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教導者、教育終了後捨てられる。  作者: みかんねこ
1章 どんなに暗くても、星は輝く
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第26話 白魔導士、希(こいねが)う。

 激しく地面が揺れ、爆風と思しき風が吹き付けてきた。


 巻き上げられた石が雨のように降ってきた!


 「きゃああああああああああああああ!?」


 ドスンドスンとお腹に響く音がそこかしこから聞こえてくる!


 慌てて頭を抱えてしゃがみ込む。



 当たらない事を祈りながら震えてうずくまっていたが、運が良いことに当たらなかったようだ。


 しばらくして震度と音が収まった後も、なかなか立ち上がれなかった。

 ゆっくり頭を上げると辺り一面に岩などが転がっている。

 ぐちゃぐちゃになったゴブリンの姿もある。


 ……何が起きたの?


 ふらふらと立ち上がる。


 ふと横を見ると、一抱えもありそうな岩が落ちていて血の気が引いた。






 また生き残っちゃった。




 この岩で潰されて死んだ方が幸せだったかもしれない。

 ぼんやり眺めながらそう思う。


 ここのところ間違ってばっかりだ。

 何をやっても裏目を引いてる気がする。


 しばらくそうしていたが、じっとしていても仕方がないと思いとりあえず動くことにした。

 身体に付いた土埃を軽く払いながら丘の上に戻る。


 改めて景色を眺めて唖然とした。


 さっきまでやや開けた平野だったのに、巨大な穴が空いている。

 辺りはがれきの山だ。


 なにが起きたの……?


 何かがただ落ちてきただけでは、こうはならないと思うのだけれども。


 何もかも吹き飛んでいる。

 さっきまで人間とゴブリンが争っていたなんて嘘みたいだ。


 動いてるものは何も見えない。


 どうなったんだろう?


 そこで思い出す。


『あの場所の地下には大きな洞窟があり、そこに沢山のゴブリンが居る。

 そこを潰されぬ限り、我々の勝ちは揺るがない』


 あ!これなら地下のゴブリン達も死んだんじゃ!?

 何もかもめちゃくちゃだ。


 ははは。


 あはははははははほははははははははははははははははは!


 何が勝ちは揺るがない、だ!

 全部!全部めちゃくちゃになったじゃない!


 あはははははははははははははははははははははは!


 ざまぁみろ!


 ざまぁみろ!!!!!


 ざまぁ……みろ……。


 膝から崩れ落ちる。


 結局、私がやった事は何だったのだろうか?


 私がやったことは何の意味もなかった。


 人もゴブリンも。

 何もかも。

 死んだ。


 


 全てが裏目だ。










 その時、穴の傍で何かが動いたような気がした。


 ……?


 人……?


 なんだか見覚えのある姿のような気がする。


 遠すぎて見えない。

 でも近寄るのも躊躇われる。


 ……そういえばジークの鞄に遠見の筒あったっけ……。

 引っ張り出して覗いてみる。










 あぁ…………。












 ヴィーだ……。


 涙が零れる。

 何でこんなところにいるのかとか聞きたいことはあるけど、それでも元気な姿が見れて嬉しい。

 よかった。

 元気そうだ。


 ……ごめんなさい……。

 ごめんなさい……あやまりたいよぉ……。

 ゆるしてほしいよぉ……。


 ヴィーの姿が涙で滲む。


 今更どんな顔して会えばいいか分からないけど……。

 せめて、ひとことだけでも、あやまりたい。

 ゆるされなくても、おわかれのことばをつたえたい。


 ただただ、涙を流した。


 そして気付いた。









 ヴィーのそばに誰かいる。


 銀色の髪を持つ、メイドの服を着た綺麗な女の人。


 それが自然なことのようにヴィーの隣にいる。

 そこは私の場所だよ……私の場所だったんだよ……。


 ヴィーが優しく笑いながらその女の髪を撫でる。


 あぁ……あぁ……その笑顔も私だけの物だったんだよ……。


 ヴィーから彼女への深い愛情を感じる。

 彼女からヴィーへの深い愛情も感じる。


 そうかあ……。

 もう。


 完全にダメなのかぁ……。

 ぽたぽたと足元に涙が落ちる。


 見たくないのに……。


 見たくないのに、目が離せない。







 あぁ……ようやくわかった。









 あの時ヴィーが感じていたのは、こんなきもちだったんだね。











 ごめんなさい。

 ごめんなさい。

 ごめんなさい。





 ありがとう。



 おしあわせにね。



 ごめんなさい。





 遠見の筒を下ろそうとしたとき、森へひっそりとおおきめのゴブリンが逃げようとしている姿が見えた。



 あれは……。


 あれは……!


