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教導者、教育終了後捨てられる。  作者: みかんねこ
幕間 穏やかな冬の日々
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第90話 穏やかな冬の日々 8 教導者、地雷を踏む。

 テクテクとリケハナの町中を歩く。


 目指すはモストル爺さんとメイリアさんの住んでいる、レイクサイド邸である。

 以前来た時もお世話になったので、場所はわかっている。


 冷たい空気が頬を撫でるが、先ほど動き回ったお陰か心地よくすらある。


 前回訪れた時より、気分的に落ち着いているためか町の様子が良く分かるな。


 ……うん。




 滅茶苦茶、注目を集めてる……。





 道ですれ違う人たちが、チラチラこちらを窺っているのが分かる。

 道沿いの家からも視線を感じる。

 人によっては、ぎょっとして二度見している。

 なぜ見るんです?


 いやまあ、分かっちゃいるんだ。

 理由は言うまでもなく、隣でにっこにこでご機嫌なメイリアさんだろう。

 尻尾もぶんぶん全開で、弾むような足取りだ。

 道行く人々の視線など、どこ吹く風であった。


 さすがの強メンタルである。



 モストル爺さんはこの辺の顔役で、その孫のメイリアさんもこの辺ではよく知られた存在のはずだ。

 当時はよくわからなかったが、冒険者ギルドのギルドマスターならば影響力もかなり大きいだろう。

 その彼の孫であるメイリアさんも、実に目立つ存在である。


 その目立つ彼女が、よく分からないよそ者と並んで歩いている、しかも機嫌がよさそうという事で注目を集めても仕方がないだろう。


 逆の立場なら、俺もガン見するわ。


 そんなことを考えながら、先ほどの出来事を思い出す。





 彼女が乱入してきたことにより、冒険者ギルド内の大捕物も終結を迎えた。


 モストル爺さん曰く、今回俺を逃がしたらメイリアさんから折檻を受けるため必死だったとの事だった。


 えぇ……?(困惑)

 やはり孫には甘いのか?


 ギルド職員の皆様はいい迷惑だったろう。


 だが、女誑し呼ばわりした事は許さない。

 法廷で会おう!


 とりあえず二人に急にいなくなったり、再訪した際に顔を見せなかった事を謝った。

 ずっと心残りだったからな(忘れてたけど)


 それでお土産を渡して、とりあえず挨拶も終わったしお暇しようかと思ったところ、メイリアさんから家でゆっくり詳しい話をしろと要望が入った。


 まぁ、目的の武器庫とやらに向かうには時間も微妙だし、それなら……という事で今に至るわけだ。



 ちなみに彼女からの「エスコートしろ」という命令の元、左手を繋いで歩いている。

 以前、一緒に町を歩いた時も同じこと言われたなぁ。

 思い出して懐かしくなる。


 まぁ、見た目は仲の良い兄妹だろうがな!



 彼女はものすごいご機嫌で、手をぶんぶん振って歩いている姿は実に微笑ましい。

 尻尾もぶんぶんだ。


 でもこれ、多分エスコートじゃないと思う。

 具体的にどう違うかは分からないけど、違うのは分かる。


 まぁ、彼女が喜んでくれれば、それでいいんだ。


(そういうところじゃよ……)


 なにか幻聴が聞こえた気がしたが、気のせいだろう。




「そういや手前てめェは、今夜泊まるところ決まってンのか?」

 歩きながらメイリアさんが尋ねてくる。


「あーいや、この町に入って真っすぐギルドに向かったんで、その辺は何にも決めてませんね」

 一刻も早く「女誑し」の張り紙剥がしたかったしな……。


 そして思い出した。


「って、あの人探しの張り紙貼ったのメイリアさんでしょ!? 酷いですよ、女誑しって! 事実無根だ! 訴訟も辞さない!」


 忘れないうちに抗議しておく。

 流石に事実無根の風評被害は、看過できない!


「あ゛? 近所の女どもに片っ端から粉掛けてた手前ェがいうのか? あァん?」

 おてて繋いだまま、眉間に皺を寄せて凄んでくるメイリアさん。


「え!? いや、そんなことしてないよ!?」

 ぶんぶんと首を振って否定する。


 知らない知らない、記憶にない!



「将来お嫁さんになるー!とか言われてニコニコしてただろーがッ!」


 ガァッ!っと吠えるメイリアさん。


 道行く人たちがビクっとする。

 外で吠えるのやめようね。


「……!? え、何の話!?」

 全然身に覚えがない!

