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教導者、教育終了後捨てられる。  作者: みかんねこ
2章 隣を見よ、君は一人ではない
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第38話 教導者、遭遇する。

「センセ、お昼ご飯食べに行きましょう。センセのおごりで!」

 クランハウスで書類仕事をしていると、マルティナがぴょこんと顔を出して誘ってきた。


 ……そういえば以前そんな話をした気がする。

 楽士のマルティナはもうすぐ芸術の都ロステルに旅立つんだったな……。

 一人前になるんだって張り切っていた。


 ならばこのお誘いは断れない。


 ちょっとやそっとで会える距離ではないし、しっかり顔を合わせて話をしておきたい。


 いつ会えなくなるか分からないって痛感したからな。



「そうだな、約束してたもんな。いいよ、魚食いにいこう魚」

 ささっと書類を仕上げて机の上を片付ける。

 まだ資材購入書類の確認が必要だが、必ずしも俺がやらなくてはならない仕事でもない。


「ゴメス、あとやっといて」

 隣のデカいのに投げる。

「ヴぇ!?」

 マジかよという顔でこっちを見るゴメス。

 

「ちゃんと土産は買ってくるから、頼むよ」

「……しっかたねぇですなァ……次はワシも連れて行って下せェよ?」

 その輝く頭をぺたりと撫でながら、ボヤくゴメス。

 



「あれ? 二人だけでいくの? 奥さんは呼ばなくていいの? ウワキ?」

 マルティナがニヤニヤしながら、肘で俺をつついてとんでもないことを言う。


 「浮気するなら死んだほうがましだよ!!! 死んだほうが!!!! ましだよ!!!!!!!」(絶叫)


「あ、はい」

 真顔になるマルティナ。


「おや? 旦那様ウワキですか!? この小娘が泥棒猫ですか!?」


 ぬるりと机の影からアリスが出てくる。

 そして名状しがたい動きでマルティナに這いよる。


「ひぃ!?」

 怯えて俺に飛びつくマルティナ。

 うん、怖いよな。


 動きが……こう……生理的に嫌悪感を感じるよな。

 わざとなんだろうけどやめてほしい。


「あらやだ、わたくしより若い子がいいんですの!?」

 ショックを受けたような顔をするアリス。


 大体の生き物がお前より若いよ。


「旦那様、それは絶対に言ってはならない言葉です」


「俺は何も言ってないぞっ!? 冤罪だっ!」

 首をギチギチと絞められる。


 こいつ! 本気で絞めて……ッ


 ぎゃあぎゃあじゃれ合う俺とアリスをみて、マルティナがほっこりした顔になる。


「なんだマルティナ、その表情は」

 俺は生命の危機を感じたぞ。


「いや~、仲いいなって! 信頼し合って素敵だなって思っただけだよ!」


 そう言ってひまわりみたいに笑う。

 ぺかーっていう擬音が良く似合うそんな笑顔だ。

 今日も元気でよろしい。


「あらやだ、この子すごくいい子では!?」

 アリスさんの手の平大回転である。


 絞められて手の跡がくっきり残った首筋をさすりながら答える。

「マルティナはいい子だよ。初めてここに来た時から小さい子たちの面倒を見てくれてたからね。色々大雑把ではあるけど、誰よりもみんなの事を気にかけてることを俺は知ってるよ」


 それを聞いてマルティナが真っ赤になって下を向く。


「……ありがと、センセ」


「また先生が教え子口説いておりますのゥ……」

 半眼でこちらを見てゴメスがいらんことを言う。


 口説いとらんわ。


「君は素敵な女の子だよ、マルティナ。自信をもって」

 昔のように、頭を優しく撫でる。


 この子はなかなか人に甘えられないからな。

 今のうちに精一杯甘やかしてあげよう、そう心に決めた。


「やはり……浮気……!?」


 アリスさん、欠片も思ってないでしょ。

 このくらい普通普通。


「まぁ、旦那様に限ってそれはないでしょう? ちゃんと《《毎日愛していただいてますし》》」

 しれっとアリスさんがとんでもないことを言う。


「えっ」


 マルティナがものすごい顔でこっちを見て、飛びのいた。


「それはちょっと傷つくぞ、マルティナぁ!」

 ひどくない?


「あ、いやごめん。なんてーかちょっとびっくりしただけ! センセもやることやってんだなーって思っただけだから!」

 顔を赤くしながらパタパタと手を振るマルティナ。


 あ、なんか勘違いしてんな?


「愛してるって言うのはそういうアレじゃなくてな……寝る前に膝枕して頭を小一時間撫でてるだけだよ!」


「それはそれでちょっとすごいと思うよ、センセ」

 真顔でそんなことを言うマルティナ。


 そうなの?

 アリスさんを見ると満ち足りた表情をしておられる。


 よくわかんねえや。


 モニカとはそういうスキンシップあんまりやってなかったから、積極的にやってるつもりなんだが。


「でも、本当なら素敵だと思うよ! 私もいつか旦那様出来たらやってもらいたいもん! ちょっとあこがれちゃうよ!」

 鼻息荒くこぶしを握り、マルティナが叫ぶ。


 叫ぶほどの事か……?

