断る理由が見当たらない
すまぬ…閑話的な会話パートな感じなので短い
「すぅぅ……ふぅぅ……本当にアンタだった事に俺は驚いてるんだが……マジでアンタなのか?」
ボルトカッターで救出対象を縛る拘束具のロックする南京錠をブチンブチンと切断しながら紫煙と共に龍兵が問えば、依頼人の彼であるミンは肯定し、尋ねる。
「正真正銘、私だ。君は何時頃、私だと気付いた?」
「最初の電話。1年ぶりでも忘れようが無い聞き覚えのある声……発音とイントネーションもこれ以上無いくらいソックリと来て、嘘だろ?ってなった」
龍兵は最初の電話で依頼人の彼が付き合いの長い武器商人である事に気付いた。そう返すと、作業の手を進めながら更に言葉を続けていく。
「で、何度か電話して確信を得た。まぁ、アンタは隠す気が毛頭無かったみたいだけどな……」
そう続けた龍兵は作業の手を止めると、親愛なるクソッタレの武器商人に問うた。
「俺も聴いて良いか?」
「構わんよ」
許しが下れば、龍兵は早速問うた。
「この茶番はアンタの仕込みか?」
今回の茶番と言える勇者召喚を仕組んだのか?龍兵から問われると、ミンは正直に答えた。
「信じられないかもしれないが、私は召喚には一切関与してない。寧ろ、運命の悪戯と言う奴に心の底から驚いたくらいだ」
「………マジみたいだな。なら、ついでにもう1つ良いか?」
ミンが正直に答えている事を長い付き合いから察した龍兵は詰問する事無く、次の質問を投げた。
「アンタは妙に準備が良い。いや、寧ろ良過ぎると言っても良いくらいだな……この件を何時から準備していた?」
龍兵からの2つ目の問いに対し、ミンはコレも正直に答えた。
「ずっと前から計画を立て、準備を進めていた。それこそ、後は実行に必要な人材を確保すれば良い程にだ……」
「そうか」
その答えに龍兵は興味が失せた様に返せば、今度はミンが尋ねる。
「他にも聞きたい事は無いのかね?」
「無い。と、思ったけどあったわ」
気が変わった様に龍兵が言えば、ミンは沈黙と共に続きを促した。
そんなミンに龍兵は真剣な面持ちと共に尋ねる。
「仕事を完了させれば、俺は日本に帰れる。その上、アンタから札束を巻き上げる事も出来る……その認識で問題無いよな?」
予想の斜め上を行く質問にミンは肩透かしを食らうと、呆れながらも肯定する。
「ソレで問題無い。問題無いが、他に聞くべき事があるんじゃないか?と私は思うんだが?」
その問いに龍兵は心の底から興味無さそうに答えた。
「アンタが何者か?って質問する気は無い。興味無いし、俺にはどうでも良い事だからな……後、この救出対象とアンタの関係に関しても、俺にはどうでも良い話でしかない」
其処で言葉を切った龍兵は一息入れると、更に言葉を続ける。
「俺にとって重要なのは、仕事を完了させれば報酬がキチンと支払われるのか?コレだけに尽きる……それと、俺に殺させたい標的を初めとした仕事に関する情報だな。ほら、仕事するにしても何も知らんかったら、進め様が無いだろ?」
裏社会にも居たからこそ、龍兵はミンの深い所を知る気は毛頭無かった。
『知らぬが仏』
『良い垣根が良き隣人関係を作る』
そうした諺を己の金言とし、無言で実行するかの様に振る舞う龍兵にミンは益々呆れてしまう。
「君は相変わらずだな……」
「すぅぅ……ふぅぅ……詮索屋は嫌われるし、殺されても文句言えねぇからな。兎に角だ。俺の仕事は半分終わった……その認識で良いか?」
自分に呆れるミンに龍兵が紫煙と共に問うと、ミンは否定で返した。
「残念だが、未だ半分も終わってない」
思わぬ否定に龍兵は首を傾げてしまう。
「どう言う事だ?こうして救出対象を救出したんだから、次は標的を殺れば終わりだろ?」
「その救出対象は完璧な状態じゃない」
ミンの答えに龍兵は益々首を傾げると、急いで救出対象の頭全体を覆っていた革製の全頭マスクを固定する首輪を外して全頭マスクを剥ぎ取り、露わとなった救出対象の顔に嵌められた口を戒める猿轡と目隠しを外していく。
そうして救出対象の素顔が完全に露わにして救出対象本人の顔である事を確認すれば、龍兵はミンに思った事をそのまま口にする。
「意味が解らん。見ろ、このガキの顔はアンタが送った画像通りの顔だ。俺は救出対象をこうして確保し、アンタに引き渡し……」
其処で言葉を止めた龍兵は何かに気付いた様子で問うた。
「他にも救出する対象が居るのか?」
「コレに関しては実にややこしい話でね……一先ず、君はシャワーを浴びて着替え給え。臭いが酷過ぎる」
ミンに言われた龍兵は其処で漸く自分の有様に気付いた。
全身に浴びた"的"の血が茶色く変色して戦闘服とプレートキャリア等を染め尽くし、臭いも濃厚な硝煙と鉄錆に汗等が混じった酷い臭いを自分がさせて居る事を……
そんな龍兵にミンは言う。
「シャワーを浴びて、一休みしたら食事をしよう。それから、仕事の話だ」
呑気に言うミンに龍兵は訝しみながら問うた。
