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教導者、教育終了後捨てられる。  作者: みかんねこ
2章 隣を見よ、君は一人ではない
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第66話 教導者、飛ぶ。

 毒である。


 毒ではあるが、これは遅効性の物だ。


 恐らく村長と司祭は、後で大量の水でも飲んで吐き出したりするつもりなのだろう。

 効果が出るまでに時間が掛かる代物であるし、対処を誤らねば命に別状は無い。


 逆に言うと、対処しなければ全身が痺れに侵されて呼吸が困難になり、死に至る代物だ。

 間違っても客人に飲ませるものではない。



 ちなみに何で一口飲んで分かったかというと、同じものを以前飲まされたことがあるからだ。

 依頼で山村の危機を救った後の宴会で、酔い覚ましとして村長の娘に飲まされた。


 痺れて身動きが取れなくなった時、俺が居なくなったことに気付いたゴメスに救出されたんだよなあ。

 あのままだったら、俺は何されたんだろ。


「ナニでしょうね」


 やめろ。



 それはともかく。


 この毒が出てきた理由がモニカの名前を出したことによるものか、邪教(?)を崇めていることを知られた口封じのためかいまいち判断がつかないところだ。


 だが、遅効性という事を知っているのならば、奴らから次に出る言葉はある程度予測できる。


「おお、そうだ。もうすぐ町に出て布教……仕事をしている娘が村に帰ってくるはずなのです。探している女性について何か知ってるやもしれませんな、よろしければ帰ってくるまでウチで休んでいってはいかがかな?」


 やはり、時間稼ぎだ。

 わかっててやってるという確信が持てた。


 しかし、村長の娘……ねぇ?

 布教という事はそいつも同類か。


 こいつらからすると痺れて動けなくなった俺達を尋問して情報を抜いて、場合によっては始末する気なんだろう。


 手慣れているところを見ると、元々似たような事をやっていた村の可能性も高いな。


 ……モニカも同じように始末されたとか言うオチじゃないよね?


 リケハナのおいはぎ村といい、俺の産まれた村といい、田舎はロクな場所じゃねぇなァ!

 滅べ!


「旦那様、村の方々が返事を待ってますよ?」

 俺の心の声を聞いていたアリスが呆れたように笑いながら、俺の脇をつつく。


 おっと、エキサイトしすぎたか。


「あぁ、申し訳ない。もしお邪魔でなければ、ぜひそうさせていただきたい」


 アリスと一緒に頭を下げる。


「あぁ、お気になさらずに! 客人用のお部屋に案内いたしましょう。なに、夜までにはあの子は帰ってくるはずですので。その時は人をやりますわい」


 どことなく「してやったり」という雰囲気を漂わせつつ、村長はそう答えた。


 獲物を前に舌なめずりする奴は二流だぜ、村長さん。



 ベッドと小さな机しかない部屋に案内され、アリスと向き合って話し合う。


 もちろん遮音結界を張って、廊下で聞き耳を立てている村長の奥さんに声が聞こえないようにしておく。



 尋問の段階までくれば、きっと彼らは《《本音》》で話してくれるだろう。

 上手くいけば彼らが何に警戒しているのか、何が目的なのかを聞き出すことも可能だろう。


 痺れて動けないフリをしないといけないが、そこはまあ迫真の演技をお見せしよう。

 何と言っても俺は「演者アクター」の「演技フェイク」も使えるからな!


「うーん、しょうもないことに全力を注ぐ旦那様も素敵ですわ!」


 しょうもない言うな。



 俺やアリスがこの程度の毒でどうにかなると思っているのなら、お笑い草だ。


 まぁ、村人が旅人を罠に掛けたと思ったら、それが魔王でしたとか普通はありえんからな。

 ネタばらしする時がちょっと楽しみである。


 うひひ。


「趣味悪いですわねー」


 お前もちょっと楽しんでるだろ、俺にはわかる。


「……物語に出てくるようなシチュエーションで、ちょっとワクワクしてますわ」


 だよね。










 そんな会話をしていたその時である。











 窓の外が、《《夜になった》》。









 つい数秒まで夕暮れの山々が見えていたはずなのに、一瞬にして夜の帳が下りたのだ。


「「ッ!」」


 異変に気付いた次の瞬間、弾かれる様に俺とアリスは窓から外に飛び出して空を見上げた。












 《《満月》》が、そこに浮かんでいた。











「なァッ!? 満月だとッ!?」


 満月までは、あと数日あったはず!

 何度も確認したから間違いないはずだ!


 まさか、幻術か!?


「いいえ! あれは本物です! 本物の満月です!」

 アリスが緊張した声で叫ぶ。


 となると、一瞬で時間を進めたのか!?

 それほどまでの大魔術かスキルの発動を、予兆なく行うことができるか?


 否!


 俺だけならともかく、アリスまで欺くことは不可能だ!


「……時間に干渉せず、満月が昇るという現象を引き起こすことに限定すれば、あるいは可能かもしれません」

 アリスが眉間に皺をよせ、考え込んでいる。


 彼女にも分からないとなると、すぐに答えを得る事は難しそうだ。



 村人たちも異変に気付いたようで、村の方から困惑の声が上がっている。

 ……あいつらにとっても想定外ということか。


 となると、この村の人間による俺達への攻撃ではない?


 だとすると、これは何なんだ?

 こんな大規模な現象を引き起こす事のメリットはなんだ?


 俺たちに関係がない?

 それにしてはタイミングが良すぎる気もする。


 どうする?


 動くか、動くまいか。


 くそ、誰が何のためにどうやってこれを引き起こしたのか、見当もつかん!




「あッ」


 急にアリスが声を上げる。


「どうした? 何か分かったのか!?」


「違いますわ、旦那様。ちょっとまずい事態が起きつつあります!」

 額に手をやり、焦りをにじませた口調で続ける。
















「《《ロッテが覚醒し始めています》》!」





「はぁ!? まだ時間はあったはず……────────まさか!?」

 俺は自分の勘違いにようやく気付いた。


「ええ、あの子に必要だったのは時間ではなく、《《満月の光》》です!」


 アリスと繋がった心から、彼女の焦りと混乱が伝わってくる。


「旦那様が勘違いしているのは気づいてましたが、特に問題にならないと思っていましたの! このままでは、あの子が!」


 魔王として覚醒するとなると、街中で生命の収奪(エナジードレイン)が引き起こされる!?


 大惨事じゃねーか!


 クランベル領都が死の町になるぞ!



 ここで、こんなことして遊んでいる暇はなくなった!


 何かがここから起きた事は分かった、今回はそれでよしとする!



「戻るぞ、アリス!」

 魔力を練る。

 こうなったら1秒たりとも無駄にできない。


「ど、どうやって戻るのですか? あの場所をもう一度(ファストトラベル)ですか?」

「あれだとロッテのところに辿り着くまで時間が掛かりすぎる! その時間でどれだけ被害が出るか分からん!」


 印を組み、魔力の燐光を振りまきつつ即興の儀式を行う。


「直接、《《飛ぶ》》! アリス、魔力を回せッ!」


 以心伝心、言葉が終わる前に膨大な銀色の魔力が俺に送り込まれる。

 理論上、いけるはずだ。






 大丈夫だ、一度ならず《《2度も視ている》》!









「儀形」過負荷オーバーロード

 魔王スキル「神出鬼没《どこにでもいて、どこにもいない》」!

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