表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
教導者、教育終了後捨てられる。  作者: みかんねこ
1章 どんなに暗くても、星は輝く
21/183

第21話 白魔導士、生きる。

走る、走る、走る。


 とてもじゃないけれど、後ろは見れない。


 怖い。


 自分がやってしまったことが、どれだけ罪深いか分かっている。




 私は自分の命惜しさに、仲間を裏切ったのだ。




 確かに私には魔王からの「呪い(ギアス)」を受けていた。


 それでも、自分の意志で裏切ったのだ。


呪い(ギアス)」の内容は簡単だ。




「《《人を呪い》》、《《裏切れ》》」




 これを成さねば私は苦しんで死ぬ。




 約束が違うと抗議したが、魔王は嗤うばかりだった。


 あぁ、私がその場で自殺ができるほど勇気があればよかったのに。


 あぁ、私がその場で壊れてしまうほど弱ければよかったのに。


 魔王を一瞬でも信じた私が愚かだったのだろう。



 奴は私からクランメンバー達の情報を得ると、一振りのナイフを手渡してきた。


「サ……さイゴのシごトダ。コ……これデゆウシャを《《サせ》》。


 ソ……ソれで呪い(ギアス)ハとけル」


 私には選択肢がなかった。




 ジークがまた来るかどうかは賭けだった。


 一人で怯えながら待った。


 いずれ来る避けられぬ死を想って。




 私はその賭けに勝った。


 ジークがまた軍を率いてやってきたのだ。


 その時、思ったのだ。








 神は私に生きろと言っている!!






 喜びを隠し、なるべくおぼつかない足取りを装ってジーク達に近づいた。


 隠しきれない笑いが気付かれないか心配でたまらなかった。




 あいつは気づかなかった。


 私が恐怖で震えていると勘違いしたのだ。


 女たらしのジークだ、絶対抱きとめると思った。


 考えてみたらこいつのせいで、私はこんなひどい目にあったのだ!


 こいつがいなければ私はヴィーと今も一緒に居た!


 こいつが悪い!こいつが悪い!


 私は悪くない!


 私は悪くない!!


 私は悪くない!!!




 ジークは鎧を着こんでいたため、確実に刺せる場所を探った。

 鎧の隙間を見つけたときは、震えるほどうれしかった。



 これで助かる。



 生きていける。




 私は歓喜さえ感じながら、ナイフをジークの腹に突き立てた。



 突き立てて、捻った。





『あぁ、内臓も傷つけたな』


 心の中で冷静な自分が他人事のようにそう思った。


 ジークを刺した瞬間、私を覆っていた魔王の魔力は雲散霧消した。




 魔王は約束を守ったのだ。



 その瞬間、急に頭にかかったもやのようなものが消えた。


 自分がやったことが明確に理解できるようになった。


 恐らく憎悪を掻き立て増幅する呪い(ギアス)の効能だったのだろう。


 だけど、その気持ちは私に間違いなく存在していたものだった。




 私は安堵した。


 安堵してしまった。



 良かった、今すぐに死ぬようなことは無くなったと。


 だが。



 やってしまった。



 やってしまった。



 やってしまった!


