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【異世界恋愛2】独立した短編・中編・長編

【コミカライズ】土下座したらいいよ?許さないけど~追放聖女、《聖域》猫カフェをひらく~

作者: 有沢真尋

 おそらく、交通事故だった。

 死ぬ直前のわたしは、横断歩道を渡りながらふっと夕暮れ時のビルを見上げ、ガラス窓越しに出されたカフェの看板の文字を読みながら思ったのだ。


(猫カフェ、そんなのもう「聖域(サンクチュアリ)」じゃない。行ってみたいなぁ……。でも、猫を働かせるのはなんだか申し訳ないから、心の底から楽しむのは無理かもしれない……。猫にサービスなんてさせてはいけないって罪悪感が)


 そこで、横からの派手な衝撃を受けて意識を失い、わたしの前世は終わっている。


 * * *


 聖女アルダは「聖女」に求められる能力が、著しく低かった。


 傷を受けた者を癒やす回復魔法、火炎や氷のブレスに対する防護魔法など、戦闘で必須とされる魔法の威力は駆け出しの神官とさして変わらない程度で、それだけ見るとまったくもって魔王討伐のメンバーにはふさわしくなかった。

 だが、アルダには世界中で歴史上誰ひとりとして発現したことのないユニークスキルがあった。

 その名も「猫化」である。

 

 魔法使いたちの使う魔法や、神官たちが使う神聖魔法には、通常「火炎爆弾(アルティメット)最終形態(ファイアボム)」や「広域(ウルトラ)回復(ワイド)魔法(ヒーリング)」などの一般的な呼称がある。しかし「猫化」に関しては、アルダ以外に誰も使い手がいないため、特別な名前はつけられず、ただ「猫化」とだけ呼ばれていた。


 世界中でひとりしか使わないということは、多くの者にとっては実際に目にすることがない、存在さえ不確かな魔法である。

 本当にそんな魔法が実在するのか?

 実際はもっと別の超強力な魔法で、それを隠すためにあえて「猫化」という無害そうな名で呼ばれているのではないか?

 憶測は憶測を呼び、尾ひれ背びれ尻びれがついて、世間における「猫化」への理解は「難易度も効力も最大レベルの浄化魔法なのだろう」となっており、ほとんど事実として信じられていた。


 なぜそのような噂が真実らしく語られることになったのかというと――聖女アルダはやり遂げたのである。

 魔王討伐を。


 唯一にして絶対の魔法である「猫化」によって。


 * * *


「にゃあ……」


 鳥かごに詰められた黒猫は、大変嫌そうな顔であたりを見回して、不満げに鳴いた。

 王宮の謁見の間で、左右にはずらりと政府高官ならびに軍部上層部の貴族が居並び、正面には仰々しい玉座があって、つんとしたすまし顔の妙齢の女王が腰掛けている。


 その御前に、見習い修道女風の古ぼけた黒のワンピース姿の聖女アルダと、鳥かご入りの黒猫が呼び立てられているのであった。

 さらにその背後には、勇者、戦士、魔法使いと、いずれも聖女とともに死線をくぐり抜けて魔王城に乗り込んだ選抜メンバーの青年たちが並んでいる。王宮に戻ってそのまま呼び出しを受けたために、誰も彼もが薄汚れた身なりをしていた。

 彼らは、一様に聖女と黒猫に心配気な視線を送っていた。


「ご苦労でした。見事あなたの唯一の魔法『猫化』で、魔王を討ち滅ぼしたと。ほほほほ、魔王もその姿になっては手も足も出ないことでしょうね。ほほほほ」


 女王は高笑いをしながら、みすぼらしいアルダには目もくれず、ちらっと鳥かごに勝ち誇ったような顔を向ける。


「にゃあ」


 鳥かごに顔を押し付け、黒猫が鳴いた。子猫である。もう少しで隙間をすり抜けられそうだったが、ぎりぎり顔が通らずに引っかかってしまい、悔しそうに「ぶみゃあ」と声を上げた。

