表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
教導者、教育終了後捨てられる。  作者: みかんねこ
1章 どんなに暗くても、星は輝く
19/183

第19話 教導者、殻を破る。

 アリスと俺が囚われている結界の名は「ジズの卵」と言われているものらしい。


「大界鳥ジズ」の魔力を利用して、半永久的に維持される時間停滞結界とのことだ。


 時間停滞結界とはなんぞ?と尋ねたところ、アリスがヤレヤレと言った感じで説明してくれた。

 細かく聞くか?と挑戦的な顔で言われたので、つい受けて立つ!と言ったら3時間延々とよくわからない理論を説明された。


 ごめんなさい、俺が悪かったです。






 アリス様から頂戴した素敵な結論によると、結界の中と外の時間の流れが違う結界との事。


 中でどれだけ過ごしても、外ではあまり時間が進まないという理解でいいらしい。


 どう言う原理なんだよ……。


 なんでこんな大がかりな結界に閉じ込められていたかは、アリスが話したがらないので聞いていない。


 話してもいいと思ったら、いつか話してくれるだろう。


 これからはずっと一緒にいるのだから。





 じゃあ早速何とかして出ようと思ったのだが、アリスから予想外の提案があった。


「ここはジズの魔力に満ちてますから、魔王スキルの習熟には向いていると思いますわよ?」


 なるほど。


 確かに碌に使えないスキルを引っ提げて外に出ても、何にもできない魔王が一人爆誕するだけである。


 多分すぐ狩られる。


 力だけ無駄にあって弱い俺は格好の獲物だろう。


 俺が死ぬだけならともかく、俺はアリスを守らねばならない。


 守る必要があるかはともかくな!


 ジークに狩られたりしたら死んでも死に切れん。








「それに実は、結界を通り抜ける方法は予想がついているのですわ。


 かなり長い時間ここで封印されていましたし、外にはもう知り合いも生きてはいない筈で……出るのが億劫になってもいましたの。


 ほら、ここ衣食住(?)は整っていますしね……」


 アリスはそう言って儚く微笑んだ。


 あぁ、こんな顔をさせちゃいけない。


 この子の強さなら、外の世界でも一人で生きていける。


 だけど、きっと一人では心がもたない。


 だからこそ、せめて心だけでも俺が守らなくては。

 


 そう思い軽く抱きしめる。






 優しく頭を撫でると、アリスがぼそりと呟く。


「ちょろいですわね……」


 ちょろくはない。


 耳赤くなってるの気付いてるからな。







 それからしばらく俺の魔王スキルの習得に励んだ。


 まぁ、時間掛けても問題ないって言われたらそうするよね。


 意外とあっさりどんなスキルか分かったのだが、それはまた今度披露しよう。


 言葉で表現しづらいんだよ。


 なんというか、使用感が独特で異色なスキルであった。


 まぁ、実際問題かなりタチが悪いと思う。


 アリスは「旦那様らしい、地味で姑息で小器用なスキルですわね!」と笑っていた。






 それ褒めてる……?








 魔王スキルの習得だけでなく、今までは出力不足で出来なかったことにも取り組んだ。


 それと並行して、アリスへの現代知識の教育を行った。


 一緒に旅をするのだ、最低限の知識は与えておきたい。


 世間知らずはトラブルを起こしやすいからな。











 まぁ、アリスは普通にしていてもトラブルを引き起こすという確信はあるが!


「起こしますわ!」

 にこっと笑うアリス。


 心を読むな。


 起こすな。


 ほんとやめて。












 しばらく過ごしていて、恐ろしい事実が分かった。


 身体が魔王になり、睡眠や食事が魔力で補えてしまうのだ。


 こうなったら時間の感覚なんて無いも同然である。


 何せ周りには大界鳥ジズの魔力が満ち溢れているのだ。



 やりたい放題である。



 アリスも俺も研究者気質なところがある為、閉じ込められてることを忘れたように日々を過ごしていった。












 まあ、多少はいちゃいちゃもしてました。













 そしてある日、ソファでくつろいでいる時に気付いた。


「俺たちこのままだと、ここに居着いてしまうのでは?」


 居心地がよすぎる。


「なんかわたくし、それでもいい気がしてきましたわ?」


 座ってる俺の後ろから、覆いかぶさるようにだらりと圧し掛かってきている。


 ちょっと重い。


「重くありませんわ!」


 うるさい、心を読むな。




「いや、よくない。俺はアリスに世界を見せてあげたいんだ」


 ぐりぐり背中に押し付けられる頭をなでる。


 さらさらの手触りである。


 うむ、毎晩手入れしている効果は出ているな!





「二人で旅をしよう。


 綺麗なものをたくさん見よう。


 おいしいものをたくさん食べよう。


 知らないことを学びに行こう」




 優しく、諭す。




「……わかりましたわ!行きましょう!」


 こいつ、ちょっとめんどくさいなって思ったな?


 流石、文明崩壊を超えて引きこもってただけはあるな。


 ……まあ正直、俺も一生ここに二人で住んでいた方が幸せじゃないか?とは思ったがな!


