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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

学校の1の美少女とブタ男が心中したらしい

作者: Eit

朝のHR。俺のクラスの二つの席が空いていた。学校1の美少女と呼ばれるセノと、クラス全員からいじめられているヨモギという男。その日は何だか学校全体がざわついていて、なんだろうと思ったが、先生と話すこと自体億劫で何も聞かなかった。


「セノとヨモギが亡くなった。……自殺だそうだ。」


少しびっくりする。クラスメイトはセノを想い泣いたりしたが、俺と言えば『え、マジか』という感じだった。ヨモギはいじめられていたし、死んだ理由は何となくわかるけど、なんでセノまで。


その日は午前授業になってクラス全員で通夜に行くことになった。


セノは変な女だった。クラスメイトはいい奴だと言ったが、偽善者という言葉が一番よく似合う女だと思っていた。


何故と言われれば困るのだが、俺は何となく苦手だった。高校生の男なんて猿だ。俺も猿だと思う。中身より顔で選ぶ自信があるし、付き合ったらヤルまでの過程を考えているような男だし。でも、それでも、セノはなんだが苦手だったのだ。


顔がどれだけよくても、性格がどれだけよくても、なんだか本当に苦手だったのだ。


すっげー可愛いくせに、クラスのカースト1位の女にパシられたり、宿題替わりにやってきたり、先生の雑用をいっつも任されてたり、男にセクハラされて顔を赤くするだけで黙っていたり。あのブタ男と付き合ったり。


え?そこまでいい奴ぶる?こわ……って感じだった。


いや俺本人はクラスの隅で、昨日のFPSゲームの大会と今期一番来てる美少女アニメの話で頭がいっぱいの、正真正銘の陰キャなのだが、別にいじめられてるわけじゃないし、問題なかった。


つかそれより、ヨモギをいじめてた男女が顔面を真っ青にしてて、ウケる。ざまぁ。


とか考えていた。正直俺からすれば超美少女のセノも、クラス中からいじめられてるヨモギも、縁遠い関わりたくない奴らだった。だから死んでもマジかくらいしか思えなかったんだ。


でも次の日目が覚めると、俺は、とんでもないイケメンになっていた。どういうことだよと思うかもしれないが、次の日目が覚めて鏡をみたらイケメンになっていたのだ。外の景色は冬だったはずなのに、桜が舞っていて、カレンダーは4月をさしていた。


名前は元の自分のまま、カレンダーは高校の入学式の日だった。


人生初めて女に「かっこいい」と囁かれたし、人生初めて女から「連絡先交換しようよ」と言われた。めちゃくちゃうれしかったけど混乱した。モテたことがろくにない人生だったので、ネットでイキることだけが俺の人生だったのだ。


でもクラスで騒がれているのがもう一人、セノ。クラスメイトは俺以外、本当に何にも変わっていなかった。何故俺は時間が巻き戻ったのか、そしてイケメンになったのか考えたが、全然分からず、気づいたころにはいわゆる1軍という、クラスで威張り放題のグループに所属していた。


昔の陰キャ仲間は俺を見ると変な汗をかいて『はい』しか言わなくなった。普通に寂しかった。


陽キャ1軍のグループは男女どちらもいるクラス唯一のグループで、先生のこともからかったりする。宿題は陰キャに見せてもらうことが多くて、全員なんだか知らないが体育が得意だ。俺のこの身体も、なぜか運動神経が良くなっていた。


「セノ―、宿題見せてくれー」

「うん、いいよ。国語?」

「それっ!昨日寝ちゃったの、ありがとう。今度ス〇バおごるね!」


学校だってのに化粧してる女がセノの宿題を必死に映していて、俺は自分の間違いを見つけまくるのだった。


「トキ、お前青い顔してどうした。」

「いや、なんかセノさんの回答を見ていたら、俺は後半全問間違えているなと思って絶望した。」

「草。」

「トキの映すわ。」

「やめろ。お前それ後で俺のせいにするだろふざけんな。つか自分でやれよ!」


女ってのは知らないが、男ってのは陰キャも陽キャもよく考えてみれば、あまり変わらないものなのかもしれない。美少女アニメはキモイと言われそうなので話さないように心がけているが、やってるゲームもしてるエロい話も、昔の俺と大差なかった。


むしろ高校生なんて顔だのファッションだけで地位が決まってしまうという実感を改めて感じた。


ただ違うところといえば、ノリってのがある。クラスの女にランキングつけたり、セックスした回数を自慢したり、酒飲んだとかタバコ吸ったとか情けない犯罪を自慢したり、あるクラスメイトを標的にしていじめをしたり。


そして俺は、根が根性なしの陰キャなので当然イケメンになっても注意などできるわけもなく、見て見ぬふりか、ノリで悪口を言ったり、クラスのど真ん中でアイツに触ると菌がとか、でけー声で言った。最低である。ちょっと前まで、陰でこういうイキってる陽キャが一番ダサいとか友達と悪口言ってたのに。セノを偽善者とか言ってたのに。


当事者になった瞬間、俺は、本当にただの凡人で小さい奴なのだと思い知る。


ライン返すのめんどくせーし、寝落ち通話めんどくせーし、弱いアイツらとゲームしてもおもしろくねぇし、放課後すぐに家に帰りたい。でもマジでなんも言えなかった。言えな過ぎて口の中は口内炎だらけだった。


そんなある日だ。セノとヨモギが一緒に帰っている姿を見かけた。そういば、アイツ一緒に居たらまた死ぬじゃん。このまま行ったら俺、ヨモギをいじめた陽キャになるわけで、クラスメイトを自殺させたとか、どうなるんだ。


ググった。わんちゃん少年院だった。


嘘だろ。嘘だと言ってくれ。どうしよう。捕まるのが怖すぎて、俺は何かにつけていじめの片棒から逃げるようになった。そしたらノリ悪って言われてちょっと孤立した。


普通に学校に行きたくなくなった。


「はぁ……、なんかめんどくせ。」


人間関係が全部クソめんどくなって、母親に腹痛いと言って休んだ。そしたらまさかのセノがプリントを届けにやってきた。ぼさぼさの髪になんか1週間くらい洗ってないスウェット。仕方がないだろ、チャイムが鳴って、アマ〇ンかとおもったらセノだったんだ。