 ほほほほほほ、と女王が実に機嫌が良さそうに笑った。


「こうなっては、魔王もただの可愛い子猫ちゃんでしかないわね!」


 誰も何も言わなかった。実際、可愛い子猫ちゃんがそこにいただけだからである。

 女王は猫撫で声で、アルダへ命じた。


「もう少しこちらに来なさい。私のすぐそばまで」


 女王の脇に控えた武官が「陛下、危険では」と声をかけるものの女王は耳を貸す素振りもない。

 かごを抱えたアルダは、のそっと立ち上がり、一歩進む。「もっと前へ! 近くまで!」と、女王はやや強い声で命じた。

 ためらうような足取りで、アルダは前に進む。ついに、女王の足元まで来たところで「そこまで」と声をかけられ、おずおずと膝をついた。真っ黒の頭巾から、埃っぽい金色の髪が滑り落ちる。

 女王は、うずくまったアルダを見下ろすと、その頭巾の上に手を置いた。

 ぐいっと頭を押さえつけるように力を込めて、立ち上がる。


「……っ!?」


 何が起きたかわからないように、アルダは顔を上げた。

 ちらりと見下ろした女王は、青い目を丸くして見上げているアルダに向けて、嫣然と微笑んだ。


「あなたの頭、立ち上がるのにちょうど良い支えになったわ。ありがとう、もう用は無いわよ。一応、魔王を退けてくれたってことで小銭程度の褒美は用意しているから、受け取ってから帰ってね。二度と王宮に足を踏み入れようとは思わないで。そうそう、市井で暮らしても誰もあなたが聖女だなんて信じないと思うから、吹聴しないのが賢明よ。猫化の聖女だなんて、ばっかみたい」


 言い捨てて、女王は扇子を開いて「ほほほ」と笑い、長いドレスの裾を引きずりながら歩き出す。

 それまで、凍りついたように動きを止めていたアルダは、そこですくっと背を伸ばして立ち上がり、女王の背を睨みつけた。


「ばっかみたい、って言ったっけ? 私の魔法を?」


 田舎訛りの、奇妙なアクセントのある言葉である。

 足を止めた女王は、肩越しに振り返り、嘲笑を浮かべて「ええ」と認めた。


「史上最弱の聖女、勇者たちの足手まといにしかならなかったくせに。猫化ですって? 実際に一度も人の前で使ったことはないわよね?」

「それは、発動条件が難しいから……、ふつうの状態では出ないっけよ」 

「言い訳は結構。それは魔王ではなく、どこかで見つけてきただけの可愛い子猫ちゃんでしょう? 冗談もたいがいになさい」

「この猫ちゃんは魔王です! 若い魔王だったっけね!」

「嘘はおやめ!」


 黙って聞いていた黒髪の勇者マルク、赤毛の戦士パオロが、耐えきれなかったように「陛下、それは違います」と異口同音に発言をした。

 女王は、ぴしゃっとこれみよがしに扇子を畳んで青年たちを睥睨し「おだまりなさい」と冷え切った声で言い放つ。

 そこで、緑のローブ姿の魔法使いロマーノが、裾を翻して女王の正面に立った。

 動きに沿ってかぶっていたフードが外れて、長い銀髪と研ぎ澄まされた白皙の美貌があらわになる。

 ロマーノは、青い目を細めて女王に鋭い視線を向けた。


「黙りませんよ、陛下。此度の魔王討伐で、一番の戦果をあげたのは、誰あろう我らが聖女アルダです。聖女への侮辱は許すことができません。即刻、謝罪を」


「馬鹿なことを。聖女として、あれほど無能な娘もいないでしょう。母はあなたの身を心から案じていましたよ、ロマーノ。戻ってきたからには、王太子としてのつとめを果たしなさい」


「その最初のつとめが、陛下への謝罪の要求です。よくもアルダに無礼を働いてくれましたね。それ相応の報いを受けるお覚悟はあるのでしょう?」


 澄んだ硬質な声が、静まり返った謁見の間に響く。

 面白そうに目を細めて、女王は哄笑した。


「おかしなことを……! あの娘がいったい、なんの役に立ったと言うのです! 世間では猫化は超強力な浄化魔法などと言われているようですが、事実はまったく違いますね」


 ロマーノは首を振り、「母上はわかっていません」ときっぱりと言いきった。


「アルダはみだりに魔法を使うことはありませんが、大変な鍛錬の末に猫化の魔法を、最高レベルまで高めて究めたんです。その結果、強大な力を持つ魔王を猫の姿に封じ込めることに成功しました。我々はただ、アルダを魔王の前へ連れて行くために血路を開く要員でしかなく、真の功労者はアルダなのです」


