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教導者、教育終了後捨てられる。  作者: みかんねこ
2章 隣を見よ、君は一人ではない
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第62話 白魔導士、進む。

 勇者スキル「傾国テンプテーション」のトリガーが分かった。


 目を合わせた上で、意志を込めて言葉を交わすことだ。

 距離が近ければ近いほど効果は大きくなる。



 よーく考えてみると、私は初めに訪れた村で中に立ち入る事を拒否されている。

 連れていた山賊たちを裸にしてこちらに害意がない事を示して、ようやく認められた。

 好意的な態度になったのは、近くで言葉を交わしてからだった。


 この事実が示すのは、無条件にこちらの意志を汲むようになる無差別なスキルではないという事だ。


 これが分かった時は、思わず脱力して座り込んでしまった。

 分かってたら、リリーアちゃんはあんなことにならなかったのに。


 魅了するトリガーが目を合わせて会話して、仲良くなりたいなと思う事なら完全に条件を満たしている。

 あれだけ会話したらね。


 あの子の事があったから気付けたという事実もあるが、私は悔いるばかりだ。


 元気かな、リリーアちゃん。

 ……スキルの効果が抜けてるかどうか確認もしておかないといけないな。

 そうだお手紙を出そう、届くといいのだけれど。




 ここまでスキルの仕様が分かったら、やることは一つ。



 人のいるところでは、目隠しをする。


 言葉に関しては「なんとなく好ましい」程度の印象を与えるかな?くらいだったので、制限はしない。


 目を潰すことも検討したけど、やっぱり無理だった。

 普通に怖かったし……。


 ヴィーが私の立場だったらノータイムで自分の目を抉りそうだけど、私はそこまで覚悟は決まっていない。



 目隠しは単純だが、効果が大きかった。

 捕獲した山賊で試してみたけど、全然好意的にならず悪態ばかりついていた。

 その後に通った村や町の人たちは私に好意的だったけど、それはスキルの効果ではなく私の行動に対してだと信じたい。


 そこを疑いだすと、私が壊れちゃう。



 大きな町に到着し、村長さんから貰った紹介状を出すとなんと領主の館にまで案内されてしまった。


 ちなみに町を歩く際は、目隠しをして見た目がマシな元山賊に手を引かれて歩くスタイルです。


 元山賊達(100名前後。増えた)を中庭に待機させ、身だしなみを整えてもらい夕食を共にすることになってしまった。

 私は目隠しをしてて滅茶苦茶怪しいしお断りしようとしたが、あの村長さんは領主様の親類の一人だったらしく、そのままで構わない是非お礼を言いたいので……とまで言われてしまい、断れなかったのだ。


 あとで聞くと、紹介状で滅茶苦茶褒められていたらしい。

 ううむ、確かに間違ったことはしてない自信はあるんだけど……。

 それ以上に色々心苦しい事があるんだよね、言えないけど。


 夕食の席で、息子さんが不治の病だという事を聞かされた。


『もう、諦めております。それがあの子の運命だったのでしょう』


 そんなことを聞いてしまったら、もう見て見ぬふりはできない。


「では、一度見てみましょうか? 多少の心得があります」

 そんなことを口に出してしまった。

 最初の村で子供の病気を治した経験が私をそうさせたのだ。


 まぁ、言った後めちゃくちゃ後悔したんだけど。

 これだけ大口叩いて「やっぱダメでした」とか言ったらもっとがっかりさせちゃうのにね。


 でも、私が見てきた私の大好きな人だったら、きっとそう言うだろうと思ったから。



 領主様夫妻はとても驚いていたけど、藁にもすがる思いだったのだろう、すんなり案内してくれた。





 寝室で見た幼い男の子を見た瞬間、無責任な事を口に出した自分を罵りたくなった。


 彼の皮膚は爛れ、髪の毛も抜けて生きているのが不思議なくらいの状態であった。

 間違っても、ちょっと齧ったくらいの私の手に負える病気ではない。


『どうですか』


 期待の滲む声。


 うわあああああああ!無理とか言えない!!


 これは無理ですね、とか口が裂けても言えない!!!






 そこで思い出したのだ。


 そういえば、空間拡張鞄に「神薬エリクサー」あったね。


 駄目で元々!

 勝手に使ってごめんね、ジーク!


 領主様達に何も答えず、鞄から神薬エリクサーの瓶を出し封を解いた。

 そしてゆっくりと彼の口に流し込んだ。





 効果は劇的であった。


 見る見るうちに彼の肌は綺麗になり、顔色もよくなり静かに寝息を立てる健康な男の子の姿になった。

 髪の毛まで生えるとかヤバすぎるでしょ、これ。


 領主夫妻はそれはもう、驚いていた。


 もちろん、私も驚いていた。


 なんでお前が驚くんだよ、という突っ込みを入れる人間はそこにいなかった。

 それどころではなかったからだ。


 あとはまぁ、想像通りの展開だ。


『白の聖女が、国一番の医者も見放した領主の嫡男の病気を治した』


 大騒ぎだ。


 言っておくけど、私一度も自分が白の聖女だって言ってないからね!?