「そんな呑気にして良いのか?」
龍兵の問いにミンは呑気に返した。
「君が予定よりも大幅に速く事を済ませてくれたから時間に大きな余裕が出来てるんだ。それに、向こうも向こうで今後の対応をどうするか?頭を悩ませないとならない状態だ。だったら、その間の時間を有意義に利用して休む方が建設的だろう?」
呑気にしながらも理路整然と理由をミンが語れば「なら、御言葉に甘えさせて貰うとしよう」そう返した龍兵はフィルター近くまで燃えた煙草をポイ捨てすると、シャワーを浴びる前に煙草を吸う事にした。
「シャワーの前にもう1本吸って良いか?」
「構わんよ」
ミンが許すと、龍兵はさも当然の様に強請る。
「偶には別の銘柄が吸いたいから、アンタのをくれ」
そんな龍兵にミンは「貰い煙草は貧乏になるから辞めた方が良い」そう返しながらも、懐から自分の愛飲するシガリロの収まった銀色のケースを出し、蓋を開けて差し出した。
ミンに差し出されたケースからシガリロを1本抜き取った龍兵がソレを咥えると、ミンは杉マッチをシュッとさせてシガリロに火を点していく。
「すぅぅ……ふぅぅ……あんがとよ」
龍兵が紫煙と共に感謝すれば、杉マッチの火を消したミンは白々しい。そう言わんばかりに龍兵に問う。
「君の事だから私が偽者なんじゃないか?そう思って、カマ掛けしたつもりかな?」
そう問うて来たが、ミンは不快な様子は一切見せなかった。
そんなミンに龍兵は呑気にシガリロを燻らせながら返す。
「すぅぅ……ふぅぅ……いや、単に前からアンタの奴を吸ってみたかっただけだ」
呑気な様子でいけしゃあしゃあと宣う龍兵にミンはまたも呆れると、自分が龍兵の知るミン本人である事を示す為に告げる。
「よく言う。私は君に何度も私のシガリロを何度も与えた覚えがあるぞ?と、言うか、君と最後に会った1年前にも私は君にシガリロ与えただろうに……」
「そういやそうだったな……」
呑気な表情と言う仮面と共に龍兵が返せば、ミンは真剣な面持ちで改めて告げる。
「君からしたら、私は得体の知れない雇い主でスポンサーだろう。だが、私は正真正銘、君の知るクソッタレな武器商人だよ」
ミンが自分を龍兵の知る武器商人である事を改めて告げれば、龍兵はシガリロを燻らせながら「そうみたいだな」と、呑気に返した。
そんな龍兵に対し、不快な気持ちを一切見せる事無くミンは言う。
「私が君と比較的付き合いの長い武器商人とは異なる存在。そう疑いたくなる気持ちは解る。寧ろ、疑わない方が愚かだ。君と私の居る世界であれば尚の事、疑わない方がどうかしてる」
呑気にシガリロを燻らせる龍兵が内心で自分を疑い、警戒している事を当然の事。そう言い切ったミンは更に続ける。
「だから、友よ……然りげ無く左手で握ってる物騒な物から手を離してくれると助かる」
自分が何時でも殺れる様。左手で握っていたショートダガーから手を離す様に言われた龍兵は素直に従い、手を離した。
「何だ。御見通しかよ……」
「君との付き合いは何だかんだ10年近くと長い。それぐらいは解って当然だろう?」
龍兵は目の前の人物が慣れ親しんだ付き合いの長い武器商人である事を改めて認めると、問う。
「すぅぅ……ふぅぅ……なら、改めて確認させてくれ」
「良いとも」
「俺は仕事をすれば報酬を貰えて、帰る事も出来る。その認識で良いんだな?」
「あぁ、そうだ。今までと変わらない」
自分の問いに対し、ミンが正直に本心から肯定すれば、龍兵は更に尋ねる。
「俺の仕事で俺やクラスの連中を召喚したクソ野郎に対してカマせるか?」
「そのクソ野郎が、君に始末して欲しい標的だ」
その問いに依頼人としてミンが肯定すれば、龍兵は満面の笑みと共に告げる。
「アンタからカネを巻き上げる事が出来て、クソ野郎も殺せるってんなら、断る理由が何処にも見当たらない」
ミンの依頼を完璧にやる気になった。
そんな龍兵の答えにミンも満面の笑みを浮かべるのであった。
「君ならそう言ってくれると思った」
付き合いがそれなりに長くて親しい関係にある武器商人が本当に本人なのか?
本人じゃないにしてもどれぐらいトレースしてるのか?
そう言うのを確認する為に龍兵は呑気な表情って仮面とも言えるポーカーフェイスを保ち、場合によっては乱暴な手段を取る為にナイフに手を掛けていた
裏社会にも居た奴にすれば当然の警戒だろ?
で、ミンもソレを承知してるから不快な様子を一切見せなかった。
あ、ミンは龍兵の知る武器商人本人だよ……実は人間じゃないだけで←
後、龍兵の言葉も全て本心よ
目の前の人物が自分の友でもあるクソッタレの武器商人でも、じゃなかろうと気にしないってのも本心だし、この仕事でカネを巻き上げられる上に帰る事も出来て、召喚したクソ野郎にカマせるんなら断る理由が見当たらないってのも…全て本心からの言葉
そんな龍兵が1年前と変わらないからミンは嬉しくも思ってる…自分の知る限り最高の腕を持ったロクデナシをこうして使えるから余計に




