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教導者、教育終了後捨てられる。  作者: みかんねこ
1章 どんなに暗くても、星は輝く
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第36話 閑話2 ロッテ

 私は魔王の巫女だ。

 魔王にこの身を捧げるために産まれてきた。


 両親は知らない。

 物心ついたときにはすでにそんな立場だったし、考える必要もなかった。


 そう。


 私には何一つ必要とされなかった。

 言葉も与えられなかった。

 今考えるとよく生きていたものだ。


 いや、先生風に言うならば「ただ生きている」だけであったのだろう。

 たまに食事をして、呼吸をしているだけ。



 私は捧げられる為に産まれ、育てられた。

 考える事も求められなかった。

 日の当たらない小屋で、ただ呼吸をしていた。


 そしてあの日。

 食事を運んでくる世話係ではない人が来て、私を連れて行った。

 そこに特に思うことは無かった。

 何か白い粉を与えられ、祭壇に捧げ置かれた。


 ぼんやりと「おしまい」の雰囲気を感じたのを覚えている。

 そんな言葉は知らなかったが、動物でもそれくらいは悟るものである。


 今考えるとあれは供物をささげる儀式だったのだろう。

 周囲からそんな熱気を感じた。

 それが最高潮に達した時、何人もの人が飛び込んできた。


 なにか大声で叫んで、そこにいた黒ローブの人間を追い散らしていた。

 私はそれをぼんやり見ていた。


 危機感も何も感じていなかった。


 なんかいつもと違うなという事を考えていた。


 そして乱入してきた人が私を見て眉をひそめた後、何か声を掛けてきた。

 今ならわかる。

 あれは多分名前を聞かれたんだ。


 私はどうしたらいいか分からなかったので、以前聞いた音を再現してみた。


 それが「ロッテ」。



 今の私の名前だ。





 ごめんね、先生とみんな。

 言ってなかったんだけど、それは私の名前じゃないんだ。






 それは。







 私に埋め込まれた魔王の欠片の名前。

 私の内に眠る魔王「シャルロッテ」。


 彼女の名前なんだ。


 本が読めるようになった今なら分かる。


 そう、文献に出てくる災厄の魔女。

 古代魔法文明を滅びに導いたとされる、滅びの魔女。

 その身を争って戦争が引き起こされた、悲劇の魔女。


 あの連中がどうやってそれを手に入れたのかは分からない。

 それは何人かに与えられ、生き残ったのは私だけだった。


 私に根付いている、欠片。

 ちいさなちいさな魂の破片。


 私の中に眠るのはその残滓。

 吹けば飛んでしまいそうな、煙のような儚い力。


 間違っても本体じゃない。

 本体から比べると本当にちいさな、ちいさな爪の先のようなそんな存在。


 それでもかすかに聞こえる。

 私の耳ではなく、心に響いてくる。


「探せ、共に生きるものを。寄り添い、生きよ」


 あの環境で生きのこれたのはきっとこの声があったから。

 意味は解らなかったけど、彼女の渇望は伝わってくる。


 狂おしいほどの衝動。

 切なくなるほどの祈り。


 何もなかった私はその衝動も心地よい物だった。



 それを理解した後もみんなに告げなかった。

 内なる「シャルロッテ」がそうしたほうが良いと囁いてきたから。


 たまにジークが変な顔でこっちを見ていたが、あれは何だったのだろう。

 幼女趣味なのか。

 

 地獄に落ちろ。





 先生に助けてもらってからは全てが変わった。

 私には何もなかったし、先生は教えるのがとても上手かった。

 

 乾いた布が水を吸い込むように知識を蓄えていった。

 私の人生で一番輝いていた時期だろう、まだ10年しか生きてないけど。


 それがとても上手くかみ合い、気付けば私はかなり「まとも」に見えるようになった。

 まぁ、内面なんて外から見えないから外だけとりつくろえば案外人は気にしないものだ。

 

 言葉だけは上手く操れないけど、そこは今後の成長に期待だ。

 成長に関しては時間が解決してくれるだろう。

 大丈夫だよね?

 さすがに5歳児扱いされるのはちょっと。


 温かく迎えてくれたみんなには感謝している。

 あそこで終わる筈だった私に進むべき道ができたのだ。

 感謝してもしきれない。


 特に先生は全てを与えてくれた。

 知識、感情そして愛情。


 恐らく必要だと思ったものは全て、惜しみなく。


 あの人も家族と上手くいかなかったクチだから、家族をやり直したかったんだろう。

 たまに距離感が分からなくなるが、嫌がってる様子もないので大丈夫だろう。


 そんなある日、先生が居なくなった。

 なんでもクランを抜けたのだという。


 私の感想としては「そのうち戻ってくる」だ。

 それが一週間後なのか半年後なのかは分からないが、間違いなく戻ってくる。

 ジークが何かしてるのは知っていたが、あれはおそらく失敗するだろう。

 先生の事を近くで見ていたからわかる。

 アレの代わりは無理だ。


 なんだかモニカがやたらカリカリしていたが、なんでそんなに信用できないのか理解できない。

 そう言うと「薄情者」呼ばわりされた。


 失礼な。


 こうなるまで何も手を打たなかったお前の方が薄情者だ。





 案の定ジークがやらかしてクランが半壊したタイミングで帰ってきた。

 よく知っているクランメンバーもいなくなったり怪我したりして心は痛んだが、私にできる事は何もない。

 何より人はいつか死ぬものだ。

 それが今日か明日かは知らない。


 だから人は精一杯その日を生きるべきだと私は思う。



 まぁ、なんにせよ先生は帰ってきた。



 ほらね? と言いたい。



 思ったより滅茶苦茶な帰り方だったけど。

 

 なんで空から落ちてくるのか。

 相変わらず奇想天外な人だ。


 ただ問題はその隣にいた人物だった。

 整った顔立ちの綺麗な女の人だった。


 なぜかメイド服を着ている銀髪の見たことない女。

 先生の傍で、先生に幸せそうに寄り添っていた。








 私の中の「シャルロッテ」が反応した。


 蠢き、暴れた。







 驚いて顔を向けると、その綺麗な紅い瞳がこっちを見ていた。

 そしてゆっくり、私だけに見えるように唇に指を添えた。




 あぁ、なるほど。

 そういう事。



 目が覚める思いだった。




 ジークとのごたごたが終わった後、クランハウスで「アリスさま」とお話をした。

 有意義な話し合いだった。

 あの方も気付いていたようで、とても楽しそうに笑っておられた。



 私もお傍に侍ることを許可された。


 先生はあの方の伴侶になられたのだ。

 ならば私もお傍にいるべきだ。




 アリスさまから時間を頂き、ジークが言っていたように魔王になったのかと尋ねたところ肯定された。


 震えた。

 


 あぁ。


 理解した。


 やはり私は魔王の巫女。


 魔王に傅き、傍に侍り、全てを捧げるもの。




 先生。



 大切な先生。



 我が主さま。



 ずっとお傍にいます。


次から2章になります。

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