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教導者、教育終了後捨てられる。  作者: みかんねこ
1章 どんなに暗くても、星は輝く
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第18話 教導者、戦慄する。

「勇者と魔王については、概ね理解できたと思う。ありがとう」


 ペコリと頭を下げる。


「それは良かったですわ!」


 アリスさんにっこにこである。


 何がそんなに嬉しいのか。




 ただ、俺にはもう一つ疑問がある。


「なあ、アリス先生。もう一つ質問してもいいか?」


「はいどうぞ!」


 ノリノリである。


 まぁ、機嫌がいいのはいい事だ。


 モニカだったら……いや、もうやめよう。


 もう、忘れるべきだ。


 今の俺のパートナーはアリスなのだから。







 気を取り直して尋ねる。

「そもそも何で俺は、魔王スキルを手に入れることができたんだ?」





 魔王を倒すと勇者スキルを手に入れる事ができる、というのが冒険者達の共通認識である。


 俺もそう信じて疑ったことは無かった。


 手に入れたのが魔王スキルって言うのがバレたら、殺されかねないという危惧は誰でももつだろうし、人に言えなかったというのが正解かもしれない。


 現に俺もそれを危惧した。



 アリスは指をこめかみにあて、少し考えて答えた。


「正直、そこについては推論になりますわ。


 魔王や勇者スキル持ちは倒されると、保持していた力を倒した側に譲り渡します。


 その際に倒した側の魔力が混ざるのです。


 だから魔王スキル持ちを倒しても、彼らのスキルをそのまま引き継ぐのではなく少し変化したものになることが多いようです。


 もちろん例外はあるでしょうけれども」


「なるほど……俺の元仲間が魔王殺し(ジャイアントキリング)を持っていたんだが、倒したのは魔王「鉄鼠」だったんだ」


「これもまた推論になってしまうのですが、鉄鼠が持っていた魔王スキルが「大物喰らい(窮鼠猫を嚙む)」だったのかもしれませんね。


 系統としては似ている気がしますわ。


 あれは自分より大きな敵に対して強力な打撃を与えるスキルだったはずですの」


「なるほど」


 鉄鼠は牛のようなでかい鼠だった。

 ジャイアントラットの群れを引き連れていた。

 そう言う意味では魔王スキルが、人間サイズ相手だとあまり効果が無くて運が良かったのだろう。


「この話の肝は、倒した側の魔力と混ざるという点ですわ。


 お話を聞く限り、旦那様が魔王を倒した際には魔力が全く残ってなかった可能性があります」


「器が壊れるくらい絞り出したからな……」


 死ぬほどきつかった。


 いやまあ、ほっといたら死んでたらしいけどな!



「その結果魔王が持っていたスキルが、混じりっけなしの純度100%で流れ込んだのではないかと思われます」


「その言い方だと身体に悪そうで嫌だなあ。


 あいつが持っていたスキルが|遍在する調和《どこにでもいて、どこにもいない》だったってことか……」


 一体何の魔王だったのだろうか。


 どことなくヤバい雰囲気を感じる。


「スキル名から考えると、ものすごくタチの悪い魔王だったかもしれませんね!


 以前読んだ本に『遍在する蜘蛛(そこに、いる)』というスキルを持った魔王の記述がありましたわよ?」


 楽しそうに笑うアリス。


 「なにそれ怖い。どんなスキルだったんだろう」


「あまり細かくは書いてはいなかったのですが、強いとか恐ろしい等と言う書き方ではありませんでした。


 どちらかと言うと、《《とにかく厄介なスキル》》だったようです」


 そう考えるとあそこで倒せたのは僥倖だったのかもしれない。


「旦那様のスキルがどういうものかはわかりませんけれども、なんとなく概念に干渉する系統に感じますわね」


「概念……ねえ……?」

 正直ピンとこない。


「概念に干渉するタイプのスキルは、上手く嵌めると強力ですわ。


 ただ、消費魔力が大きかったり効果が解り難かったりしますの……」


「ほかにどんなタイプがあるんだ?」


「例えばゴブリンキングの魔王が持ってるスキルは、大体が「多産多死《産めよ増やせよ地に満ちよ》」でして。


 これは事象に干渉するタイプですわ。


 出来事に干渉する感じで、この場合とにかくめっちゃ増える感じのスキルですね。


 目的が分かりやすく尖ってるぶん効果は強烈ですの。


 朝生まれたゴブリンが、夜には大人になって子供を作るっていうレベルですわね」


「ヤバすぎない?」


 ネズミなんぞ目じゃねーぞ、それ。


「まあ、彼らは弱いですからね。


 ちょっと小突いたら死にますし。


 ただ、《《もしゴブリンキングに参謀がついてたりして、軍として運用できてしまったら》》危険度が跳ね上がりますわね。


 なかなか無いケースだと思いますけど」


 お前に小突かれたら俺も死ぬと思う。


「ほーん……俺のはそれと違うって訳か……。


 そういやアリスの魔王スキルはどんな効果なの?」


 話の流れで聞いてみる。


「うふふ、それは今は秘密ですの!