セノは俺を見て笑った。ホントすっげーそれだけでかわいかった。可愛すぎてびっくりした。


「なんで笑うんだよ。」

「いや、だっていっつもトキくん髪とか服とか完璧なのに、家でそんな感じなんだなって思ったら、おもしろくって。」


家でまでイケメンでいるなんて普通に無理だ。もしかしたらイツメンだったアイツらは家でもイケメンなのかもしれないが。


「……別におもしろくはないけど、」


ふっと思った。まだこの段階では自殺なんてことは考えていないだろうけれど。そもそもなんでブタのヨモギなんかとセノは一緒に居るんだろうか。学校じゃ思ったことが言えない俺なので、今日ぐらいしか聞けるタイミングがないと思った。


「あのさ、一個聞いてもいい?」

「うん、どうしたの?」

「……言い方悪いんだけどさ、なんでヨモギなんかと一緒に居るの?」

「え?ヨモギくん?」

「うん。」

「普通に仲良しなだけだよ。」


いや絶対嘘だろ。嘘すぎる。なんだかんだセノは服とかメイクとか好きだし、同じグループの女子とも、いいように使われている部分があるもののいつも楽しそうに話している。セノはアニメの話は全然分からないし、FPSのゲームなんてタイトルも知らないような女だ。そんな女とヨモギが楽しく会話なんてありえない。アニメやマンガじゃないんだ。陰キャに美少女は恋なんかしない。するわけない。


ヨモギのことはよく知らないし、いじめられたくないから絶対仲良くなんかしないが、セノの100倍俺のほうがヨモギと気が合うだろう。


イケメンになって、したくもない努力をしたのだ。陰キャ仲間はもう俺を仲間だと思ってくれないから、陽キャになじむために、バカみたいだと思われるかもしれないが俺は俺なりに努力した。


イン〇タで調べて服買って、流行りの美容室行って髪染めて、注射すら怖いのにピアス開けて、せっかく溜めたバイト代で髭脱毛してさ。日曜なんて明日から学校始まる地獄があるのに友達に誘われたら飯行って、誰に見せるかもわからないTikT〇kで流行ってるダンスとか覚えてさ。ゲームに命かけてんのに、弱いアイツらと夜まで一緒にゲームして。聞きたくもない同じグループの女の彼氏の悪口聞いて。くっだらねぇ。あほらし。


って思いながら、馴染みたい一心で頑張ったのだ。努力する方向性が間違ってるって?知ってるよ、知ってるけど、どうしたらいいかわかんないんだよ。独りぼっちは怖いだろ。情けないよ。惨めだ。


でも、そんなもんだろ。高校生なんて。くだらない陽キャ共も、結局普通にもう仲いい友達だよ。女としゃべれてうれしいよ。クラスでカースト上なのだってうれしいよ。モテるのだって嬉しい。ネット以外の女に初めて告られたんだ。


昔の俺なら、セノは趣味の悪い女なんだなくらいだったけど、今ならわかるんだよ。お前はヨモギなんか好きじゃないだろ。だって、知ってる。お前が中学の頃相応に似合うイケメンと付き合っていたって。別に顔がすべてだっては思わない。でも、趣味とかさ、センスとか、何にも共通点のないお前らが、付き合うってのは変なんだよ。ホントに。ありえるとしたらさ。


「仲いいってのは嘘じゃん。いじめから守るため?それとも、同情?」

「ち、ちがっ、そんなつもりじゃ。」

「……いや、別に俺は何でもいいんだけど。」


でも本当に助けたいって気持ちから付き合ってるとするなら、多分セノはやり方をミスってる。


「マジで助けたいなら、俺みたいなやつには一緒に居るの見られないほうがいいと思うよ。セノさんとヨモギが一緒に居るのって、多分余計にヨモギがいじめられるだけだと思う。申し訳ないけど。」

「っ……、」


黙りこむセノ。なんだかなと思う。


「じゃあ、なんで、最近になってトキくんはヨモギくんのこといじめるのやめたの?」

「それは、」


お前らが自殺して俺のせいになる可能性があるからなんて、言えるわけもなく。


「……こういうのは良くないかなって思って、」

「それこそ絶対嘘でしょ。」


図星すぎて今度は俺が黙り込んだ。


「でも別に助けたりしないよ。」

「いじめられるのが怖いから?」

「うん。怖くない奴なんている?」

「……いないと思うよ。」


じゃあなんでお前はヨモギを助けようとすんの?


「教えない。」


そう言われた。教えないって、ほらさ、お前偽善者じゃん。その完璧な笑顔もヨモギなんかに優しくするその姿も、クラスメイトにお願いされてなんでも言うこと聞いちゃうのも、全部演じてるだけだろ?なんでいい子になろうとするの?


「トキくんがいじめをやめた理由を教えてくれたら、教えてもいいよ。」

「……それは無理。」

「じゃあ私も教えられない。」

「あっそ。」


変な女だよ。別に一生ヨモギと一緒に居ればいいじゃん。そしてまた一緒に自殺すれば。あぁ、ホントマジどうすっかな。だって俺、明日学校に行くとして、捕まる『かも』しれない未来より、このまま『ハブられる』のが永遠続くほうが怖いんだ。


気づいたころにはヨモギをいじめる奴に戻ってる自信しかない。


「ヨモギってさ、死にたいとか言ってんの?」

「え?……なんで知ってるの?」

「いや、なんとなくだけど。」

「皆ひどいよね。全員で寄ってたかってヨモギくんのこといじめてさ、死ねとかいうんだよ。」


死ねは言ってないけど、マジウケるキモはいった記憶がある。


「まぁ、あれじゃね……いやごめん、俺あんま人のこと言えないわ。」

「ヨモギくんのこと嫌い?」

「……別に何とも、思って、……きめーなぐらい?」

「何処がキモいの?」

「全部?」

「どうやったらいじめられなくなると思う?」

「さぁ……、ヨモギとろくにしゃべったことねーし俺。」


昔も今も挨拶すらろくに交わした記憶がなかった。


「むしろヨモギってどんな奴なの?」

「うーん、あんまり口数は多くないけど、優しい人だよ。」

「へー、好きなものは?」

「女の子が出るアニメとかゲームとかが好きみたいだけど、クラスの女の子たちは可愛くないからあんまり好きじゃないって言ってた。あと、なんか……よくえっちなゲームとかしてる。」

