表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
教導者、教育終了後捨てられる。  作者: みかんねこ
1章 どんなに暗くても、星は輝く
29/183

第29話 教導者、護る。

 莫大な魔力がうねる。

 空間がねじれ、軋みを上げる。

 光が凝縮し形をなす。

 空気が震え、耳障りな音を立てる。


「これは……ッ」


 俺が見た事ないスキルだ。

 使用されている魔力量がすさまじい。

 今の俺の目には巨大な渦のように映っている。


 ギチギチギチギチギチギチギチギチ……



 魔力のたかまりが閾値いきちを超える。



 あぁ、何かが……来る!! 来るぞッ!!



 ジークが壊れたように笑っている。

「ははははははははははは! これで終わりだ! お前も! 俺も!」

 

 魔力の凝集が収まり、光が集まり巨大な天使が顕現する!

 背に日輪を背負いし神に似たるもの!


 ジジジジジジジ……


 神々しくも無機質な目がこちらを静かに見ている。

 その眼差しは怜悧にして怒りを孕んでいる。


 日輪、書物、巻物、炎の聖剣、手のひらに火……


 それは伝承に伝わる大天使!


「大天使ウリエルかッ!!!」


 裁きを司る大天使!

 己の正義を基準にすべてを焼き払う権能を持つ怒りの化身!


 こんな隠し玉を持っているとは!

 驚きと、僅かな喜びが胸をよぎる。


 あぁ、先生としては教え子の成長は嬉しいが、相対する場合はちょっと困るな!



 大天使ウリエルがその手に握りし炎の聖剣を振りかぶる。

 焔が剣に集まり、白熱する。

 再び空間の魔力が脈動する。

 

 ギチリ ギチリ ギチリ


 肌がピリピリするほどの威圧感。


 そして気付いた。


 俺の後ろにはクランメンバー達がいる。

 


 まずいッ!


 


 こいつここに居る人間を全員焼き切るつもりだ!

 ぞわりと背筋に悪寒が走る。

 

 これ以上、失うわけにはいかない。

 それは許されない。


 赦されてはならない!

  


 魔王殺し(ジャイアントキリング)


 ウリエルの聖剣が、更に対魔王の魔力で覆われた!

 性質の違う魔力が弾けながらも絡み合う。


「!?」


 重ねてきただとッ!?

 どんなスキルもそうだが、重ねると使う魔力が跳ね上がる。


 勇者スキルの重ね掛けだと、どれだけ使うか想像もつかない。


「お前は! ここで殺す! 絶対に殺す! 代償なんて知った事か!」


 ジークの狂気を孕んだしわがれた声が聞こえる。

 なんでこうなっちまったかなあ……。


 それなりに上手くやってきたつもりだったんだが……。


「うわああああああああああああああ!?」

「きゃああああああああああああ!?」

 危機感を覚えたのか教え子たちの悲鳴が聞こえる。



 やらせはしない。


 必ず、護る。



 右腕を前に出し、印を切る。

 空間に魔力でもって線が引かれ、陣を成す。

 己の器から練った魔力を引き出し、力と成す。


 想いを持って、護りと成す!



 スキル「儀形」過負荷オーバーロード


「模倣! 位相結界《ジズの卵殻》!」


 伊達にジズの結界内で長年暮らしてない!

 時間停滞は無理だが、位相結界は解析して理解し改変までできている!


 ただ問題なのは、実戦で使うのはこれが初めてなんだよね……。


 この結界はかなり魔力を使うし、範囲が酷く大雑把になる。

 長時間は維持できないしまるでいいとこなしに思えるが、効果は絶大だ。

 細かい理屈は置いとくとして。



 この結界は、アリスの一撃に耐えた実績がある!



 ギィィィィィィィィィィィィィィィィィィッ



 薄い卵殻のような結界と、莫大な力を孕んだウリエルの炎の聖剣がぶつかり合う。


 世界を切り取り護りとする結界と、世界を焼き尽す炎がお互いを侵さんと噛合う。


 この結界は薄く見えるが、空間を切り取ったものだ。

 あの爪の先にも満たない場所は、ここではないどこかだ。


 故に。


 あの剣がこちらに届くことは無い!