 旦那様が上手く発現できたら、その時にベ……ベッドで教えてあげますの!」


 耳まで赤くしながらそんなこと言う。


「無理すんな、顔真っ赤だぞ……」


 顔をぺたぺたして照れているアリスを見ながら考える。


 魔王スキルを使いこなせれば、俺はアリスを守ることができるのだろうか?


 己れのてのひらを見ながら思う。


 いや、守らねばならない。


 もう二度とあんな気持ちを味わうのは嫌だ。



 絶対に、守る。



 もう掴んだ手は離さない。



 そう心に誓い、ギュッと拳を握る。



 何が嬉しいのか顔を赤くしたままニコニコとこちらを眺めている彼女を見て、決意を新たにした。








 とりあえず魔王関連で知りたいことは大体知れたかな……?


「あ、そうだ。魔王とかは関係ない質問なんだけどいいか?」


 聞かないでおいた方が幸せかもしれないが、敢えて聞くことにする。


「はいはい、なんでも答えちゃいますよ!」


 アリスちゃん、フルスロットルである。


 本当の名前とか聞いたらぽろっと答えないかな……?








「ちょっと聞きづらいんだけどさ。


 《《なんでそんなに俺に好意的に接してくれるのかな》》?


 俺はアリスにとって部屋に忍び込んできた賊になるはずなんだけど」








 ずっと気になっていたのだ。


 ここまで俺はアリスに流されまくって契約まで結んでしまった。


 いや、プロポーズまがいのセリフを吐いておいて何だが。


 数年後思い出して赤面する事間違いなしである。



 アリスは中空を眺め、少し考えて答えた。


「そうですね、最初のキスは多少寝ぼけていた感は否めませんわ。


 ただ起きたら目の前に割と好みの顔をした男性が、死にそうになってたから助けなきゃ、と思ったのは確かですわね」




 あ、顔割と好みなのね……。


 そんなこと言われるとちょっと照れるな……。



 待てよ?



 もし好みじゃなかったら……いや、考えるのはやめておこう、怖い。




「あと揶揄からかったら怒らずちゃんと反応してくれたり、お話してみたら話しやすいし。


 お話も上手で、私を楽しませようって言う気持ちが伝わってきたのも高得点でしたわ!」


 結構シビアじゃねーか。


 これちょっと間違ったら俺死んでた?


 俺はもしかして、ものすごいヤバイ橋を渡っていたのではないだろうか?



「そういう細かな加点はありましたけど、もっと大きな理由はありますわよ」


 そう言ってにこっと笑う。











「封印されてたわたくしを、見つけてくれたことですわ」




 やっぱり封印されてたのか。


 ん?見つけて?















「高高度を飛ぶ大界鳥ジズの背中に建てられた封印の祠に、人払いの結界に反応しない魔王のスキルを持つ半分人間じゃない方が、正しい順番で部屋をめぐってわたくしが封印されている玄室の扉を開けるなんて、もはや運命だと思いませんか!?わたくしの王子様!だいすき!もうはなしません!」


 滅茶苦茶早口で言われた。









 天を仰いだ。



 灰色の天井だ。




「偶然です……」


「偶然だから良いんじゃないですか!旦那様!運命ですよ!運命さだめ!だから愛して!」


 がしっと肩を掴まれ、ゆさゆさと揺さぶられる。


 狂気を感じる血走った目でこちらを見ている。


 瞳孔全開である。


 こわい。















「絶対に逃がしませんから」









 ひえっ。

 ちょっとおしっこ出た。

・魔王スキル「大物喰らい(窮鼠猫を嚙む)


 自分よりデカい相手だと必ず急所に当たる地味にヤベースキル。

 ジークが牛より大きかったら即死でした。

 多分魔王の素体になったジャイアントラットさんが小さ目の個体だったんでしょうね。

 ドラゴン相手でも普通に勝てます。

 やっぱ魔王やべーわ。


 ・魔王スキル「多産多死《産めよ増やせよ地に満ちよ》」


 大繁殖スキル。

 これもやべえ。

 使い過ぎると共食い始めるから、御利用は計画的に。

 たまに正気を失ったゴブリンに魔王ゴブリンキングが食われたりする。

 だめじゃん!

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