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憲兵神楽坂冴子の事件簿  作者: 葛城マサカズ
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「姫様の休日」(2)

 カイラ姫が広島に来て翌日、彼女に訪問者が来た。


 外務省の役人が冴子の上司である吉川と世羅と共にやって来たのだ。


 「ご苦労だ。今日は殿下へ挨拶に来たのだよ」


 吉川は敬礼する冴子に答礼すると訪問の目的を述べた。


 「あの文官らしき人は?」


 冴子はグレーのスーツを着た男を指し尋ねる。


 「あれは外務省の役人だよ。あれも殿下への挨拶さ」


 「外務省は関係あると思いますが、外部に殿下の居場所が知られているのですか?」


 冴子は憲兵隊以外にカイラの居場所が知られていないか懸念した。


 「あの役人はわざわざ司令部に来て、殿下にご挨拶がしたいと言ってきた。まあ殿下が来て翌日にあの役人は広島に来たんだ。知って来たとしか思えんな」


 吉川も冴子と同じく情報の拡散を懸念していた。


 「殿下の居場所は知られている前提で警備態勢を見直します」


 冴子は早々に計画の練り直しを迫られる状況に苛立ちを感じた。


 「それが良いな。場合によっては別の所へ移す必要もあるだろう。頼むぞ」


 「はい」


 冴子はカイラの居る別荘周辺にセンサーとカメラの増設や憲兵による検問所を別荘から五〇〇mの位置に置く事を決めた。


 改めた警備態勢が整わない内に訪問者は武田山に来た。


 どれも官僚や政治家に軍人ばかりだった。


 時には総理のご意見番と言われている与党の古参議員に皇族の皇太子までもが訪れた。


 軍内や政界にカイラの情報は出回っているのは明らかだった。


 「要人がご挨拶に訪れるのは良いのですが、こう連日ですと警備を万全にはできません」


 冴子は電話で吉川へ訴えた。


 「分かる、分かる。だが止められんのだ」


 吉川は頭が痛い思いをしながら冴子の訴えを聞く。


 「明確な脅威が無いから、訪問を止められない道理は分かります」


 冴子はカイラに対する憲兵の態勢を述べる。


 憲兵隊はカイラを「要人警備第一種」と言う段階で警備している。これは身柄を守るが面会や行動など他者と会う事は禁じていない。


 これが、明確な脅威となる暗殺計画や脅迫があれば「要人警備第二種」に引き上げられ、面会や行動を憲兵が規制できるようになる。


 警護する対象の危険が高まればより厳しい態勢に引き上げられる。


 「しかし、ミルダナオの情勢が不安定です。カイラ王女がどうなるかも分かりません。拉致される可能性もありますよ」


 冴子は語気を強くする。


 「それも分かる。まあ、お偉いさんの行脚もずっとは続かないさ。それまでは気が抜けんだろうが頼むぞ」


 吉川は冴子の剣幕を受け流し電話を切った。


 冴子は収まらない怒気を鎮める為に煙草を吸い、煙を吹く様に吐いた。


 


 日本の要人達による挨拶は五日で途絶えた。


 冴子はカイラだけではなく、要人にも気を配る日々から解放された。


 「みんなご苦労様、当分はお偉いさんは来ないでしょう」


 冴子は三宅と末松に応援に来た広島地区憲兵隊の憲兵をを労う。


 「お姫様の様子はどうです?」


 三宅が尋ねる。


 「侍従長の話では落ち着いているらしい」


 「仕事があったからでしょう」


 「まだお転婆姫だと思ってる?」


 冴子の問いに三宅は「そうです」と答える。


 「そのお姫様に呼ばれている。お転婆かどうか直に見て来るわ」


 「お気を付けて」


 三宅の言葉は冴子にはどこか意味ありげに聞こえた。


 「警備責任者である神楽坂大尉です。殿下がお呼びとお聞きして参上しました」


 カイラが居る洋館で冴子は立ちながら頭を垂れ参上を伝える。


 ここは客間となっている部屋だ。カイラは椅子に座り侍従長であるラウエルはカイラの隣で立っている。


 「お呼びしたのは殿下からの要望をお伝えする為です」


 ラウエルが冴子を呼んだ理由を言った。


 「要望とは何でしょうか?」


 「殿下の外出についてです。出来れば市街地へとのご希望です」


 冴子は心中で「それは困る」と呟く。


 ようやく政治家や上級の将校達の訪問が終わったと思ったら、警護対象が動き回りたいと言うのだ。


 カイラの動きに合わせて警備態勢を見直さないと、むしろ警備要員を増員しなければ。関わる民間企業や県警とも調整しなければと冴子は自身に降りかかる面倒が冴子の脳内に引き出される。


