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教導者、教育終了後捨てられる。  作者: みかんねこ
1章 どんなに暗くても、星は輝く
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第22話 重戦士、戦場に吠える。

21話の少し前の話になります。

 具体的には何かが落ちてくるちょっと前です。

「ぬぁぁぁぁぁぁぁ!叩き潰し(フルフラット)!!」


 ワシ───重戦士ヘヴィナイトゴメスはゴブリンをまとめて数匹叩き潰して肉片を撒き散らし、勢い余って地面を穿つ。


 余りの威力に近くのゴブリン達が後ずさる。

 よしよし、それで良い。

 死にたくねェだろ?


 先生は言ってた。


『ゴメス、どんな魔物でも仲間が酷い死に方をすると腰が引けるもんさ。

 だから惨たらしく殺すのも有効な手だぞ』


 良い笑顔で割と酷いことを言ってた。


 あの人はたまに怖い。


 まあ、本当に効果があるから何も言えない。


 べったりくっついた肉片を剥がすため、棍棒を振るう。




 ……キリがないのゥ……。


 一気に乱戦になった戦場でボヤく。


 後ろには傷を受けて苦しんでいる大将ジークがいる。


 最前線にいたはずなのに、さっきいきなり兵士に連れてこられた。


 なんでも森から出てきたモニカに、毒付きのナイフで刺されたらしい。


 意味が分からない。


 全く分からない。


 誰か説明してくれ。


 とりあえず治療を……と思っていたらいきなり周囲からゴブリンが湧いてきた。


 突然穴が出現したと思ったら、そこから続々と湧いてきたのだ。


 これはまずいと思ったのだが、意外と穴の出口が大きくなくて出口でゴブリンが渋滞している。

 まぁ、ゴブリンだしなァ。


 そのため、戦闘に適さないメンバーを抱えても何とか戦えている。


 ギデオンの旦那、賑やかしだから大丈夫って言ってたじゃねぇかよゥ……。


 あの旦那は頼りがいはあるんだが、どこか抜けてるんだよなァ……。

 そういうとこは嫌いじゃないが、戦場では勘弁してほしいところだ。



 とにかくここは通せない。


 このままだと落ち着いて治療もままならない。

 少し焦る。


 そもそもこの段階になったら、撤退も視野に入れなければならんはずだ。


 今このメンバーではワシが指示を出さねばならんンのだが、一番突破力があるのもワシなんだよなァ……。


 困った。


 困ったがジークが倒れて先生がいない今、ワシが仲間を守らねばならんのだ。






 ワシと先生の付き合いは大将ジークの次に長い。


 スラムでいつも腹を空かせていたワシらに、生きる術を教えてくれたのがあの人だ。


 食事だけではなく、知識と知恵を与えてくれたのだ。


 ワシは頭が悪い、ずっとそう思っていた。


 物覚えの悪い、でくのぼうと呼ばれていた。


 しかし先生は言った。


『いいや、ゴメスは頭が悪いと思い込んでいるだけだ。

 そう思い込んで、考えることを放棄しているだけだ』


 ワシの目を見ながら先生は続けた。


『なぜならそれが楽だからだ。水は低きに流れ、人は易きに流れる、さ』


 衝撃だった。


 確かに、そうかもしれない。

 人からそういわれるから、ずっとそうだと思っていた。


『だから、自分で判断できるようにいっぱい勉強しような!』


 先生はそう言いながら目を輝かせ、教材を机に置いた。



 だけどあの狂気の詰め込み教育は二度と受けたくないです……。

 壁一面に文章が貼ってある部屋は、今でもたまに夢に見る。




 良く学び、よく学ばされた。

 起きてる間は大体学ばされた。

 実技もみっちり仕込まれた。


 ものすごく大変だったが、嫌になることは無かった。

 先生は自分の稼ぎも最低限だけ残して、ワシらに振舞ってくれたのだ。

 そこまでしてもらって嫌だから投げ出すというのは、漢が廃るというものだ。



 1年もしないうちに、冒険者として雑用の仕事ができるようになった。

 2年経つと魔物の退治などの実入りのいい仕事を回してもらえるようになった。

 3年、4年とどんどん生活が楽になった。


 仕事さえできるようになれば、あとは全てが上手くいった。


 がむしゃらに働き、気付けばクランハウスまで建てられた。




 ワシの……みんなの家ができたのだ。





 スラムで野垂れ死ぬ運命だった俺たちを先生が救ってくれたのだ。


 あの日、先生に出会えた事を神に感謝している。


『おーおーおー、小汚いガキどもだなあ! 

