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教導者、教育終了後捨てられる。  作者: みかんねこ
1章 どんなに暗くても、星は輝く
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第25話 教導者、嘆く。

「おや?  いたのかジーク」


 そう言いつつ、とりあえずしがみつくアリスを降ろす……おろ……。


 あの、すいません降りて下さい……。


 不満そうである。



 なんとか降りて頂いて、改めてジークに目をやる。

 続けて斬りつけてこないところを見ると、一応会話する気はあるらしい。

 なんだかんだ結構律儀だよなぁ。


 ジークは何故かお気に入りの装備ではなく、リカルドの服と剣だ。


 横にいるリカルドがなんか凹んでるから、ジークから徴収されたのか?

 何でそんなことしてるんだ……。


「人の注意を引きたいときは、斬りかかるんじゃなくて声をかければいいと以前教えなかったかな?」


 とりあえず、諭す。


 周りで呆気にとられていたクランメンバーもようやく我に返ったようで、一斉に騒ぎ始めた。


「ジーク! 先生になんてことするの!」

「ジーク! あんた!」

「ころす」


 アンナやエルゼ達がジークを非難する声を上げる。

 なんか物騒なの混じってない?


「うるさい! みんな騙されるな! せんせ……ヴァイスから魔王の力を感じる!」

 キリッとした顔で剣先をこちらに向けている。


 剣先で人を指すのは失礼だからやめなさい。



 まぁ、ジークの言う事は間違ってはいないんだけどな!



「勇者スキルの持ち主にはバレちゃうみたいですわね……」

 後ろでアリスがボソリと漏らした。


 お前も知らなかったんかい。


 別にバレても構わないのだが、俺が魔王であることに気付いているのはジークだけみたいだし適当に誤魔化そう。



「なんだなんだ! 久々に会ったって言うのに俺は悲しいよジーク!」


 大仰に首を振り、嘆いて見せる。

 こういう時は芝居がかった言動のほうが、聴衆にはウケがいいのだ。


「俺にはわかるんだ!  俺の勇者スキルがお前を魔王だと断定している!」


 ジークが感情のままに叫ぶ。



 うーん、単純なところは変わらんなぁ……。

 頭に血が上ると視野が狭くなるところは以前から指摘していたんだけど。


 ……俺もあんまり人のこと言えないけどな。

 まぁ、そういう事なら遠慮なく付け込ませてもらおうか。



「ふむ? つまり根拠はお前の勘、と言うことかな?

 それは良くない。

 とても良く無いよ、ジーク。

 根拠を示さないと人は納得しないよ」


 柔らかく答える。

 否定も肯定もしないのがミソだ。

 いやまあ、魔王で合ってるんだけど。


 「一方的に決めつけると、相手の余計な反発を買うことになるって以前教えてたよな? 魔物じゃないんだから話し合うところからやるべきだ、そうだろ?」


 自戒を込めて言う。

 そうだ、俺達には会話が足りなかった。

 モニカと本当にデキてたかも今となっては怪しいもんだ。


 ……いや、十中八九デキてたと思うけどな!


「旦那様にはわたくしがいますわ!」

 あ、はい、ごめんなさい(?)



「魔王に話すことなんかないッ!」


 あらま、かたくなだ。

 なんか余裕がないな焦りを感じる……あぁ、あれか《《代償》》か。

 まぁ、よく見ると確かに加齢の影響が見えるな。



「かなり支払ってるみたいですわよ? 使い過ぎて、スキルの影響が強くなってます」

 耳元でアリスが囁く。


 そうか。

 最初から話してくれてたら協力もできたのにな。

 少し悲しくなる。

「旦那様の力を借りない決断をしたのはあのクソザコナメクジ自身の責任ですわ。

 気にしてはダメですよ?」


 ありがとうアリス。

 でも汚い言葉はやめようね?



「何いちゃついてる! そこの女も魔王だな!? まとめて斬ってやる!」

 アリスにも剣を向けるジーク。


 無理です。

 秒で塵になるよ! やめとけって!

 知らないって怖いなぁ!


 魔王なのは分かるけど、力量は分からないって事だな。

 俺だったらアリスと敵対とか絶対嫌だ。

 逃げる。


「逃しません」


 はい……。



 ジークが剣を構え、スッと腰を少し落とす。


 おっとやる気だな。

 相変わらず気が短いなぁ。

 幾つか聞きたい事あるし、落ち着かせよう。


「なぁ、ジークお前は俺との再会を喜んでくれないのかい……?」

 

 わざと悲しげな顔をする、少し大仰にするのがポイントだ。

 せっかくクランメンバーがいるんだ、心情的に味方にしておこう。


「俺はジークと会えてうれしいよ?」


 まぁ、嘘では無い。

 言いたいことは色々あるが、彼も教え子の一人なのだ。


「む……」


 ためらいを少し感じたようで、ジークの身体からほんの少し力が抜ける。


 よしよし、もっと話そうな!