 二人は似た者同士であった。










 いざ脱出するにあたり、少し思い当たる事があった。


 ここは居心地がよすぎる。


 思うにこの結界は、アリスを閉じ込める檻であると同時に彼女を守る殻であったのだ。


 少し考えればおかしい事に気付く。


 此処は牢獄と言う割には設備が整い過ぎている。


 此処を用意した人間の《《気遣い》》が感じられる。


 世界で最も安全と言ってもいい大界鳥ジズの背中という立地など、明らかな意図を感じる。


 恐らくアリスは寂しい以外の不満は抱かなかっただろう。





 あぁ、間違いない。


 恐らくここの建造には、アリスに近しい人間が関わっている。


 彼女が少しでも心地よく過ごせますように、安らかでありますようにと言う祈りを感じる。












 人はそれを愛と呼ぶのだ。









 それをアリスに告げる。



 それを聞くと彼女は目を丸くして驚いた後、静かに涙を溢した。


 ぽろぽろ、ぽろぽろと。


 悲しみと喜びが入り混じったそれを、優しく拭ってあげる。


 大丈夫、君は愛されていた。


 俺が保証しよう。


 君の過去に何があったかは聞かない。


 ただ、黙って君の側に居よう。


 君が泣き止むまで、ずっと。









 アリスがすんすんと鼻をすすり、俺の服で鼻水を拭った。


 やめろよ。









 まぁ、それはそれとして此処からは出なければならない。


 雛鳥が卵から孵り、大空へ羽ばたく時が来たのだ。









 アリスが部屋の隅に術式を描き、魔力を流す。


 結界の魔力が一部阻害され、歪みが生じる。


 ジジッとノイズのような音が鳴り、結界が脈動する。


「今です!その壁に魔力を叩き付けてくださいまし!」


 アリスが壁の一角を指さす。


 確かに魔力がそこだけ停滞している!


「任せろ!」


 俺は走り寄り、全力で魔力を叩き込む!




 ギィィィィィィン!




 空間にひびが入る!





 隙間から外が見える!






「こじ開けてっ!」

 術式を維持しながらアリスが叫ぶ。






「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」


 僅かな隙間に両手の指を差し込み、こじ開けるっ! 



 ギギ……ギギ……


 僅かながら、広がる。



 「おらああああああああああああああああああああ!!!!!」







 ギャリィィィィィィィィィィン! 







 名状し難い音とともに、人が一人通れる程の穴が開く!










 外が見える。










 鮮烈なまでの青。



 あぁ!外だ!



 久方ぶりの空気を吸い込む。


「外が見えたぞ、アリス!」


 喜びながら振り向いて叫ぶ。





 アリスはどうしていいか分からないように戸惑っている。


 森で迷った幼子のような、今にも泣きだしそうな表情だ。





 あぁ。わかるよ。


 不安だよな。


 知らないって怖いよな。


 怖くて体が動かないよな。










 10年前のあの星降る夜、モニカも村の入口で同じ表情をしていた。


『行こう、モニカ。きっと大丈夫さ。俺を信じて』









「行くぞアリス!俺はここに居る!二人で共にいこう!」


 手を伸ばす。







 アリスがゆっくりと、だけどしっかりと手を掴んだ。






「うおりゃあああああああああ!!!!!」


 力一杯引っ張る!


「きゃっ!」


 穴から引っ張り出して、倒れこんできたアリスを抱きとめる。




 バヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂッ!



 轟音を響かせ、空間が閉じる。


 間一髪だった。









「はははは……あははははははははは!」


 しばらく抱き合ったまま座り込んで、どちらともなく笑い声をあげた。


「出られましたわ……出てしまいましたわ……とうとう……」


 アリスがポツリともらす。



「何言ってるんだ。これからが、始まりだ」


 俺は立ち上がり、アリスに手を伸ばす。


「行こう、ふたりで」


 アリスがそっと手を握る。


「はい、旦那様」


 アリスは安心しきった柔らかい笑みを零した。











 さて、じゃあどうやってジズから降りようか。


 そうだ、もうあの場所をもう一度(ファストトラベル)使えるんじゃねぇかな?と思っていると、いきなり地面が揺れた。













 AGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!









「な、なんだ!?」

 とりあえず足元の羽毛に捕まる。


「ジズが痛がってるみたいですわね!」


 なんでアリスさん嬉しそうなんですかね……。


「なんでジズが痛がるんだ……?」

 俺は訝しんだ。


「結界の動力源は心臓らしいですから、こじ開けた反動が心臓に行ってるんじゃないかと」


 恐ろしいことを聞いてしまった。


「それは痛い……」


 なんだか俺も心臓が痛くなってきた。


 いきなり心臓を殴りつけられるのってどんな痛みなんだ……? 


 いや、心臓に痛覚はないから痛くはない……そういう問題でもないな! 








 その結果、俺とアリスは身もだえたジズによって吹き飛ばされたのであった。


 さらばジズ、また会おう。


 たぶんジズは会いたくないと思うが。












 雲一つない空に吹き飛ばされて、落下しながらアリスに聞く。








「アリス空飛べたりしない?」







「しません!」







「そっかー」






「一緒に落ちましょう!」








「なんでそんなに嬉しそうなの……?」








 ふたりで手をつなぎ、落ちていく。








 落ちていく。 








「旦那様!手を離さないでくださいね!」












 死んでも離すもんか。













 アリスと一緒に超高高度から落ちた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