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教導者、教育終了後捨てられる。  作者: みかんねこ
2章 隣を見よ、君は一人ではない
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第71話 教導者、叶える。

神狼縛りの魔法の紐(グレイプニール)」!!


 魔銀で編まれた鎖が生きているようにうねり、人狼に絡みつく。

 魔力を込めた爪で切り裂こうとするが、その試みは失敗に終わる。


 人狼は悲鳴を上げながら鎖に絡み取られて、四肢を封じられた。


 ギチギチギチギチギチ


 銀の鎖がその身を締め上げる。



 そうだ、これは俺がお前の為に編んだ拘束具だ。


 お前を人に戻すために祈りを込めて作った、俺の願いだ。


 お前を、救うために。








 人狼ルー・ガルーと対峙するにあたり、俺の中で決めていた事がある。


 


 



 決して、《《殺して終わりになんかしない》》。



 確かにここで彼女の命を絶てば、一連の騒ぎは収束するだろう。

 


 だが、嫌なんだ。

 どうしても、嫌なんだ。



 もう、これ以上近しい人間が。

 好きになった人間が、その人生を全うできない事に俺は耐えられない。


 ならばどうする?


 

 《《救うのだ》》!



 《《この俺が》》!




 助けを求めて手を伸ばさなくとも、その首根っこ引っ掴んで!


 

 嫌だと言っても!



 《《無理矢理、救ってやる》》!


 

 「封緘シール!」


 封印が完成した。


 ガチャガチャと音を立て、四肢を動かそうとするが俺が解放するまで人狼ルー・ガルーは動けない。


 ゆっくりと彼女に近づき、目を合わせる。

 

 「ガァァァァァァァァァァァァッァ!」


 四肢は縛られているがまだ牙があると言わんばかりに、吼える。

 ただ、もう魔力を乗せて吠える事はできない。


「なぁ、人狼ルー・ガルー


 静かに話しかける。


「話をしよう」


 心を込めて。


「話がしたい」


 願いを込めて。


「お前が何を考え、何をしたいかを知りたいんだ」



 声に鎮静の力を籠め、話しかけるが狂乱の度合いはひどくなるばかりだ。

 くそ……何か手はないのか。


 おそらく人狼ルー・ガルーは、今この時も勇者スキルの代償を払い続けている。

 それも満月の夜を再現するという特級のスキルだ。

 その支払いがどれ程になるか考えたくはない。


 このまま放置してしまうと、彼女に封じられた魔王が町中に顕現するという事態になる。

 正直そうなるとお手上げだ、俺とアリスでも逃げるしかない。



 どうするか悩んでいると、俺の服の裾がくいくいと引かれる。

「せんせい」

 魔力が目に見えて増えたロッテが傍にいた。


「おお、大丈夫かロッテ? 安定はしたらしいが」


 その言葉に答えず、真剣な顔でロッテが俺に告げる。

『団長さんは空に月が掛かっている限り、狂乱し続ける』


 口に出すのがもどかしいのか、言葉が直接送り込まれる。


『そして、スキルが発動している限り月は掛ったままだと思う』


「……詰みでは?」

 どうしようもなくね?


「そういうふうにされてるみたい、だんちょうさんは目にみえるすべてが仇にみえてる」

 ロッテが顔をしかめて吐き捨てる。


「……枢機卿とやらにか」

「たぶん」


 全く、碌な事をしない奴だ。



 空に顔を向けると、空には煌々と輝く満月が見える。

 ……あれをどうにかするというのは無理だな。


「なんとかしておちつかせるしゅだんがあれば……狂化ルナティックさえ止めればせっとくもできるとおもう」


 狂化ルナティックか。


 ……待てよ?

 狂化ルナティックは「能力強化バフ」の一種だよな?

 あれを使えば、他者の魔力も排除できるはず。


 ならば試してみる価値がある。


「ロッテ、ちょっと離れててくれ」


 こくりと頷き、小走りにアリスの元に戻るロッテ。

 うむ、今日も素直でいい子だ!