「もういいわよ、ロマーノ。あの薄汚い娘をかばうのもいい加減になさい。世界が平和になったいま、あなたはこの国の王太子として、美しい姫を娶り跡継ぎをもうけなさいよ。母を失望させないで」


 言うだけ言って、女王が退出すべく足を踏み出した、そのとき。

 アルダが、「あのっ」と素っ頓狂な声で女王に呼びかけた。


「土下座したら、許してあげるだよ」

「はい?」


 ひくっと眉をひくつかせて、女王はアルダを振り返った。

 アルダは足元に鳥かごを置き、女王をまっすぐに見つめて、やはり田舎訛りのきつい言葉で続けた。


「土下座なんて本当は興味ないけど、いま私がやらされたこと、土下座みたいなものですよね? んだから、女王さまにも同じこと要求します。そこさひざついて頭下げて、ごめんなさいって言えば、いまならゆるします」

「こんの田舎娘が。何を調子に乗って」

「女王さまがしないと、猫化の魔法が火を噴きますだ。いや、火は出ないんですけど、私が敵だと思った相手には呪いが勝手に襲いかかるわけで」

「寝言を! お前なんて追放よ! 二度と私にその顔を見せないで!」


 くだらない、とばかりに女王が叫んだところで、マルクとパオロが、そっと横を向いた。

 ロマーノが「あぁもう」と呻きながら、指で空に素早く魔法陣を描く。

 アルダは、「もう、止められねぇだ」と悲しげに呟いた。


 その次の瞬間。

 謁見の間を、猫化の魔法が吹き荒れた。


 * * *


「陛下は、性格には難アリだけど、為政者としてはそれなりに優秀だったんだ。それこそ民草と触れ合わないで王宮って別枠に置いておく限りは、よく働くから。いないとすぐにこれだ」


 自分の母親である女王をそのように評価しつつ、ロマーノは執務机に積み上げられた書類の山を崩していた。


「にゃあ」「なー」「にゃん」「シャアアアア」


 その周囲で、数匹の猫がにゃあにゃあ鳴き騒ぎながら走り回っていた。


「ごめんなぁ、ロマーノ。私の魔法、調整きかねぇから、暴走すっと……」


 黒い子猫を閉じ込めたかごを持ったアルダが、机の横でうなだれて謝る。魔法使いのローブを脱ぎ捨て、王子らしい正装に身を包んだロマーノは、「いいんだよ、アルダ」と抜群の笑みを向けた。

 女王不在のため、魔王討伐から帰ってきたばかりの王太子ロマーノが、女王の執務室で代理として仕事をこなしているのであった。

 

 豪奢な布張りのソファに座っていた白猫が、すたすたと歩いてきて机の上にしゅたっとジャンプで飛び乗った。そして、アルダに向かって目を怒らせ「シャアアアア」と威嚇した。

 アルダはしゅんとうなだれて、白猫に向かってしょぼしょぼとした調子で言う。


「女王さまもすまねえ。魔法が効きすぎて……ロマーノのお母さんだから、強い魔法使いって聞いていたけど、私の敵じゃなかったっけなぁ」


 白猫が、長い尻尾の先までぶわっと毛を逆立てて、アルダへ飛びかかろうとした。ロマーノは目の前を過ぎった尻尾をすかさずぎゅっと掴む。


「ふぎゃっ」

「母上、ここ教えてくれませんか? 灌漑設備に関する陳情書が上がってきてますけど、最近政務に関わっていないので、判断がつきません」


 振り返りざま、ロマーノの手に噛みついた白猫であったが、そのままロマーノの手元の書類に目を向ける。小さな顔を文字列にそってしゅしゅっと動かしてから、ぽむ、と文章の一部を毛むくじゃらの手で示して「にゃあ」と一声鳴いた。


