二度目の異世界は勇者召喚でファンタジーでした
何で、また異世界に居るんだ俺は?
蒼木 龍兵は現状を把握出来ずに困惑するクラスメイト達と同様に困惑しながらも、現状の把握の為に然りげ無く周囲を見廻していく。
此処は広い室内。大理石の削り出しだろう壁際には警備を担う甲冑に身を包んだ兵士達。
兵士達は判を押した様に全員が全員、同じ造りの磨き抜かれた甲冑に身を包んで紋章の入ったお高そうな前掛けをして、ハルバートを携えてる。
目付きも皆が皆、気合いの入った鋭いモノ。
どう見ても、精鋭の中の精鋭。
王に仕える近衛兵隊と見るべきだろうな……
今居る部屋を警備し、守護する兵士達を僅かな間にした観察から精鋭部隊の代名詞とも言える近衛兵隊であろう。そう判断すると、龍兵は今は何もせずに大人しくする事を選ぶと共に観察を続けていく。
俺達と相対している豪奢なローブと金の刺繍が施されたストラを纏った金の刺繍が至る所に入った法衣姿の僧侶らしき連中は、宗教関係者か?
中央に立つ一番の歳上で腹が最も黒そうな爺さんが、此処で一番偉い人物と見た方が良さそうだな。
王冠を被った人物が居ない以上は……
ほんの僅かな時間から其処まで観察すると、龍兵は周りに合わせる様にして困惑した表情を浮かべ、状況が進むのを待った。
状況は直ぐに進み始めた。
「よくぞ我等の祷りに応え、お越し下さいました勇者様!そして、御同胞の皆様!」
龍兵がこの部屋に居る人物の中で一番偉い。そう当たりを付けた老人は歳に見合わず矍鑠とした声を張り上げ、感激に満ちた歓迎の意を示す。
それから程なくして、老人は先程と同じ様に矍鑠とした声で自己紹介をして来た。
「私は、聖神教会にて教皇に就かせて戴いておりますリシュリュー・アウグレベウス……以後、宜しく御頼み申し上げます勇者様」
老人。
もとい、リシュリュー・アウグレベウスが己が教皇である事をアッサリ明かすと、龍兵は周りに合わせた偽りの困惑というポーカーフェイスを保ちながらも強く驚いてしまった。
教皇って事は時代如何では、その世界の特定地域に於ける権力者達のトップじゃねぇか!!?
ポーカーフェイスを保ちながらも驚いた龍兵は直ぐに心の中でゲンナリしてしまう。
そんなトップが自ら勇者召喚の儀式に足を運んで、勇者召喚に立ち会うなんて嫌な予感しかしない。
それどころか、宗教戦争と民族紛争を悪魔合体させたような戦場に俺達を駆り出そうとしてる可能性しか出て来ねぇ……
今の時点で予想される可能性の1つが強くゲンナリとしながら思い浮かべば、龍兵は思わずボヤいてしまう。
「最悪だ」
「何が最悪なんだ?」
そう尋ねて来たのは恰幅の良い。
悪く言えば、肥満体型と言える幼稚園からの腐れ縁の親友たる青年……薬師丸 優であった。
そんな彼が目で「異世界に勇者として召喚された事以上に最悪な事があるのか?」そう訴えながら尋ねれば、龍兵は尋ね返す様にして小声で答える。
「民族と宗教が絡んだ戦争に付き物なのは何だ?」
「そりゃ、レイプと虐殺……」
ミリタリー関連の知識も齧っているオタクであった優は、さも当然の様に答えた。
同時に自ら答えた事で顔を青褪めさせながら龍兵の言う最悪に対し、嫌でも納得するしかなかった。
「最悪過ぎる。下手したら、コズミック・イラめいた戦争に勇者として参戦するって事だよな?」
「そう言う事だ」と、龍兵が優の言葉を肯定すると、教皇……リシュリュー・アウグレベウスの言葉で移動する事となった。
兵達に護衛されながらリシュリュー・アウグレベウスに導かれるまま、龍兵と優はクラスメイト達と共に歩みを進めて行く。
そんな中で優は龍兵にボヤく様にして言う。
「ふと思ったんだけどさ、ラノベとかも含めて勇者召喚ってガチャだよな」
皮肉にも似た優の言葉に龍兵も同意する様に返した。
「そうなると、連中は10連3回と単発を3回やった事になるな」
皮肉に皮肉で返した龍兵に優は他人事の様に言う。
「今日、休んでる奴が居なければそうなるよなぁ……そうなると、ガチャする為に支払った代償って何になるんだろうな?」
