表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
教導者、教育終了後捨てられる。  作者: みかんねこ
1章 どんなに暗くても、星は輝く
28/183

第28話 聖騎士、教導者と殺し合う。

「俺からお前に贈る、最後の授業だ」 


 先生はそう言うと、静かに腰に付けた空間拡張鞄に手をやった。


「あまり知られていないが、教導者はありとあらゆる武器が使えるように適正がつく。

 使えないと教える事も出来ないからな。

 と言っても達人になれるわけじゃない、文字通り『なんとか使える』レベルだ。

 ただ、使うこと自体が強力なアドバンテージになるものもあってな」


 いつもの講義の様に淡々と先生が話す。


 あぁ。

 先生はいつもそうだった。


 人に教える時、感情は極力込めないんだ。




 武器か、何だ何を出す?


 教えるときによく使っていた剣か?


 模擬戦でよく使っていた棍とかいう棒か?


 それとも一番得意と言ってた弓か?


 先生は色々な武器を使う。

 だが全て「そこそこ」程度の腕だ。

 普段使っていた武器も品質のいいものではなく、数打ちの武器を好んで使っていた印象が強い。


 腕前的には素人には余裕で勝てるが、熟練冒険者相手だと力負けする。

 技術もそうだし、ジョブスキルによって増強された身体能力に追いつけなくなっていた。

 先生の性格上、やや守りに偏るが全体的に手堅いという評価になる。


 少なくともここ2年くらいは模擬戦で勝負して負けたことは無い。

 最後にやり合ったのはいつだったか、覚えていない。


 だが、なんだこの嫌な感じは。

 先生から感じる魔王の魔力以外に、なにかにじみ出るような黒い気配がする。

 あまり大きいとは言えない、その体躯から醸し出される気配。

 大きな何かが潜んでいる藪のような……。

 何が怖いのか分からないが、その分からないこと自体が怖く感じる。

 

 確かに、先生と本気で殺し合ったことは無い。

 いや、最初スラムであった時は殺す気だったか……。

 即叩き伏せられたが。


 これが先生の殺気か……?

 首筋がチリチリする、ヤバい相手に会ったときの感覚だ。


 ずるり。


 そんな擬音が聞こえるような感じで長大な何かが出てきた。


 それはひどく武骨な鉄の塊だった。

 鉄塊をそのまま剣の形にしたような、そんな武器だった。

 長さにして5mほどか。

 おおよそ人が振り回す大きさではない。


「これはドラゴン殺しという。西のドワーフが作った大剣だな。

 まぁ、見ての通りデカい。

 ドラゴンを殺すための武器だからそりゃそうだよな。

 デカいドラゴンを倒すならデカい武器にしなくちゃならん、道理に適っている。

 そして想像はつくと思うが、クソ重い。普通なら持つことすら難しいな」


 そう言いながら、先生がその重さを感じさせない動きで地面に突き刺す。


 ズン……


 腹に響くような音だ。

 ちょっとまて、あれを振り回すつもりか?


「なぜ模擬戦で使わなかったかと言うと、デカくて重くて危ないからだ。

 クランハウス壊したくないし、そもそも振り下ろすことしかできない武器を武器と言う気はない」


 そう言いつつ軽々と地面から引き抜き、下段の構えをとる。

 腰の入ったしっかりした構えだ。

 ……なんでそんなに軽々と扱えるんだ……?


「今はちょっと色々あってな、振り回せるようになった」


 そう言った瞬間、爆発的な踏み込みで逆袈裟斬りを放ってきた!

 足元の地面がえぐれ、大穴が空く!

 どんな力で踏み込んだんだよっ!


 こんなの受けられるかッ

 剣は借り物の数打ちだし、一合でへし折れるッ


 へし折れるというか、身体ごと持っていかれるっ!

 全力で横にすっ飛んで転がった。


 ヴォン! 



