文明の利器は偉大なり
大体サブタイ通りの内容。短いけど←
あ、前回の話の最後らへんを加筆修正したのでフレアが投げ込まれてます
2階層目は今まで居た1階層と違い、明かりが一切無かった。
室内に光源が無いが故に完全なる真っ暗である事と、近付いて来る複数の足音に気付いた龍兵は2階層目に降りる前に投げ込んでいたフレアを拾い上げると、ソレを足音のする方へ向けてポイッと投げた。
投げられたフレアがクルクルと回ると共に、勢い良く迸る赤い炎が辺りを照らしながら放物線を描いていく。
少しして、通路の奥から此方に向かって近付いて来る足音の主とも言える3匹のオーク達がフレアによって照らし出された。
3匹のオークが突然やって来たフレアの閃光で目が眩んでいると、既にBREN-2を構えていた龍兵は静かに優しく、ゆっくりと引金を引いた。
小枝がポキっと折れる感触と共に刹那の間に連続した3発の静かな銃声が響けば、3匹のオークの眉間が射抜かれていく。
3匹のオークを一瞬の間に射殺した龍兵はその場で静かに伏せると、BREN-2を構え直した。
伏せ撃ちの姿勢でそのまま暫く息を潜めて待つと、仄かながらも未だに燃えているフレアの明かりと地面に転がる3匹のオークの死体に釣られ、4匹のゴブリンがやって来た。
ゴブリン達がオークに群がり、死体から武器を持ち去る様を見詰めていた龍兵は躊躇い無く引金を引いた。
再びくぐもった銃声が響く度、ゴブリンの頭が弾けて逝く。即死だ。
そうして4度の銃声と共に4匹のゴブリンが死ぬと、フレアの炎も消えて完全なる暗闇が訪れた。
暗闇の中でも龍兵は平然とした様子でBREN-2の上部に取り付けられたAN/PEQ16レーザーユニットを操作していく。
操作してIRイルミネーターを起動させて肉眼では見えぬ明かりを灯すと、今度はIRレーザーを照射される様にした。
そして、FASTヘルメットのマウントに上げられていたENVG-Bを目にセットして電源を入れると、ゆっくりと静かに立ち上がった龍兵は足音を一切立てる事無く歩みを進めるのであった。
暗視ゴーグルと言う文明の利器よって、明かりが皆無の真っ暗の中であっても龍兵はクリアな視界を確保出来ていた。
そんな真っ暗闇の中であっても見えてるかの如く、武器を携えて自分を殺さんと武器を手に向かって来る2匹のオークの姿を捉えれば、龍兵は瞬時にローレディにしていたBREN-2を左に傾けながら持ち上げて構えた。
構えてから直ぐにAN/PEQ16から照射され続けていたIRレーザーがオークの額に合えば、龍兵は引金を引いた。
サプレッサー越しにくぐもった銃声が響くと共に右肩にマイルドな反動が伝われば、ENVG-B越しに見えるオークは眉間を撃ち抜かれてドサッと倒れる。
地面に転がり、身体をビクンビクンとさせるだけで動かなくなるオークを他所に龍兵は既に2匹目の眉間へレーザーを合わせていた。
再び引金を優しく引き絞れば、2匹目もくぐもった銃声と共に眉間を撃ち抜かれ、糸の切れた操り人形の如くその場に崩れ落ちる。
そんな2匹のオークを殺すと、その後ろの奥に龍兵へ向けて携えていた弓に矢を番えようとする1匹のオークの姿があった。
其れを視認すると、瞬時に矢を弦を番えて強く引き絞ろうとするオークよりも早くレーザーを合わせていた龍兵は優しく引金を引いていた。
くぐもった銃声と共に5.56ミリNATO弾がオークの眉間を穿てば、分厚い皮膚が頭蓋骨が貫かれると共に脳を完全に破壊されたオークはドサッとその場に崩れ落ちてピクリとも動かなくなる。
そうして僅かな間に3匹のオークを射殺し終えると、龍兵は前方を注意深く見詰めると共に耳を澄ませていく。
敵の姿が無く、足音等もしない事を確認した龍兵は後ろを一瞥して敵の姿が無い事を確認してから再び歩みを進めた。
一切の足音を立てる事無く真っ暗闇の中を黙々と進んでいく中。
日本に帰還してから1年ぶりの戦闘に龍兵は退屈が解消された事に心の底から喜んでいた。
やっぱ、敵って存在を殺すのは最高に愉しいわ……
幸先の良いスタートを切れて、順調にスムーズに物事が進んでるから尚更に愉しくなって来た。
物事が上手く進み、成功を重ねれば、楽しくなるのは当然と言える。
ゲームだってそうだ。
負けてるより、勝ってる方が愉しく感じるのは人間には当たり前の事だろう?