ふと浮かんだ疑問を優がそのまま口にすれば、龍兵は「そういうの考えるのは辞めといた方が良いぞ」そう返すと、言葉を更に続けてその理由を述べた。
「俺達を召喚する為に連中が神か何かに生贄を差し出して代償とした。なんて考えたら、罪悪感やら何やらで生きるのがしんどくなる」
龍兵の言葉を聞くと、優は制服のポケットからスマートフォンを出しながら納得する。
「そうだな……コレに関して考えるのは辞めとくわ」
そう納得した優はスマートフォンの脇のボタンを押して画面を光らせる。
画面の右上隅に圏外の2文字が出ているのを見ると、優は呆れ混じりに「マジで地球の外っぽいな」そうボヤきながらスマートフォンをしまった。
そんな優に龍兵は更に別の仮説を告げる。
「それだけじゃないぞ。宗教組織のトップが態々、自ら召喚に顔を出してる。いきなり武器持たせて、実戦投入は流石に無い。そう思いたいが、勇者召喚なんてガチャに手を出す程に切羽詰まった人間は何をヤラかすか?解ったもんじゃない……」
龍兵の仮説に優は流石に無いだろ。と、そう言わんばかりに否定した。
「流石にソレは無いだろ?ラノベやアニメだって、実戦投入前に訓練してんだから……」
否定したい気持ちを自身もあるが故に龍兵は「俺だってそう思いたい」そう返すと、更に続けて言う。
「人間、俺含めて考える"アホ"だ。特にケツに火が点って切羽詰まってる奴は尚更アホになる」
「何が言いたいんだよ?」
「考えてもみろ。連中がしてる戦争。それに勝っているんなら、勇者召喚と言う"ガチャ"なんてモノに手を出す理由が無いだろ?」
龍兵が根拠を述べれば、優は渋い顔を浮かべて納得してしまう。
「言われてみれば確かに」
「つまり、連中にとって戦況は悪くなってる。それこそ勇者召喚って"ガチャ"に手を出して、一発逆転のサヨナラ満塁ホームランを狙いたくなる程に……そんな切羽詰まった御偉いさんが、俺達をこのまま直ぐに戦場へ送ろうとしても俺は驚かねぇよ」
そう締め括った龍兵に優は恐る恐る尋ねる。
「なら、戦場に送られた時に敵軍に降伏すれば助かったりしないか?」
尋ねられた龍兵は吐き捨てる様に否定すると、捲し立てる様にして更に続けて言った。
「降伏?そんなんしたら、即殺されてもおかしくねぇぞ。何なら、殺される前に熱烈な歓迎を受けて惨たらしい状態されるだろうぜ」
「そ、それこそ流石に無いだろ?」
龍兵の言葉を否定した優であったが、何故か己の言葉に対して自信が無く、不安が丸わかりな様子であった。
そんな優に龍兵は言う。
「宗教と民族の両方が絡んだ戦争で捕虜としてのマトモな待遇は期待出来ない。寧ろ、する方がバカまであるからな?」
「どう言う事だよ?」
根拠を問われた龍兵は確認の為に前置きする。
「俺が異世界に居た事があるって話した事があるよな?」
「あぁ、そう言えば異世界で軍人してたり、傭兵してたって言ってたな……それがどうしたんだよ?」
その前置きに優が首を傾げると、龍兵は語る。
「傭兵として活動していた頃な、民族と宗教……その両方が大きく絡んだ戦場で戦ったんだ。で、正規軍の友軍兵士や将校達が捕虜や女子供含めた民間人に対し、惨たらしい非人道的極まる所業……ブッチャけると、レイプと虐殺だな。それを何度も目の当たりにした。もち、敵軍も同じ事をしてた」
「コレが歴史の授業で聞いた民族浄化なんだなって……他人事の様に思ったよ」そう締め括った龍兵に対し、優は言葉を失って顔を益々青褪めさせてしまう。
そんな優へ龍兵は更に続けた。
「因みにだが、傭兵も傭兵で捕虜になったら熱烈な歓迎受けるからな?俺が見た事あるので言うと、"輪切りのソルベ"や両の手脚を切り落とされて目玉だけ残してそれ以外の顔のパーツを削ぎ落とされたのがあったり、全身の皮を剥がされて腐乱した奴とか……あ、生きて帰れた奴も居たぞ。手足の指が全部無くなって、耳と鼻が削がれてたけど。まぁ、兎に角だ。バリエーション豊富な歓迎を受けるのは確かだな」
「それ以来、俺は"自分用"の弾も持つようにしてる」そう締め括った龍兵に対し、優は益々顔を青褪めさせながら尋ねた。
「今も自分用の弾ってのを持ってるのか?」
龍兵は優の問いの意味を察していた。