 いや、否定もしなかったけどさ!

 普通にちやほやされるの嬉しかったし!



 そりゃもう感謝された。

 下にも置かない扱いである。

 ここまでされると気が咎める。

 もうちょっとこう……ほどほどにしてくれると嬉しいのだけど……。


 いや、私の力じゃなくて薬の力なんですよと主張したが、全然聞いてもらえなかった。


 領主様は涙を流しながら、私に言った。

『たとえ、薬がすごいだけであっても、あなたは私の息子を救ってくれようとした。今、苦しんでいて諦めかけていた私たちの心まで救ってくれたのは貴女なのです』


 おっかしいなあ、スキルは使ってない筈なのに村長さん達みたいなこと言ってる。


 別の意味で居心地が悪いので、早々に旅立つことにした。

 元々目的があってセイリオンの大教会に向かってたわけだしね。


 散々引き留められたけど、私の意志が固いとみると残念そうに送り出してもらえることになった。

 そして旅路の支援だけでもさせてくださいと言われたので、それはありがたく受け取ることにした。


 ついでに山賊達とかのせいで交通網が寸断されて、辺境の村が大変そうだから支援したほうがいいですよと助言をしておいた。

 街道の整備と巡回の必要性も説いておいた。

 全部ヴィーの受け売りだけど。


 通り道で支援をしようと思っていることを言うと、山のような物資を渡されてしまった。

 以前配った分の補填も含んでいるらしいが、別にいいんだけどなあ!?

 山賊達から奪った分もまだ残ってるし、そもそもあれは恐らく本来近隣の人々の物のはずだ。


 まぁ……困っている人が居たら助けてあげたいから……。


 そう言うと、さらに感激されてしまった。

 アカン、もう白の聖女の名前が不動のものになってしまう!


 出立するにあたって、私用のしっかりした作りの目隠しとローブまで貰ってしまった。

 服もかなり傷んでいたからありがたかった。

 よくお似合いですよ、と言われ人払いしてもらって一人で鏡を見た。




 めちゃくちゃ白の聖女っぽい人がそこにいた。


 おあああああああああああああ!!! 勘違いが加速するゥ!


 まぁ、向こうは白の聖女だと思ってるからそういう服用意するよね!


 もうこれは諦めたほうが良いのでは?

 私は訝しんだ。



 服を用意してもらえたのは私だけではなかった。

 なんと100人前後の元山賊達にも用意されていたのだ。

 

 真っ白な品の良いローブ。


 彼らに命じて着せたのだが……馬子にも衣裳といった感じで、ものすごい立派な集団に化けてしまった。


 おあああああああああああああ!!! 勘違いが加速するゥ!



 まぁ、貰ったものにケチをつけるわけにもいかない。

 いきなり巡礼者の一団になってしまった。


 目隠しを付けている理由を聞かれた時に「魔眼の類です、目を合わせるとちょっとまずいので」と答えたら、目が見えないメイドさんが一人ついて来てくれることになった。

 正直、とても助かる。


 目が見えないメイドさんはリーゥーさんと言い、家族を亡くしてこの町にたどり着いた獣人の女の子だ。

 話しやすく、私の事もきちんとモニカさんと呼んでくれる。

 この子の帯同が一番うれしいかもしれない。


 目が見えないと言っても獣人の感覚とやらで、常人と遜色なく動けるらしいし。

 普通の話相手ができたのは、とてもうれしい。


 もう「あー」とか「うー」しか言わない山賊に話しかけなくていいんだね!



 そんなこんなで惜しまれながらも旅立つことになった。


 そして次の町にたどり着くまでに、いくつもの村を巡り。




 結果として多くを救うことになった。


 食料が不足している村があった。

 病気が蔓延している村があった。

 山賊や野盗の脅威に怯える村があった。

 魔物が出没して大変な村があった。


 出来る限り、助けた。


 理由なんて、ない。

 そんな事を考える余裕なんて無かった。


 あぁ、世界は不幸で満ちている。

 私が知っていた世界は狭かった。


 きっと守られていたのだろう。


 私はそんな世界を少しでも変えたい、そう思うようになった。


 私の意識が白魔導士モニカから、白の聖女モニカに変わっていったのは、きっとこの頃だろう。



 そして、次の大きな町に辿り着いたとき、リリーアちゃんから手紙の返事が返ってきた。

 返事が返ってくるという事は、無事であるという事だ。

 喜び半分、不安半分で手紙を開封して目を通した。


 そこにはこう記してあった。










『あなたの第一の使徒リリーアは、今日もめちゃくちゃ元気です! ばっちり布教も上手くいって、《《白の聖女教団》》の設立が認められましたよ!』


 ……悪化してるー!?


 私は膝から崩れ落ちた。

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