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教導者、教育終了後捨てられる。  作者: みかんねこ
2章 隣を見よ、君は一人ではない
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第45話 獣人、司書を識る。

「おう、ヴァイス付き合え」

 ボスがお兄さんの座ってるテーブルに、お酒の瓶を持って座った。

 あれボスの秘蔵のお酒じゃん。


 お兄さんはちょっとキョドった後、早口で答える。

「え? 俺は嫁いるんでそう言うのはちょっと……すまんな!」


 ボスは自慢の笹穂耳をピーンとして、その後意味に気付いて赤くなって怒鳴る。

「な! なんの話だ馬鹿者! ただ私は親睦を深めようとだな……」


 二人でぎゃあぎゃあ騒いでいる。

 アリスさんがニコニコしているのがちょっと怖い。



 しかしまあ、初対面の時に比べて随分仲良くなっちゃってまあ。


 普段の態度とえらい違いで思わずニヤニヤしてみてしまう。

 他の団員も目を丸くしたり、ニヤニヤして見守っている。


 あるぇー? ボスに春が来ちゃったかなー?


 まぁ、その人妻帯者だけど。

 報われないねぇ!


 まぁ、そもそもボスも《《元旦那さん》》を忘れられないみたいだしネー。

 でも、楽しそうなのはいいことだね。


 今日は調査のお仕事前の壮行会だ。

 数日後に出発しようと決まったのだけど、団体行動の際には仲良くなっているに越した事はない、と言うお兄さんからの提案で行われる事になった。


 フェアトラークのクランハウスの食堂を使って、調査遠征参加メンバーが思い思いにくつろいでいる。

 結構立派な作りで田舎の一クランの持ち物と思えない。

 稼いでるんだねえ……。



 いつの間に仲良くなったのか、メリッサがオーガみたいなオッサンとにこやかに会話している。

 ……筋肉フェチのメリッサにも春……いや、来なくていいネ。


 ここまで厚遇されることは、あたしの知る限りなかったね!

 美味しいごはんが食べられるならなんでもいいけどさー。

 あたしがすっごい食べるってことを知ってる人がいると、準備もそれに応じたものになるからありがたいねえ。


 ただ量を食べるだけじゃなくて、味もいいのが最高!

 よくわかんない魚のよくわかんない部分をお皿にとってモリモリ食べる。


 うまし!


「……これも、おいしい」

 横からぬっと魚が山盛りになった皿が差し出される。


「んなあ!? ロッテちゃんじゃないですかーわざわざありがとうねー」

「うん」

 ちょくちょく顔は合わせていたが、きちんとおしゃべりするのは初対面以来かもしれない。


 なんとなくシンパシーを感じるんだよねーこの子には。

 境遇も違うはずなのにねえ。


 ロッテちゃんは自分の皿も持っていて、静かに隣に座って食べ始めた。




 ……この子も結構食べるな!

 あたしと同じくらいの山盛りである。

 どこに入るのか興味深い。



「ロッテちゃんは今幾つくらいなの?」

 しばらく黙って食べ続け、少し満足したところで話しかける。

 飲み屋のおねーちゃんにするような質問になったけど気にしない。


 ロッテちゃんは、この会の主催者側になるからね!

 たまに教会であるようなパーティとはちょっと違うけど、あたしは気を使わなくていいからこっちのほうが良いなー。


 ロッテちゃんは手を止め、あたしの顔を見て答えた。






「ウルルとおなじくらい」


「えっ」

 思いがけない返事に驚いてしまう。

 え、え、どういう事?


「ウルル、13さいくらいでしょ?」


 衝撃を受けた。


「な……な……」


 言葉にならない。

 なんで……なんで……?


「みためはおとなだけど、わたしにはわかる」


 ロッテちゃんは静かな湖面のような赤い瞳でこちらを見ている。


 そうだ。


 あたしは……あたしの身体はもう成熟した大人のものだ。


 おそらく、年齢で言うと20台中盤から後半に見えるはずだ。

 実際、初対面の時も大人として扱われてたし。

 見た目で言えばボスよりも、お兄さんよりも上に見えるはずなのに。


 なんで?


 今まで気づかれたことは無かったのに。

 いや、別に隠していたわけじゃないんだけど……奇異の目で見られるのが嫌だったのはある。


「ウルルは、こうどうが……こどもっぽいというか、しこうがまだこども」



 というか発言が正しいなら、この見た目5歳児も13歳なのか。


 それも驚きである。

 エルフの血かなにか混じってるのかな?

 成長が遅い人はたまにいるけど、この子は別格だなあ。


「んなあああああ……うん、あたしは13歳だよ」

 観念して答える。

 むむ、耳も勝手にへんにゃりしちゃう。


「変な目で見られたくないから皆には秘密にしてね?」

 特にお兄さんには知られたくない。

 なんとなく、同情の目で見られたくなかった。


「もちろん。わたしもねんれいのこといわれるの、いやだし」

 そう言ってため息をつく姿は、確かに5歳児ではなかった。


 ……なんてーか、正反対の悩みだなあ!


 あたしも思わずため息をついてしまい、二人で顔を合わせて笑う。


 うん、そんな気はしてたけど、この子とはいい友達になれそう。

 ずっとこの町にいるわけじゃないけど、少なくとも一緒にいれる間は仲良くしておこう。


 ……あたしにはあんまり時間が残ってないらしいから、楽しい思い出いっぱい作りたいし。


「ウルルはなんでそうなったの?」


「う、うおう……ストレートに聞いてくるね……」

「まぁ、きょうみはあるから」


 少し考える。

 あんまり人に言ったことは無かったけど、聞いてもらうことで少し楽になれたりするかな?

 とくに口止めもされてないし……あたしという人間が居たことを、誰かに知っておいて欲しいという欲求も確かにある。


「まぁ、ひとにいわせるまえに、こっちからはなすべきだよね」

 そう言ってロッテちゃんが、ちょっと舌足らずの声で自分の過去を話し始めた。


「ちいさいころにさらわれて、いけにえにされそうになった。それでせんせいにたすけられた」


「えっ」

 というとお兄さんとは血のつながりはないのか。

 アリスさんと雰囲気似てたからてっきり親子かと……いや、そもそも13歳ならそれはあり得ないのか……。

 というか、生贄?


 ロッテちゃんはそのまま静かに続ける。


「わたしの人生はそれだけ。それだけしかないの。でも、せんせいはかぞく。クランのみんなもかぞく。……《《かぞくに血のつながりはひつよう》》?」


 紅い目があたしを真っすぐ見ている。

 あぁ、そんなところも似てるんだあ。

 なんとなく嬉しくなってしまう。


「ううん、あたしは必ずしも必要じゃないと思う。ボスはあたしのお母さん。騎士団のみんなもお兄ちゃんとお姉ちゃん。みんな家族!」


 ロッテちゃんがにっこり笑う。

 うん、うん! 良い笑顔だ!

 あたしもつられて笑顔になる。


 ……この子には……新しい友達にはあたしのことを知ってほしい。


「今度はあたしの番だね」


 あたしはロッテちゃんに、ゆっくりと語り始めた。


 己の呪われた半生を。

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