だからこそ、龍兵は1つだけ伏せた上で正直に答えた。
「持ってる訳無いだろ。普通の生活に自分用の弾は必要無いんだから……」
実際は御守り代わりに向こうで長年愛用していた大振りのファイティングナイフを1振りと、小振りのショートダガーを1振り。その二刀を制服の内側の忍ばせている。
龍兵がさも当然の様に返せば、優は納得するしかなかった。
「そうだよな。流石に銃なんて持ってないよな……」
残念そうにする優に対し、龍兵は追い討ちを掛ける様にしてまたも吐き捨てた。
「つーか、この状況じゃ武器があっても無理だ」
「何でだよ?」
優が首を傾げれば、龍兵はその理由を答えていく。
「第一に数が多過ぎる。第二に此処から逃げ出す事が出来たとしても、何処へ逃げるんだ?って問題もある……逃げ道も逃げる当ても無いのに脱獄したって直ぐに取っ捕まるぞ」
龍兵の言う通りであった。
周囲は精鋭とも言える兵達が警護しており、よしんば精鋭たる兵達を皆殺しに出来たとしても逃げる先が無い。
その為に暴れても上手く行く目算が、どう考えを巡らせても浮かばなかった。
それ故に……
「今は大人しく従うしか無い。つーか、下手したら昔の時代のカトリックみたいな連中を敵に回して勝ち目も当ても一切無いお尋ね者としての日々が始まるから、冗談抜きにそう言うのはマジで辞めた方が良い」
言葉は冷静であったが、龍兵は心の底から不愉快そうにしながら理路整然とバカはヤラない方が良い。と、優を窘めるのであった。
そんな龍兵に優は尋ねる。
「なぁ、俺達って日本に生きて帰れると思うか?」
その問いに龍兵は正直に思ってる事を答えた。
「運が良ければ帰れるさ……多分な」
そう返すと、教皇……リシュリュー・アウグレベウスが足を止めた。
程なくして直ぐ其処にある大扉が開けば、リシュリュー・アウグレベウスは自分が誘ったクラスメイト達へ向けて告げる。
「御入り下さい勇者様」
そう告げられると、クラスメイト達は恐る恐ると言った様子で静かに部屋へ入って行く。
無論、龍兵と優も中へ入って行く。
部屋の中は広く、ハリー・ポッターの映画でしか見ないような重厚でバカデカいダイニングテーブルが据えられており、そのダイニングテーブルには多数の椅子もセットであった。
クラスメイト達は未だに困惑しながらも言われるがままに席に着いた。
龍兵と優が最後に座ると、護衛の兵士達も入って来た。
召喚した勇者達が全員席に着き、左右の壁際に10人ずつ護衛の兵士達が並び立てば、リシュリュー・アウグレベウスは部屋の奥。
上座とも言える場所に立ち、改めて感謝の言葉を述べた。
「改めまして我等の願いを聞き届けて戴き感謝致します勇者様」
感謝の言葉を述べると、リシュリュー・アウグレベウスは本題を切り出す前の前置きをする様にして語っていく。
「貴殿等は我等を導き、守って下さる聖なる神プロパテールが我等の祷りを聞き届けて下さった事で勇者として召喚なされたのです」
目の前に座る召喚された少年少女達を神から遣われた救いの使者。そう言わんばかりの前置きをすると、リシュリュー・アウグレベウスは早速と言わんばかりに本題を切り出して来た。
「我等は魔王率いる魔族と激しい戦いを600年に渡って続けております。現在は小康状態にあります。ですが、最近は魔族の方で動きが活発なモノとなり、我等に対する脅威が日に日に増しているのです」
其処まで言うと、リシュリュー・アウグレベウスは一息吐いてから続きを話していく。
「先程も言いました通り、そんな我等の祷りを聞き届けて下さった聖なる神たるプロパテール様は貴方達を勇者として召喚したのです。どうか、御願いで御座います……我等を御救い下さい勇者様」
そんな懇願と共にリシュリュー・アウグレベウスは深々と頭を下げた。
今までの事を聞いたクラスメイト達は漸く状況を理解すると、喧々囂々。そう言える様子で目の前のリシュリュー・アウグレベウスを非難し始めた。
「ふざけんな!!」
「私達を元の世界へ帰してよ!!」
「魔族と戦えなんて嫌よ!!」
次々に非難の声が上がる。