「……はぁ、」


正直女の前でエロいゲームするなんてドン引きだ。エロゲ―しか知らなかった昔の俺は比べたら今の俺のほうがよほど知識も経験もあるんだろうが、空気の読めない陽キャですら、女の前では、アイツはすぐヤレるとか好きなAV女優の話はしない。てかしないだろ普通。


さすがクラス中にいじめられてる奴だ。ヤバすぎる。関わりたくなさすぎる。


「なんかすげーやつだってことは分かったわ。プリントありがと。また明日。」


玄関の扉を閉めようとしたら足をガンって挟まれた。え。ぎゅって手を握られる。な、なんだ。くそ、かわいいな。


「トキくんがいじめをやめた理由が分かれば皆もやめてくれるかもしれないって、思ってて、」

「うん。」

「だから、少しだけでいいからアドバイスくれないかな。」

「……それは、セノさんが頑張るところじゃなくて、ヨモギが頑張るところだと思うけどね。」

「……そう、かもしれないけど、でも、このままじゃヨモギくんが、」

「死んじゃうって?」

「っ……、」

「死んだら困るの?」

「……困るよ、」

「なんで?なんか弱みでも握られてるの?」

「違うけど、でも、助けてあげなきゃ……、」

「好きでもないのに?」

「それは、……好きとか嫌いと関係なく、いじめはだめなものだから。」

「まぁ、それは確かにそうだけどね。」


自分がいじめられるかもしれないのに、ヨモギなんかを助けるなら、メリットがなきゃ無理だろ。仮に、そのメリットのためにセノがヨモギとつるんでるならわかる。でも最終的に死んじまうならメリットもくそもないじゃないか。


「セノさんにとって、ヨモギを助けるメリットが分からない。仮に俺がそれに協力するとして、俺にはなんのメリットがあるの?」

「メリットなんて、……わからないよ。」


そう言ってセノは泣いた。嘘だろ。オイ。俺のせいか。俺のせいなのか。俺が悪いのか。人通りの多い住宅街、泣かせたのを誰かに見られるのがまずい気がして、腕をつかんだ。玄関に連れ込んで。


「……ごめん。」


謝った。


「助けてあげたいのに、一緒にいたら余計にいじめがひどくなるし、ヨモギくんは最近死にたいとか言うし、もう本当にどうしたらいいかわからないよ。」


でも助けたい理由は言えないんだろ?しかも好きではない。


「俺死んでもヨモギとつるんでるなんて思われたくない。だから協力なんてできない。それにいじめをやめた理由は正直参考にならないと思う。」

「……そう、だよね。」

「でも、」


部屋は汚すぎて入れられないので、リビングで待っていてほしいと伝える。


「これ俺が行ってる美容室、あと洋服とか調べてるアプリはこれ、ジムはここ行ってる。」

「え、ど、どういうこと?」

「最近はこいつらとか流行ってる」

「それ、私もよく見てる。」

「ゲームはスマホならみんなこれやってる。」

「あぁ、皆やってるよね。ねぇ、トキくん本当にどういうこと……?」

「ヨモギはなんでいじめられてると思う?」

「わ、かんないよ、」

「……デブでキモイ、アイツと友達だと思われたくない、ヨモギが良く言われてる言葉。」


少なくとも俺は言った。


「そこを改善してからだよ。何かが始まるのは。もう6月だ。グループも出来てる。ヨモギをいじめるのは当然だってのがうちのクラスに染みついてる。本気でどうにかしたいなら、ヨモギ自身が変わるしか方法はねーよ。」


セノがぐっと膝の上に載せた拳を強く握る。こんな美少女に想われてヨモギがうらやましい。なんであんな奴。思うよ。思うに決まってるだろ。俺は少なくともそう思う。何の努力も、自分の時間も削ってない男が、いじめられて当然だろ。勝手に死ねよって。


思うけどね。俺は。最低かな。普通じゃねって。そう思う。


それからセノは学校でヨモギと関わるのをやめた。でもだんだんとヨモギが変わっていくのを見て、裏では絡んでるんだろうなと思った。


「これ見て。どっちの服がいいかな。」


男物のシンプルな服。


「うーん、そこのブランドより最近はこっちのが来てる気がするけどね。」


教室でセノと話す機会がすげー増えた。セノは相変わらず偽善者を続けているようで、クラスの女たちにいいように使われている。放課後の掃除押し付けられたり、カンニング手伝ったり、ガチで老人手助けして遅刻したり、お前はアニメのヒロインかと思ったが、ヨモギは全然主人公ではないので、現実なのだろう。


てか、アニメのヒロインは掃除押し付けられることはあっても、カンニング手伝ったりしないよな。助けたいヨモギを一番いじめてる俺らのグループになんて所属しないだろう。だめだよ!いじめなんて!って俺らに面と向かって説教するだろう。


でもセノはそんなことはしない。9割愛想笑いと苦笑いで生きている女だ。ヨモギの悪口にも平気な顔で笑ってる。つまんない人生だろうなと思ったけど、趣味削ってこのグループに縋ってる俺も同様なので、考えるのはやめた。


「なんか最近ヨモギいじるのつまんねーよな。」

「わかる。反応薄いし、セノちゃんにも振られたっぽいし、」

「セノちゃんに振られたって分かったら、もうどうでもよくなったわ。」

「最近キモさ半減しておもしろみねーもんな。」


全て確かにと分かるで返事をしていた。その日の夜。何となく。セノにラインをした。


『ヨモギのいじめなくなると思うぞ』


5秒ぐらいたって、スマホの音が鳴る。セノからの電話だった。


「ホントに?なんで?」


うれしそうな声だった。内心。ヨモギのいじめがなくならなければいいのにと思っている自分がいて、ホント俺って凡人だなと考え直した。嫉妬です嫉妬。分かってるけど。分かってんだけど。


「なんか××郎と××太とかが飽きたって言ってたから。100%ではないと思うけど、××美とかも連動してやめそうだなと思って。」

「そっか、……やった、本当にうれしい、ありがとね。トキくん。本当にありがと。」

「いや……別に、俺は何もしてないけどね。」

「全部トキくんのおかげだよ。最近××志くんたちが話しかけてくれるんだってヨモギくんが話しててね。トキくんのやってるゲームとか夜一緒にやってるんだって。」


そりゃよかった。××志は昔の俺の親友である。今は『はい』botだ。クラスラインにいるけど、個人では連絡先すら知らない。ホント、ヨモギなんてどうでもよかったけど、今は大っ嫌いだわって思った。


