表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
教導者、教育終了後捨てられる。  作者: みかんねこ
2章 隣を見よ、君は一人ではない
47/183

第47話 教導者、団長を識る。

 ちらりと後ろを見ると、ウルル嬢とウチのロッテが手を取り合って笑っている。

「あぁ、いいねえ。あの子には友達が欲しかったんだよ」


 良い、とても良い。

 見ていて心が温かくなる。



 あの子はさとい。

 言葉こそ拙いが、年齢に似つかわしくない知性と理性がある。



 だからこそ人を遠ざけがちだ。



 そういう生き方を否定はしないが、あの子には世界を知ってほしい。



 ルー・ガルーが耳を軽く動かす。

 あの子たちの会話を聞いているのだろうか。

「……ふん、ウチのウルルもずいぶん気を許したようだ。……お前が何かしたのか?」

 探るような目をして、俺に言い掛かりをつけてくる。


 するわけねぇだろ。


「でもまあ、感謝する。してやる」

 ふい、と顔を背けてそんな事を言いやがる。


「えらそーだな君ィ!?」

 随分遠慮がなくなったなこのエルフ!


「それよりなんだ、わざわざ寄ってくるなんて。なんか話があるんだろ?」

 ルー・ガルーが持ってきた酒の蓋を開けて匂いを嗅ぐ。


 うおっ!? かなりいい蒸留酒やんけ!?

 これはただ注ぐだけでは酒に失礼だな……。


 パチンと指を鳴らし、空中に握りこぶし程度の氷を作り出す。

 もう一度指を鳴らし、氷をグラスの形に成形して時間停滞の術を掛ける。

 よし、上手くいった。


 そしてそこに酒を注ぐ。


 隣でそれを見ていたルー・ガルーが目を丸くしている。

「え、お前今何やった?」

「秘密」


 注いだ酒を軽く口に含む。

 口いっぱいに柔らかい甘み、鼻から抜ける爽快感。


 良い酒だ。


 魔王スキルをこういう事に使ってるとは思うまい。

 元来、こういった小技がとても得意なのだ。

 いい修練にもなる。


「持ってきた本人より先に飲むな、馬鹿者」

 半眼で俺を睨みつけた後、彼女も口に含む。


「……旨い」

 ほう……と息を吐く。

「氷が少しずつ溶けるから、味わいも変わるぞ」

「……贅沢な呑み方だな、酒好きなのかお前?」


 少し考えて答える。


「嫌いではない」


「お前にしてはあいまいな返事だな?」

 意外そうな顔で尋ねてくる。


「うむ……親父が酒乱でな」

「あぁ……」

 何とも言えない顔をするルー・ガルー。


 あまり、思い出したくない。

 しこたま殴られたからな。


「……って親父? お前親父がいるのか?」


「失礼な、俺は人から生まれたれっきとした人間だぞ? ……あぁ、言ってなかったな。俺が魔王になったのは一か月ほど前だ」


 ブーッ!


 うわ!エルフが酒を吹いた!

「きたねえッ! てか、酒がもったいねえ!」

 布巾を取り出して汚れたテーブル周りを綺麗にする。

「ゲホッ! ケフッ!」

 むせるエルフ。


 とりあえず背中をさすってやる。


「い、一か月前!? なんでそんなことに!?」

 気管支に入ったのか、涙目で咳き込みつつ聞いてくる。


「声がでかい! 色々あったんだよ!」


 魔王になった経緯をところどころぼやかして伝える。


「……通りで人間臭いはずだ」

 布巾で口を拭い、呆れたように天を仰ぐルー・ガルー。


 その布巾、机拭いたやつなんだけど。



「俺は確かに魔王だ。この身は魔力で編まれている。だがな、《《俺は人間だ》》。俺がそう思っている限り、俺は人間なんだよルー・ガルー」


 彼女の目を見て、はっきり伝える。


「俺は人間であり、人間の味方だ」


「……そうか」

 キィと音を立て、彼女が椅子の背もたれに寄りかかり力を抜く。

 静かに中空に目をやり、黙考している。


「そうか……ならば、お前にいくつか情報を渡そう」

 こちらに向き直り、ルー・ガルーが目をすっと細めて耳を指差す。


 俺は頷き、遮音結界を静かに張る。


「お前は魔王同盟という連中を知っているか?」

「なんだそれは」


 聞いたことねーぞ、そんなトンチキな連中。

 魔王崇拝者の団体か?


「その反応ならまだ接触は無いようだな。簡単に言うと魔王たちの互助組織だ」

「はあ!?」


 今度は俺が酒を吹きそうになる。

 というかちょっと吹いた。

 おい、嫌そうな顔すんなエルフ。


「よく内部で仲間割れしてるしょうもない組織なんだが、何故か魔族が肩入れしていてな。魔王とつるんでよく大事をやらかすんだよ。何度私らが壊滅させても復活しやがる」

「魔族が……?」


 あんな珍しい種族が表に出てきて何かするとかただ事じゃねぇな。

 幻惑魔術とかいう使い方によっては、大惨事を引き起こす術が使えると聞いたことがある。


「……そういや、魔王ゴブリンキング戦でも幻惑魔術が使われた可能性があると報告があったな」

 報告書にそんな記述があった。


「そうだ、あいつらが絡んでいる可能性が高い」

 ぎちり、と彼女の拳が音を立てる。


 面倒事の匂いがする。


 若干座った目でルー・ガルーがやばいことを口にする。

「お前も戦場にいたのなら、あいつらに認識されている可能性が高い」



「ワ……ワァ……」

 そんな情けない声が口から漏れる。


 ちらりと視界にアリスが映り、親指を立ててこちらを笑顔で見ている。


 聞こえてんのかよ。


 これは面倒事確定ですね。

 


「今度の遠征の際、お前に奴らが接触してくる可能性が高いと私は見ている」


 グラスを傾け、酒を一口含み考える。


「……スカウトか?」


「恐らくな」

 静かに頷く。


 嫌だぁ、絶対参加したくない。


 でも断ったら「そうか、ならば死ねい!」ってなるんだろうなあ!

 秘密結社の類ってだいたいそうなんだよ!

 経験あるよ!

 こっちの事情はお構いなし!

 やめろよ!


「とりあえず、わかった。わかりたくないけど。それで、そいつらが来たらどうしたらいいんだ? わざわざ話すんだから、俺にやってほしい事があるんだろ?」

 有用な情報だが、ただ知らせたいだけとは思えない。


 それを聞いてルー・ガルーはにやりと笑い、懐から何かを取り出しこちらに投げた。

 受け取って眺める。


「……笛?」

 銀色の小さな笛だった。

 小さく教会の印章が彫ってあるなかなかの価値がありそうな代物だ。

 

「あぁ、エルフや獣人なら聞き取れる音が出る特注の笛だ。奴らが接触してきたら、それを吹き鳴らせ」


 ふむ、それを聴いてこいつらが駆け付けるってことか。


「殺しに行く」


 わあ、物騒。


「それくらいなら構わんよ。顔も知らないそいつらと、お前たちだったらお前たちを取る」


 ただ少し気になる。

 彼女の魔王同盟に対する態度は、ただの敵に対する態度ではない。



「……なぁ、お前にとって魔王同盟って何なんだ?」







 昏い、昏い笑みを浮かべて、ルー・ガルーが呟く。








「私の旦那と、娘の仇だ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