 黒い暴虐の風が通り過ぎる。

 えぐられた空間が目に見えるようだ。


 そして先生はそのまま振り下ろしに移行する!


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 さらに転がって回避する。


 ズゥン!

 地面がえぐれて土砂がまき散らされる。

 滅茶苦茶だッ!

 こんなもんどうしろって言うんだ! 

 バカ力めっ!


 ゴゥッ!


 必死に避ける。

 当たったら、死ぬ。

 掠っても、ダメだ!

 

 おそらく千切れ飛ぶ!

 恥も外聞もなく回避に専念する。

 防具もなくこれを受けて無傷でいる自信なんてない。

 そもそも防具意味あるか、これ。


 ズン!ヴォン!


 絶対疲れて止まる!それまで回避に徹するんだ!

 内心冷汗を掻きつつ祈る。


 もしも。

 もしもだ、本当に先生が魔王で。


 体力に限界がないとしたら……俺はどうなる?

 そんな弱気を押し殺して動く、動く、動く。


 1分も経ってないのにすでに汗まみれだ。


 泥にまみれて、擦り傷を作りながら必死に回避する。


 右! ガォン! 左! ゴッ 下ッ! ヴォン!


 一撃一撃が俺の命を刈り取る音を立て、振り回される。



 きっと……きっと反撃のチャンスがある筈だ!

 今までもずっとそうだった!


「なんだ、避けるだけか。つまらんな。疲れるのを待ってるのが見え見えだぞ」


 大剣を肩に担いで、呆れた声を出す先生。

 あぁ……ちっとも疲れた様子がねえ……!


「ハァ……ハァ……くそ、いつもは本気じゃなかったってことか……! ふざけるなッ!」


 会話で時間を稼いで、何とかして突破口を……!

 常に勝機を狙え!……あぁ。これも先生の教えだったな……!

 

 ちくしょう!


「なんだ、時間稼ぎか?いいぞ、付き合ってやるよ。


 模擬戦の時はいつも本気だったよ、本気でやらないと伸びないだろ?


 ただ、稽古をつける時に使う武器じゃなかっただけだよ。


 本来、これは一撃で決める武器だからな。


 一撃で終わったら稽古にならんだろ。


 そもそもこれを受けたらミンチだよ、ミンチ。原型も残らん」


 そう言って、笑う。


 ……言ってることは間違いではない。

 と言うかその死ぬ武器を振り回してるんですけどねえ、アンタ!


 あぁ……そうか、これが殺し合いか。


「まぁ、この武器の弱点はいくつかあるんだ。

 まずお前が最初に狙ったように、すぐ疲れちまう。

 どんなに鍛えても3か4振りで限界だろうな」


 この期に及んで笑顔で講釈を垂れる先生。

 あんたやっぱり少しおかしいよ!


 そんでもってそんな武器を振り回してるあんたは何なんだよ……。


 あぁ、魔王だったな。


 『魔王と言う存在は基本的に強度が俺達より上だ。

 力、速さ、生命力全てが格段に上だ。

 また魔力さえあれば回復も早いという超生物だ。

 だからこそ、絶対に無策で挑むなよ?

 それは遠回しな自殺と言うんだ」


 あぁ……ごめんよ先生。

 無策で魔王《先生》に挑んじまったよ。

 


「あと、重いしデカいから取り回しが悪い。


 野外でしか使えんし、ダンジョンだと壁にぶち当たるし仲間に被害が出かねない。


 そんでもって、移動速度が出ないから遠隔攻撃で責められると手も足も出んのも弱点だ……なッ!」


 そう言いながら、俺に向けて大剣をぶん投げる!

 轟音を放ちながら剣が回る、回る、回る。


 俺の首を狩らんと、一直線にこっちに飛んでくる。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおあああああああああああ!!!!!」


 地面に倒れこみ、回避行動を取る。


 ヴォンヴォンヴォンヴォン……


 頭上を鉄の塊が高速回転しながら飛んでいく。


 ……あれは死そのものだ……

 冷汗が流れる。


 グギャアアアアアアアアアア


 あ!遠巻きに見ていたゴブリン達が巻き込まれてミンチになっている!