「ところで、いつものメンバーはどうしたんだ? モニカとか……」

 話の矛先を変える。


「モニカだとっ! 俺が知りたいわ、クソがッ!」

 急に激昂するジーク。


 なんでや。


「恩を仇で返しやがってッ!」


 さっきより激しい怒りを見せながらジークが吠える。

 無意識にだろうが脇腹に手をやっているように見えるな。


 ……モニカ何やったの?


 ……視線だけをずらして、固唾を飲んで見守っているクランメンバーの顔を見る。


 アンナ、ロッテ、ロルフ 関係なし


 カールは……微妙か。


 ドミニク、ギュンター、クラウス、ヴィリ、エルゼ、ウィッテも知らない。


 ゴメス……あぁ、なんか知ってるな。


「ゴメス? 何があったのか教えてくれないか?」


 ゴメスがビクっとする、声掛けられるとは思ってなかったんだろうなあ。



「ワ、ワシも詳しく分からンのですが……大将ジークを刺したらしいんですわィ」

 ゴメスがしどろもどろになりながら答える。



 あいつなにやってんの!?

 俺がいなくなってから何があったの!?

 

「なんでそうなったんだ……?」

「知るかっ!」

 吐き捨てるジーク。


 えぇ……?

 刺されたお前が分かんないなら誰にも分かんないよ……?


「と、とりあえずモニカがいないのは分かった!

 それ以外の他のクランメンバーはどこだ?」


 ジークの舎弟みたいだったジャンとギッセルフの姿が見えない。

 他にも主力扱いだったメンバーの姿が軒並み見えないのが気になる。



「……! それは……」

 俯いて言葉に詰まるジーク。



 ……すごく嫌な予感がする。



 今ここに居るクランメンバーは一芸に秀でたようなタイプが多い。

 単純な戦力のぶつかり合いになりそうな魔王ゴブリンキング戦では、出番がなさそうだが……。

 なんで「司書ライブラリアン」のロッテとか連れてきてるんだ……?


 …………!


 まさか!


 そういえばあっちにいるのは領軍!

 領軍との共同作戦……!?


 震える指をジークに向けながら問う。


「ジーク、お前……一回目の遠征で派手に負けたな?」


 そうとしか考えられない。

 姿が見えない主力、数合わせのようなメンバー達。


 動悸が激しくなる。

 胸を掻きむしりたくなるような焦燥感に襲われる。


 「何人が無事だ?


  何人が怪我した?


  まさか、死人なんて出してないだろうな!?」


 血を吐く思いで声に出す。


 奴は何も答えない。


 「答えろジーク!」 



「うるさい! 先生はもうクランを抜けたんだろう!? もうあんたには関係ないはずだ!」


 剣を振って、激しい拒絶を見せるジーク。


 あぁ……なんてことだ……。

 頭を掻きむしる。

 暗澹あんたんたる気持ちになる。


「……ゴメス、何人だ? 何人……死んだ?」


 絞り出すように、問う。


「…荷物持ちやら含めると、確認できただけで25人が死にやした……。

 怪我で復帰できないのはもっといやす……あとチトセさん含めて数名が行方不明です……」

 沈痛な表情のゴメス。


 思わず天を仰ぐ。


「ジーク! お前は!! 何をしている!! 何をしていた!?」


 激しい怒りと悲しみがこみ上げる。

 それと同時になにもできなかった自分を殺したくなる。


 なぜ俺は逃げ出した!?


 なぜ俺は其処にいなかった!?


 どうして!


 あぁ! あぁ!! あああああああああああ!!!!!!!!


「旦那様……」

 そっとアリスに腕を掴まれる。


 そうか…アリスには俺の気持ちが伝わるんだったな……。


「ありがとうアリス、大丈夫だ」

 ポンポンと腕を触る。


 それでも心配そうな顔で見ているアリス。

 大丈夫だって。


 俺はジークを真正面から見て、告げる。






「俺はもうクランを抜けた身だ。


 放り出してしまった身だ。


 だからこんなことを言う資格はないのかもしれない。


 それでも言わせてもらう。


 お前を育て上げた人間として言わせてもらう。


 ジーク、お前には失望した」


 簡単な用語説明

司書ライブラリアン

 調べ物のエキスパート。

 言語の習得などに補正が掛かる。

 クランに一人いると便利な存在。


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