「よかったね。」

「うん!死にたいとか言わなくなって、学校も楽しいって言ってて、今度お礼させてね。」

「いいよ、別に。」

「ねぇ、トキくん。」

「ん。」

「今度の夏祭り誰と行くの?」

「え、うーん、別に誰とも、」


正確にはゲームの発売日だから断った。


「じゃあ一緒に行かない?お祝い。」

「え、ヨモギのお祝いに俺も行くの?」

「違うよ。ヨモギくんは友達とゲームの発売日だから集まって遊ぶんだって。だから2人でお祝いしよ。」

「マジか。……全然いいけど。」


正直セノのお祝いの意味なんて全く理解していなかった。ホント俺ちょろすぎて草。なに言ってんのかよくわかんねーけどヨモギ最高やんお前。


夏祭り、セノの浴衣姿は死ぬほどかわいかったし、気づいたころには手をつないでて、断ったイツメンに見つかって死ぬほど茶化された。花火を見ながらキスをして、セノを家まで送った。


次の日。何となく。いや、嘘だ。意を決してヨモギに声をかけた。


「え。お前そのキャラゲットしてんの?すご。」

「え、あ、あの……、冬山のほうで周回するとお金がもらえるってバグがあって、それでガチャいっぱい引いたんです。」

「なにそれ。俺にも教えろよ。」

「何々、トキ何の話だよ。」

「いや、バグでガチャ弾きまくれるらしい。」

「うえーい、スマホパス。」

「は?自分でやれ。ふざけんな。」

「周回とかだるすぎる。」

「先輩、次の授業、数学です。」

「なんだと、××郎。ゲームの時間じゃないか。」


男ってのは、ゲームとエロい話で仲良くなれる人種なのだ。俺の一言で、ヨモギへのいじめは、嘘みたいに減っていった。ホントに、残酷な世界だよ。学校ってのは。でもまぁ、セノがうれしそうだからいいか。ちょっと気に食わないけど、まぁ、いいよ。こういうことができる男がセノは好きなんだろう。


いねーよそんな男って。思うけどね。手汗やべーもんさ。だからさ。今、手、握んないで。足も震えてんだわ俺。マジでね。無理だからこういうの。期待しないで。今年1年分くらいの勇気つかったし、家帰ってゲームしてぇって思ったのに。放課後遊ぼうってセノに誘われた。


抱きつかれて、ありがとうって。かっこよかったって。そう言われた。単純だけどすげーうれしかった。女と二人でプリクラとかさ、初めて撮ったよね。男って顔きもくなるイメージだったけど、セノは加工がうまくて、ちゃんといい感じになってた。ゲーセンにプリクラだけを目的に来るとかね。女と来てるって感じがすげーした。


だけど、幸せばっかり続くことはないんだよ。現実なので。


いじめって、なくなるってのはないんだ。ヨモギが標的じゃなくなることはあっても。別のやつがソレになり替わるだけなんだ。今度は顔の綺麗な地味な女がターゲットになった。ヨモギの時は俺たち男側が決めたターゲットだったけど、今度は女が決めたターゲットで。


はっきり言おう。男ってのは単純バカ野郎ばっかだ。でもそれが男のいいところなのだ。


つまり女のいじめってのは陰湿で俺ら男じゃ考えが及ばない。セノが前回と同じように彼女を裏から支えようとしたが、その結果はいいものとは言えなかった。


「お前が化粧とか調子乗ってんだろ。」

「ブスになに塗っても同じだわ。」

「えーでもがんばって調べたんでしょ。ほらこのポーチの中見てみ?」

「待ってコイツとお揃いとか無理なんだけど。」


放課後の教室。忘れ物を取りに来ただけなんだ。下駄箱ではセノが待っているが、現状セノは見てないわけで、いじめられてるのは、またさっぱりしゃべったこともない女なわけで。正直俺が助ける理由なんてどこにもない。


「取り込み中マジ申し訳ないんだけど、俺の机からスマホ取ってくんね。」

「あいよ。」

「サンキュー。」


なんだその縋るような目。セノがお前に俺の自慢でもしたか。俺はいい奴だとでも聞いたか。知らねーよ。俺は今からセノと遊ぶんだ。くそ。くそくそくそくそくそくそ。


「……××美さ、これ何時に終わりそう?」

「なんで?」

「いや、ちょっとセノの誕プレ迷ってて、付き合ってほしくてさ。」

「おー、なにそれ全然いいよ。この前セノが欲しいって言ってた化粧品あってさ、でも、あのネックレスもなー、あれいいと思うんだよね。予算は?」

「2万ぐらい、」

「もうちょい出せる?」

「……3、でどっすか。」

「それならいけると思う。」

「おなしゃす。」


セノに事情を説明したラインを送る。分かったって、教室から離れてほしいって、地味女のメンケアはしておくからって。なんで俺があんなブスのこと助けなきゃなんねーんだよってね。お前みたいなブスが俺とセノの時間を邪魔すんなよってね。言えるわけないんですよ。誰にもさ。


あーめんどくさ。クラスの女子5人ぐらいとセノの誕プレを買いに行くことになった。ハーレムだいえーいってならんよね。会話まざれねー。うぇいうぇいうぇい。地獄だうえーい。


でもその夜、セノが俺の家に来てさ。ありがとうっていうんだよ。いっつもその言葉をくれるとき、セノはラインでも電話でもなく直接で。


「別にアイツのためじゃないよ……セノのためだよ。」

「うん。」

「セノが好きだから、助けただけ。」

「それが一番うれしいよ。」


セノの匂いが好きだ。優しい甘い匂い。女の子って感じの匂い。抱きしめられると、俺はちょろいので、まぁいいかって気持ちになる。それから3か月。セノとヨモギが自殺した冬の季節がきて、べただけどクリスマス前夜に、ラブホじゃなくて綺麗なホテルで初めてセックスをした。


セノは俺なんかよりずっと細くて痩せていて、俺なんかが手を出したら折ってしまわないか心配だった。ヨモギもなんだかんだ地味だが可愛い彼女を作っていて、お前調子いいなってムカついた。