それ等と同じ様に龍兵も愉しい気分になっていた。
だが、そんな歓喜の中にあっても龍兵は熟練のプロであるが故に一切の油断をする事無く用心深く警戒しながら進み、接敵をすれば敵に気付かれるよりも素早く。瞬時かつ正確に銃口を向け、淡々と引金を引いて一切の無駄弾を出す事無く射殺していく。
そんな龍兵の姿は一方的な殺戮を行う為に創り上げられた殺戮兵器と言えた。
しかし、龍兵は今の己に不満を覚えていた。
前と比べて遅くなってる。
1年もブランクが有るんだから鈍くなるのは当然だろうけど、ソレでも遅過ぎる。
帰還してからの約1年もの間。享受して来た平和と平穏に満ちた生活で腕が鈍ってしまった事に対し、龍兵は大いに不満を感じていた。
今の時点でも龍兵は一瞬とも言える程に素早く、更には正確に接敵したオーク達の眉間に弾をブチ込んで居る。
その動きは誰もが文句を付けられない程に素晴らしいモノと言えた。
そんな凄い腕前を発揮しているにも関わらず、龍兵は自分の動きが遅く感じると共に腕が落ちたと、ショックを受けてしまう。
それ故に……
こりゃ、訓練して腕を戻さねぇとなんねぇな……
龍兵は訓練を積み直し、1年の平和で平穏に満ちた生活を享受して出来上がった"ツケ"を精算し、現役時代の腕を取り戻す事を誓いながら歩みを進めて行く。
途中、何度か接敵しながらも其れ等を全て処理して順調に進んで行く内に、大きく広い部屋とも言える空間が見えて来た。
足を止めた龍兵は後ろを一瞥して背後からの奇襲が無い事を確認すると、その場に左膝を立てる形でしゃがむ。
それからBREN-2の銃口を広間となってる空間へと向けると、IR《赤外線》イルミネーターで照らして空間内を見詰める。
視線の先。距離にして約20メートルほどの所に暗闇の中で人の形をしながらも人ではない大きな生物が佇んで居るのを視認すると、龍兵は左手を静かにゆっくりと突き出して親指を立てた。
立てた親指を一種の物差しにして生物の身長を大まかながらに割り出した龍兵はゲンナリとした様子でボヤきを漏らしてしまう。
「マジかよ……アイツ、身長が3メートルくらいある」
視線の先で佇む存在の身長が3メートルもある事にボヤいた龍兵は左手を下ろすと、その存在を観察していく。
背は3メートルほど。
体型は脂肪たっぷりなピザデブ。
手には何かデカい棍棒を持ち、纏ってるモノは腰に巻かれたボロい布だけ。
その存在を観察していく龍兵はある事に気付いた。
今気付いたけど、あのデカブツは俺に気付いてないのか?
