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教導者、教育終了後捨てられる。  作者: みかんねこ
1章 どんなに暗くても、星は輝く
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第11話 教導者、敗北を喫す。

 勝手に入った知らない人の家で、寝室で寝ていた家主と思われる女と目が合った。


 完全に犯罪者である。

 全く言い訳が出来ない、完璧な不審者である。


「あの、こんにちは……」

 おずおずと挨拶をする。

 アイサツは大事である。


 作り物じみた美貌の女は何も言わず、その美しい深紅の瞳でじっとこちらを見ている。


 とても居心地が悪い。


 その瞳に宿る感情は解り難いが……興味とほんの僅かな……憐憫れんびん





 紅い目をした美女は何も言わず、すっと半身を起こした。

 綺麗な銀髪がさらりと流れる。

 しっかりと手入れのされている美しい髪だ。


 モニカは面倒くさがるからすぐボサボサになるんだよな。

 今はちゃんと自分で手入れしてるかな?


 彼女の動きを見ながら、ぼんやりそんな事を考える。





 現実逃避である。
















 彼女はゆっくり手を伸ばして。












 俺の頭を掴み、いきなり口づけをした。














 ぶっちゅううううううううううううう!!!









 いや、口づけなんてかわいいもんじゃねーわ!


 なんだこいつ!


 俺なにされてるの!?




 ぬるり。





 あ、こいつ舌入れてきやがった!!


 や、やめろ!放せーッ!ヤメローッ!


 こ、こいつ力強ッ!


 駄目だ!全く動けんッ!


 万力に挟まれたみたいにびくともしねぇ!


 力づくで振り払おうとしたが全くかなわない!




 なんなのこいつ!?







 じゅるるるくちゃぺちゃぐちゃぬるのるぬるるッ!







 あばばばばばばばば!











 アッー!










 30分放してもらえなかった。











 ぐったりと床に倒れ伏した、よだれで顔がベトベトになった俺。

 どことなく満足そうな顔をして口を拭っている女。


 暴行の被害者と加害者である。


 現行犯である。


 普通、立場逆じゃねぇの……?

 いや、逆だとやべぇ絵面になるけどさあ!





 くそ……俺の唇はモニカ以外に許したことはないのに!









 ……それなら別にいい気がしてきたが、それはそれである!



「失礼いたしましたわ。」

 綺麗なカーテーシーをして頭を下げてくる。


 本当だよ。と思ったが、勝手に入ってきたのは俺なので謝る。

 6:4くらいでまだ俺のほうが悪いはずだ。



 多分。




「いや……勝手に家に入った俺も悪かったし……」

 べとべとになった顔を拭いつつ答える。

 いったい俺は何をしているのだ……?


「それもそうですわね」

 静かに頷く女。


 侵入者への対応がおかしいぞ、この女。


「何か失礼なこと考えてそうな顔ですわね」

 心を読むなよ。

 どんな顔だよ。


「とりあえずリビングに行きませんか?乙女の寝室で立ち話もアレですし。」

 ぴっと親指でリビングへ続くドアを指さす。



「乙…女……?」

 いきなり人の口に吸い付いて、ねぶり倒す女が乙女……?


「何か文句でも?」


 ニッコリ魅力的な顔で微笑まれた。


 そして静かに寄ってきて肩を掴まれる。


「何か、文句でも?」


 掴まれた肩がメリメリ音を立てている。


 痛い。


 つよい。


 こまった、ちょっと勝てない









 リビングに戻ると違和感を感じた。

 ん?あれ?なんか広くて豪華になってない?

 さっきはソファもテーブルもなかったはず。



「なんかさっきと様子が違う気がするんだけど」

 とりあえず変な女に尋ねてみる。


「あぁ、位相空間がずれましたからね。こっちが本当のリビングですわ」

 さらりとよくわからないことを言う。


「位相空間・・・?ずれる・・・?」


 オウム返しに思わず聞くと、変な女は鼻でふっと笑って答えた。

「説明してもいいんですけど、貴方に分かるように説明すると10年くらいかかりますわよ。それでもいいのでしたら聞きます?」


 こいつ・・・ッ!マウント取ってきやがるッ!


 正直興味はあるが、話が進まないので・・・。

「いや、とりあえず本題を話し合おう」


 立派なソファがふたつとテーブルがリビングにあったので、片方のソファに座る。




 変な女はすっと自然な感じで俺の《《隣》》に座った。




 え、こういう時は対面に座らない!?

 ほんと何なのこいつ!


 なんかよくわからないけど綺麗な顔でニコニコしている。


 こわい。


 なんなの、何が目的なの。


 金なら無……唸るほどあるな……。


 まぁ、いい。


 よく無いけど、いい。


 たじろぎながらも話を進める。

 こいつは強引でも進めないと話が進まない奴だ。


「そ、そうだ!自己紹介がまだだったな俺は・・・ヴァ」



「あ、一応お客様だしお茶出しますね」

 そういっていきなりすいっと立ち上がった。




 こいつ……!




 台所と思しき方向にヤツが向かって、しばらくゴソゴソしていたと思ったら、扉から顔だけにゅっと出して言った。

「お茶の葉切れてましたわ。持ってません?」



 自由過ぎない!?



「あ、あぁ・・・一応あるから使ってくれ……」

 空間拡張鞄から大事にとっておいたお茶の葉を出して投げ渡す。


 高いんだよな、これ。

 旅先でこういうの飲むと心に余裕が生まれるんだよ。


「ありがとうございます、すぐに淹れますわね」

 ちゃんとお礼は言えるのね・・・。

 格好はメイドなんだけど、態度はいい所のお転婆なお嬢さんなんだよな。



 お転婆すぎるが。



 しばらくしてカチャカチャと音を立ててティーカップを持ってくる。






 一つだけ。







 そして座って、自分だけ飲んだ。


「まぁまぁの味ですわね」









 こいつ……!こいつ……!








「冗談です。」

 どこからともなくティーカップを取り出し、俺の前に置いた。



 がっくりと力が抜ける。

 こいつは・・・。


「あ、やっと緊張が解けたみたいですわね!」

 嬉しそうに女が言う。





 こいつ、俺が緊張してたからこんなことしたのか……?








 いや、ぜってーこいつは好きでやってるわ。


 なんとなくわかる。


 そういう匂いがする。


 クランにもこういうやつがいた。


 あんまりかかわりたくない奴だッ!



「さて、お互い緊張もほぐれましたし自己紹介と参りましょう」

 音もなく立ち上がり、上品に微笑んで彼女は名乗った。


「わたくしは災厄の……────」

 そこまで名乗った後、ちょっと視線を右上にやって数秒沈黙した後言った。




「今の無し。貴方の素敵なメイド、アリスですわ」


 にっこり。


「…………………災厄の?」


 にこっ。


「貴方の素敵なメイド、アリス、ですわ」


「…………………災厄の?」


 すすっと顔から10cmくらいまで寄ってきて笑顔でさらに言う。

「貴方の、素敵なメイド、アリス、ですわ。」


「はい・・・俺はヴァイスです・・・教導者やってます・・・」


 呻くように自己紹介を返した。



 俺は……弱い……。

 つよくなりたい。


簡単な用語説明

 ・お茶の葉

 東の大地の果て、イーストエンドからの舶来品。

 貴族が好んで飲んでいる高価な嗜好品。

 ぶっちゃけ紅茶。

 ヴァイスも貴族に招かれた際に気に入ってストックしていた。

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