でも学校生活は順調というわけではなく。あの地味女へのいじめは悪化する一方だった。それこそ。


「いやあれやりすぎじゃね?」

「制服に血ついてるけど。」

「口元切れてていたそー。」

「何か言った?」

「「言ってないでーす」」


はたから見たらマジで大丈夫?ってなるレベル。陰で支えてもどうにもならないと思ったらしいセノは、その女と飯を食うようになった。休み時間一緒に居るようになった。そしたら必然的に俺らと一緒に居ることは減って、女たちが俺の前であからさまにセノの愚痴を言うようになる。


「トキさ。セノにちゃんと空気読めって言ってよ。」

「あー……うん、」

「てかセノいっつも弱い子の味方してさ。自分がいい子って思ってんのかな。」

「いや思ってるでしょ。あぁいう偽善者って感じウザいよね。」

「わかるわ、トキのこと置いてお昼ごはん何も言わずどっか行っちゃうってありえなくない?」

「まぁ、俺はいつでも会えるからいいよ、別に。」


偽善者って感じのところがウザいし。昼飯どっか行くのもあり得ないと思う。くっそ同感。同感すぎてため息が漏れる。女の言葉ってのはほぼ100的を得ている。ヨモギの次はその女?なんで俺よりその女?意味わかんねーんだけど。


ラインに送りてーよ。ホントに。


でもセノに何送ったって喧嘩になんてなんないわけ。ごめんってね。謝るだけだから。ごめんっていうならそいつじゃなくて俺を優先しろよって。言ったところで無駄だ。高校生がヤろうと思っても、ホテルなんていい値段するわけ。学校帰りにラブホなんて18歳未満禁止なんだから行けないじゃん?


だから理由最低だけど部屋だって掃除したし。親だってめちゃくちゃ嬉しそうにセノこと迎え入れてくれたし。土日泊まって月曜の朝。俺なんて言われたと思う?


「先、学校行くね。」

「え、なんで?」

「それは、あの、内緒、」

「……どうせ、あの地味女だろ、はぁ、」


いやため息だって出るでしょ。一緒に寝てたのに、他のやつのところ行くんだよ!?それ相手女だとしたって浮気と変わんねーじゃん。キスしないからオッケー?ソイツとセックスしないから俺より優先してオッケー?って、違うじゃん。


朝一、セノが俺と登校すると、その隙に地味女は結構派手にいじめられる。だから朝一緒に行くんだって。友達なら100歩譲って守ってあげたいって。分かるよ。恋愛と友情を天秤にかけるのは難しい話だし、セノの悪口に曖昧な返事してる俺みたいな男が文句言えないのはわかる。それなら分かるけど。友達じゃねーじゃんソイツ。


なんかキモい二次元アイドルのキーホルダーつけてる女がセノと話し合うわけないでしょ。俺は、セノと話し合わせるのに、呪文みたいな飲み物と化粧道具覚えてさ。その時間も好きだったよ。セノのために最近流行りの店を調べるのも嫌じゃなかった。


逆にセノとアニメとかたまに一緒に見るとさ。思うわけ。俺がいなきゃホントに見ないんだなって。今年一番流行ったアニメも知らないんだよ。漫画も読むのすっげー遅いし。聞いてる失恋ソングは、趣味がいいとは言えないし。てか失恋してないやーんって感じだし。


鬼つまらない美容系Y〇uTuber見せられて俺は眠りの世界だったし、逆に最高に感動するアニメの最終回でセノは俺の腕の中ですよすよ眠ってたしね。でもいいんだ。そんな時間が嫌いじゃない。これでも知ってるつもりなんだよ。セノのこと。少しはさ。


どうしたら俺と一緒に居てくれる?


女の子だけで居たいって日があるのは当然だと思う。たまにはアニメ見まくったりゲームしまくったり俺もしたいし。でも、毎日だ。もう毎日毎日。ずっとその女。放課後も朝も一緒に居られない。夜通話しても、その女から通話来たら、俺は切られるわけ。


挙句の果て、一緒の家から学校に行く日すら、一緒に学校行けないんだって。


「俺よりあの地味女のほうが好き?」


酷だよね。聞いちゃダメな奴だよね。キモイよね。分かってるけど止まらなかったんだ。俺も泣きそうだったけど、セノはぼろぼろ泣いちゃって。意味わからんわ。マジ。


「泣くのはずるいじゃんか、」


掴んだ腕を離した。結局セノは行ってしまった。その日は学校を休んだ。昔は恋愛なんて無縁だったわけ。縁なさすぎ童貞男だったわけ。全然そん時のほうが楽しい。好きなことやって、適当にみんなの悪口言って、リア充妬んで、モテない理由を女の見る目がないせいにして。全員クソビッチおよびじゃねーんだよって、陰で言ってね。最高だったわ。


恋愛っていつになったら楽しくなるんだ。教えてくれ。誰か。楽しくないんだが。辛いんだが。セックス出来ても楽しくないんだが。オナニーのほうが何も考えなくてよくて気持ちいいんだが。


昔はプロチームに入るぐらいゲーム強かったのに。今は凡。2度目の授業のはずなのに点数さっぱりよくないし、運動だって毛が生えた程度。関わらなきゃよかったって結構な頻度で思ってる。顔が良くなって俺はいったい何を手に入れた?


調子ぶっこいてセノに関わって、昔の謎は何も解けていない。今度はその女と一緒に自殺するのか?どうすりゃいいんだ。


なんにも解決しないまま日々が過ぎた。体育の時間が男女別で、女が教室を更衣室として使って男は体育館の更衣室を使うんだけど、授業の終わり、女子が着替え終わるのを待ってると、がしゃーんってすっげー音が教室から響いてきて、どうしたどうしたって、恐る恐る教室をのぞいたら、下着の女が無数にいる。


いやそれ何処ではない。


「いい子ぶってトキの気引いて、いつでも守ってもらえると思ってんのかよ」

「そんなこと、思ってない、」

「そもそもセノだって知ってるじゃん、ソイツが××郎のこと私から取ったって。」

「それは、そう、なんだけど、でも、怪我するまでするのは、」

「セノってずっと私のこと下に見てるよね。セノは優しい彼氏がいるから、こんなことしてる私のことアホでバカだって思ってるんでしょ。」

「本当にそんなことッ」


パチン。××美がセノの顔を叩いた。


「じゃあトキのこと譲ってよ。」


その瞬間かっと頭に血が上って、気づいたころには、俺は××美を殴っていた。セノに死ぬほど名前を呼ばれて、イツメンの男に必死に止められて、それで、気づいたころには謹慎になっていた。