そんな中で龍兵が呑気に他人事の如く「プロパテールが聖なる神なら、邪神はヨルダバオトか?グノーシス主義的に考えるなら?」そう心の中で漏らして居ると、リシュリュー・アウグレベウスの直ぐ前でダイニングテーブルをバンと強く叩く音が響いた。
その音と共に静寂が訪れると、ダイニングテーブルを叩いた顔立ちの整ったイケメン……沢渡 勇輝が立ち上がり、皆に向けて大声で告げた。
「皆落ち着くんだ!!今、リシュリューさんを責めたって状況は良くならない!!」
鶴の一声。そう言わんばかりに皆が幾ばくかの落ち着きを見せれば、勇輝はリシュリュー・アウグレベウスの方を見て問うた。
「リシュリューさん。1つお聞かせ下さい……貴方達は聖なる神であるプロパテール様が我々を召喚した。そうおっしゃいましたね?」
「そうです。勇者様」
リシュリュー・アウグレベウスが肯定すれば、勇輝は「私の事は勇輝で良いです」そう自分の名前を教えた上で更に問うていく。
「貴方達が召喚したのではないと言う事は、貴方達には私達を元の世界へ帰す術を持っていない。その認識でよろしいですか?」
勇輝の問いに他のクラスメイト達はざわつき始める。
だが、ソレを気にする事無くリシュリュー・アウグレベウスは勇輝の問いを肯定した。
「その通りで御座います。勇輝様」
その答えにクラスメイト達はまたも喧々囂々に非難する。
そんなクラスメイト達に勇輝が再びダイニングテーブルを強く叩いて静止すれば、勇輝は質問を続ける。
「つまり、プロパテール様の意思に従って魔族と戦い、勝利しなければ帰れない……そう言う事ですか?」
その問いをリシュリュー・アウグレベウスがまたも肯定した。
「恐らく、そう言う事でありましょう。しかしながら、其処はプロパテール様の御心如何としか私は言えませぬ故、確約は出来ませぬ」
慇懃無礼な答えを聞いた勇輝は意を決して覚悟を決めた表情を浮かべると、皆の方を向いて皆に聞こえる様に大声で告げる。
「皆!!俺は勇者として魔族と戦おうと思う!!」
勇輝の言葉にクラスメイト達は困惑し、ざわめいていく。
だが、その中で龍兵だけは冷静な様子であった。
勇輝。よく言ってくれた。
お前のソレが今の段階では最適解だ。
龍兵は勇輝の判断を最適解として認め、称賛すると更に心の中でその理由を並べ立てていく。
変に反発したら、俺達に対して益々危険が及ぶ。
下手したら、奴隷化させて意思を奪った上で無理矢理戦わせたり、反抗的な俺達を皆殺しにしてまたガチャをされていた所だったろうぜ……
クラスの中心のお前が最適解を示した事で教皇のクソジジイは俺達が自発的に戦うと思ってくれる筈だ。
そして、クラスの中心であるお前が戦う意思を見せれば……
其処まで思考を巡らせると、1人。
また、1人と自分も魔族と戦う意思を見せ始めた。
「俺も戦うぜ!勇輝だけに良い格好させるかよ!!」
「私も本当は嫌だけど、戦うわ」
勇輝と一緒に居たクラス内のカースト上位に当たる屈強な体格をした空手部の男子……佐竹 雅人と、勇輝と同じ剣道部でもあるポニーテールの少女……毒島 綾子が共に戦うと宣言した。
その後は済し崩し的にクラスメイト達が呼応し、程なくして皆が皆、戦いの道を選んだ。
そんなクラスメイト達にリシュリュー・アウグレベウスは口元で笑みを浮かべてほくそ笑めば、龍兵はリシュリュー・アウグレベウスの笑みに対して心の中で毒を吐いた。
上手くいったみてぇにほくそ笑みやがって、宗教キチのクソジジイめ。
精々、老い先短い人生楽しんどけ。
元の世界へ帰る方法を見付けた後、必ず俺の手でテメェの愛する神の元へ送ってやるから……
リシュリュー・アウグレベウスを必ず殺す事を誓った龍兵は、その前にするべき事。
即ち、帰る方法をどうするか?考えていく。
戦場へ送られるまでの間に此処から抜け出して、日本へ帰る方法を見つけ出さないとならない訳だが……
情報も手掛かりも何一つ無いのが現状。
オマケに詰んでると来てる。
最悪過ぎて溜息しか出ねぇわ……
宛が何一つ無いばかりか、状況も詰んでいる事に対し、龍兵はウンザリとした様子で最悪な状況に対して溜息を漏らすしか出来なかった。