 どうだ、腹減ってるなら俺の話を聞いてみないか?なぁに、悪い話ではないさ!』


 ただ今考えるとどう見ても人攫いのセリフだぜ、先生。

 あの時の事も、未だに夢に見る。


 忘れられない思い出だ。





 全てが上手くいっていると思っていたのだが、最近クランでの先生の様子が少し変だった。


 なにかふさぎ込んでいるような、そんな顔をよくしていたのだ。

 聞いてみても「あぁ、大したことじゃないんだ」と疲れたように笑って答えてくれなかった。

 大将ジークやモニカも心当たりがないと言っていた。

 どうしようか悩んでいると、少々遠くの討伐の依頼がありアンナ達と遠征に向かった。


 そして帰って来た時、先生がクランから抜けたとジークから言われた。


 耳を疑った。


 なぜ!?なぜ!?なぜ!?


 問い詰めたが大将ジークは分からないと言うだけだった。

 先生がいなくなったことも悲しかったが、何より悲しかったのは相談もしてもらえなかったということだ。


 どうしちまったんだよ先生ィ……。


 少し探してみたが、痕跡は見つけられなかった。


 まあ、先生が本気で行方をくらませたら見つかるわけないよなァ……。



 先生はいなくなったが、クランは続く。


 大丈夫だ、先生が俺たちを見捨てるわけがない。


 絶対いつか帰ってくる、その時胸を張って迎えられるように精一杯クランを守っていこう。






 そう思っていたのになァ!

 後ろで大将ジークが呻く声が聞こえる。


 なんでこんなことになってるんだッ!


「ゴ……ゴメス……」

 か細い声が聞こえる。


「!?大将ジーク!? なんですかィ!? リカルド、少しここを頼む!」


「あいよォ!」


 持ち場をリカルドに代わってもらい、大将ジークに近づく。


「か……鞄に……神薬エリクサー…」


「え、神薬エリクサーあるんですかィ!? 早く言ってくださいよォ!」


 神薬エリクサーはどんな人間も癒すという超高級品だ。


 クランに1個だけあるとは聞いていたが…。


 空間拡張鞄を探す。




 無い。



 付近も探すが、無い。


「あ、ありやせんぜ!? どこにやったんですかィ!?」


「…な…なんだと……きの…うは……まちがいなく…」


 大将ジークもショックだったようでどんどん声が小さくなる。



 あぁ! あぁ! ヤバい! これはマズい!


 こんな状況は何度も見たことがある! 


 この匂いは何度も嗅いだ事がある! 


 スラムで! 戦場で!


 死と絶望の匂いだ! 



 このままだと、大将ジークが死ぬ!

 慌てて周囲を探すが、やはり無い。





 何処かへ伸ばされた大将ジークの腕が、地面に力なく落ちた。





 死んだ。






 大将ジークが、あっさり死んだ。




「あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 声にならない声が出る。

 なんでだ! なんでこうなった!


大将ジーク大将ジーク!」


 揺さぶる。


 動かない。


大将ジークが死んだァァァァァァァァ!」

 思わず大声で叫んでしまった。



『ゴメス、指揮官がいなくなっても吹聴しちゃだめだよ?


 指揮系統が混乱しちゃうからね。


 黙って次の席次の人間に相談するんだよ?』


 あ、やっべ。


 ワシの叫びで動揺したクランメンバーたちが、ゴブリンの群れに徐々に押され始めた。


 あ、これはワシが戦犯ですね。

 大変申し訳ございません。


 変に冷静になってしまった頭でそんなことを考える。




 その時、大将ジークの身体から巨大な鳥の形をした炎が巻き起こった。

簡単なキャラクター説明


 ・重戦士ヘヴィナイトゴメス

 容姿はハゲ、傷だらけの大男、棍棒装備。

 はい、皆さんの頭にオーガみたいなオッサンが頭に浮かびましたね?

 それです。

 それがゴメスくんです。

 ちょっとお茶目な頭脳派脳筋戦士です。

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[気になる点] 語尾に前の文が漢字やひらがなでも関わらず、カタカナでァやィがついているのが気になる
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