××美にはラインでらしくない長文で謝罪をした。セノから何度も電話が来たけれど、出る気にならなかった。久しぶりに何日も連続でゲームをして、最高に楽しかった。このまま不登校になるものありだなって本気で考えていた。


平日の真昼間、チャイムの音。くそだりぃって思いながら、扉を開けていたのはセノだった。


「な、なんでいんの、」

「だって電話かけても無視されるから、来るしかないかなって思って、」

「学校は?」

「休んじゃった。」


休んじゃったって。皆勤優等生が?マジか。


「てか、髪の毛ぼさぼさだね。」

「あ。」

「そういえば初めて家に来た時もぼさぼさだったよね。」

「いや、あれは寝起きで、寝起きはこんなもんでしょ……てか、なんでキャリーバッグ?」

「そうだ、トキくん。」

「ん。」

「旅行に行きましょう。」

「は?」

「福岡行きのチケットです。」

「な、なんで?」

「だって、謹慎中暇でしょ?」

「あの女は?」

「トキくんが謹慎になってからいじめは収まってるよ。」


まぁ、そりゃそうか。教育委員会がうんちゃらかんちゃらって言ってたしな先生たち。


「謹慎中家から出ると絶対怒られる気しかしないんだけど。」

「トキくんが先生に怒られるの気にしてるとか雪降るんじゃない?」

「余計なお世話なんだが、」

「ほら、いいから、準備して!」

「あ、ちょ、待って今俺の部屋ぐちゃぐちゃだから、」


汚い部屋を見て笑われた。キャリーバックに雑に荷物を詰めて、気づいたころには飛行機に乗っていた。


「……てか、あれだわ、いろいろごめん。」

「何が?」

「何がって、騒ぎ起こしちゃって。」

「……うれしかったよ。私のために怒ってくれて。」

「うん。」

「このまま私たちのこと誰も知らないところに行って、2人だけで過ごしたいね。」

「……うん。」


本当にその通りだと思った。それもいいんじゃねって、返事をしかけた。ぎゅっと握られた手は、怖いくらいに冷たかった。俺たちのことを知ってる人間がいないその世界は、何もかもが綺麗で、楽しくて、幸せだった。


誰も会話に入り込んでこない。人目なんか気にしなくていい。こんな時間が永遠に続けばいいって思った。


地元に帰ると、当然だが親は死ぬほど怒っていて、学校側も俺たちがいなくなったことで騒ぎになっていた。結局謹慎が伸びた。そして謹慎明けの月曜日。全員気まず。行きたくねぇって思いながら、でもセノに会いたくて学校に行った。


結果セノはいなかった。風邪ひいたらしい。


「学校地獄すぎ。ウケる。」

「ウケねーよ。心配したんだからな!?」

「すまん。最近学校どうっすか?」

「まぁ、別に、進展なしよ。きれいさっぱり元通り。」


現実は甘くなくそのようでいじめがおさまっていたのも数日だった。


「セノとの旅行どうだったんだよ。ヤリまくり?」

「まぁ、ヤリまくりですね。」

「はぁーいいなぁ、お前らもう絶対帰ってこねーって思ったもん。このまま二人でどっかいっちまうのかと思った。」

「セノ優等生だから無理無理。」

「でもお前のためなら親に無断で家飛び出して来るんだから大好きじゃん。」

「そなの?」

「あれ、知らねーの?もうそりゃセノの両親すっげー剣幕で怒って、んで、それ以来学校来てない。」

「マジか。え?大丈夫セノ。」

「お前より俺がセノの状況知るわけないだろ。」


ラインのやり取りは普通にしてるけど。とりあえずいつ来るのってラインした。返信は大体風邪は治ったと書かれていた。


「明日はくんのかな。」

「どーだろ。」


でもセノはそれから三日間全然来なかった。ラインの返事はあるのだが、なんだか少し違和感を感じて、セノの家に行ってみることにした。仲のいい男友達と3人でちょっとした土産をもって。でも、なんか変だった。


セノの家には救急車が止まっていて、そして、中から見覚えのある人がベッドに寝かされて出てきたのだ。


「え?あれセノじゃね?」


そうだ。セノだ。なんで?まさか、なんで。気づいたころには走り出していて、泣いているセノの両親に詰め寄っていた。


「セノ、何があって、」

「っ、と、トキくんなんで、ここに、」

「全然アイツ学校来ないから、見舞いにって思って、」

「ごめんね、ごめんなさいね。」


セノの母親は泣きだしてそれ以上話せそうになった。車に一緒に乗せてもらって病院について、それで、いろいろ現実を知る。自殺未遂でもしたのかと思ったが、そんなことはなく。いや、それ以上に現実は残酷で。


病名は長すぎて聞き取れなかった。ただ、重要なのは、セノはそろそろ死ぬってこと。いやいつ死んでもおかしくない状況の中学校に来ていたということ。一体なんの話だよって感じなのだが、それが現実であった。


病院の先生もセノの親も絶望みたいな顔をしてて、それでセノは死んだらしかった。受け入れられるか?そんな現実。信じられるかそんな現実。認められないだろ。


でも気づいたころには葬式で、クラス中が泣いて、それで日々は過ぎていった。クラスのいじめは現在進行形、悪化の一途をたどっている。どうでもよすぎて、よくやるなって感じだった。


全てが謎で。謎過ぎて。死にたくなったよね。


セノが死んで、また前のように4月に戻るかともと非現実的なことを考えたが、戻るわけもなく、というかそもそも、4月に戻ったところで今セノが死ぬのは止められなかったわけで、じゃあなんで俺は、2度も死んだセノを見たのか。そこが疑問であった。


でも、誰にも相談できなかった。


頭のおかしいやつだろうし、信じてもらえないだろう。でも、なぜ、なんでだ、頭の中がぐるぐるして、もう何も考えたくなくなった。でも時々泣けて、泣けて、帰りの電車とか、トイレとか、1人になると泣いてばかりだった。