 あれは!!!!!!!



 私は誰にも見つからないように、静かにその影を追いかけた。





 ガサ……ガサ……



 それは逃げるのに必死といった様子で、後ろを気にする様子もない。


 おかげで私にも簡単に追跡できた。


 そしてとりあえずの安全を確保できたと思ったのだろう、それは力尽きるように座り込んだ。


 付近を探るが、それ以外は何もいる様子はない。


 これは八つ当たりだ。


 醜い醜い八つ当たりだ。


 私はさっき拾った木の棒を持って、それの前にでた。


 









「魔王さん、こんな所でどうしたの?」


 にこやかに話しかけてあげる。


「キさまハ……」


 魔王は驚きのあまり声が出ないみたいだ。


 あは。


 あははははははははははははははははははは!


「ねえ、怪我してるみたいだね」

 さっきの爆発に巻き込まれたのだろうか、片腕が吹き飛んでいる。

 他にもあちこちに傷を負っている。


 おそらく放っておいても近いうちに死ぬだろう。


 でも。





 それはゆるさない。







「ねえ、魔王さま。あの角の生えた男はどこに行ったの?」


 魔王は、答えない。


「死んじゃった? ねえ、死んじゃった? ゴブリン達も全部死んじゃったね!」


 魔王は、答えない。


「ねえ、魔王さま。私が怖い?」


 何も言わないので、続ける。


「ねぇ、魔王さま。死にたくないでしょう?」


 わらいながら尋ねる。


「シ……しニたくナイ……」


 そう、それでいいの。


「痛いのは嫌でしょう?」


「イタいのモいやダ……」


 ふふふ、もう気付いてるね。



 亜人の王は呻くように言った。




「み……ミのガシてクレ……ナンでモする」




 あぁ……ああ!!!


 その言葉が聞きたかった……!!!


 全身が高揚感に包まれる。


 こいつはあの時こんな気分だったのね!


 私はにっこり微笑んで、答えた。









「なら、死んで」








 力一杯、木の枝で魔王を殴りつけた。


 何度も何度も何度も何度も、殴りつける。


 途中で何か言っていたが、無視した。


 多少大柄ではあるがしょせんはゴブリン、肉体強度は大したことがない。


 打撃が通らなかったらどうしようかって思って心配してたんだよね。


 よかった!


 わたしはとてもまんぞくした。





 しばらく殴っていると、ぷかりと魔力塊がでる。


 あ、見たことある。


 これ、勇者スキルだよね?


 ゆっくりと手を伸ばす。





 静かに私の魔力と混じり合い、溶け合い一つになった。


 勇者スキルは持ち主の心によって変化するのだと言う。

 持ち主のココロのカタチ。

 魂のありかた。



 救いようがない私のココロのカタチは、どんなカタチかな?



























 勇者スキル「傾国テンプテーション





 あぁ……。


 これはダメだ。


 私が持っちゃダメなものだ。


 このスキルは知っている。


 ヴィーから聞いたことがある。


『かつて幾つもの国を滅ぼしたスキルがある。


 どんなスキルかって?


 さぁ、どんなスキルか当ててみるといい。


 例えばものすごい威力をもつ隕石衝突メテオストライク


 違う。


 効果範囲の広い大地震アースクェイク


 違う。


 答えは傾国テンプテーション


 人の心を操るスキルだ」

 


 私はここで自殺するべきだ。

 すぐに死ぬべきだ。






 ガチガチと歯が鳴る。

 震えが止まらない。









 できないよぉ……いやだよぉ……。


 ボロボロと涙が零れる。




 私はたぶん耐えられない。

 このスキルを使う誘惑には勝てない。

 私が強くないことは、私が一番よく知っている。


 間違いなく使う。

 

 使うべきではない。


 でもどうしようもない。



 あぁ……。


 あぁ…………。



 ヴィー。







 愛しい人。

 私が裏切ってしまった、愛しい人。








 さいごのおねがいです。









 わたしをとめて。













 わたしをみつけて、殺してください。


 おねがいします。


簡単な用語説明

 ・勇者スキル「傾国テンプテーション

 魅了・誘惑・衝動を操るスキル。

 きちんと使えばこの上ない戦力になる。

 どんな弱者も恐れを知らぬ勇士となる。

 だが、使い方を間違えると。 


 災厄と化す。

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