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教導者、教育終了後捨てられる。  作者: みかんねこ
2章 隣を見よ、君は一人ではない
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第81話 閑話4 チトセ

ずぞぞぞぞぞぞぞぞッ!


 目をつぶって無心に麺をすする。


 カツオに似た風味を感じる。


 美味い。


 実に美味い。


 メインの出汁は間違いなく魚だな、柔らかくてとても上品な味わいだ。

 鼻から抜ける芳香が実に良い。


 醤油っぽいのも入ってるけど、ちょっと風味が違うからきっと魚醤ぎょしょうだな。

 見かけたら1樽くらい買っておこうか、なかなかお目にかかれないからね。


 むぐ……むぐ……


 麺は小麦粉になんかちょっと混ぜてあるな、歯ごたえがしっかりしている。

 噛み切るとぷつん!と跳ねる。


 いいねいいね、舌を楽しませてくれるねえ!

 おねーさんこういうの好きだよ!


 これはあれだな、あれに似てる。


 うどんに似てる。


 コシのあるうどんにかなり近い!


 かなりうどんだよこれ!


 9割うどん!







 目を開く。






 でも、なんで緑色の汁なの。





 見た目やべーよ!

 味は凄く好みなのに台無しだよ!

 1割の違いがかなり致命的!


 改めて食べている物をまじまじと観察する。

 緑色の汁ものに浮かぶ白い麺、そしてトッピングされた謎の赤い何か。


 赤い。

 こりゃ赤い。


 箸でつつくとやや弾力を感じる。


 なんやろか。

 食べ物だよね?

 前食べた魚みたいに毒ないよね?



 恐る恐る口に含む。




 キュキュ……プチプチ……





 !?




 かまぼこっぽい!


 かなりかまぼこ!


 8割かまぼこ!

 かまぼこ亜種!





 でも2割違う。

 たかが2割、されど2割。



 なにこれ……。

 ちょっとプリプリする触感が不安を掻き立てる。

 何が練り込んであるの……?


 不味いわけじゃないんだけど、なんだろう。


 怖い。


 食べ物に対する感想じゃないな。



 店の軒先から空を眺める。

 いい天気だ。



 ミャオミャオミャオミャオ……




 あぁ、ウミネコが鳴いている。










 ええ、まだ海辺の町にいます。


 いや、まて。

 勘違いするな。


 魚をやたら食べたあの港町ではない。

 流石にそんなに長居するわけないだろ?







 別の知らない港町です……。





 どこだよ、ここ。

 ちらりと他の客の会話に耳を澄ます。






「○×△☆♯♭●□▲★※!!」

「▲☆=¥!>♂×&◎♯£」




 とうとう言葉も通じなくなった!

 さすがにちょっと焦るね!


 まぁ、言葉なんて「いくら?」「お金」「殺す」が使えればなんとかなるんだよね。

 今までは何とかなった。

 なんとかした。



 実はここに流れ着いたのは深い訳があってですね。

 

 簡単に言うと。


 路銀が尽き掛けて、割のいい仕事を紹介するよ!と言われ、ノコノコ着いて船に乗ったら人攫いの船だった。


 なんたるウカツ!


『げひひひ、高く売れそうだあ!』とか言われたから、もれなく全員ぶっ殺した。


 勢い余って操船できる奴も殺しちゃった、えへへ。

 うっかりうっかり。


 その結果、10日ほど漂流して運よく通りかかった海賊船に拿捕されて近くの港に来たわけよ。

 なお、到着と同時に海賊も全部ぶっ殺した模様。


 命乞いされたけど『賊は殺すべし』。

 ヴァイスも父上もそう言ってたからね!


 君たちも命乞いされても助けなかっただろう?

 だからこれは当然の結果なんだよ。



 血まみれの船に港が騒然となる中、騒ぎに乗じて町に侵入した。

 何度かやったことあるから手慣れたもんである。


 そんでもって腹が減ったから、ここでご飯を食べてる次第である。



 このうどんの味がする何か以外にも何か食べてみるか……。


 お品書きらしきものを手に取る。


 ・○!※□◇#△

 ・!>♂×&◎

 ・※△☆▲※◎★●


 案の定である。

 でも大丈夫、指さして注文すればいいのだ。


「店主! これをくれ!」

 言葉が通じなくても堂々とやれば意外と通じるものである、私はこれで今まで何とかなった。

 自信なさげにするのが一番良くない。


 わたしの言葉が分からないお前らが悪い!くらいのメンタルで生きると、人生がぐっと楽しくなるぞ!