そんなある日、ヨモギが叫んだ。


「いい加減にしてっ、ください。天国のセノさんが悲しみます!」


この叫びに対してクラスの反応。なに言ってんだコイツウケる。爆笑。ホントにさ。お前バカだろ。せっかくセノがクラスでいじめられない立場を必死に作ってやったのに、自ら戻ってくの?馬鹿すぎ。


別に昔の俺は顔なんてよくなかったし、彼女なんてできなかったが、それなりに学校は楽しかったし、何なら今の100万倍充実してたし、とにかく何が言いたいって。コイツは根っからのいじめられっ子だ。もう勝手に一生いじめられてろよ。


セノの努力を無駄にしやがって勝手に自殺でもしろばーか。


男にも女にもぼこぼこにされて、彼女にも振られたヨモギを体育館裏で見つける。俺はそれをずっとただぼーっと見ていた。


「バカじゃねーの?」

「っ、トキくん、」

「せっかくいじめられなくなったなのに、またお前にターゲット逆戻りじゃん。」

「それはッ……そうだけど、でも、僕は、死ぬ前にセノさんにあの子のことを頼まれていて、」

「は?」


ぼこぼこに殴られてるコイツの身体に蹴りを入れる。


「なんでお前がセノが死ぬこと知ってたんだよ。俺は、何にも知らなかったのに、」


気づいたころには意識を失うまで蹴っていて、でも、その胸からぱらりと何かが落ちた。それはいかにも女が書いたって感じのかわいらしい便せんで、ヨモギくんへとそう書いてあった。まぎれもない。それはセノの字だった。



ヨモギくんへ


この手紙をキミが読んでいるということは、私はもう死んでしまったということだよね。そして、この手紙をキミが読んでいるということは、キミは生きているということ。


それは、私が唯一変えられた未来なのかなと思います。


何故この手紙を書こうと思ったのか、それは、懺悔とお願いがあってです。


信じられないかもしれないけれど、キミは昔私と一緒に自殺をしたんです。初めは今この世界と同じ状況で、皆がキミをいじめていた。私はキミを助けたくて、守りたくて、自分なりには頑張ったつもりだけど何にもうまくいかなくて、キミはある日を境に死にたいとよく言うようになった。


私は昔から、誰にでもいい顔をしてしまう人間で、どう頑張ってもそれを変えられなくて、キミを絶対に助けるといったのに、いざクラスでキミがいじめられてるのを見ると、身体が固まって動かなかった。


陰でキミの悪口を言っていた。


そしてキミは私に助けてくれるといったのにとぼろぼろに殴られた身体で嘘つきと言いました。


次第にキミはどんどん病んでいって、助けたいなら一緒に死んでくれといったんです。どうすればいいかわからなかった。その時の感情は今でも正しくは理解できていないと思います。


同情だったのか、罪悪感だったのか。今となってはもうわかりません。でも、私はキミに流されて自殺した。流されて死ぬなんて馬鹿だと思いますよね。私もそう思います。でも、どうせあと1年もない寿命だから、いつ死んだって一緒だと思っていたんです。


どうせ死ぬのなら誰かに必要とされて死にたい。そう、思っていたのかもしれません。


でも本当に死ぬ間際、私はぼんやりと考えたんです。ヨモギくんが笑える世界線もきっとあったんだろうなって。私はやり方を間違ったんだろうなって。誰か本当の意味で、王子様みたいな人が助けくれないかなって。


そして気が付けば4月に戻っていました。思いだせば、ヨモギくんと過ごした時間は地獄のような毎日で、時間が巻き戻ったことを正直全く喜べませんでした。だってキミを助けられるビジョンが私にはなかった。


でもあるとき、私は前の世界との差を一つだけ見つけた。それがトキくん。前の世界にはいない人で、グループの中である日忽然といじめをやめた人物でした。助けるビジョンが何も浮かんでいなかった私は、トキくんに縋った。必死にどうすればいいのかを聞いた。


それが私がキミにしたアドバイスのすべてです。結果はうまくいってキミへのいじめはなくなった。本当にうれしかった。


でもそれと同時に、私はトキくんが好きになった。かっこよくて優しくって、でも全然飾ってなくて、本当に神様は私のためにトキくんを用意してくれたんだって思った。


でも、現実はそううまくいかなくて。もうてっきりキミを助けたら全部うまくいくって思ったのに、いじめってのはそんな単純なものじゃなくて、キミがいじめられなくなったら別な子がいじめられるようになった。


そもそもなんでキミを助けようと思ったのか。


皆に宿題を見せて、テストの時には答え皆にカンニングさせて、毎日放課後の掃除押し付けられて、それがいいことじゃないって分かるけど、でも何が正解かわからなかった。いじめられているキミを助けることがいいことだって勘違いしていた。


中学の頃親友がいて、同じ吹奏楽部でした。その子はすごくフルートがうまい子で、先輩が受け持っていたソロパートを受け持つようになって、いじめが始まった。私は親友がいじめられるのを黙ってみていた。知らないふりをした。


先輩が大会の日その子のフルートを隠して、大会当日彼女は結局演奏できなかった。吹奏楽部をやめてからもいじめが続いていて、クラスでもいじめられるようになって、それも全部見て見ぬふりをして。でも最後、彼女が死ぬ直前、私に助けてほしいと、いじめで悩んでいるとラインをしてきた。


やめてくれって思った。巻き込まないで欲しいって。友達だって思われたくないって。そう思った。だから、ごめんって、私には何もできないって、そう返した。その次の日親友は来なかった。自殺したって学校で騒ぎになった。


その時、あぁ、自分が殺したんだって気づいた。いじめられる日々はさぞつらかったと思う。毎日毎日苦しかったと思う。でも彼女があの日自殺したのは、助けを求めた親友に見捨てられたからだった。


途端にものすごく自分が汚いものに見えて、どんな人間より最低だって気づいて、でも、気づいたところで変われるわけじゃなくて、そんな自分に絶望してしまった。その頃でした。この病気が発覚したのは。高校入学前の健康診断。


残りの寿命が1年もないって言われた。


罰が当たったんだと思った。親友が私に呪いをかけたんだって思った。それと同時に、変わらなければいけないと思った。親友は私にあと1年で人間として厚生しろとそう言っているのだと思った。


だからキミを助けようとした。いじめられてる人を助ける。それぐらいしか思いつかなかった。なんならそれすらできなかった。


助けたところで新しい人がターゲットになるだけなんだって、気が付いて、またどうしていいかわからなくなった。


もう長くないというのに、トキくんと居られる時間は減るばかりで、頑張ってもいじめは悪化するばっかりで、でも、よく考えたらトキくんは『優しい』『偽物』の私が好きなわけで、そうじゃなくなくなったら興味なんて持たれるはずもなかった。


ずっと最後まで正解なんてわからない日々でした。私はキミのことを救えていましたか?


