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教導者、教育終了後捨てられる。  作者: みかんねこ
幕間 穏やかな冬の日々
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第83話 穏やかな冬の日々 1 教導者

 机に資料を積み、比較対象と並べて眺める。


 角度を変えたりありとあらゆる方法を試しながら、仮説を立ててメモを取る。

 隣に座っているロッテから別の書籍からの情報が送り込まれ、それを参考に更に検討を重ねる。


 俺が何をしているかというと、ブランカが枢機卿とやらから譲り受けたとされる秘跡のスクロールの解読だ。


 どうにもこうにも胡散臭い奴から渡された、どうしようもなく胡散臭い代物である。


 曰く、『悪神の権能を封じるために作られた秘跡』


 その銘を『神縛りの儀(ラストリゾート)』という。


 現在の教会の聖書には載っていない伝承に出てくるという、眉唾ものの代物だ。

 俺がその存在を知ったのは、ロッテを助けた魔王崇拝者達の村で見つけた聖書の外典からだ。


 こういう代物は概ね偽物であるのだが、そう断じて破棄するのも短絡的だ。


 なにより、件の枢機卿とやらに繋がる手掛かりにもなる可能性があるしな。


 決して俺とロッテの知的好奇心によるものではない。


「わたしは7割こうきしんだよ」

 正直な奴め。

 俺は2割。



『魔力を流すと自動的に展開される』という説明を受けたらしいので、うっかり発動したりしないように魔力を絶縁する手袋をつけて作業を行っている。

 また、どこに地雷が埋まっているか分からないので、魔力の質を可視化することができる眼鏡を着けて確認している。


 念には念を入れるべきである。


 万が一俺にも暗示とやらが掛けられたら、たまったもんじゃないからな。

 俺だったら表に出ないように暗躍してしまう自信がある。



 幾つか性格の悪い罠は仕掛けてあったが、大まかに調べてある程度の事は分かった。

 性格悪い奴の思考はよくわかるから簡単だった。


 口で読み上げると魔力が逆流して爆砕する罠とか殺意高すぎだろ。


 使われている文字が、今は失われた神代文字であったため解析は困難を極めたが、ある程度は把握できたと言えるだろう。


 こういう作業の時ロッテがいると捗る捗る。

「うへへ」

 褒められてだらしない笑みを浮かべる幼女。


 よすよす、たすかったよ。

 ありがとうな。


 頭を撫でる

 以前より良くなった髪質のなめらかさを手の平に感じながら考える。

 


 この解析結果は、何と言うか……。



 んんんんんんー……

 眼鏡をしたまま、眉間をぐりぐりして唸る。


 これ、ちゃんと相談したほうが良いよなあ。

 溜息をつく。


 借りて解析したわけだし、結果は報告せねばならないだろう。


「わたしだったらだまってる」


 お前は面倒くさいだけだろ……。

 額をちょんと突く。



 とりあえず人をやってブランカを呼ぶか。


 彼女は先日の枢機卿の認識合せの件で、動揺が激しい団員たちのケアに当たっている。


 彼女自身もショックだったろうに、責任感の強いことだ。

 まぁ、俺が彼女の立場なら同じことをするだろうし、何も言えない。


「せんせいは、まちがいなくそうするだろうねぇ」

 背伸びしてぐんにゃり椅子の背もたれに寄りかかるロッテ。


 そういやウルルは?


「だんろの前で丸くなってねてる」

 寒いもんな。




 コンコン。


 ロッテと他愛もない話をしていると、ドアがノックされる。

 あぁ、ブランカだな。


 今のクランハウスでノックしてくる奴は、彼女しかいない。

 みんなドアを開けながら「おいすー」って入ってくる。

 妲己に至ってはドアすら開けない。


「あぁ、入ってくれブランカ」

 声を上げて入室を促す。


「ヴァイス、なにか成果でも上がったの……────」

 ドアを開けて話しかけながら入室してきたブランカが、俺の顔を見て目を見開いて動きを止めた。


「……なんだ、人の顔見てその反応は」

 ものすごいじろじろ見てくる。


「ヴァイス! なんだそれは!」

 いきなり怒られた。

 理不尽すぎない?