 急に怖くなった。


 魔王に呪い(ギアス)を掛けられて仕方なく、と言えばもしかして許されたかも知れない。


 でも、怖かったのだ。


 信じて貰える自信がなかったのだ。


 上手く説明する自信がなかった。


 わたしはうらぎりものだから。


 私がヴィーを裏切ったのをみんな知ってるから。


 きっと私は責められる、裏切るくらいなら死ねばよかったのにと言われるに違いない。


 そうなったら、私はきっと耐えられない。







 だから私は逃げた。


 スキルまで使って、逃げた。



 走りながら、思う。


 今更思う。


 どうしたらいいのだろう。

 どうしたらいいのだろう。

 どうしたらいいのだろう。

 どうしたらいいのだろう。


 どうすればよかったのだろう。




 あの星降る夜、ヴィーに連れ出してもらって嬉しかったのも本当だ。


 ヴィーに手を引かれ、町まででてきて仲間が増えて。


 ちょっとずつ生活に困らなくなっていくことが楽しかったのも本当だ。


 村から出て正解だったと思った。


 とても幸せだった。


 これからもずっと幸せだと錯覚した。


 いつしか与えられる幸せが当たり前のものになった。


 そうなるともっと新しい幸せが欲しくなった。



 その結果が、これだ。



 自分では小さな幸せを積み上げていっているつもりだった。


 そう、つもりだったのだ。


 人から与えられた幸せを積み上げていった結果が、今だ。


 小さな幸せを積み上げていった結果、それが大きな幸せの形をしているかどうかは別の話だったわけだ。






 私は、愚かだ。


 やっと認める事が出来た。







 走り続けて、とうとう限界が来た。


 ぜえぜえと息を切らし、倒れこむように地面に座り込む。


 息を整え、頭を上げる。

 ちょっとした小高い丘の上のようだった。



 あぁ、ここからあの戦場がよく見える。


 雲一つない青空の下、軍と群がぶつかるのが見えた。



 今からあそこで沢山の命が散るのだ。



 そこに人も魔物も一切の区別はなく、死がもたらされるのだ。


 

 あの場所の地下には大きな洞窟があり、そこに沢山のゴブリンが居ると魔王の傍にいた角の生えた男が言っていた。


 そこを潰されぬ限り、我々の勝ちは揺るがないと嗤っていた。


 私たちは罠にかけられたのだ。


 勝ち目などなかったのだ。



 魔王たちにはジーク達クランメンバーのスキルなどを全部、伝えてある。




 きっと駄目だろう。



 あの男は嗤いながら言っていた。



 『仕事をこなしたなら、お前ひとりぐらいなら見逃してやろう。


 王の恩情に感謝せよ』


 私は見逃された。


 見逃してもらえた。





 何とも言えない気持ちになる。


 ひどく情けない。


 私は一体何をしているのだろう。


 仲間を裏切って得たものは、自分の命一つだけだった。




 ふと手をみると、ジークの空間拡張鞄があった。


 ……持って来ちゃった。


 鎧の隙間にナイフを潜り込ませるのに邪魔で外したのだが、そのまま持って来てしまったようだ。


 リーダーの特別仕様のもので、容量が普通の物より大きいと以前ジークが自慢していたのを思い出した。


 ……返しにいったら殺されるよね。



 なんとなく中を見ると、お金と物資が沢山入っていた。




 仕方ない、今は無理だけどいつか返そう。



 必ず返すから。



 私今何も持ってないから、しょうがないよね。


 生活が安定するまで使わせてもらいます、ジーク。


 こういう時は使ってもいいんだよね、ヴィー?



 生きるためだから仕方がないよね?



 今いる丘の上から、ゴブリンと人間が戦っているのが見える。



 この戦いを、ここで見届けよう。


 見届けた後は、どこかに旅に出よう。


 誰も私の事を知らない場所へ。



 もしかしたらどこかでヴィーと会えるかもしれない。


 会えたらいっぱい謝って赦してもらおう。


 そして今度こそ一緒に幸せになるのだ。



 そうやってぼんやり眺めていた。


 人間が徐々に押され始めている。



 指揮を執る人間が居なくなっちゃったからね。



 あぁ、これはダメだな。


 ジークもクランのみんなも死んじゃうな。










 ……私に優しくない奴らは、全員死ねばいい。









 私に優しくない世界なんて、いらない。






 ぼんやりとそんなことを考えた、その時だった。



 空から何かが戦場に突き刺さり、爆発した。

簡単な用語説明

 ・呪い(ギアス)

 呪術系のスキル。

 命じるアレよりは効果がないです。

 実は従わなくても死なない、死ぬほど苦しいけど。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