 別の人と間違えてませんか!?


「アタシんちの近くのフィーナとかリアとかだよ! 忘れるとかひでぇ男だッ」


 フィーナ当時6歳 リア当時5歳。


「幼児じゃん!? それに当時は言葉よくわかんなかったんだよ!」

 やたら懐かれてた幼児が何人かいたのは憶えている。

 なんか言ってたけど、当時はよくわかんなかったんだよね……。


 笑顔という共通言語が悪さをしていたとは……このヴァイスの目をもってしても読めなかった……!


「言っとくが、まだ信じとる奴もおるからな! 気ぃ付けろよ!」

 そう言ってプイ、とそっぽを向くメイリアさん。


「えぇ……?」

 流石に純粋過ぎない……?


 そんなやつ、本当におるんか……?






 そんなこんなで、レイクサイド邸に到着する。

 ちなみにモストル爺さんは領主の庶子の血筋らしく、姓を名乗ることが許されている。

 ほとんど平民だから気にするな、とは本人の弁。

 それでもギルドマスターを任されているのだから、やはり影響はあるのだろう。


 偉い人の気にするなは、信じては駄目だ。


「さァて。ちィと散らかってるが、上がれや!」

 屋敷を指差して、ニコニコのメイリアさんが言う。


 うん、扉はぶっ壊れてるし、壊れた扉に押しつぶされてのびてる男が倒れている。

 室内を見ると、ウォーハンマーが壁に突き刺さっており、しっちゃかめっちゃかだ。


 散らかってるけど……と通された部屋が、マジで散らかってたのは初めてだ。

 看板に偽り無し。


「……本当に散らかってますね」

「……おゥ……」

 さっきまでぶんぶん振られていた尻尾が、しなぁ……と萎れる。


「とりあえず、ちゃちゃっと片付けちまいましょう! なに、任せてください、《《ここは俺の家みたいなもんですし》》!」

 腕まくりをしてそう言う。

 以前来た時も散々お世話になってるし、掃除道具の位置とかも憶えている。

 パパッと片付けちまおう。


「そ、そうだなッ! さっさと片付けちまおう!」

 急に元気になるメイリアさん。


 なにが心の琴線に触れたんだろう……?


 首をひねる。

 まぁ、悪い事じゃないだろう、ここはけんに回る!


(そういうところじゃよ……)


 またなにか幻聴が聞こえた気がしたが、気のせいだ。




 大まかに掃除を終え、伸びてた男に水をぶっかけて起こして蹴り出し、扉の修理も終わった。

「おぅ、すまんなヴァイス! 相変わらず器用だな、手前ェはよぉ!」


 呵々と笑いながらお茶を持ってきてくれるメイリアさん。


 おーおー、ジャムいれるタイプの茶は久しぶりだあ。

 これはこれで好きだ。


「あ、それならお茶請けにお菓子焼いてきたんで、食べましょう」

 そう言って鞄から焼き菓子(フロランタン)を取り出す。

 配るためにいっぱい焼いたからな。

 お菓子の心付けは、大人から子供まで大体の人に喜ばれるから便利だ。


「こ、これは……昔アタシが食べたいって言ってた……憶えていてくれたのか……」

 皿に置かれた焼き菓子(フロランタン)を見て、感激したように瞳をウルウルさせておられる。


 そうだっけ……?

 記憶にございません……。


 全くの偶然である。


「……もちろんですよ!」

 笑顔で返す。


 真実を言っても、誰も幸せにならない。


(そういうところじゃよ……)


 知らん、アーアー何も聞こえない。




 その後は軽い雑談を交わして、穏やかな時間が流れた。

 久々に会うメイリアさんとの会話は楽しく、懐かしさに溢れていた。


 うーん、来てよかったなあ!

 最近は張り詰める場面も多く、気が休まらない日々が多かった。

 アリスにも無様な姿は見せられないし、気を張っていた部分もあったのだろう。


 あ、そうだ。

 お世話になった人だし、あれは報告しておかないとな。

 自称とは言え、姉だ。



「あ、メイリアさん。いえ、姉さん。報告することがあります」

 少々居住まいを正し、言う。


「おゥなんでぇ、改まって?」

 ニコニコしながらお菓子を頬張るメイリアさん。






「実はねぇ俺、嫁さん貰ったんですよ!」

「ほうほう、嫁さんねェ……ん?」




































「あ゛?」

 はい。

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