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教導者、教育終了後捨てられる。  作者: みかんねこ
1章 どんなに暗くても、星は輝く
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第16話 聖騎士、焦る。

「なんと!魔王ゴブリンキングは其処まで難敵であったか!」


 謁見の間にて領主のオッサン(クソデブチビヒゲ)が白々しく叫ぶ。



 帯同していた領軍から、どうせ既に情報は得ているだろうに。




「ハッ!我がクランも勇猛果敢に戦いましたが、多数に無勢!


 押し切られてしまいましたッ!


 申し訳ございませんッ」


 膝をつき、なるべく悲壮に聞こえるように声を絞り出す。







 結局、撤退戦でクラン「フェアトラーク」の魔王戦に参加したメンバーの半数以上が使い物にならなくなった。


 ケガをした者は癒えればいずれ復帰できるだろうが、復帰できないほどの怪我をした者もちらほらいる。

 俺に近しいメンバーはことごとく重症だ。


 ……ジャン、ギッセルフ仇は必ずとる。


 奴らを根絶やしにして、冥府に送りつけてやる!




 再度の魔王戦には、今回出さなかった先生に近しかったメンバーを連れていくしかない。


 徐々に発言権を失わせていく予定だったはずが、とんだ計算違いだッ!




 また、モニカやチトセなど他数名が行方不明だ。


 あいつらの事だから簡単にくたばったりはしない筈だが……くそったれ!




 あいつらは先生が鍛え上げた一騎当千の猛者だと俺は思っている、一人でもいなくなると今後に差し障る。


 予定が狂いっぱなしだッ!


 今から新人を迎え入れても一端になるのは時間がかかる。


 先生がいたら一年もかからずにあの人以上に育て上げたって言うのに。


 今更ながら先生の異常さにおののく。


 あの人は本物のバケモノだ。


 どんな教育を施したら新人冒険者が、2年も経たないうちに魔王戦に挑めるようになるんだ?


 お人よしで隙だらけだが、何をやらせても上手くやりやがる!


 クソッ!クソッ!クソッ!






 超えられない!





 確かに戦闘能力に関しては俺のほうが上だが、そのほかは何一つ勝てていないッ!



 先生を自分で出ていくように仕向ける絵は、俺が描いた。


 モニカの件で動揺させ、近しい連中を他所へ派遣させて孤立させたのが思いの外上手くいったのだ。


 先生も人の子だったってことだ。


 其処までは上手くいっていたはずなのにッ!


 クソッ!クソッ!クソッ!



 ……冷静になれ、ジーク!


 まだ巻き返す手はあるッ!


『ピンチはチャンスというよ。


 まあ、上手くやらなきゃピンチのままだけどね、ははは』


 何の役にも立たないアドバイスありがとよ、先生ッ。






「つきましては、領軍との共同作戦で一気に殲滅してしまおうとご提案させていただきますッ!」


 下手に見えるよう、一層頭を下げてから声を出す。



「キサマッ!領主さまに提案など!」


 領主の家臣(腰ぎんちゃく)が怒りの声を上げる。


 どうせ話はついてるんだろう?


 言葉に怒りを感じないぞ。


「よせ。そうであるな……民草が苦しんでいるのを……放置は出来ぬ……な?」


 領主のオッサン(クソデブチビヒゲ)が重々しくのたまう。


 白々しいッ!


 どうせどうでもいいと思ってるんだろう?


「ハッ!もうこれ以上民草に被害が出るのをワタシは我慢できませんッ!」


 あぁ、俺も演技が上手くなったもんだ……。


 恐ろしいな、ここは領民を守るための話し合いをしているはずなのに……。









 誰も民草などどうでもいいと思っているなんてな!








 自分を含めて反吐が出るッ!




 だが!



 それを飲み込んで俺は上に行くッ! 


 もう二度とゴミのように扱われないッ! 


 ゴミの中で生まれ!ドブネズミを見るような目で見られ! 


 いついなくなってもいい、いなくなった方がありがたいと思われるような存在にはならない! 


 いつか、いつか目の前にいるこの領主のオッサン(クソデブチビヒゲ)ひざまづかせてやるッ!


 だから俺はここで止まらない、止まれないんだッ!


 俺のついてきてくれるクランメンバーの為にもなッ!


 だから、今はどんな屈辱にも耐えて見せる。




「よかろう!我が領兵3,000を貸し与えようッ!


 ……しかし、魔王退治の主力は我が軍。


 ……魔王を殺すのは将軍たる我が息子ギデオン……それでよいな?」


 領主のオッサン(クソデブチビヒゲ)がいやらしく笑う。


「ハッ!もちろんそうさせて頂きますッ!」


 うやうやしく頭を下げる。


 魔王退治はまたいつか転がり込んでくる……今回は、我慢だ……。



「これで我が息子も勇者スキル持ちか!ホホホホ!」


 上機嫌だ、もう勝った気でいやがる。


 領主のオッサン(クソデブチビヒゲ)、戦場では何が起こるかわかんねぇんだぞ……?