「え、何が……?」

 困惑の声を上げる。


「それだ! その掛けている眼鏡だ!」

 真剣な眼差しのブランカ。


「??? いや、普通の魔道具作業用の眼鏡だが……?」

 何が言いたいんだ。
















「めちゃくちゃ似合っている! ずっと掛けたままでいてくれ!」


「えぇー……?」

 何言ってんだこいつ。


「元々知的な顔立ちだが、眼鏡を掛ける事でそれが倍……いや、3倍に高められている! レンズを通した眼差しは冷たさを感じるが、それが良い!」



 真剣な顔で、拳を握って力説された。


「……このエルフ、メガネスキーか……!」

 隣のロッテが戦慄した表情で漏らす。


 なんだよメガネスキーって。


「メガネかけてる人が好きなひと」

 まんまじゃねーか。


「いや、本当にお前には似合っているんだ! 頼む、金なら出す!」


 なんやこいつ。

 なんでこんなに必死なんだ。


「わらわもそう思う」


 いつの間にか湧いて出てきた妲己が重々しく頷く。


「駄狐もそうだそうだと言っている!」

 だからなんだよ。


 色々重荷がなくなった結果、なんかポンコツになってないかこいつ。


 話を聞いて欲しいので、すっと眼鏡をはずす。


「「あぁッ!?」」

 悲鳴を上げるブランカと妲己。


 仲いいね、君たち。


 「また今度つけるから。話を聞け、ちょっとだけでいいから」


「すまん、つい……」

 しゅんと項垂れるブランカ。

 長い耳も萎れている。


 なにが「つい」なんだろう……。



 コホン。

 切り替える。


「お前から預かった、『神縛りの儀(ラストリゾート)』の件だが」


「何か分かったのか?」


 スクロールを指先で弾いて、告げる。

「お前、これ使わなくてよかったな」


「……どういうことだ?」

 訝しげな表情になるブランカ。


「もし使っていたら、《《辺り一面焼け野原になってたぞ》》」


「は!?」

 それを聞いて彼女は驚愕の表情を浮かべた。


「調べた結果を端的に言おう」


 立ち上がり、窓際に歩き外を見る。

 ここは2階のため、穏やかな街の様子がよく見える。


「これは本物だ」


 振り向き、ブランカを真っすぐ見据えて告げる。


「手順の通り行えば、間違いなく秘跡が発動するだろう」


「それなら……────」

 彼女の言葉を遮るようにして続ける。


「但し、《《不完全にだ》》。秘跡の大事な部分が削られている。これをそのまま使えば、行き場を失った力が暴走して辺りを焼き尽すだろう」


 真っ青になったブランカは、言葉も出ないようだ。


 視界の端で妲己が構ってほしそうに飛び跳ねてこっちを見ていたが、無視する。

 いまは大事な話してるからあとでな。






 彼女に幾重にも仕掛けられた罠。


 それを潜り抜け、今ここで生きていることは奇跡にも近いだろう。


 それの手伝いが出来た事は、嬉しく思う。



「……それで、それはどうする?」

 衝撃から立ち直ったブランカがスクロールを指さす。


「お前さえよければ、俺に預けてもらえないか?」

 保管用の箱を取り出しながら頼む。


「……構わないが、何に使うんだ?」

 訝しげな表情で問うブランカ、


「なに、一部が欠けているだけで本物ではあるんだ。神代文字のサンプルとしても優秀だし、一部の記述は他の術式に応用することもできるだろう」


ポンポンと箱を軽く叩く。


「なにより、欠けている部分を補えば使えるんだ。使える手段を増やしておくのは、決して悪い事じゃないだろう?」


 そう言って、俺は肩をすくめて笑う。










 これが伝説に謳われるような効果を、本当に発揮できるならば。


 使用にあたっての幾つかの問題を、全て解決することが出来れば。














 俺の刃は、神の首にも届くだろう。

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