリがつぶやく。
「直感ですか?」
「んーとね、わたしたちの実力をあるていど把握をしていたうえでニセの委員長が単独で話をしにきたから……そうかもしれないなーとか思っただけ」
「おれと円堂さんから逃げられる自信と実力があるだけでは」
「そのていどだと思われているなら勧誘なんてしてこないと思うけどな。ニセの委員長の住む世界は、かなり過酷っぽい感じのしゃべりかたしていたし」
なんにしても半殺しにして、つかまえて本人からきくほうがはやそうか。
タイヨウとの会話を終了させ、ヒオリがシノハの姿をした何者かに追いつき……並走する。
黒髪の彼もスピードを上げて、セミロングの黒髪の彼女の隣を走っている。
「このていどのスピードでは、やはりふりきれ」
「半殺しにされるか……逃げるのをやめて交渉するか……選ばせてあげる。どっちがいい?」
ヒオリの言葉をきいてか、シノハの姿をした何者かがスピードを落としていき立ちどまった。
タイヨウとセミロングの黒髪の彼女も立ちどまりシノハの姿をした何者かを挟み、簡単には逃げられないようにしている。
「目立ちたくないんでしょう……泣いても叫んでもだれもこないところに移動してあげる」
悪人のような表情のヒオリを先頭にシノハの姿をした何者か、タイヨウは廃ビルの屋上へと移動。
黒髪の彼が、廃ビルの屋上への唯一の出入り口をふさぐようにしていた。
シノハの姿をした何者かが前後に立つ、ヒオリとタイヨウを交互に見る。降参のつもりかバンザイをした。
「わたしにききたいこととは」
「勝手にしゃべるな。ニセモノちゃんはわたしたちの質問にこたえるのが仕事。簡単でしょう?」
シノハの姿をした何者かが首を縦に動かす。
タイヨウがなんとも言えない表情をする。
「目的は? 簡潔にこたえて」
「強い存在をあつめていますね。だからこそわたしよりも強いおふたりを勧誘しました」
「お世辞をどうも……なんで委員長さんを誘拐したの? 強制的にタイヨウくんの力を借りるため?」
ヒオリがシノハの姿をした何者かのほうへとちかづいている。お互いの攻撃がぎりぎり届かない位置でセミロングの黒髪の彼女が動きをとめた。
「日永タイヨウさんの力を借りるためという考えも多少ありますが。育成のほうが比率は高いですね」
シノハの姿をした何者かの言葉を、いまいち理解できてないからかヒオリは困惑している様子。
「育成……手取り足取り武術でも教えるつもり?」
「いいえ。魔術ですよ」
こちらの世界では魔法というほうがしっくりくるんでしょうか?
シノハの姿をした何者かが確認するように言う。
「委員長の姿に化けているのも……その魔術によるものということですか?」
「そのとおり。理解がはやくてたすかりますね」
自分の後ろのほうに立つ、タイヨウを見るようにふりむきながらシノハの姿をした何者かがほめる。
「その魔術をつかえるようにするための育成のほうが楽なのでは……ピンキリはあれど武術家を暴力で従わせるようなことをするよりも」
タイヨウの指摘をきいたからかシノハの姿をした何者かがくすりと笑う。
「今……日永タイヨウさんの言ったとおりなんですけれど。こちらもあなたたち人間の成長スピードのすさまじさを実感するまではその考えに至りませんでした」
「作戦を変更したってこと?」
ヒオリの質問にシノハの姿をした何者かが肯定をするようにうなずく。
「信じてもらえるかはわかりませんが……こちらはもうあなたたちに手をだすつもりはないんです」
「そっちにはなくてもこっちにはあります。委員長のほかにも育成のための人間を確保していれば」
「鋭い。日永タイヨウさん、あなたの大切なおさななじみの月宮クモラさんを誘拐していたことまでも筒抜けとは」
ざわめく。
あきらかに目つきの変わったタイヨウの雰囲気に対してか。
ヒオリはうれしそうに、にやつき。
シノハの姿をした何者かは目を見開く。
一瞬で間合いをつめ、容赦なくシノハの姿をした何者かの腹に風穴を開けんばかりのタイヨウの殺気のこもった拳を……ヒオリが片手で受けとめる。
骨の折れる音が響くも、黒髪の彼は動揺せず。
セミロングの黒髪の彼女は自分の折れている左腕にこわれたおもちゃを見るような視線を向けた。
「どけ……邪魔するな」
「それはできないな。今のブチギレているタイヨウくんとデートしたくなっちゃったんだもん」
わたしとのデートをたのしもうよ、クモラちゃんや委員長さんのことなんか忘れてさ。
そう口にしているヒオリの高速の蹴りをタイヨウが完全に左腕でガードするも鈍い音が響く。
黒髪の彼がいらだたしそうに舌打ちをした。
「邪魔をするつもりなんですね」
「デートだってば。ほらほら、はやくわたしを殺さないとニセの委員長に逃げられちゃうよ」
タイヨウがヒオリを避けてシノハの姿をした何者かにちかづこうとするも、ことごとくセミロングの黒髪の彼女に妨害をされてしまう。
しばらくするとタイヨウはシノハの姿をした何者かにちかづこうとするのをやめ。
怒りに満ちた目つきをヒオリに。黒髪の彼の殺気を感じ取ってか、セミロングの黒髪の彼女が全身をふるわせている。
「やっとこさデートしてくれるつもりになってくれたんだね。うれしいよ……いっぱいたのしもうね」
ヒオリの目つきも鋭いものへと変わった。
顔面に蹴りが入るもヒオリはひるまず、タイヨウのみぞおちに拳をめりこませる。
シノハの姿をした何者かがいることもかまわず。
黒髪の彼とセミロングの黒髪の彼女は全力で殺すつもりで鍛えあげられた武術の技を互いの身体に。
「まさか、手に負えないと思っていたほうの彼女が協力してくれるとはわからないものですね」
シノハの姿をした何者かが、廃ビルに設置されている貯水タンクの上にとびのる。
いつでもその場から動ける体勢を維持したままでシノハの姿をした何者かがタイヨウとヒオリの殺し合いにちかい死闘を見ていた。
「五分……左腕が完全に折れている円堂ヒオリさんのほうがやや不利なはずなんですが。アドレナリンとやらで痛みをとばしているのでしょうかね」
シノハの姿をした何者かが、うっとりとした表情をつくる。手の甲に無数の血管のようなものが浮き出てきていた。
「おっと……悪いクセですね。今はすぐにでもここから離れて」
耳をぴくつかせ、シノハの姿をした何者かが空中にとつぜん現れた黒く丸い空間のようなところからシャボンフォンをとりだす。
「どうかされましたか」
「お前が黒幕か?」
シャボンフォン越しにきこえてきた声が知らないだれかのものだったからか、シノハの姿をした何者かがだまってしまう。