 こくりと頷いてにこりと微笑む店主。


 ほら通じた!

 ね?(どやぁ……)


 にこりと微笑み返す。

 笑顔は共通言語だよ!










 ごとり。


 皿に乗った、でっけぇ虫が出てきた。



 ヒュッ(息を飲む音)


 イメージとしては裏返しになったクソデカダンゴムシだ。


 えぇ……?(困惑)


 いや、クニでも虫食うとこあるけどさあ……。

 ハチノコとかイナゴとか。

 わたしはあんまり好きじゃないんだよなあ。


 箸で掴むことを躊躇するフォルムだ。


 ……自分で頼んだ食べ物だ、食わねばならぬ。

 それがわたしがわたしに誓った約束事!


 意を決して、恐る恐る脚を一本摘まもうとする。




 ツン、と箸が当たる。










 ワシャワシャワシャワシャワシャワシャ!

 一斉に脚が動き始めた!



 生 き て る 。




 はい、無理ー!

 これは無理ー!


 ととさま! かかさま! ごめんなさい、これは無理です!


 涙が出る。


 わたしが何をしたって言うんだよぉ!

 店主が不思議そうな目でこちらを見ている。

 そんな目で見るのはやめろ!




「おや? チトセさんじゃないですか!?」


 いきなり知ってる言葉で声を掛けられる。


 振り向くと、どこかで見たことがあるような無いような男が立っていた。

 ……だれだっけ?


 首をひねる。

 わたしの名前を知ってるってことは、どっかで会った事あるのかな?

 興味のない相手は刹那で忘れちゃうからなあ。


「誰だっけ?」

 素直に聞くことにする。

 知ったかぶりすると、大体ひどい目に遭うからね(n敗)


 男は苦笑しながら答えてくれた。

「あはは……フェアトラーク様とは取引をさせていただいております、リヒャルトと申します。チトセさんとは以前クランベル領都で何度かご挨拶させていただいておりますよ」


「あーあーあー」

 思い出そうとする。

 全く思い出せない(1秒)

 商人の顔とか全然覚えてないよ。


「それよりチトセさんは、なんでこんなところに?」

 まぁ、当然の疑問だろう。


 ここがどこか分からないけど、気候からしてかなり遠方なのは分かる。

 暑いんだよ、ここ。



「みんなとはぐれた」

 即答する。

「え……? こんな所まで……?」

 困惑の表情を浮かべるおっさん。


「うん、お金もないし帰り道も分からない。すごく心細い」

 そう言ってチキリ、と鯉口を切る。


 言外に『だから助けろ、おうちに連れていって』と要求する。


「そ、それは大変ですね……」

 話しかけなきゃよかったという表情で腰が引け始めるおっさん。

「うん、すごく大変」


 チキチキチキチキチキと鯉口を切りまくる。

 おう、困っとるんや、だから助けろや。


 ……じゃないと、ちょん切るよ。


 


「……チトセさんさえよければ、一緒に戻りますか……?」

 がっくりと肩を落とすおっさん。

 うふふ、最初からそう言ってればいいんだよ。


「やったあ! 話が分かるゥ!」

 静かに刀を戻す。

 帰ったらヴァイスに手入れしてもらわないとなー。

 そろそろ帰ってきてるでしょ、あいつも。


「そ、その代わりクランマスターによろしくお伝えくださいね!?」

 せめてコネだけでも作ろうとしているのか勢い込んでくるおっさん。


「いーよ、いーよ。掛った経費もあいつに払ってもらってね。あと、ついでにここの支払いもよろしく。わたしこの辺のお金持ってないし」

 ヒラヒラと手を振る。

 じゃあなんで食ってたんだよみたいな顔をされるが、気にしない。


 やったー! 帰れる!

 しこたま魚は食べたし、今はクランハウスのしょぼい食事が恋しい。

 あー、一時はどうなるかと思ったよー!


 帰ったらちょっと休んで鍛錬にあてるかなあー。


 皿の上の変な虫をこっそりと逃がしながら、わたしは帰り道に思いを馳せた。











 帰りの船がデカい海洋生物に襲われて、難破した。


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