六月華族
黒い薔薇の家紋をもつ黒月家
月と桜の家紋をもつ桜乃家
月とネモフィラの家紋をもつ蒼威家
月と緑のグラジオスの家紋をもつ翠条家
月と赤い椿の家紋をもつ幸椿家
月と黄色のガーベラの家紋をもつ黄堂家
異形最強の吸血鬼を束ねる、いわば異形の頂点に立つその6つの家は、六月華族と呼ばれ、尊敬と畏怖の念を抱かれてきた。
ひとつの家だけでもとてつもない影響力がある、六月華族全ての紋章が書かれたその手紙には受け取ったものに有無を言わせぬ力があった。
「ここで余計なことした方が目立つし、おとなしく従うよ。美里と片桐くんと一緒に高校は行きたいし。」
そう決意した芽衣子を見て、父親は半泣きになっていた。母親も心配そうに芽衣子を見ている。
「だよなぁ、そうなるよなぁ〜!芽衣子!くれぐれも目立ったことはしないでくれよ!」
「そうよ、芽衣子。あくまでも一般人として、紛れ込むのよ!」
「大丈夫、分かってるって。」
少しうんざりしたようにそう言った芽衣子に、両親はさらに不安そうな表情を強めた。
「だって芽衣子には前科があるじゃないか〜!アレを知った時、パパは本当に生きた心地がしなかったんだからな!」
「ゔっ……掘り起こさないでよ、私の黒歴史。」
芽衣子の脳裏に、約10年前の黒歴史が蘇る。
あの頃、芽衣子は超絶反抗期を迎えていた。
まだ5年ほどしか生きていないも関わらず、世界全て壊してやるぜ!ぐらい反抗していた。
「本当に、何かあったらどうしようかと思ったのよ。もうあんなことしないでね。」
「とにかく!必要以上に目立たない、異形には関わらない!特に吸血鬼にはな!!」
そのため、相手が吸血鬼であると知りながらもかなりの暴言を吐いてしまったのだ。
ぶっちゃけ、何のお咎めもなく争いの火種にもならなかったのは奇跡に近いと思っている。
後になってとんでもないことをしたことに気がついたけれど、あの頃の芽衣子はとにかく反抗期だったのだ。あの頃の自分は黒歴史の塊ではあるが、その中でも吸血鬼との邂逅は芽衣子の中でトップレベルの黒歴史だ。
「分かってるってば!もう!!」
なおも後ろで何かを言っている両親を無視して、芽衣子は部屋に入って行った。うるさい両親だが、誰よりも自分を大切にしてくれていると知っているから……芽衣子の口元は、自然と緩んでいった。