表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
旅人のあなたに捧ぐ  作者: 榛原朔


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/3

夢の果ての黄金郷

ぼくはね、人は夢の中に生きていると思うんだ。

希望としての夢。目標としての夢。願望としての夢。


世界が何を与えても、誰かが何かを伝えても、それはぼくらの夢というフィルターによって、望む形に置き換わる。

あるいは、悪夢というフィルターによって、ね。


それが全てではないにしろ、少なくとも、ある一面ではどう感じ思うかが事実になるんだ。


君の夢は何かな? エテルナ。なんて。

ぼくはそんなもの、とっくに知ってるっていうのにね。


叶えてあげたい。実現したい。

けれど、ぼくにそんな力はない。

だからせめて、この物語を君に贈るよ。


そう、これぞ多くの人が夢見た旅の果て。

数多の冒険譚が求めた答えだ。


【夢の果ての黄金郷】




人は、どうして旅に出るのだろう。

ぼくはそれを理解することなく、旅に出た。

君を思いながら、遠くへ、遠くへ。


ただ、旅を冒険と置き換えるとすれば、これが1つの答えなんだろうと、ぼくは思う。


「っ……」


風が吹いた。いいや、風なんて吹いてない。

単純にぼくが、その威容に圧倒されただけ。ただの景色に、風のような圧があるなんて、初めて知ったよ。

それほどまでに、目の前の光景は圧巻のものだった。


「黄金の、都……」


旅をする者、冒険をする者の多くが憧れ、望むであろう場所。黄金郷が、そこにはあった。


「すごい……」


村の家はだいたい質素な木造で、小さかった。

石材ですら、教会やエテルナの屋敷くらいしか使われておらず、それもほぼ一階しかない。


対して、黄金郷は石どころか黄金だ。

比べることが失礼なくらい、比べるまでもない。


階も2階3階どころではなく、天高くそびえ立っていた。

それが都市を形作っているのだから、本当に感嘆する。

もちろん、これを見つけた自分自身にも。


「何も知らずに、辿り着けるものなんだね」


心の底から、驚いた。宝の地図があった訳じゃない。噂とかで聞いた訳でもない。というか、そもそも旅に出てからまだ人に会っていない。


本当に何の手がかりもなく、この山々の連なる霊峰の奥深くに、黄金郷を見つけたのだから。

まぁ、凄そうな雰囲気を感じる場所を率先して目指したし、数撃ちゃ当たるってやつなのかな。運が良いや。


「なんて、必死に霊峰を登ったんだし、運だけだなんて思いたくはないけどさ」


もし、旅の仲間がいたら。一緒に手を取り、飛び回って喜ぶんだろう。だけど、ぼくに仲間はいないから。

孤独な旅人のぼくは、独り感慨にふける。……1人なのはいいけど、独り言が増えたのは、ちょっと恥ずかしいな。


「とにかく、入ってみよう」


風に飛ばされないように帽子を押さえ、眩しい都を見上げる。ただの旅人だけど、気分はさながら冒険家だ。


「ロマンがあるね! 胸が躍る!」


今までで一番テンションが上がってる気がする。

まずは霊峰を降り、窪みにある都の入り口へ。

転ばないよう慎重に、ゆっくりと下っていく。


黄金の都はまだ先だけど、建設時の名残なのか、斜面にも所々金塊らしきものがあった。

これくらいなら、もらっても許されるかもしれない。


小さい欠片をひょいと拾い、リュックに放り込む。

つい遠慮しちゃったけど、この大きさなら黄金郷じゃなくてもあるかも。帰りに改めて選ぼうかな。


「うん。何はともあれ、本題の都〜」


勢いをつけて、全面金色の世界に着地する。

山と違って整備されているから、どころではない。

見た目通りではあるが、ただの道すら、金属質な音を響かせていてもはや引く。独特な匂いがあるからか、空気が重く感じた。


今さらながら、誰が造ったんだろう?

すべてのものが黄金なんて、方法も気になる。

というか、人はいないのかな?