 ……多分。




 ドドドドドドドドドドドド!



 熱せられた空気が膨張し、大爆発が起こり視界が真っ白に覆われる。

 どうなってるかさっぱり分からない。


 ただ熱も何も感じない。


 背中にくっついたアリスの体温は感じるから、俺は生きてはいるのだろう。


 離しなさい。



 すぐに光は消え、静かになる。


 大天使ウリエルの姿はすでにない。

 まあ、あの魔力量は維持できないよなあ……。


 結界は維持したまま様子を見ていると、膝をついたジークの姿が見える。


 ……あぁ。







 ジークの燃えるような赤髪が、真っ白になっている。






「う……あ……」

 もう真っ直ぐ立つこともできないようだ。


 正直、予想はしていた。

 でもそうなってほしくはないとも思っていた。


 ジークは代償をもう払えない。


「……もう抑えられませんわね」

 アリスが憐れみを持って呟く。


「…………そうだな」

 絞り出すように、答えた。


 止められなかったか。

 最後の理性に期待したのだが……勇者スキルの強制力はそれほどのものか。


 愛も情も、無力か。


 虚無感に苛まれる。



 勇者スキルは魔王スキルと人間の魔力が混ざり合って生まれる。


 故に。


 人の魔力がなくなれば、それは魔王の魔力となる。


 代償の行く先はどこか?


 それの答えがここにある。




「あぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁ!」

 ジークが苦しみ始める。


「はじまりますわよ、目を背けてはだめです。

 これはあなたが作り出した地獄なのだから」

 アリスが静かに囁く。


 こういう時は厳しい女だな、お前は。


 わかってるさ。

 後始末まで、きっちりやる。





 声が聞こえる。


 黒い魔力で綴られた、人ならざる者の声が。


 言葉にはならぬ、殺意のみが伝わる声が朗々と蒼天に響き渡る。


 生命収奪エナジードレインが巻き起こる。





 結界を変形させ、人間を守るようにしておく。



 あぁ、再び生まれる。


 悪意の落とし子が。


 人に封じられし魔王が!




 「ヂュイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!」


 おおきなおおきな鈍色にびいろの獣が現れる。

 

 強欲なる多数の配下を引き連れ、悪意を伝染させ都市を壊滅に追い込む獣。


 その身に宿るは黒き病!


 魔王「鉄鼠」顕現。


 

 「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!」


 其は神聖なる光。

 

 背負うは日輪。


 左手には書物、右手には炎の聖剣。


 『正義』を執行し、すべての魂を審判の席に座らせる懺悔の天使。


 その身に宿るは裁きの炎!


 魔王「ウリエル」顕現。

 

 

 

 魔王が二柱、顕現した。

 この世の地獄がここにある。

 死が撒き散らされようとしている。


 死は救いである。

 死は幸いである。


 すべての物に滅びあれ。




 

 「いいだろう! やってやろうじゃねぇか!」


 己を奮い立たせ、前に出る。

 引くことは許されない。

 俺自身が許せない。



 「俺の魔王としてのデビュー戦だ!


  鼠は二度目か! またお前と遭うとはなあ!


  お前は天使か! 神の使い走り風情に負けるわけにはいかんなあ!


  二柱まとめて、その魂砕いてやろう!


  全て喰らい尽くし、平らげてやろう!!

  

  いきなりスキルを全開で使う羽目になるとはなァ!


  魔力をよこせアリス!」


 己の魂の器と対話し、魔力を動かす。

 黒い魔力がうねり、脈動する!

 魔力の余剰が黒い稲妻となり、俺の周囲で弾ける。


「推しに貢ぐ町娘の気持ちって、こんな感じなんですのね!」

 なんかアリスがやたらウキウキしながら言っている。


 何言ってるんだ?(困惑)


 「魔王領域展開!|遍在する調和《どこにでもいて、どこにもいない》」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