 「いかかですか?」


 ラウエルも無茶を言っていると自覚しているのだろう。控えめに尋ねる。


 「警備担当として、外出はお控え願いたいのですが」


 冴子はカイラへ向かいお願いするように言う。


 「ダメなの?」


 カイラは不機嫌そうに言った。


 「申し訳ないですが」


 冴子は腰を低く、頭も下げているような思いで答える。


 「日本の政治家や軍人に王子も押しかけて来たのを出迎えてあげたのに、息抜きもできないの?」


 カイラは口を尖らせる。


 「殿下、大尉をあまり責めてあげないでください」


 ラウエルが宥めようとする。


 「侍従長、誰でも私に会わせて疲れさせたのは貴方じゃない!」


 カイラはラウエルに雷を落とすように怒鳴る。


 「申し訳ありません。しかし必要な事ですので」


 ラウエルは恐縮する。


 「とにかく、私は息抜きがしたいの!」


 カイラは冴子とラウエルに憤懣をぶつけた。


 「殿下、外出の件は少し検討させてください」


 冴子は即答を避ける事にした。


 「いつまで待てばいいのかしら?」


 カウラは意地悪に尋ねる。


 「三日ほど・・・」


 「長いわね」


 「二日、明後日には」


 冴子は頭の中で「ワガママ姫め!」と罵る。


 「分かりました。二日待ちましょう」


 カウラは二日で納得した。


 この時になり冴子は三宅によるカウラがお転婆姫だと言う所見が正しかったのだと分かった。




 「外出か。参ったな」


 冴子は中国管区憲兵隊本部に戻り吉川へカイラの要望を伝えた。


 「カイラ殿下は連日の要人訪問で精神的にお疲れのようです」


 冴子はここぞとばかりに連日の要人訪問を抗議する。


 「我々のせいでカイラ殿下がふさぎ込まれてはいかんな」


 吉川は思案している。


 「小官としては殿下の外出は反対です」


 冴子は吉川が何か決心する前に意見を述べる。


 「大尉の意見は分かる。しかし殿下は十代の女の子であるし無下にはなあ・・・」


 冴子は自分の上官が子供を気遣う心の持ち主だと初めて知った。


 「司令官に話すべきだな」


 吉川は中国管区憲兵隊司令官の世羅へ話す事を決めた。


 「そうか外出か。ふむ」


 吉川から話を聞いた世羅はどうするか考える。


 その様子を冴子は吉川と共に見て待つ。


 「カイラ殿下に危険があるかね?」


 「その報告は受けておりません」


 まずは吉川が答える。


 「警備している範囲では不審者など危険は見当たりません」


 次いで冴子が答える。


 「そうか。では、外出をできるようにしようではないか。ただし目立たずお忍びと言う形でな」


 「分かりました。準備します」


 冴子はカイラ殿下のお忍び行幸の警備に誰を行かせるか頭を巡らす。


 姫様のお供をさせるのは末松が良いだろう。憤懣を貯め込んで発散したがっているカイラのお供は振り回されるのが目に見えている。


 そういう損な役目は若手にやらせよう。


 冴子はそう決めた。


 「カイラ殿下のお供だが。神楽坂大尉、君に任せる」


 吉川がいきなり言った。


 「私にですか?」


 冴子は思わず口が引きつる。


 自分が立てた最良の計画が瞬時に潰えた衝撃があったからだ。


 「大尉はこの広島市出身であるし、お供は同じ女同士が良かろう。頼むぞ」


 冴子は心中で「また頼むですか」と嘆く。


 「了解です。カイラ殿下をお守りしつつ、満足できるようにご案内します」


 冴子は新たに与えられた任務を受けるしかなかった。

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