「ははぁ、なるほど。そういうことですか。宮廷の重臣たちまでいっせいに猫になってしまいましたからね、母上さまだけが頼りですよ」


 ロマーノはにこにこと言いながら、白猫の背から尻尾の付け根まで撫でた。白猫はまんざらでもなさそうに「にゃあ~」と言ってから、突然落ち込んだようにうなだれた。


「ロマーノ……それお母さんだっけよ。あんまり猫扱いすると」


 書類にペンを走らせてから、ロマーノは顔を上げてアルダへ微笑みかけた。


「いまはただの可愛い猫ちゃんだからね。魔王と同じく」


 女王が、謁見の間で聖女と魔王に向けて放った言葉を少しだけあてこするように言ってから、ペンをインク壺に戻して「よし」と立ちあがった。


「あのとき、防御魔法を展開したから全滅は免れたけど、王宮側の人材がほぼほぼこれだからなぁ……」


 猫である。

 普段、他人に敵意を抱かないアルダは猫化の魔法を見える形で使うことはまずなかったのであるが、あのときばかりは魔法が暴走してしまったのだ。ロマーノの魔法の効果範囲外になった重臣たちはみな、猫になっていた。トラ、しましま、茶色、長毛種と種類は様々である。


「私が、言われた通りに追放されていれば……」


 くっと、悔やむようにアルダが呟いた。ロマーノはその肩にそっと手を置いて「それは違うよ」と優しく言った。


「アルダが追放されるのはおかしいよ。アルダの頭を支えに使って土下座もどきをさせた母上さまが悪いんだ。まさかあそこまで底意地悪いことするなんて、止めそびれたのは俺の落ち度だ。おかげで、猫化の呪いがめちゃくちゃ猛威を振るってしまったわけだけど……解呪はできないんだよね?」


 部屋中の猫たちが、ぴんと耳をそばたてて二人の方へと目を向ける。

 アルダは「はわ~、猫ちゃんたちかわええ……」と元人間の猫たちに微笑んで手を振りつつ、ロマーノの問いかけに「んだ」と頷いた。

 猫たちが、がくっと目に見えてうなだれた。


「魔法がここまで強くなる前はなぁ……。ちょっとしたことで解けていたんだけど、いまは魔王を猫化できるくらい強くなっちゃったから、ちょっとやそっとじゃ解けないべなぁ。しいて言えば……他人に対する優しさとか、奉仕の気持ちを思い出したとき、人間の姿に戻れるのかなぁと思うけど」


「ああ~、なるほど。猫らしからぬことをすればいいと。アルダが聖女として教会でしていたような?」


「んだ! 教会の仕事が楽しくできるなら戻れるべ!」


「とはいっても、猫だからね……畑を耕したりジャムを作ったりはできないだろうし……。猫のままできることって言えば……」


 思案するように黙り込んだロマーノに対して、アルダは不意に前のめりに勢い込んで「猫カフェは?」と言った。

 

「猫カフェ?」


 * * *


「さぁ~、猫ちゃんたち、働くべ! 猫ちゃんに癒やされたい人間たちがわんさか来るから、ごろにゃんのひとつでも言って相手を喜ばせればみ~んな人間に戻れるべよ?」


 王宮の正門近くにある、催事用の建物の一角が、すぐさま王太子ロマーノの肝いりの「猫カフェ」として整備され、一般向けに開放されることとなった。責任者は聖女であり、宮廷に仕官したマルクとパオロが随時出入りしている。会いに行ける勇者カフェであるが、主役はもちろん「猫カフェ」だけに毛並みの大変良い可愛らしい猫たちだった。