様々な疑問を抱きつつ、さらに奥に向かう。


「生き物の気配は……」


人並みの感覚ながら、神経を研ぎ澄ましてみる。

音、匂いなどの見えないものから、目に映る生活感まで、人の生きている跡を探す。


「……ない? の割には、管理されてるっぽいけど」


自分の感覚を過信するつもりはないが、少なくともわかりやすく人口の多い、生きた大都市ではなさそうだ。

こんな見た目だし、実際に住むのは大変なのかもしれない。

近くで見ると、建物はどれもやけに大きいし。


「観光用? 人以外も使う? よくわからないな……」


1つ確かなのは、黄金郷よりも奥の方に、なんとなく近寄りがたい気配があることくらいか。

一応この都市も、来るまでに何頭もの恐ろしい獣と出会したから、禁域っぽい雰囲気はあったけど。


「……まぁいいか。今のとこ、危険はないし」


潔く諦めて、観光を再開する。

荒らすつもりはないし、問題ないよね。


とはいえ、閉まっている建物の中には入れない。

単純に開けないし、万が一揉めることがあったら嫌だから。


できるとしたら、外から眺めるか、開いてる建物を軽く覗くくらい。それも、窓がやたら高い位置にあるため、玄関などドアのある場所限定だ。ほんと、何用なんだろう、この都市は。


「……開いてるとこ、ないし」


しばらく歩いて、すぐ立ち止まる。と言っても、一つ一つの建物が大きいので、5分ほど歩いても数軒しか調べられていないが。


「やっぱりこれ、人用じゃないな。

うん、初めから明らかにそうだったか」


結論を出す。ここは人ではない、ナニカの住処。

あまり長居していい場所ではなさそうだ。

すごく今更だけど。


「……撤退しよ。黄金だけちょっと貰って」


そそくさと、刺さっていた金の棒――おそらくは雑草か苗木のようなものを抜いて引き返す。

全体が黄金でできた街だ。棒1本くらい、砂粒みたいなものだろう。流石に、たったこれだけでナニカに標的にされることはないはずだ。そう、思いたい。


「あまり使い道はなさそうだけど、記念にはなる‥」




「……?」


空気が変わった気がした。というより、世界が変わった?

