第1話 教導者、気付く。
「・・・第五パーティ、アズエル、ハース、クルト、ヒルデ。バックアップはマルガ、テア、リヒャルト。以上だ。」
我がクランのマスターであるジークが、今度の遠征パーティーメンバーの発表を終えた。
呼ばれたメンバーの喜びの声と、呼ばれなかったメンバーの悲鳴が木霊しクランハウスが一気に活気づく。
そんな中、俺は一人宙を仰ぎ溜息をついた。
半ば予想はしていたが、俺はまた呼ばれなかった。
どうしようもない無力感に襲われる。
ここに俺の居場所はもはや存在しないのだろう。
そんな俺に気付いたジークが、申し訳なさそうな顔をしてこちらに寄ってきた。
「先生、すいません。今回は先生はこのクランハウスを守っていただきたいのです」
ジーク、気付いているか?前回も、前々回も同じことを言っていた事を。
同じ顔をして同じ事を言ったお前にとって、俺のことはもうどうでもいい存在なのだろう。
「……わかった」
そして俺は前回、前々回と同じ返事をした。
クラン「フェアトラーク」は、この国アナフィハ王国で今一番勢いのあるクランだ。
なんでもやるならず者、冒険者の中でも割とマシという評価を受けている。
素行不良者に対する処罰は厳しく、統制は取れているほうだと思う。
このクランを作り上げたのは今のクランマスターであるジークと、彼の師匠であり右腕で《《あった》》この俺ヴァイス、そして俺の幼馴染であるモニカの3人だ。
10歳になった時、逃げるように田舎の村より出てきて冒険者になった俺とモニカ、王都のスラムで出会った年下のジークを俺が見出しパーティを組んだ。
信用を少しずつでも得ることが大事と俺は考え、報酬の安い仕事でも進んで受け経験と信用を得た。
モンスター退治のような華々しい仕事をやりたがるジークを抑えて、それはもう頑張ったものだ。
冒険者ギルドからも「いつ死んでもいいゴミ」から「ちょっとは使える駒」になり、「とりあえず仕事を回してやってもいい若造」そして「仕事を安心して任せられるベテラン」となった。
ここまで5年かかった。
ただ、それでも普通の冒険者よりもずっと早かったと思う。
その秘密は俺のジョブにある。
10歳の成人の儀の際、俺が授かったジョブは「教官」。
人を教え導くスキルが身につく特殊なジョブだ。
一例を挙げると、
「教育」自分より能力の低いものに対して知識・技術を効率よく教えることができる。
「助言」自分より能力の低いものに対して能力を引き出すことができる。
あとは自分が参加する集団の能力を底上げする「補助」なども貴重なスキルだ。
また、「教官」は他者に教えるためにどんな武器も扱え、魔法だって基礎的なものも使える。
「剣士」や「魔術師」などの専門のジョブには敵わないが、幅広く技術が身に着けられる「教官」は俺にとって都合のいいものだった。
スラムで徒党を組んでいた孤児どもを教育し、訓練して一端の冒険者《駒》に鍛え上げた。
最初に仲間に入れたジークは「聖騎士」のジョブを得て飛躍した。
奴には俺のすべてを教え、導いた。
クランを設立して勢力を拡大し、大きな仕事を成功させ装備を充実させた。
冒険者ギルドの塩漬け依頼を解消し、大きな貸しを作った。
貴族たちからの依頼も舞い込むようになった。
気付けばこの国で一番勢いのあるクランになっていた。
村からでてきて10年目だ。
そもそも俺が村から出た理由は二つある。
一つは、村では俺のジョブが力を発揮できそうになかった事
もう一つは、俺の兄貴と無理やり結婚させられそうになったモニカと一緒に逃げるためだった。
俺は自分の身に着けたスキルを活用することに夢中になっていた。
いつしか俺は「教官」の上位職「教導者」になっていた。
より効率よく鍛え上げることができて、一層のめりこんだ。
それしか見えてなかった。
近隣に現れた魔王と呼ばれる魔物の王の討伐依頼が来た時、俺は参加メンバーに選ばれなかった。
その時に気付いたのだ。
俺がクランで一番弱い駒になっていた。
いや、違う。
俺以外の全員を俺より強くしてしまったのだ。
惜しみなく教え、導き、与えた。
教育者としては満点だろう。
しかし俺もまた20歳の冒険者なのだ。
クランメンバーの半数以上には、何でもありの殺し合いならば手札の多い俺が勝てるだろうと思う。
一点突破型の「剣士」や「闘士」ジョブを持っている奴には模擬戦では押し切られてしまう。
そもそも「教導者」は支援職の色が強い、前線でやりあう職ではないのだ。
教え子との模擬戦では勝てなくなってしまった。
ジークをはじめとしたクランメンバーは、技術と知識を与えた俺のことを尊敬してくれる。
しかし冒険者としては、意識的にか無意識的にかわからないが下に見ている。
冒険者とは突き詰めると、強いものが正しいのだ。