 ……当たってたらあんな風になっていたのか……。


 しかし、とにかく先生は武器を投げた!


 今は無手のはず!


 勢いよく立ち上がり、剣を構え姿勢を低くして先生に向かって走る!


 視界に入った先生は何故か両腕をだらりと下げている。

 指先が少し……動いている?


 ……?


 疲れて腕に力が入らない……のか?


 違和感を覚えながらも距離を詰める。


 ……ざわり。


 急に首筋が寒くなる。


 マズい!これはマズい!

 突撃を諦め、無様に転がるように泥まみれになりながら回避行動に移る。


 ヒュッ


 今さっきまで俺がいた空間に、一条の光が走った。


「お、すごいな! よく避けたな! 花丸をあげよう!」


 先生が笑っている。

 いつも見ていた笑顔だ。







 そのはずなのに、ひどく怖い。







「これはな、鋼糸と言う武器だ。細い鋼で出来た糸でな、こうやって使うんだ」


 ヒュンヒュンヒュン


 目を凝らしたら、見えた。

 俺の足元の岩が切断される!

 

 ギッ キンッ

 

 目を凝らすと、糸が空間を何条も走っている!


「イーストエンドの方で暗殺に使われている武器でな、いわゆる暗器の一種だ。


 チトセの実家でよく使われてたらしくてな、ちょっと教えてもらってたんだ。


 かなり難しい武器でな、以前はあまり上手に使えなかったんだけど……今はこの通りだ」


 すっと先生が指を動かす。


 キン


 澄んだ音を立てて手にもっていた剣が切断される。


「うわあああああああああ!!!!俺の剣があああああああああ!!!!」

 リカルドが叫んでいる。


「まあ、達人が使うと見えないらしいんだが俺だとこのくらいが精いっぱいだな。

 これを模擬戦で使わなかった理由は簡単だ。


 手加減が一切できないんだ。


 さすがに模擬戦で手首とか首を落とすのもね? 


 一応拘束とかもできるらしいんだが、俺の技量じゃ無理だ。

 魔物相手だと火力が足りんし、これは完全に対人武器だな。

 なかなか業の深い武器だよ」


 そういって先生が目を細めて笑う。


 いつもの笑顔で笑う。


 


 俺は……俺は勝てないのか……?

 鍛え上げた技を出す以前の問題だ。


 殺し合いになると、近づくことすらできない!


 このままだと何もできずに、殺される!

 ぎり……と奥歯が鳴る。

 知らないうちに歯を食いしばっていたようだ。


「以上だ。こういう技が飛び交うのが人間の殺し合いだ。勉強になったか?」


 先生が、す……と殺気を収める。


「俺みたいなやつは少ないだろうが、間違いなくいる。

 これからやりあうかもしれんだろ?

 色々想定しておけよ」


 いつもの顔で言う。


 いつも見せていた、笑顔で。




 そして俺はそれを聞いて、安堵してしまった。




 あああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!


 そうだ!安堵だ!



 俺はもう戦わなくていいと聞いて、ほっとしてしまっていた!!!


 目の前が真っ赤になる程の怒りが沸き上がる。


 何たる恥辱!


 俺がまるで子ども扱いだと!?


 ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな!


 俺は!


 強い!


 王となるべき人間なのだ!


 こいつらはもういらない。


 俺の邪魔をする人間なんて、もういらない!!


 『そうだ……すべて壊してしまえ……魔王の魂を捧げよ……』



 勇者スキル「|主がお前を戒めてくださるように《神に似たるものは誰か》」


 「すべて!すべて!すべて吹き飛んでしまえッ!」


 代償なんていくらでも支払おう!

 俺が終わりでこいつらが生き残るなんて理不尽は、俺が許せない!


 全力で、力を振るった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