意識が飛んだのか、一瞬、時間が止まった感覚さえある。


「空が暗い」


景色も音も、変わらず静かで佇んで。

匂いも黄金のもののみで、危険物や生き物の存在は感じないのに。


雄叫びが聞こえた気がした。街が揺らめいた気がした。

殺意や血の香りが広がった気がした。

――黄金郷が、牙を剥こうとしている。


「これ、ヤバいかも」


きっかけがあるとすれば、小石では済まない、街の備品を手に取ったこと。棒を1本貰っただけで、何が変わるというのか。しかして実際、世界が上書きされた。


「っ……!!」


堪らず棒を捨て、脇目も振らず走る。

気配の正体は、安全な場所に着いてから見ればいい。

今はとにかく、逃げなければ。

この、正体不明の恐怖から。


「――!!」


空を飛ぶ。黄金の影が。

あれはなんだ? あれはなんだ。


それは雷だった。違う、暴風。

烈火の如き光。水面を思わせる黄金の煌めき。

あぁ、あれは――


『   』


神だった。


「うっ」


黄金郷が歪む。今度は錯覚じゃなく、本当に。

細長い肢体をくねらせる光の帯を中心に、飴細工のようにぐわんぐわんと揺れ、伸び、吸い込まれていく。


このままじゃ、ぼくも。飲み込まれて消えてしまう。

それに1つ、わかってしまったことがある。


あれは多分、ぼくを認識していない。

認識していたら、敵と見ているのなら、こんな手間のかかることはしないはずだ。


あれはただ、気まぐれにやってきて、舞っている。

ぼくは運悪く、そのタイミングに出くわしてしまっただけ。

暮らすものがいないはずだ。獣たちが追ってこなかったわけだ。こんなもの、抗いようがない。


「棒、捨てなきゃよかった……!!」


ツルツルの地面に突っ伏し、鎮まるまで堪える。

その時を、じっと待つ。


終われ、終われ。あれが生み出す金色の波を浴びながら、引力が収まる時を切に願う。


「あ」


黄金郷は、すべてが神の支配下にあった。

最初から、最後まで。だからぼくは、いつの間にか空にいた。

張り付いていた地面も、目で追っていた棒も、どこにもない。


上が揺らめく黄金郷で、下もざわめく黄金郷。

その瞬間、ぼくは黄金郷だった。


「まさに天任せって感じかな!?」


其の鼓動が、波動のようにぼくを打つ。

永く、永く、脈動は終わらない。光体を軸に巡る黄金郷は、まるで銀河に放り込まれたような有様で。周りには、変形を繰り返す街が、日光で点滅しながら踊り狂っていた。


「悪夢みたいだ……」


回る回る、星空のように。

これが本物の空なら、とっくに数年は経過しているくらい。

それほどに、黄金の星は巡り、永き旅路を彷徨う。


「感覚が、おかしくなる……」


おかしな街だ。異常な街だ。無命の街だ。

もはや、そういった形をしただけの自然物で、集落とはほど遠いけれど。だからかな。どうにも、ぼくらの村が懐かしい。

ハリボテではない、人の温もりを感じる、あの村が。


「其が太陽なら――」 


ぼくは穏やかなあの()に、帰りたい。


「貴方は、この(まち)を?」


愛しき日々は過ぎ去った。あれはもう、遠い昔のこと。

誰にも取り戻せはしない。


この黄金郷に、どんな歴史があろうとも。

ぼくの後ろに、どんな思い出が輝いていても。


『   』


渦巻く街は、揺れる水面に浮かぶ月。混ざり、呑まれ、形はとっくに失われていた。だから、何かを捉えることなんて、できるはずがないのに。

どうしてか、目が合った気がした。


「夢を追っているのかい?」


光帯は何も答えない。光体は何も語らない。でも、心地よい黄金の音色が、それを物語っているように感じる。


「いい、夢だね」


都市の繁栄は、遥か昔の御伽噺。

安らぎの地は、遠く彼方へ過ぎ去った。

けれど、懐かしめるという事実が幸せなことで。

その存在自体が、街の報いで。


『――』


果てのない空を漂い、響き合う黄金に身を浸す。

鎮める言葉は、虚空に消えた。でも大丈夫。


ぼくらはずっと、憧れ()を見てた。

今はただ、安らかにあろう。この夢が覚めるまで。


「さようなら、歴史を渡る竜の方」


年月を示す星の軌跡が、遠く近くで肌を撫ぜる。

光は無我で、行く末になど気を留めない。

それでもきっと、ぼくらは辿り着く。


「見て、夜明けだ」


鎮まった心は、遠く離れていく。

明るい陽の昇る、清らかな空に。


水面の月も、やがて治まる。

眼下を見ると、混ぜ合わされていた黄金郷は、確かな実像を取り戻していた。


目覚めの鐘鳴り響く黎明に、ぼくは世界にお願いをする。

この夢よどうか醒めないで。




~~~~~~~~~~




「夢を見るの」


テーブル上の手紙を見ながら、私はつぶやく。

体は起こせない。ベッドに横たわったまま、目だけが霞む世界を見せてくれていた。


「あなたと過ごした、日々を。

一緒に世界を、旅する日々を」


お腹が痛い。心臓が痛い。手足が痛い。

私は痛みによって、構成されているみたいだ。

時々途切れる意識の中で、赤い血が行き来しているのを視界の端に見る。


「思うままに、生きられる世界と。こうして……寝たきりで、長らえる、世界。どっちが夢で、どっちが、現実かな」


目を閉じると、美しい世界が見える。

一度も見たことのない、だからこそ何でもある広い世界が。


「この夢よ……どうか、覚めないで」


たとえ、下らない空想だとしても。

これが私の、憧れだから。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