本当のいい人はきっとトキくんみたいな人のことを言うんだと思う。自分と一番仲のいいグループの女の子でも、私のために感情をあらわにして殴るところとか、良いことじゃないんだろうけど、そんな風になりたかった。私も後のことなんて何にも考えず親友を助けられるような人になりたかった。


トキくんは私のことを好きでいてくれていると思う。嫌われたくなくて、取り繕うのに必死だったから。


最後のほうなんて、解決策なんてないわけだから、彼女を助けてるのだってうわべだけった。トキくんにとって私がいい人で優しい人に映ることに必死で、ホントに皆が言う「いいやつになろうと必死でウケる」って、その通りだった。


でもずっとそのままでいたい。全員に必死過ぎて怖いって言われても、キモいって言われても、トキくんにとっては、いい子で好かれて死ねるならそれでいい。


自分勝手で、本心からでもなく、助けていた私をキミはきっと軽蔑すると思う。今コレを書いているのだって、結局なんだかんだキミのことをうまく助けらたからだ。


彼女には到底このことを打ち明けられるはずもない。


でも、結局守れなくてごめんと、そう伝えてほしい。そしてできるなら助けてあげて欲しい。酷なことを言ってると思う、絶対にキミじゃなくてトキくんに頼むべきことだってもわかってる。


でも、優しいトキくんは、私の時みたいに彼女を助けて、好きになってしまうかもしれない。どう頑張ったって私は嫌な奴で、うわべの見た目ばかりを気にする女で、だから、自分が死んだら、トキくんには悲しんでほしいと思ってしまう。笑っていてほしいなんて思えない。


自分の死んだ世界で、トキくんが幸せになんてならないでほしい。新しい恋なんて一生しないで欲しい。ずっとずっと私のことだけ考えていてほしい。


でも、どう頑張ったって、もう自分は死んでしまうから、


だからどうかトキくんが他の女の子と幸せになることがないように、トキくんにとって私より優しくていい人が現れないように、私が偽善者の最低な女だってことは黙っていてほしい。トキくんがあの子を助けないで済むようにキミが助けてあげて欲しい。


頼み事ばかりでごめん。でも、キミの幸せは願っています。


キミの笑顔を見たとき、偽善者だった自分が本当にいい人になれたような気がしました。どうかキミだけは私のいない世界で幸せに笑って生きてほしいです。そうすれば私は、なんだかんだ、天国に行けるような気がします。


キミと自殺をした時、もっと生きて居たいと思える未来が存在するなんて思ってもいなかった。こんなにも好きな人ができるなんて考えもしなかった。どんどん痩せていく身体を見られるのは嫌だった。中学の頃はもっと色っぽかったんだよって、そう訂正したかった。


好きだよって、ずっと一緒に居ようねって。

私もうんって、大好きだよって返したかった。


結婚だってしたかった。ウエディングドレスだって着たかった。スーツ姿のトキくんを見てみたかった。ディ〇二ーランドだって一緒に行きたかった。子供だってほしかった。


トキくんの笑顔を私だけのものにしたかった。幸せを全部共有したかった。でも、それは叶いそうにないから、家のね、自分の部屋にずっとずっと先までの誕生日プレゼントを買ったんだ。お母さんに渡してほしいって頼んだんだ。


私のお墓に来たときは、トキくんが喜んでいたかどうか教えてね。他に女ができたとかは教えなくていいからさ。それに、キミが幸せになっている姿も見せてほしい。


長くなってごめんなさい。最後まで読んでくれてありがとう。どうか幸せに。キミをいじめた彼らの100倍笑って過ごせる未来を願っています。


セノより




誕生日はまだずっと先だった。まだセノに恋をしていない5月の頃だ。学校の授業も忘れて、セノの家に無理やり訪れた。セノのお母さんの言葉を無視して、ずかずかと上がり込んでセノの部屋に入る。


一つ一つ綺麗に包装されているプレゼントは、〇歳のトキくんへそう書いてあった。迎えていない17歳の誕生日。プレゼントの中身は指輪だった。ヨモギへの手紙はあんなに長かったというのに、俺へのメッセージは短いものだった。




トキくん。17歳の誕生日おめでとう。

これは結婚指輪なのです!なんて、冗談です(笑)

毎日笑って過ごせているでしょうか。

トキくんの毎日が幸せだといいなと思っています。

ずっとずっと、トキくんのことが大好きです。




キミの苦笑いと愛想笑いが、俺の前では本当の笑顔になるのがうれしかった。いい子になろうと必死なのは俺だって知っていた。俺が全然いいやつなんかじゃないってなんで気づかないんだよ。俺だってキミにいい顔がしたかっただけなんだ。キミに好きになってほしくって助けてただけなんだ。


伝えられていない言葉が多い。伝わっていない想いばかりだ。笑顔も幸せも縁遠い。これはあれだろ。毎年絶対セノを忘れるなって、そういう呪いだろ。俺だって、キミが一生大好きだよ。本音を言えば、一度でいいから、キミの声で好きだって聞きたかった。


俺の願いなんてさ。それだけだったよ。


願っていない幸せを、思っていない笑顔を、無理に書いてくれるキミが大好きだったよ。


男友達に、少しだけ手紙の中身を説明して、あの女とヨモギへのいじめを止めたい旨を伝えた。キミが好きになった俺はかっこよくて優しい男だったんだろう。キミのところへ行くまで少しでも本当にその通りになれるよう頑張ろう。


だからどうか、そちらに行ったときは、キミの声でキミの思いを伝えてほしい。


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― 新着の感想 ―
[一言] 素晴らしかったです。結末含めて大好き。 青春小説って感じ。野豚をプロデュース思い出した。
[良い点] これぞ青春ジュブナイル小説ってやつ。
[一言] 人間にリアリティあってスッキリはないけど面白かった。主人公は回帰する前のが幸せだったな
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