「にゃ……にゃぁ~」「にゃあ……」


 当初はどうにもノリの悪い、やる気のない猫だらけであったが、それはそれで「無愛想で猫らしく可愛い」と評判が評判を呼んだ。

 やがて、猫たちの中から覚悟を決めたらしき者たちが現れ、客が訪れるとさかんに愛想を振る舞うようになった。


「にゃああん!!」

「かっわいー!!」


 その光景を遠巻きに見ながらロマーノは、身なりを整えて動きやすさ優先ながらも綺麗なドレス姿となったアルダに、こそっと耳打ちをする。


「財務官のウルバーノ侯爵だ。ずいぶん弾けてるな」

「とら猫ちゃん可愛いって、最近若いお嬢さんの間で大人気でなぁ。もう……膝にのってくると、たまらなく可愛いべ」


 渦中のとら猫に甘えられたときのことを思い出し、アルダがほう、と熱っぽい息をもらす。その様子を目を細めて見下ろしながら、ロマーノは小声で囁いた。


「中身はおっさんだよ。人間の姿を知っている君が、そんなに喜ばなくても良くない?」

「猫は格別だべよ。猫はどんな猫でも可愛い。中身がおっさんでも魔王でも女王さまでも」


 ロマーノは、遠くを見るまなざしになって、独り言のように呟いた。


「俺も猫になろうかなぁ」


 すると、アルダはきょとんとしてロマーノを見上げて言った。


「ロマーノは無理だべ。私に対して、悪い気持ちがこれっぽっちも無いから、猫化の魔法が発動しない」

「そう? 結構、邪な心を抱いているんだけどな、これでも」


 くすっと笑って、アルダの目をのぞきこむ。

 その二人の間に、「シャアアアアアア!!」とうなりながら白猫が飛び込んだ。危うく引っかかれそうになったアルダを、ロマーノが危なげなく抱き寄せてかばう。


「母上さま……。いつまでもそれでは、人間に戻れませんよ?」


 ふん、と白猫はそっぽを向いて、毛足の長いふかふかの絨毯を踏みしめながら去って行った。すぐに、きゃー!! 猫さまー!!という声が上がる。


「女王さまは、あの気位の高さと毛並みの良さが猫の中の猫として一番人気で……売れっ子だからいなくなると寂しいなぁ……。ウルバーノ侯爵さまは、そろそろ人間に戻るかもしれんけど」


「そうなると、猫が減っちゃうね」


 何気ない調子で言われたロマーノの言葉に、アルダはにこりと笑って答えた。


「心配ないべ。猫になる人間は、たっくさんいるから」


 通りすがったマルクとパオロは、その言葉を聞きつけると、そっと苦笑いを漏らした。


 * * *


 世界を覆った魔王の災厄が去った後の、平和な世の中にあって、ひとびとは明るい話題を求めていた。

 猫カフェは、格安の遊興施設でなおかつ身分によらず利用できるということもあり、客が群れをなして殺到した。

 入場制限をし、時間制にしても毎日長蛇の列ができる人気ぶりであり、遠方から来る客も多かったおかげで、王都までの道のりにある宿泊施設やレストラン、土産物屋が大変賑わい、復興の象徴となった。


 場所が王宮の一角で相手はか弱き猫ということもあり、正門を通過する際に手荷物検査などは厳密に行われたが、それでもこの機に乗じて何かしら悪さをしようという邪な心を持つ人間も中に入り込む。

 そういった者は「猫カフェ」に立ち寄ったが最後、出てくることがない。


 うわさによると、他人の邪心を見抜くことのできる聖女アルダが、王宮の一角に浄化の魔法を用いて作り上げた「聖域」があり、悪者が完全に改心するまで足止めをした上で、奉仕活動に従事させているとのことであった。

 実際に、長い期間を経て王宮からふらりと戻ってくる者もいたが、それまでとは見違えるような素直な人間になっていると評判だった。ただし、少しだけ猫っぽくなっているという。


 聖女アルダの名声はますます高まり、やがてともに魔王討伐で死力を尽くした同志である王太子ロマーノとの結婚が公表された。


 不穏な時代を支え続けた女王は、安心したのかすっかり隠居の身の上となっており、結婚とともに国を継いだロマーノが、アルダとともに平和な時代を築いた。


 なお、アルダは結婚して王妃となった後も「前世からの夢だったの」と猫カフェの運営を続けた。


 そこでは、大変気位の高い白猫と、まるで長命種のようになかなか成長することのない黒い子猫が不動の人気を誇っていた。


 その様子を見ながら、国王となったロマーノは「母上さまも魔王も、ああやって民草と直にふれあいたかったんだろうな」としみじみと呟き、その横でアルダも頷きながら「お二人とも、たぶんもう人間と魔王に戻れるはずなんですけど、戻らないんですよねえ。いまではあれが生きがいみたいで」と答える。


 どちらともなく顔を見合わせると、二人は幸せそうに笑みを交わした。

 




*最後まで読みいただきありがとうございました!

猫★愛

※たくさんの★★★★★やブクマ、イイねもありがとうございます!


*今年の3月に短編、5月に長編連載版を書いた「離婚するつもりだった」がKADOKAWAビーズログ文庫さまから書籍化します!(2024年9月刊)

みなさまの応援のおかげです、どうもありがとうございました!


【追記】


猫カフェがコミカライズ作品としてアンソロジーに収録されます!

挿絵(By みてみん)

↓↓↓

広告下・表紙イラストクリックで公式サイトをごらんいただけます。

なにとぞよろしくおねがいします!

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✼2025.4.8発売✼
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✼2024.9.13発売✼
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