 勇者スキルは貰えても、五体満足で帰れるかどうか、わかんねぇぞ?


 ……だが、ヤツの息子のギデオンとは知らない間柄じゃぁない。


 できれば、乱暴な手段は取りたくないところだ。


 仮にも義理の兄になるわけだしな……。




 領軍との共闘の打ち合わせを終え、クランハウスに戻る。


「モニカやマリタ、チトセ達は戻ってないか?」


 羽織っていたコートを新しい付き人のコロンに渡しながら聞く。


「誰も戻ってませんねぇ……死んだのでは?」


 コロンの奴がニヤついて言う。


 ふざけたことをッ!


 コイツ、死人が出たら自分が上に行けると思ってやがるッ!


 頭に血がのぼる。


「貴様ッ!縁起でもないことを言うなッ!」


 殴りつける。



「す、すいません!すいません!すいません!」


 コロンが半泣きになりながら謝る。


「仲間を大事にできない奴は出ていけッ!」


 尻を蹴り上げる。


 コートを抱えて逃げていく。




 クソッ!イライラするッ!


 部屋の隅の木箱を力一杯蹴る。


 バギィ!



 中身が飛び散る。


 ……片付けるの俺だよな……はあ……。







 一人で執務室にもどり、どっかと椅子に腰かける。


 机を開け疲労回復に効果のあるクスリを引っ張り出し、一掴みして飲み干す。


 ほんの少し、疲れが癒えた気がした。



 ……どんどん効きが悪くなってやがるな……。







 静かにタバコに火をつけくゆらせ、先ほどの事を思い出す。







 仲間を大切にできない奴は出ていけ、か。


 あァあ……。


 あぁぁああァァぁ……。



 声にならない声を上げる。


 顔を抑えて呻く。



 クソッ!クソッ!クソッ!


 割り切れッ!




 俺は!




 俺は!




 俺はクラン「フェアトラーク」のクランリーダー、ジークだッ!




 俺にはあいつらを上に引っ張り上げる義務があるッ!


 そう自分に言い聞かせた。


 何度も。





 しばらく呻き、酒を煽り考える。



 思い出すのは、先ほどの領軍との打ち合わせ内容だ。


 すでに準備していたらしく、すぐにでも出れるらしい。


 やっぱり知っていやがったな、あのタヌキ。



 だが、この状況ではありがたい。


 行方不明者が生きていた場合を考えると、すぐにでも動くべきだ。


 多少の疲れはクスリで誤魔化す。


 終わってから長めの休みを取ればいいだけだ。









 立ち上がり、鏡を見る。


 そこそこ整った顔立ち、目の下の隈……そして化粧で隠してはいるが皺。


 自慢の燃えるような赤髪もよく見ると白髪が混じっている。


 クソッ……やはり、この前のアレで何年分か持っていかれたか……。




 俺は本来はまだ20歳前の若造だ。


 だが鏡に映る男は、どう見ても疲れた30代だ。


 もうあまり猶予がない……。


 これから勇者スキルを使えば使うほど、衰えていくはずだ。


 感覚としては魔王殺し(ジャイアントキリング)ならかなりの回数でも問題なく今の感覚で振るえる筈。


 あれは抜群にコストパフォーマンスがいいからな。


 ただ「|主がお前を戒めてくださるように《神に似たるものは誰か》」はもう使いたくないな……つかったらもう隠しきれないだろう。


 極致に至るまで、まだまだ足りない。


 恐らくあと数体の魔王を狩る必要があるだろう。





 魔王「鉄鼠」を倒した後、酒場で飲んでいると勇者スキルの代償の話をしてきた人間が居た。


 フードを被ったやたら怪しい奴だったが、誰も知らないような事を知っていたのだ。


 ヤツ曰く、数多の魔王を殺すことにより極致に至り真の勇者になれると。


 真の勇者に至れば、代償無しで大きな力を振るえるとも。



 馬鹿馬鹿しいと始めは信じていなかったが、魔王殺し(ジャイアントキリング)を振るう内に自分の加齢が加速度的になっていることに気付いたのだ。


 俺は焦った。

 

 この力でのし上がるつもりだったのに、このままでは先に爺になっちまう!


 魔王ゴブリンキングを倒してもまだ足りないだろう。


 極致に至るのが先か、俺が老いぼれて死ぬのが先か。









 もうあまり余裕はない。








 自分の身体の事も、クランの連中を引っ張り上げる事も同時にやらねばならない。



 次だ、次こそ……。



 拳をつくり、鏡に映る自分と合わせた。

 簡単な用語説明

 ・領主のオッサン(クソデブチビヒゲ)

 ジークはこれの娘を貰って領地をもらうつもり。

 どんな娘かって?ははッ。

 為政者としてはそんなに悪くない、ちゃんと民草も大事にしてるよ!


 一応、ちゃんとジークの事を評価している。

 ただ本当はヴァイスの方が婿に欲しかった。

 本人から「私には愛する人がおりますので。」とやんわり断られた。

 とても残念に思っている。


 息子が1人、娘が9人いる。

 息子の名前はギデオン。


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