 なんでみんな生意気とか言うんだろ。


 顔をパンと叩いて気合いを入れる。


「さて、じゃあ始めるか」


 かなり目減りした魔力をかき集め、この戦いを終わらせるためのスキルを使う。

 ギリギリいけるはずだ。



 我がもたらすのは調和


 我が領域、我が領土は全てが無空むくうなり


 故に、我は何処にでもいてどこにもいない


 空と大地と海の狭間に我は遍在す


 我は魔王、有と無の境に在る烏有うゆうの魔王なり



 領域定義。


 《《世界新編》》。


 |遍在する調和《どこにでもいて、どこにもいない》


争い無き世界(スモールワールド)



 辺りを柔らかな光が満たした。






 その世界にあるのは白い一つのテーブルと、2脚の椅子だけ。


 その他には白い大地と瞬く星々のみ。

 

 


 俺の目に前に座るのは、笹穂耳を持つ美しいエルフの女。


「……ここは?」

 目を薄く見開き、辺りを見渡すルー・ガルー。


「ようこそ、俺の王国へ」

 両手を広げ、歓迎の意を示す。


 指を一つ鳴らし、ティーセットを用意する。


「……!? ヴァイスか……」

 そこでようやく俺に気付いたらしいルー・ガルーが一瞬身構えた後、力を抜いた。


「……すまない。私は……」

 俺に頭を下げようとするルー・ガルーを軽く押しとどめ、話しかける。


「このお茶はサービスだ。だから、まず飲んで落ち着いて欲しい。あ、時間については心配しなくていいぞ、外とここの時間の流れは隔絶しているからな」


 ティーカップにお茶を注ぐ。

 辺りに心落ち着く香りが漂う。


 うむ、いい香りだ。

 自分が作り出したのに何のお茶か分からんが。

 美味けりゃいいんだよ、美味けりゃ。


 しばし無言の時が流れる。

 彼女も自分の中で考えを整理する時間が必要だろう。


 いくらでも待とう。

 そのためにこの世界を作り出したのだから。




 

「……さっき自分の王国と言っていたな? ここはお前が作り出したのか?」

 考えがようやく纏まったのか、そう言いながらルー・ガルーがティーカップに口を付ける。


「あ、おいしい」

 軽く目を見開いて口を押さえるルー・ガルー。

 味わう余裕ができたらしい、良いことだ。



「だろ? 美味しいという概念を抽出して作ったお茶だ」

 冗談めかして肩をすくめて答える。 


「なんか無駄に高度なことやってるって言うのは分かった」

 そう言って苦笑する彼女。




「それで、ここは一体なんなんだ?」

 ルー・ガルーが表情を切り替えて尋ねてくる。


「よくぞ聞いてくれた。ここはな、強制的に話し合いのテーブルに着かせるために作った世界さ」

 そう言って俺は笑って、テーブルを指さす。


「洒落か」

「まぁ、俺の能力にとってこじつけは大事だからな。この世界では《《一切合切の戦闘行為が禁止されている》》。つまり、能力強化バフは強制的に解除される」


 上手くいったらいいな、という思い付きだったが正解だったようだ。



「……だから私の狂化ルナティックも解除されたのか」



「そうだ。先ほども言ったが、もう一度言おう」


 俺は彼女に手を伸ばし、言う。


「話をしよう」


 心を込めて。


「話がしたい」


 願いを込めて。


「お前が何を考え、何をしたいかを知りたいんだ」



 自分に伸ばされた手を見て、どうしようもなく強くてどうしようもなく弱いエルフは絞り出すように言った。



「《《頼みがあるんだ》》」




 彼女の願い。




「言ってみろ」




 心からの、願い。




「わたしと、ウルル(むすめ)を、たすけて」






「《《もちろんだ、友よ》》」


 そして、彼女は俺の手を掴んだ。


簡単な用語説明

 ・『争い無き世界(スモールワールド)

 ジークとの戦いで色々思う所があったヴァイスが編み出したスキル。

 敵対行為は一切できない世界を作り出す。

 広さは学校の教室くらいで、白いテーブルと椅子が参加した人数分出現する。

 お茶は飲み放題、3時間経つと茶菓子が出る。

 その場の全員の合意が取れたら解放される。

 「〇〇しないと出られない部屋」もしくは「お説教部屋」作成能力。

 ◯ーボンハウス。

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