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教導者、教育終了後捨てられる。  作者: みかんねこ
幕間 穏やかな冬の日々
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第93話 穏やかな冬の日々 11 教導者、ダメ出しを受ける。

……疲れた。

 いや、マジで疲れた。


 割り当てられた部屋の扉の前でため息を吐く。


 その部屋は俺の記憶が確かならば、以前に滞在した部屋だったはずだ。

 それなりに時間は経っている筈だが、意外と憶えているもので迷うことなく辿り着けた。


 懐かしいなー。

 綺麗に掃除はしてあるが、傷やへこみが残る扉を見て思う。


 扉のへこみを撫でる。

 これは確か、俺が起きてこないことに怒ったメイリアさんが殴ってつけたへこみのはずだ。


 ふふっと小さな笑いが零れる。


 ……昔からちっとも変わらんな、あの人は。

 身長も全然伸びてなかったし、時間が戻ったのかと一瞬錯覚したぜ。


 あの日々は俺も忘れていない。

 何の重圧も、俺の事を知る者もいない生活。

 散々振り回されてひどい目にも遭ったけど。


 夢のような日々だった。


 その中でもメイリアさんは、その日々の象徴のような存在だった。


 だからこそ、変わってなくてとても嬉しい。



 ……気付かないフリをしてたけど、あの人を俺は……。



 ……やめやめ! ストーップ! 考えすぎだ!


 頭を振って考える事を一旦放棄する。

 戦闘時ならともかく、今は答えが出せる問題ではないだろう。


 とりあえず、今日はさっさと寝たほうが良いだろう。

 魔王の身体は疲労を感じにくいし、踏み倒して活動はできるが精神的な疲労は別だ。


 色々ありすぎた。


 まだこっちに来て1日経ってないんだぜ、嘘みたいだろ?


 もう一度ため息をついて、扉を開けた。


 ガチャリ。





















「およ、遅かったの」



 妲己が居た。






 パタン。


 扉を閉めた。


 見間違いかな?

 疲れてるからな……。


 眉間を揉む。



 ガチャリ。


 扉が開いて妲己が顔を出した。


「何をしておる、さっさと入れ」


 本物だぁ……。


 色々諦めて部屋に入る。

 既に妲己の手によって部屋の灯りは灯してあり、部屋の中の様子が目に入った。


 ……前のまんまじゃん。


 多分だが、居なくなった時そのままにしてあるようだ。

 残していった道具袋もそのまま置いてある。


 うへえ、失くしたと思ってた狩猟セットはここにあったのか……。

 特に大切にしていたものは無い、当時は金銭的に痛くはあったが。


 机の上にも埃なども一切なく、ずっと部屋の清掃もされていたようだ。

 ……この部屋だけ、あの時から時間が止まっていたみたいだな。


 いや、大事にしてくれてるのは分かるんだけど、ちょっと怖い。




「ん」

 妲己が俺に向かって手を伸ばす。


「あぁ……ほらよ」

 鞄から焼き菓子の小袋を出して手に乗せる。

 最近は顔を合わせると菓子を要求されるから、この焼き菓子を用意しているのだ。


「くふふ……あまァい!」

 小袋から菓子を取り出し、ぽろぽろとカスを零しながらサクサクと齧る姿は微笑ましい。


 あぁ、だけどこの部屋に泊まるの俺だからカスは零さないで……。

 黒い虫が湧くでしょ。

 部屋は綺麗に使いなさい。


「ホンゲと同じようなこと言うのな。お前らはわらわの母上か」



 

「くふふ、しかしまあ、お主には次から次にトラブルが舞い込んでくるのう、見ていてちぃとも飽きんわ」

 菓子を食べ終わり、ベッドに腰かけて足をぷらぷらさせながら妲己が笑う。


「あー見てたんだな。いや、別に俺としては、呼び込んでいるつもりは無いんだけどなあ……」

 格好悪いところを見られた気がする、ばつが悪い。


「分かっておるわい、それはお主のさだめというやつじゃな。あきらめよ」

 フン、と鼻で笑われる。


 嫌すぎる。

 俺は平穏に生きていたいのに……。

 田舎でひっそりとこう、穏やかでゆったりした日々を……。


「無理じゃよ」

「心を読むのやめない?」

 いつものノリで答える。


 ……ん?


 ……アリスとこういうやり取りをよくやるけど……こいつ、まさか!?


「そのまさかよ!」

 答えに辿り着いた俺に対して、にんまりと笑みを浮かべる妲己。


「この前の騒ぎでわらわの事を盟友と呼んだな? そして、定期的に菓子という供物を奉納したな? 今、お主とわらわは《《かなり繋がっておる》》」


 そう言われると妲己とのラインがぼんやりと感じられる。

 そんなに太い縁ではないが、それでも確実に繋がっている。


 ……ぬう、気を許しすぎたか?