 チラリとアリスを見る。


「とっても素敵な気分になりますからおすすめですわ!」

 アリスがサムズアップして微笑む。


 まぁ、喜んでるならいいんだけど。


 マルティナの将来の旦那さん、頑張ってください。

 あれ結構大変です。

 うでが、つかれる。


 そんなこんなでいつの間にか湧いて出てきたロッテも拾って、一緒に食事に行くことになった。

 最近ロッテが妙にアリスに似てきたんだよな……。


「先生、やっぱりワシも行きたい。面白そう」

「そのうちな」

「ワシ知ってる、それ連れて行ってくれないヤツだ!」


 よくわかってるじゃないか。






 そんなこんなでゴメスを置いて、美味しい魚が食べられるお店に到着した。


「うっわ、こんな高そうなとこでいいの!?」

 マルティナがピョンピョン跳ねながら喜ぶ。


「そんなに高級って訳でもないぞ、行きつけというかこの町で魚を食べるならここって感じだな」

「どんなさかながたべられるの?」

 ロッテがよじよじと俺に登りながら問う。


「そうだな、ゴンフゲジャフアとか食えるはずだ」

「え、何ですかそれ」


 アリスが真顔で尋ねてくる。

 知らんのか。


「魚だよ」

「どんな?」

「赤い…尻尾が緑で棘があって……毒がある」

 手でだいたいの大きさを示してやる。


「……それホントに食べられる魚なんですか……?」

 アリスさんは懐疑顔。


「美味しいよ?」

 まぁ、食えば分かるだろ。


「マスター久しぶり、4人いけるー?」

 ドアを開けながら厨房の方に声を掛ける。


「おや、ヴァイスじゃねーか! 空いてるからてきとーに座れや!」

 奥から山賊みたいな店主が笑いながら包丁を持ったまま出てくる。


「ひぃ!? 山賊!?」

 マルティナがビビってる。

「大丈夫、今は山賊じゃないよ」

「えっ」


 そんな感じで俺たちはテーブルについたのだった。





 早速、新鮮なゴンフゲジャフアを焼いてもらい食べることになった。


「これは美味しい。☆3つあげます!」

 目を輝かせて声を上げるアリス。


 アリスさん本日2回目の手の平大回転だ!


 ☆3つって何。


「た、確かにこれは美味しい……!」

 マルティナが一心不乱に口に詰め込んでいる。

 慌てなくても逃げないよ。

 ゆっくり食べなさい。

 ほら、水。


 ロッテは手にフォークを握り、眉間にしわを寄せてどう食べたらいいか悩んでいるようだ。

 不器用だからな、この子。


 チトセから教えてもらったハシで身をほぐしてやり、食べさせる。

 このハシというヤツは魚を食べるのに最適だと思う。


「はい、あーんして」

「んあー」


 ロッテの口の中に放り込む。


「これは……! なんというほうじゅんなうまみ! それでいてしつこくない!」

 いつもハイライトがないロッテの目が輝いている!

 そんなに美味しかったか。


 やはり美味しいものはみんなを幸せにするんだなあ。

 好評のようだ、よかったよかった。


「旦那様! わたくしも! あーん! あーん!」

 アリスが机をバンバン叩きながら口を開けてこっちを見ている。

 他のお客さんの迷惑だからやめようね。

 

 「他のお客さんいないじゃないですか」


 そう言うこと言うなよ、マスター泣いてるぞ。


 この子はこういった行為に変な憧れというか、そういうのがあるんだよなぁ。

 ……付き合ってあげないと不機嫌になるから、極力やってあげている。


 せっせとほぐして口に放り込んでいると、マルティナまで口を開け始めた。

「センセ! あ、あーん!」


 雛に餌をやる親鳥の気分だ!

 まぁ、折角だしやってやるか……。

 マルティナも孤児で、こんな経験はなかったろうしな。


 そんな感じで和気あいあいとしながら食事をしていると、すっと誰かが俺たちのテーブルに寄ってきた。


 「…………」


 艶やかな銀色の毛並みを持つ猫獣人の女が、テーブルの上の魚を凝視している。


 「…………」

 「…………」

 「…………」

 「…………」


 会話が止まる。


 なんだこいつ。

 

 ぎゅるるるるるるるるる……


 獣人の腹が鳴る。


 「…………」

 「…………」

 「…………」

 「…………」


「あ、お構いなく」

 手を振る知らない猫獣人。


「「いや、構うよ!? 誰!?」」

 俺とマルティナが叫ぶ。


 アリスとロッテは我関さずといった風に魚を食べている。

 マイペースな奴らは強いなあ!

 てか、ロッテお前普通に食えてるじゃねーか!



 チャラ……と猫獣人のぶら下げているタリスマンが音を立てる。


 あの印章は見たことがある……。

 どこで見た……?


 「たぶん、きょうかいきし」

 ロッテがボソリとつぶやく。


 そうだ! あれは教会騎士の印章!

 

 教会の実行部隊がなんでこんなところに……?

 大教会から滅多に出ることは無いはずだが。

 ……彼らの仕事に魔王討滅があったな。

 

 ……俺とアリスの事を嗅ぎ付けた?

 いや、それにしても早すぎる。

 大教会からここまで半年はかかる筈だ。


 万が一のことを考え、魔力を練る。

 街中で暴れる気はないが、何もせず捕まる気もない。


 すると彼女がそれに反応したようにこちらに視線を固定し、目を見開いた。


 その金に光る瞳がこちらを静かに見つめている。


 ……! こいつは!

 その時ようやく気付いた。


 この気配は知っている! こいつの身体に宿るその力は……!


 彼女は思わずといったように俺を指さして言った。




「お兄さん、アナタから魔王の匂いがします」

簡単な用語説明

 ・獣人

 いろんな種類がいっぱいいます。

 いいよね、獣人。

 教え子にもいるよ。

 差別とかはこの近辺ではありません。

 どのくらいのケモ度かは、みんなの好きなケモ度でいいです!

 俺はちょっと毛深いくらいが好き。

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