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龍神

作者: 島石浩司

人類の文明による化石燃料の大量消費と森の消失は、大気中の二酸化炭素の増加と温暖化をもたらし、地球環境を悪化させていた。

そして、高緯度地域の氷河・氷床が消え去った時期を境に、まるでアイスコーヒーの氷が溶けてしまったかの様に、大気温度は急激に上昇し、人類にそれを止める手段はなかった。

空気は呼吸に耐えない酸素不足の熱気となり、動物はあえぎ苦しみ、鳥たちは姿を消した。


気温上昇による気候変動と大規模な自然災害は、深刻な食料危機をもたらし、海面上昇は、多くの陸地を海中に沈め、領土領海をめぐる度重なる紛争をもたらした。民族・国家間の核戦争が頻発し、人類と環境に壊滅的な被害を与えつづけた。

大地は放射能で汚染された沼地に、空気は有害な毒気と化し、地上に生きるほとんどすべての動物の生命を継続不能にした。


それでも人間たちは暫くの間、狭くなった陸地で食糧を作り酸素タンクを背負って、飢餓と疫病の中で生き延びていた。しかしやがて、自らの存続を諦めたかのように、地上から消え去っていった。


残された地表には、二酸化炭素の増加に対応した赤い色の植物だけが繁茂し、小さな爬虫類と、昆虫と、もっと原始的な生物だけが生き残った。そして、地球のほとんどは灰色の海に覆われていた。


☆-  ☆-  ☆-  ☆-  ☆-  ☆-  ☆-  ☆-  ☆- 


灰色の海の中を、巨大な龍がゆっくりと進んでいく。


獰猛な牙をもつ大きな魚や海生動物たちは龍に驚いて道を譲り、


小さな魚たちの群れは龍に付いて行こうと沸き立っている。


進んでいく龍の前方に、海に沈んだ人間の街の廃墟が広がっている。


赤い藻に覆われ崩れかかった四角い建物が広がる海中を、龍はゆっくりと一回りした。


それから速度を上げて、海面へと昇って行き、そのまま空中へと飛び上がった。


灰色の海面には霧のような白い空気が流れ、その上空を龍は飛び続ける。


長い時間飛び続けた龍は、小さな陸地を見つけ、そこへ降りていった。


陸地には赤い色の植物が生い茂り、龍の目に見えるような大きな生き物はいない。


その陸地にしばらく留まっていた龍は、再び勢いよく飛び上がり、


今度は、霞んだ太陽に向かって垂直に昇り始めた。


龍は雲を通り抜け、高く高く上昇を続け、薄暗い大気圏外に飛び出した。


さらに、眼下に広がる灰色の地球を離れ、太陽に向かって飛び続け、


太陽と地球が同じ大きさに見える空間で、ようやく停止した。


そして、体を丸めて縦方向に回転をはじめた。


龍の目には、太陽と地球が交互に昇ってくるのが見える。


回転は徐々に速度を増し、やがて龍の体は見えなくなり、輝く球体となって、あたりに強い光を放ちはじめた。


-☆  -☆  -☆  -☆  -☆  -☆  -☆  -☆  -☆


それからしばらくして、龍の回転は徐々に遅くなり、停止した。


そして龍は、地球の方向へ頭を向けて、再び飛行を始めた。


前方に見える地球は、さっきまでの灰色ではなく、青く輝いている。


紺色の海と緑色の陸地と白い雲が流れる地球が、大きく近づいてくる。


大気圏に入ると、龍は踊るように体を揺らして、地球の周りを回りはじめた。


龍の体から、無数のキラキラした光が地球に降り注いでいる。


しばらくして、龍は白い雲の中へと降りて行き、雲を通り抜けて、小さな緑の島の上空へ近づいていった。


島には四角い建物が広がる街があり、そこに車や人間がうごめいているのが見える。


にぎやかな街の上空を、体を揺らしながらゆっくりと一回りした龍は、


大きな目玉をぎょろりと動かし、その街の一角にある小さな石に向けて、


その金色のひげからキラキラした光を、ほんの少しだけ振り下ろした。

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