気付いてたら、俺の方を見てる筈。
更に言うなら、コイツも赤外線が見えない生き物と判断しても良さそうだな……
赤外線が見えてんなら、俺に気付かない訳が無いだろうし……
「それにしても滅茶苦茶不細工なツラをしてやがんなぁ、あのデカブツ……」
"デカブツ"の顔を見た後に呆れ混じりに漏らした龍兵は「此処は安全第一で行こう」そう呟くと、ゆっくりと音を立てぬ様に立ち上がって一歩ずつ静かに後ろへ退いていく。
数歩ほど後退りをした龍兵は踵を返して来た道に向くと、そのまま静かに進んだ。
そうして件の醜い"デカブツ"から距離にして30メートルほど離れた所まで戻ると、龍兵は其処で立ち止まり、前方と後方を一瞥して敵の姿が無い事を確認していく。
用心深く見廻して敵の姿が完全に無い事を確認した龍兵は"デカブツ"の方を向くと、その場で左膝を立てる形でしゃがんだ。
それから両手に持っていたBREN-2を下ろした龍兵はポケットから耳栓を出すと、両の耳に詰め込み始めた。
両の耳に耳栓を詰めて鼓膜の保護を済ませると、龍兵はある物を召喚する。
召喚されたのは後ろにラッパ状の尾を持った太く長い筒であった。
そんな太く長い筒を手にした龍兵は表情を少しだけ愉快そうにすると、筒に記されたイラスト図を見てから筒に取り付けられた前後の照準器を展開し、後ろに着いたラッパ状の砲尾近くにある安全ピンを抜いた。
それから龍兵は後ろを一瞥してから右肩に載せる様にして筒……AT4CSと呼ばれる使い捨て式の対戦車火器を構えると、右脇にあるコッキングレバーを所定の位置に動かし、発射準備を整えた。
そして、AT4CSの前後に備え付けられた照準器を用いて照準を件のデカブツに合わせ終えた龍兵はセイフティを解除し、引金を引いた。
耳栓をしてなければ難聴になる程に大きな爆音と共にAT4CSの砲口から、84ミリ対戦車HEAT弾が目にも留まらぬ速さで飛んでいく。
84ミリ対戦車HEAT弾は醜い"デカブツ"の腹へ吸い込まれる様に命中し、爆発を起こした。
「ギャア"ア"ア"ア"ァ"ァァ!!?」
"デカブツ"がフロア中に響かんばかりの大きく耳障りな悲鳴を挙げる。
そんな悲鳴を耳栓越しに聞くと、龍兵は「2発くらい喰らわした方が良さそうだな」そう独りごちてAT4CSを2本召喚した。
素早く2本のAT4CSを撃てる様にした龍兵は、"デカブツ"に対して84ミリ対戦車HEAT弾をブチ込んでいく。
1発。また1発と、龍兵が2発の84ミリ対戦車HEAT弾を宣言通りにブチ込めば、デカブツから悲鳴が上がらなくなる。
撃ち殻と化したAT4CSを棄てた龍兵は後ろを一瞥して後方からの奇襲を警戒すると、両の耳に詰め込んでいた耳栓を外して耳を澄ませる。
両の鼓膜に音は無かった。
静寂だけがあった。
そんな鼓膜からの報告に龍兵はBREN-2を携えて立ち上がると、ゆっくりと音を一切立てる事無く歩みを進めて行く。
歩みを進め、段々と"デカブツ"へと接近する。
歩みを進める度に肉と皮膚。血が焼けた臭い。
そして、腸から零れ出た糞便と破れた膀胱から流れ出る小便等も入り混じる強烈な悪臭が強くなっていく。
その悪臭は龍兵にとって、嗅ぎ慣れた臭いであった。
それ故に……
爆発した炸薬の臭いに混じる焼けた血肉と臓物。
それに零れ出る糞便と小便。
1年前からずっと嗅いでなかった戦場の臭い。
酷い悪臭だけど、懐かしさを覚えるな……
1年ぶりに嗅ぐ入り混じった悪臭に龍兵は懐かしさを覚えてしまう。
そんな悪臭が一番強くなると、デカブツだった焼け焦げた肉塊が目の前に露わとなる。
3発の84ミリ対戦車HEAT弾によって黒焦げの肉の塊にジョブチェンジした"デカブツ"に龍兵は嗤い、愉快そうに宣った。
「流石は対戦車HEAT弾だ。不細工な"デカブツ"を見事に黒焦げの臭い肉塊にジョブチェンジさせてくれた……」
醜い"デカブツ"。もとい、トロルだった黒焦げの臭いの死体に向けて宣った龍兵は「まぁ、戦車をブチ殺す武器でナマモノを殺せないって方が滅多に無いわな」と、独り納得した様子で締め括る様にボヤいた。
それから先へ進み、その部屋を後にした龍兵は更に先へと進んで行くのであった。
基本的に安全第一なので出来るなら距離を置いて高火力な攻撃をブチ込めば良いだけの話っつう身も蓋も無ければ、華やかさも無い無粋極まりない回である←




