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湖上さんは隠れ性癖を語りたい ―可愛い委員長が陵辱エロゲ好きではダメですか?―  作者: 時田唯


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エピローグ ちいさく変わった僕の気持ち


 それから一日が過ぎた、翌朝の早朝。


「はあぁ……」


 休日明けの教室。

 いつものようにクラスメイト達がにぎやかに騒ぎたてる朝一番から、僕はいつも通りにへにょへにょと落ち込んでいた。

 スマホを弄って勉強するフリすらできず、ぐったりと机に突っ伏してしまう様は、陸にあげられた魚のように生気が無かったと思う。

 ……いや一応、理由がありまして……


 僕は大変なヘタレである。

 叶うなら人生カタツムリのように引きこもり、毎日布団に蹲りながら読書とエロゲに勤しみたいタイプなのだ。

 誰とも喋らず語らず、一人で静かに暮らしたい……。


 そんな僕が、珍しく行動力を発揮したら、どうなるか。


 ――心の筋肉痛になるのである。


「おはよ、宮下君」

「…………」

「宮下君?」


 朝から声をかけてきた小早川君に返事もできず、うう、と亀みたいにもぞもぞする僕。


 ……だってさぁ……

 普通に考えて、すごく恥ずかしいこと言った気がするし。

 なんか格好付けて湖上さん宅まで走っていったけど、普通にSNSとかメールでデータ送信すれば良かったし。

 世間的なリスクとか考えたらどう考えても非効率だし。


 よく考えればアレ、テンションが上がりすぎて学校にエロ本持ってきた湖上さんと全く同じ行動だったし。

 しかも彼女の自宅にエロ本持って全力で走るとか……

 後になって鬱々と考えてしまうのは、僕の逃れられない性らしい。

 今さら仕方無いのだけど、それでも後悔が泥のようにまとわりつくのは避けられない。


 しかも勢いで、友達です、とか言っちゃったけど……本当に良かったんだろうか?


 で、当然こんな話を小早川君に打ち明けられるはずもなく、机にべしょっと突っ伏していたのだ。


「あー。宮下君? 隠しボスの第二形態は倒せたの?」

「それは倒せたと思うけど……次回作の2になったらその隠しボスが雑魚敵で出てきました的な……」

「宮下君の人生、山場多すぎない? で、仲直りはできたの?」

「……たぶん……60点……? 赤点は回避したと思う、けど」

「宮下君ってさ、試験で95点取って、100点取れなかった! ってショック受けるタイプだよね。きっと及第点なんだろうなぁ」


 と、小早川君はのんきに笑いながらスマホを傾け始めた。

 ここで郷戸先生みたいに面倒くさく突っ込んでこないのが、彼の優しいところだと思う。

 本当にありがたい友達だ。

 ……まあ、いつまでもうじうじしてる訳にもいかない。

 彼と話したお陰か、すこし、僕の気持ちも落ち着いてきた。



 ――それによく考えたら、生活が激変した訳じゃない。

 僕は相変わらず学級委員長にして、地味で陰キャなクラスメイト。目立たず騒がず大人しく、教室の片隅でひっそりと勉強に精を出す一生徒であることに変わりはない。


 そして湖上さんは相変わらず教室の花であり、皆の人気者。

 湖上さんは僕の前でこそ暴走癖を見せるものの、学校生活ではきちんと真面目な優等生を演じている。

 陰と陽。

 花と芋虫。

 僕らの関係が教室で交わることは、クラス委員長としての仕事以外ではないだろう。


 その裏で密かに、と、友達になったとしても……面向きの関係性に変化はない。

 つまり、いつも通りの毎日が続くに違いない――



 「おはようございます」という声が聞こえたのは、その時だ。

 聞き慣れた挨拶を間違えることはなく、さりげなく目を向ければ教室入口で湖上さんがいつものように挨拶を支わしていた。


 一分の隙も無いさらさらのロングストレートに、紫陽花のようにたおやかな笑顔。

 それに皆が笑顔で挨拶し、教室が華やぐいつもの光景だ。

 入学式から何度も繰り返された姿を視界の端に納めつつ、僕はいつものように目を逸らそうとして――


 なぜか、上手くできなかった。


「……?」


 湖上さんに変化があった訳ではない。

 そろそろ肌寒くなってきたこともあり、夏服から中間服へと衣替えをした長袖姿ではあるものの、湖上さんは湖上さんである。

 ちいさな赤リボンを胸元で結び、誰にも隔てなくニコニコと優しく接する湖上さんだ。


 なのに、妙にむず痒くて、心臓の裏側を撫でられるような、ノイズ混じりの感情がさわさわと僕を揺さぶる。

 何だろう。

 どうしたんだろう。

 僕はまたも風邪でも引いてしまったのか、それとも昨日のことが尾を引いてるのか。

 妙にくすぶる落ち着かない心をもてあまし、誤魔化すように前髪をいりじながら、俯く。


 その傍を――

 いや実を言うと、傍というには机二つ分ほど離れていたのだけれど。

 湖上さんがいつも通りに歩き、机の端に鞄をひっかけ着席する姿を、つい、目で追ってしまう。


 無視できない。

 視線が、吸い寄せられる。

 いつもなら顔を合わせることすらしない彼女に、なぜか心臓を揺さぶられ、気がつくと。


「お。……おはよう、湖上さん」


 ぽろっと声が漏れてしまった。


 自分でも、どうしたことかと思った。

 僕が教室で挨拶をするのは隣の小早川君くらいで、他のクラスメイトとは目を合わせることすら嫌うのに。

 間違っても、教室で目立つようなことは避けるべきなのに。

 二席も離れた湖上さんと、なぜか挨拶を交わしていた。


 そして僕の声は予想以上に大きく反響したのか、生徒達が「おや」と僕に視線を向けてくる。

 視線。

 人の気配。

 不思議な――訝しむような――蔑むような視線。


 もしかしたら僕は、僕が思ってる程に冷静ではないのかもしれない。

 ……ああ、これはいけない。

 また何か変なことをしでかしてしまう前に、大人しくしなければ。


 と、申し訳なさのあまり周囲に目配せしながら頭を下げて――


「はい。おはようございます、宮下さんっ」


 湖上さんの元気な挨拶が返ってきた。

 その声がこれまた妙に響いたせいか、ざわり、と教室の生徒達が揺らいだ気がして、僕はただの挨拶にうまく返事すら返せない。


 この感覚はなんだろう。

 よく分からないまま「お、おはよ……」としぼんだ声を零し、暴れる心臓を抑えつけながら席に座る。

 心臓の拍動は増す一方だ。

 けど不思議なことに、悪い気は全くしない。


 今日も普通の一日がはじまり、普通に終わる。

 それなのに、僕はどうしようもなく落ち着かない。




 いつの間にか郷戸先生がやってきて、今日の出席を取り始めていた。

 朝の挨拶と言われ、湖上さんが委員長として号令をかける。

 起立。気をつけ。礼――着席。

 今まで何度となく聞いたその声が、僕の耳を掴んで離さない。


 彼女とは、ただの友達。

 クラスメイトにして委員長同士の関係だ。

 正直ずっとそう思っていたし、その関係が変わることは今後も決して無いだろう。


 なのに、どうして。

 どうして僕は今こんなにも、ドキドキしているんだろうか――




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― 新着の感想 ―
面白かったです!^_^ 主人公に芽生えた恋心がどうなるか。あと、看病に来てくれた健気な後輩を陵辱する作品を見た湖上さんが、そのシチュエーションに気付いたら……とか。そんでもって、師匠のように、じゃあ…
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