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Take On Me 4   作者: マン太
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6.真琴のこと

 真琴は度重なるホテル泊に疲れを感じ、また、経済的とは言えない利用回数に、職場の近くのマンションを借りる事に決めた。

 大和たちの待つ家に帰りたいのは山々だったが、仕事が不定期に忙しくなり、帰れない日々が続き。ホテル暮らしもどこか落ち着かず休まらない。仕方なくこの決断に至ったのだ。

 本当は大和が日々作ってくれる食事を食べたい。皆とくだらない冗談を言い合いながら、疲れを癒したい。


 それが生きる糧にもなっていたと言うのに。


 生きる為に仕事は必要だ。それに、忙しいのは悪い事ではない。暇よりずっとましで。

 仕事が大事である事は十分わかっている。


 けれど、こう忙しいとな。


 流石の真琴も根を上げそうになる。弁護士事務所より、企業内弁護士に転職した方がいいだろうか。そうなれば、ある程度、業務内容は抑制されるはず。

 ふと忙しいまま、この時を過ごすのに抵抗を覚える様になり。


 もっと自分のプライベートを充実させたい。


 ただ、今の事務所は以前の仕事を知った上で、雇ってくれた恩がある。

 それに、自分の前職を知られれば、企業が雇うかどうか。ヤクザの顧問弁護士兼秘書など、普通に聞けば、除外の対象になるだろう。諸々の事情で転職へは一歩踏み出せないでいた。


 当分はこのままだな。


 暫く様子を見るしかない。

 今日も残業で深夜を回り、帰宅すれば朝になっていた。夕食は既に外食で済ませてある。シャワーを浴びて寝るだけだ。眠れても五時間か六時間か。

 寝つきは良い方だが、ここの所、疲れて寝落ちしているのが分かる。あまりいい状態ではなかった。

 と、昼から放ってあった、プライベート用の端末にメッセージの通知があったのに気付く。何気に置いたテーブルの上で、チカチカと蒼白い光を点滅させていた。手に取って見れば大和からだった。


『お疲れさま! 金曜日は真琴さんの好きなコロッケだよ。お楽しみに~!』


 チュッとハートを飛ばして来るコツメカワウソのスタンプが踊っていた。クスリと笑う。


 大和に会いたい。 


 切実に思う。岳の様に触れることはできないが、会話を交わし軽いスキンシップをとることでいつも充たされていた。

 女性とは付き合うが、正直、充たされることがなく。それも当然ではあった。好きな相手が他にいるのだ。真剣に付き合うなど、できるはずもなく。

 一度、真面目に付き合おうとした相手から言われたことがある。『あなたは私を見ていない』と。その通りで何も言えなかった。嘘はつけないのだ。

 それで大抵は去っていく。去らない相手は、真琴と同じ、遊びならと付き合う相手位だ。真剣な交際には進展しない。

 そんな相手に充たされるはずもなく。自分でもどうにかしたいとは思うが、いかんせん、思いが大和に向いているため、他に目が行かない。

 大和は岳のパートナーだ。いい加減、諦めて他を見るべきなのだろうが、それでもいいからと、つい傍にいてしまう。

 だいたい、二人の事が好きなのだ。嫌いになどなれるはずもなく。諦めはつかない。

 真琴はため息をつくと、端末から返信を送った。『了解』と敬礼している眼鏡をかけたキリンのスタンプをつけて。

 いつか、大和が皆が動物だったら何だろうと言い、皆──真琴と岳と亜貴とで──意見を出し合った結果、そうなった。

 大和は、大和以外全員一致でコツメカワウソ。亜貴は猫。岳が──これは意見が割れた──ライオン、真琴がキリンだ。

 岳は犬科っぽいと大和が言い、シェパードとか、ハスキーだとかあがったが、それは大和といる時だけだという話になり、亜貴が猫なら岳はライオンだとなったのだ。

 キリンは注意深く周囲を観察し、穏やかに草を食んでいるイメージがある。真琴はそれだと大和が笑った。

 が、本当は肉食でもあるのだと言いたい。


 大和に関しては──だが。


 岳はひと月後、ネパール、ヒマラヤ山系に撮影に向かう予定だ。二カ月ほど家を留守にする。その間の家の監視を、岳から頼まれた。

 どうやら、同行する先輩の子どもらを家で預かることにしたらしいのだ。引き受け先がなく、二人きりにするのはいただけないと、大和と相談して決めたらしい。

 赤子ではないのだが、預かるうち、息子の方に難があるらしい。岳的には分かりやすくとんがっているから扱いやすいとは言っていたが。

 岳の目から見れば、大抵の相手はそう見えるだろう。

 とにかく、そんな息子に手を焼くことは目に見えている。ことに大和は小柄な見た目に侮られやすい。高校生になるというその息子が黙って言うことを聞くはずがなかった。

 それで、岳に目を光らせていて欲しいと言われたのだ。が、言われなくともそうするつもりだった。


 岳のいない間は、せめて一番頼れる存在でありたい。いつもより、もう少し近くでスキンシップをはかりたい──。


 けして、草食動物などではないのだ。

 家に帰る日が待ち遠しかった。


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