「なーに、悪いようにはせんよ。お主、わらわに敵意を抱いておらんだろ? わかるぞぅ? むしろ困った時には手助けができるからお得じゃぞ、《《さっきみたいに》》」

 そう言ってケラケラ笑い声を上げる。


 さっき?


「……ちょくちょく聞こえてきた『そういうとこじゃよ……』って言う幻聴は、お前の仕業か!」

「左様! 全部わらわの仕業よ!」

 ふふんと胸を張る妲己。


「最後の『止めろ馬鹿』って言う罵倒も?」

「左様! 全部わらわの仕業よ!」

 ふふんと胸を張る妲己。


「まさか、メイリアさんがなんかちょっと怖いのも?」

「それは知らん。わらわのせいじゃない」

 ふるふると首を振る妲己。


 そうか……。

 そうかぁ……。


「それはそうと今日わらわがここに来たのは、お主にダメ出しをするためじゃ」

「ダメ出し……?」


 心当たりはないのだが。


「お主その辺はマジでダメなのな……」

 微妙にげんなりとした顔になる妲己。


「いやまぁ、勝手に覗いてダメ出しするのもちょっとアレだがの。あの犬ッコロに嫁の話をしたのは、わらわちょっと良くないと思うの」


 そこか。


「むう、でも話しておきたかったんだよ」

 なんとなく、話しておかないと《《フェアじゃない》》と思ったのだ。


 そんな俺を見てため息をついて首を振る妲己。

「それならこう、別れ際とかにさらっと言うとかでよいじゃろ? 鈍感な振りしとるが、あの犬ッコロの好意には気付いておるんじゃろ?」


「……まぁ、多少は」

 ずけずけと踏み込んでくるなあ……。

 考えないようにしてたのに。


「んで、お主もあの犬ッコロのこと嫌いじゃないんじゃろ?」

「そりゃまあ、世話になったし良い人だしな」


 魚心あれば水心。

 キライになんてなれるわけがない。


「……あぁ、お主と面と向かってようやくわかったわ。断ち切る意味を込めて宣言したのか。めんどくさいやっちゃのー、黙って食っちまえばいいのに」

 ぺっと唾を吐くような素振りをする。

 部屋の中だからやめろ。


「う……」

 だが、言われて気付いた。

 そう思っていたと言われて腑に落ちた自分もいたのだ。

 無意識だったんだろうが。


「それは自己満足じゃぞ、盟友殿? あんだけ好意を向けられるような行動をしておいて、それはないじゃろ」

「正論で殴りつけてくるのはやめよう?」


 この狐は俺にどうしろと言うのだろう。

 俺はアリスを裏切れないし、裏切る気もない。

 

 戻って目を見て会話が出来ないようなことをするのは、死んでもごめんだ。



「いやあ、わらわもお節介だとは分かっておるんじゃがな。あの犬ッコロ、わらわに近い存在の血が混じっておってのう。直接の血縁は無いんじゃが、ちょっと世話したくなる存在なんじゃよ。親戚の子供みたいな感じ?」


「普通の存在とは思っていなかったけど、そこまで濃いのか」

 驚いた。

 考えてみたらメイリアさんの怪力と頑強さは、やはりかなり異常だ。


 こいつの同類という事は、上位存在の類か?

 よく考えたらコイツ何なんだろう、魔王なのは知ってるんだが。


「先祖返りに近いの」

 先祖は何なんだよ。


「……まぁ、お前がメイリアさんを気にかけているのは分かった。それで、俺にどうしてほしいんだ?」

 結局は其処なんだよなあ。


 こいつの意図がよくわからん。


「別に、何も? お主が好きなようにするがよい」

 シレっとそんな返事を返してくる妲己。


 気になることを言っておいて、対応を丸投げするのをやめろ!


「だがの、少しだけ優しくしてやって欲しい。気にかけてやって欲しい。あやつの事を銀色に話すときは、わらわが口添えしてやろう」

 ほんの少し優しく、そう言う。


「……そこまで言われたら断れん。今すぐどうこうすることはないが、とりあえずアリスの耳には俺から入れておく」


「それでよい。わらわはそれ以上は望まぬ。よろしく頼むぞ、盟友殿……────」

 そう言って軽く微笑んで、姿を消した。


 ……唐突に現れて唐突に消えるやっちゃなあ。



「疲れた」


 そう言って人気のなくなった部屋でため息をつき、妲己の体温の残るベッドに倒れ込んだ。








 翌朝。


「おはようメイリアさん、モストル爺さん」

 欠伸を噛み殺しながらリビングに入り、すでに座っていたふたりに挨拶をする。

 ベッドは少し小さかったが、まぁ問題なく眠れた。



「おう、ヴァイスおはよ…………ん?」

 笑顔で挨拶を返してくる最中に動きを止めて、メイリアさんが俺に近寄ってくる。




 スンスンスン…・・・・。





























「なんで手前ェから知らねぇ女の匂いがすンだ?」


毎回修羅場ってんな。

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