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教導者、教育終了後捨てられる。  作者: みかんねこ
1章 どんなに暗くても、星は輝く
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第35話 閑話1 チトセ

わたしは今、お魚を食べています。


 うむ。

 美味しい。

 名前も知らない白身の魚である。

 大きさは両手の手の平二つ分くらいで……わりとデカい。

 身離れがよく、脂もしっかり乗っておりうま味が強い。

 噛み締めると丁度良い塩加減の脂が口いっぱいに広がり、蹂躙する。

 小骨も少なく、食べやすい。


 完璧な魚だ。


 ただ、色が真っ赤で怖い。

 尻尾は緑とかなんでこんなに鮮やかなの……?

 とげもやたら生えてるし……店主曰く毒があるから触るなって。


 いや、危ないから抜いてよ!

 なんでご飯で毒の恐怖と戦わないといけないのよ!!


 でもおいしいからなあ……。

 また食べよう……。


 白身をまた一口むしり取る。

 うまい。


 前住んでた町だと魚あんまり食べられなかったからなあ……。

 自前の箸で身を剥きながらぼやく。

 お肉とかはおいしかったんだけどねー。

 やっぱりわたしはお魚のほうが好きだな、うん。


 クランハウスの食事は味より量!って感じだったし。

 まぁ、あのクランの人間は恵まれない出自の人間が多かったし、身体を作るうえでは正解なんだよねえ……。

 全体的に肉多めで体を作る成分が多かったし、あれはわかってやってたんだろうな。

 アレ考えたのもヴァイスでしょ?

 なんなのあいつ。

 うちの一族が時間を掛けて得た知識をどっから持ってきたのやら……。


 ヴァイスと言えばわたしが箸つかってるの見て真似しだして、一時間後には使えるようになってたな……。

 気持ち悪ッ。

 実家の秘儀の「糸繰」をちょっと自慢して見せたら真似し始めて、もうちょっとで使えるようになってたし。

 やめろよ! わたしの一族が数百年かけて鍛え上げた技術をあっさり体得するのやめろよ!

 わたしが何年かけて覚えたと思ってんだ!

 あの時は流石に泣いた。






 むしり。

 うまい。






 現実逃避である。


 前住んでた町の名前が思い出せない。


 ……この国の地名覚えにくいんだよう!

 ツシマとかゴトウとかだったら覚えやすいのに。

 ~ブルグとかそんなんばっか!

 もう! もう! んもー!


 まぁ、思い出せないからこんなとこにいるんですけどね……。

 溜息をついて店先から外を眺める。


 港町である。

 滅茶苦茶船が行きかっているし、海鳥はいるし、すごく磯臭い。

 磯臭いのはちょっと懐かしい。

 どこの国でも海辺の匂いは同じなんだねえ……。





 どう考えても元居た町ではない。


 ここどこ。


 ヴァイスが文字読めれば迷子になっても大丈夫だよとか言ってたけど、残念でした!

 固有名詞が覚えられなくてなにもわかりませーん!


 あはははははははっはあ……。




 むしり。

 うまい。




 もうめんどくさいし邦に帰ろうかなあ……。

 十分武者修行したでしょ。

 2年?か?それくらい?


 まぁ、邦の方向も分かんないんだけど。

 イーストエンドって言われてるから、東に行けばつくのかな。


 東って……ひ……ひだり?


 あ、なんか太陽の登るほうって聞いた覚えがある!


 空を見る。




 お昼だから天頂に輝いてますね。

 どっちだよ。



 むしり。

 うまい。



「ねえちゃん美味そうに食うなあ……もう一匹食べるか?」

 店主がのんびりと声を掛けてくる。


「いただこう」

「あいよお! ゴンフゲジャフアもう一丁!」

 店主が厨房に声を掛ける。


 なんて?


 今なんて言った?


 どういう意味なの!?


 何を意図した名前なの!?


 え、これ食べたいときはさっきの名前言わなきゃならないの?

 無理無理無理!

 もうすでになんて言ったかわかんない。


 難易度が高すぎる。


 サバとかマグロとかもっとわかりやすい名前にしなさい。


「うまいだろ、ゴンフゲジャフア」


 隣にいたオッサンが話しかけてくる。

 あ、やっぱりそれ正式名称なんですね。


「うむ、初めて食べる味だ。実にうまい」

「だよなー、俺もここに来た時びっくりしたぜ!」

 人当たりのいい笑顔でオッサンが言う。


「それのほかにもhんふぁjd;も旨いぞ!」


 なんて?


 今なんて言った?


 もう聞き取ることすらできなかったんだけど!


「ほ……ほう? そんなに旨いのか……」

 動揺を押し殺して言う。


「ほっぺたが落ちるかと思ったぜ! あとはkl;あjkfもな、あれは焼くと甘いんだ」


 甘い!?

 海産物が甘いの!?

 あとやっぱり何言ってるか分かんねーよ!


 もうやだ! 小生おうちに帰る!


 おうちはどっちですか?


「あいよお! ゴンフゲジャフア一丁!」


 なんかよく分からない魚がまた来た。


「あとこれはおまけだ!」

 ゴトリと皿が置かれる。




 なんか黒い。

 黒くて……丸い。


 なにこれ?

 困った顔で店主を見る。


「いいってことよ!」

 サムズアップされる。


 違う! そういう意味で顔をみたんじゃない!


「お、トゲアリトゲナシトゲトゲモドキカタリニセマンジュウガニじゃん!」

 隣のオッサンが叫ぶ。


 今度は聞き取れたけど意味が分かんない。


 とげがあるのかないのか。

 何が偽なのか。

 何を語っているのか。

 そもそもカニなのこれ?


「旨いぞ」


 旨いのか……。

 とりあえず箸を伸ばそうとしたところ、止められた。


「そこには毒がある」


 だから毒があるものを出すな!

 事前に説明しろ!






 味はすごくよかったです。


 ごちそうさま。

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